第十七話 初めての依頼完了

「それにしても良かったのか? 継続けいぞく依頼をことわって」

「うん、構わないと思うよ」


 精肉店からの帰り道、俺とケイロンは継続けいぞく依頼のやり取りを思い出していた。


「……依頼を受けるのはいいのですが、指名依頼を受けれるようになるのはまだ先になります。だから……今回はお話を聞かなかったことにします」

「あら、断れちゃったぁ。まぁ気にしなくていいのよぉ。二人にも予定があるだろうしぃ。それにまた依頼を受けてくれると聞けただけでも十分だわぁ」


 微笑ほほえみをやさずにヘレンさんはそう言った。

 パンも食べ終わったことで「あらぁもうないわねぇ」といい俺達は仕事へ戻った。


 そして依頼達成のサインと共に「もしよかったら今度モンスターの処理の仕方も教えるわぁ」と言っていた。

 俺達がまた来ることはどうやら確定らしい。


 そのようなこともあったがおおむね初依頼は成功のようだ。


「どうして断ったんだ? 」

「多分……だけど、指名依頼は高位冒険者にしかされないと思うんだ」

「ほー、で? 」

「うん。で、ここで受けてしまったら多分規約きやく違反になって何らかの罰則ばっそくがあるかもしれないと思ってね。後になって無用むようなトラブルになるのは避けたいし……」


 もっとも……受付嬢が教えてくれなかったから本当の所はまた今度確認だけど、と言いまだ明るい帰り道を行った。


 ★


「「依頼達成しました」」


 冒険者ギルドに着いた俺達は早速受付嬢へ依頼達成を報告した。

 受付台しに背負袋せおいぶくろに入れていた依頼書を出し、提出。

 それを受け取る金髪ロールだが、あからさまに面倒めんどうそうな顔をしている。

 面倒めんどいなら専属になるなんて言わなければいいのに……。


「……ちゃんと仕事はしたようね」


 そう言い書類をもって奥の部屋へ向かった。

 どうやら処理をしているようだ。

 後にコイントレイにお金を置いて、青色の瞳を向けてきた。


「これが報酬よ、受け取ってさっさと次の依頼に行きなさい」


 そう言いコイントレイをぶっきらぼうに向けてくる。

 あれ……少ない。


「あの……少なくないですか? 」

「あってるわよ」

「確か銭貨せんか八枚だったはずなのですが」

「あれは仲介ちゅうかい料抜きよ!!! そんなことも分からないの! これだからけ出しは!!! 」


 受付台の向こうで憤怒ふんぬ形相ぎょうそうでこちらをにらみつけるエカテー。

 仕切しきる物がなければつかみかかってきそうな雰囲気ふんいきだ。

 それにしてもあれは仲介ちゅうかい料抜きなのか……。

 

 ……いや、それだとけ出しはどうやって生きろと?


