第二十八話 ヘレンの依頼

「どうしたんだ、ケイロン。疲れた顔して」

「アハハ、何もないよ」


 朝、体調が万全ばんぜんに回復した俺は食事をとっていた。

 一階でケイロンと出くわしたがなにやら疲れているようだ。

 何があったんだろうか? 


「それに若干じゃっかん顔が赤い感じも……」

「え? そ、そんなことないよ。さぁ依頼へ行こう」


 顔色も赤いような気もしたが、早めに依頼へ行くことに異論いろんはない。

 ケイロンにうながされるままに俺はヘレンさんの精肉店へ行くのであった。


 ★


「早かったね、来てくれるの。嬉しいわぁ~」

「いえいえ、丁度ちょうどこちらも手が空いていましたし」


 精肉店に入るとそこにはヘレンさんがいた。

 今日もおっとりとした口調くちょうで、赤い瞳をこちらに向けている。


おっとは今解体所のほうよぉ」

「了解しました」

「では行ってみます」


 よろしくねぇ、という声をに俺達は解体所へ向かった。


「お、坊主達か」


 解体所へ入るとそこには作業していた店主がいた。

 スキンヘッドを輝かせながらこちらへ向く。

 プロなだけあって血まみれではないが、手に持つナイフとその顔を合わせるといつ憲兵につかまってもおかしくないと思うのはきっと気のせいだろう。


「依頼を出したのはつい最近だったはずだが……早くて助かる! 」


 ナイフを洗い木の台に置いた後、そう言いながら俺達の方へ向かってきた。


「今回は多いのですか? 」

「多い、と言えば多いな」


 そう言いつつ、店主は後ろを振り向く。

 確かに多い。

 だが前とはまた違った様子ようすだ。


イノシシとか動物はそうでもないんだが……モンスターが、な」

「これまた多いですね……」


 右手側を見てその量や質に驚愕きょうがくする。


「ゴ、ゴブリンにシルバーウルフ、デビルグリズリーまで……」

「あぁそうなんだ。確かに量も多いんだが、なんでデビルグリズリーが回ってきてるんだ? 」


 店主が首をかしげる。

 確かこの町周辺ではデビルグリズリーは確認されていない。


「この町周辺に出たんですか?! 」

「それとも、他の町から来たのでしょうか? 」

「いや、そうでもないな。時々この町の冒険者ギルドの解体業仲介ちゅうかい業者のような奴らがモンスターを送ってくるんだがよ。特に何も言ってなかったな……」


 もしこの町周辺に出没しゅつぼつしたのなら異常事態が起こっているのかもしれない。

 そうなると前回の夢が現実味げんじつみびてくる。

 いやな汗が背中をつたう。


「まぁ無碍むげにもできんから受けたんだが……。まぁ金にならんしな。食えねぇし。どうしたものか」


 そう言い肩をすくめた。

 一般的にモンスターは食べれない。精々せいぜいその毛皮や魔石が売れるくらいだ。

 魔石ともなると良いが付くが、シルバーウルフくらいの毛皮だとそこまでお金にならない。むしろ時間をとられるだけでマイナスだ。

 ゴブリンなんかは最悪だ。

 においもそうだが、取られる時間に埋葬まいそう場所、アンデットにならないような処理——火葬かそうが必要になってくる。


 ケイロンが持ってきた情報が早速さっそくやくに立つとは。

 だけど、さてどうしたものか……。


「今日は動物よりもモンスターだ。じゃぁ、やるぞ坊主共! 」

「「はい!!! 」」


 何か引っかかりをおぼえながらも俺達はモンスターの解体を行うのであった。


 ★


「基本的に魔獣型モンスターは動物と同じ処理の仕方になる」

「体の構造が同じなのですか? 」

「あぁ、理由までは分からないがほぼ一緒だ。違いは動物に心臓があるのに対して、モンスターには魔核コアがあるってことくらいだ」


 そう言いつつ、シルバーウルフにナイフを入れる。

 今日もケイロンは顔色が悪い。

 無理しなくてもいいのに。昨日あれほど頑張ってくれたんだから、さ。


「だが、取れる場所はまったべつだ。オオカミだと毛皮よりも肉をとることになるが、シルバーウルフは毛皮。それときばつめ。そして魔核コアだ。毛皮を売るには脂肪を完全に除去じょきょする必要があるから注意してくれ」

「以前にオオカミを解体したことがあるのですか? 」

「確かこの周辺にはオオカミはいないはずなのですが」

「……物知りだな、坊主共。俺達は他の町から来てここで店を開いただけだ。居心地いごこちがよかったから、よ」


 話しながらもサクサクと解体していく店主。

 手早てばやく、そして正確にさばいていく。


「……魔石は、まぁシルバーウルフだからこんなもんか」


 そう言いながら魔石を上にかざし、かたを落とす。

 大きさも小さい。


 モンスターの魔核コアは破壊されると一気に魔力を失い色があせ魔石になる。

 魔石はその透明度とうめいどや大きさによって値段がことなる。

 単体のシルバーウルフの討伐難易度はEランク。売ってもそこまでの値段にならない。もっとも量をかせげばFランク冒険者の収入をはるかに超えるが。

 

「ここまでは大丈夫か? 」

「「はい! 」」

「じゃぁ次のデビルグリズリーだ。これも基本は同じ。それぞれ取っていく……」


 そう言いつつ作業を進めた。


 ゴブリンの火葬かそう方法を聞いたくらいで俺達は店主と変わる。

 店主監修かんしゅうの元作業をしていたが、やはりと言うべきかケイロンはあまりできていない。


「あ~そっちの兄ちゃんは店の方で受付をやるか? 」

「え? しかし……」


 否定するもケイロンの顔色が若干じゃっかん良くなったのは気のせいではないだろう。


「そのまま作業して怪我けがするよりかはいいだろう。さいわいケイロンの坊主は顔が良い。出来れば外で客引きをして欲しいんだが」

「……分かりました。ご厚意こういに甘えさせてもらいます」


 そう言い「じゃぁ後は頼んだ」と言い店主はケイロンを連れて解体所を出ていった。


 ……客引きゃくひきは良いと思うんだが、ケイロンに連れられ中に入るとスキンヘッドのマッチョがいるとなるとそれはそれで阿鼻叫喚あびきょうかんとなる未来が見えるのは俺だけだろうか?


 そう思いつつも黙々もくもくと作業を進めていったのであった。


 ★


 俺達はギルドへの帰路きろについていた。

 結果から言うとそこまで苦労することもなくモンスターの処理ができた。

 と、いうのも大量のゴブリンは魔石があるかないかを確認した後運び出し一気いっき火葬かそう

 魔獣型モンスターは動物と体の構造こうぞうが似ていた為スムーズに解体。

 結果、大繁盛だいはんじょうしている精肉店が品切しなぎれになるまで見て終わるという状況になったわけだ。


「何かごめんね、全部まかせちゃって」

「いや、いいよ。誰だって苦手なもんとかあるだろ? 」

「確かにそうだけど……」


 実際昨日の情報は今後さらやくに立つだろう。

 今日だって昨日の情報が無ければ何が基準きじゅんなのか分からなかった。

 よう役割分担やくわりぶんたんである。


 話しながらも冒険者ギルドに着きとびらを開けるとそこにはオーガの形相ぎょうそうをした専属受付嬢がいた。


「なに勝手に、依頼を受けてるのよ!!! 」


 むしろ受けてはいけないのだろうか?

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