第二章 精霊の導き

第三十四話 銀狼の秘密 一 冒険者ギルドの贖罪

 俺達はきっと夢を見ているのだろう。

 何故ならば見えるはずがないものが見えている。

 一体何が起こっているのか分からない。


「デ、デ、デ、デリク……」


 ケイロンがかけた声で硬直していた俺の体が動けるようになった。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 ケイロンの悲鳴と共にその日の夜はまくを開けた。


 ★


 ゴブリン討伐補給係の件の後、俺達は重い足取りで冒険者ギルドへ行った。

 ガルムさんとフェルーナさんが何かと心配してくれたが、行くしかない。

 ひどい目にあったが、それよりも報酬を受け取りたいのだ。


 冒険者ギルドに行くには遅い時間帯だが、まだ昼ではない。

 太陽の日にかれながらも俺達は石畳いしだだみの町を行く。


「依頼はどうする? 」

「え? 受けるつもりなの?! 」


 道中どうちゅう明日からの依頼について話し合う。

 意外だったのかケイロンが驚いた顔で俺の顔をのぞいてくる。


「四日も仕事をしていないんだ。軽いものでもやらないと。それに体を動かしたいしな」

「む~軽いものだけだよ、軽いものだけ! 」


 可愛かわいらしい顔をふくらませながらも俺の意見をんでくれたようだ。

 よかった、拒否されなくて。

 お金の心配もあるし何より仕送りもしないといけない。

 仕送り期限が決まっているわけではないが、それでも一銭貨でも貯めておきたい。


 そう考えていると大きな、見慣れた建物が見えてきた。

 ギギギという音を立てながら茶色い扉を開け、ギルドへ入る。


 あれ? 何か……変だな。


 異変に気付き周りを見渡す。

 雰囲気ふんいき……もそうだけど……。そうか! 人かっ!

 分かった所で再度観察すると冒険者の数が少ない事が良くわかる。


「ケイロン。これ、どうしたと思う? 」

「ん~まだ復帰できていない人が多いんじゃないかな? 」

「そんなにヤバかったのか? 」

「うん。そうだけど、脅威きょうい度からすればデリクが一番やばかったんだけどね」


 横から苦笑くしょうが聞こえるが、反論はんろんできない。

 デビルグリズリー。討伐難易度B、か。

 良く勝てたな……。

 そう思い、ぶるっと震える。


「まぁ、受付いこう! 」

「うん! 」


 あの危機的状態を思い出し震えた体を誤魔化ごまかすように受付へと向かった。


 いつもより人の少ないギルド内を歩き、受付へ行く。

 そこにはエカテーさんではなくまったく違う金髪ショートの受付嬢がいた。

 今日は休みか?


「おはようございます。今日はどのようなご用件ようけんでしょうか? 」


 丁寧ていねいな言葉使いに、俺は呆然あぜんとなった。

 お、俺が休んでいる間に一体何があったんだ?!


 はっとしケイロンを見たが彼も少し戸惑とまどっているようだ。

 足が後ろへ下がっている。


「あ、あの……。俺達この前ゴブリン討伐で補給係ほきゅうがかりをしていた冒険者なのですが」

「え?! ……コホン。少々お待ちください」


 そう言い引きまった身をひるがえし奥の部屋へ行ってしまった。


「一体何が……」

「僕もわからないよ」

「俺、何か変なこといったか? 」

「言ってないね」


 黒い瞳と目を合わせながら考える。

 まさか何か知らない間にとてつもなくまずい事をしてしまったんじゃないか?!