 釈然しゃくぜんとしないが、ルールならば仕方ない。

 ケイロンと目を合わせ、依頼料を受け取り早々そうそうに立ちることにしたのであった。


 まだ日がのぼっている。

 冒険者ギルドの奥にある机に俺達はひじをつき、顔をあわせていた。


「思ったよりもつかれた、な」

「そうだね、デリク。この後どうする?」

「んー、これからもう一つ受けるにしても……昼は過ぎてるし、な」

「もう遅いね」

「なら、何か見て行くか。まだFランクの依頼が残ってそうだし」


 そう話し合い、依頼ボードの所へ向かう。

 朝のように人だかりはない。

 せいぜい依頼達成か失敗の報告をエカテーではない受付嬢に行っている人がいるくらいだ。

 その人達も俺達の方を向いたと思うと出来るだけ目を合わせないようにして去っていった。


 どれだけ厄介やっかいな受付嬢と思われてんだよ。


 あの受付嬢へ行ったが最後、というわけか。

 本当に都会ってきびしい……。


 依頼ボード前まで来ると、まだFランクの依頼がいくつも残っていた。

 まだ残っているということはこの町自体そもそもFランク冒険者というのが少ないのかもしれない。


「え~っと、【子守】【ペットの捜索願】【ペットの世話】【ストーカー退治】【恋人のフリをしてください】【店番】【薬草採取】【ゴブリン退治】……。色々だな」

「……何かおかしいの、入ってなかった? 」

「え? まぁおかしいのばっかりだろ」

「……Fランクの依頼って雑多ざっただね」


 色々と茶色い依頼書を見ながらも次に行う依頼を見る。


「これって、先に依頼書を出すことできないのか? 」

「あ、それ僕も思った。先に出しておけば次の日朝ギルドに来ずに行けるのに」

「聞いてみるか? 」

「教えてくれるか、な」


 一斉いっせいに受付嬢を見る。


 隣の受付嬢にガンを飛ばしていた。

 多分、そう言うところもふくめて貴方の所に冒険者が並ばないのだと思いますよ、と心の中で言ってみる。


「ひ、一先ひとまず聞いてみるだけ聞いてみる? 」

「あ、あぁ……。物凄い疲れそうだが」


 そう言い、俺達はまずどの依頼がいいか話し合う。

 丁度ちょうど店番みせばんの依頼がベアおばさんの店だったのでそこにしようということとなり、依頼書をもって貴族巻き受付嬢の所へ向かった。


「あの、すみません」

「あ“」

「……この依頼なんですが、今日出して明日受けに行くことってできますか? 」

「出来るわよ……」


 苛立いらだちをかくせていない受付嬢は意外にも俺達の質問に答えてくれた。

 受けれるならば話は早い。


「では、お願いします」


 ケイロンがそう言うと、無言で依頼書をひったくり赤い受理印を押し、こちらに投げ渡す。


 今朝も思ったが……物凄いな。


 異常過ぎてもしかしてこれが『受付嬢』というスタイルなのかと思い、となりを見たがどうやら違うらしい。

 普通に店の店員のように笑顔で受付をしている。

 エカテーが異常なだけのようだ。

 ちなみに今日となりで受付している人は昨日とは違う。

 多分輪番りんばん制なのだろう。


「さっさとランク上げなさい」


 そう言い放ち、手で「あっちいけ」と合図あいずをする。

 俺達も嫌な気分のまま帰路きろくのであった。


 ★


「まったく!!! こんなはした金!!! 」


 一人、夜宿舎しゅくしゃで怒鳴りらすのはもちろんこの人、エカテー・ロックライドである。

 エカテーが疑似ぎじ的に専属となり彼らが始めて依頼を持ってきたのだが、それは身の入りが少ないものだった。


 受付で中抜なかぬきをするといっても銭貨せんか八枚のものを銭貨せんか五枚にした所で彼女のふところは温まらない。

 それどころかサブマスにバレる危険性をはらんでいる。

 しかしそれを押してまで行うのはアンデリック達がもし昇格した時、きゅうに受け取り金額が少なくなって不審ふしんに思われないためだ。


 今からたねいておけばが出た時に多大な利益になる。

 そうすれば今の派閥はばつ維持いじできる。


 『金』


 これが彼女の地位をとどめているのだ。

 もしこれがなくなればいくら貴族令嬢と言えど、今度こそ追放を受けるだろう。

 しかしそれが普通の貴族令嬢ならば、の話だが。


「我慢よ、我慢……。もし高位冒険者になれば……」


 そのあくたる微笑ほほえみを誰かが見たら、さぞ恐怖するだろう。


 昨日の情報もあり、サブマス対策を今日は考える。

 問題は彼女のチェックと派閥はばつの分裂による裏切りだ。


 だが何かしらの形でこのギルド職員は不正にかかわっている。

 もし誰かを処罰しようとすると、ギルドが機能不全ふぜんおちいる可能性がある。

 このリスクをおかしてまで、極端きょくたん断罪だんざいしないだろう。

 先日は追放の可能性が真っ先に出た。しかし冷静に考えれば、元より追放されないためにこういうふう仕込しこんだんだ。


 大丈夫、私は大丈夫。


 こうして今日も一日が終わる。

 しかし彼女は知らない。

 知らぬに彼女に破滅はめつの足音がせまっていることを。

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