 ……ギルドカード剥奪はくだつ、か。

 ふっ……。短い冒険者生活だったぜ。職を……見つけねば。


 なかあきらめが入った顔をしながら待っていると、奥から何人もの受付嬢や事務員が出てきた。

 男女入り混じったその集団は受付台の向こう側で足を止め、口を開いた。


「「「このたびは申し訳ございませんでした!!! 」」」


 全員が背筋を伸ばし、体を直角ちょっかくに曲げ謝ったのだが俺達は困惑だ。

 え? 何が……。

 本当に一体何が……。


「私の方から説明させていただきます」


 そう最初に対応してくれた受付嬢が一歩前に出て、何があったのかを教えてくれた。


 いわく、このギルドの事務員や受付嬢が横領や架空かくう商会を作り犯罪を行っていたとの事。

 かなりあくどい事をこのギルド全体で行っていたようでギルド職員のほとんどが入れわったようだ。


 で、この人達は王都からの交代要員よういん。元より計画されていたようで粛清しゅくせい後に起こる混乱を最小限にすべく前もって別口で集められていたとの事。

 なおこのギルドの担当はサブマスター・ミッシェルさんとの事らしい。

 俺は直接会っていないが、ケイロンがあったことあるようだ。

 話がミッシェルさんの所に入ると少し驚いた表情をしていた。


「今後このような事がないようにつとめてまいりますのでよろしくお願いいたします」


 その言葉と同時に全員が再度頭を下げた。

 つまり、あれか。

 あのエカテーという受付嬢も牢屋ろうやへ行ったということか。

 よかった……。あれが続くのなら他に行こうかと思っていた所だ。


「これからもよろしくお願いします」

「よ、よろしくお願いします! 」


 少し声のトーンが低いケイロンだったがそれを気にせず俺も謝罪を受け取る。

 一先ず頭を上げてもらい、今回の報酬の話となった。


「前任者不在の為代わりに報酬のご説明と受け渡しを行います」


 そう言い、机の下から三つの袋を出してきた。

 まず一番小さな袋をそのままコイントレイに置きこちらへ渡してくる。


「こちらはアンデリック様が討伐されたデビルグリズリーの討伐報酬となります。今回の依頼はゴブリン討伐の補給係ほきゅうがかりでございましたが、不測ふそく事態じたいによりデビルグリズリーが出現しました。よって依頼外ではございますが、その討伐報酬が支払われます」


 説明を聞き、コイントレイからふくろを受け取る。

 小さいが何かずっしりくる重さだ。

 それをケイロンに渡し、アイテムバックに保管ほかんしてもらう。


「次はこちらになります」


 彼女は少し大きめなふくろを俺達の前で開け、中身をトレイに乗せてこちらへせて、説明を行う。


「こちらは依頼達成報酬になります」

「報酬にしては少し多い気がしますが……」


 ケイロンがトレイに乗せられている銀貨を確認して指摘してきした。

 予想通りの言葉だったのだろう。

 少しも慌てず、受付嬢は口を開いた。


「実の所、ケイロン様とアンデリック様にお支払いしていた報酬が中抜きされていることが分かりました。よってその中抜きされていた報酬分になります。そして……」


 ケイロンがトレイの銀貨を袋へ入れしまったことを確認すると最後の、一番大きな袋をトレイに置き渡してくる。


「これが慰謝料いしゃりょうとなります。どうぞお受け取り下さい」

「「多っ!!! 」」


 ふくろの大きさに引いた。

 さっきケイロンがしまった袋の二倍くらいの大きさだろうか。

 慰謝料いしゃりょう半端はんぱなく多い。


 その引き具合ぐあいに少し笑みを浮かべ、口調くちょうを少しくずし説明をしだす。


ふくろの大きさほど多くは入っていませんよ。ただ大きな貨幣かへいだと不便ふべんが多いかと思いましてくずしているだけなので」

「いや、それでもこの大きさは……」

「受け取って……いいんでしょうか……」

「構いません。薄々うすうすお気付きかもしれませんが本来Fランク冒険者に専属をつけることは御座ございません。彼女——エカテー・ロックライドは書類申請をしないまま専属といつわっていたようです。加えて日頃ひごろから彼女の職務しょくむ態度はよろしくなかったようで……。それらをまえての金額となりますので多くありませんよ。堂々どうどうと受け取ってください」


 少し首を横にして笑顔でそう言った。

 俺達は恐る恐るそのふくろを受け取り、ギルドの隅へ行く。


「ケイロン、これからどうする? 」

「そう、だね。今日は一旦帰ろうか」

「そ、そうだな。この金額は流石に怖い」

「同感。依頼どころじゃないね」


 こうして俺達は一旦いったん宿へ戻るのであった。

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