第十五話 精肉店 二

 俺達は依頼書と一緒にかかれた地図を頼りに精肉店へ向かった。


 朝の活気かっきびながら俺達は道を行く。

 俺は腰に短剣ダガ—をケイロンは細剣レイピアを身に着けている状態だ。

 もしも何かあった時の為である。


 中央道を先へ行き、商業区へと向かう。

 そして更に奥の地図の場所へ行くとそこには一つの建物があった。


「他の建物と違って木でできてるんだな」


 そう感想をこぼす。

 どうやらここがヘレンさんがいる精肉店のようだ。

 店は開いているがまだお客さんが来ていないようだ。

 人の出入りがない。


「そのまま入っていいんだろうか? 」

「どうだろ。行ってみないと分からないけど、入ってみようか」

「そうだな。行くか! 」


 初めての依頼ということもありドキドキしながら俺達は精肉店のとびらを開けるのであった。


 ★


 中に入ると目の前に肉がつつまれているであろう袋がたなに並べられていた。

 また違うところにはベーコンのような保存がきくものがある。


 山でとった動物を解体することはよくあったけど、精肉店に入るのは初めてだ。

 中を見ながらスタスタスタと進む。

 

「お、いらっしゃい。何をお求めで? 」


 俺達の足音が聞こえたのか奥から屈強くっきょうな男性が現れた。

 筋骨隆々きんこつりゅうりゅうな日焼けした男性でスキンヘッドだ。

 身長はガルムさんくらいだろうか。

 

「あ、あの……。俺達今日冒険者ギルドの依頼を受けてきたのですが」

「僕はFランク冒険者のケイロン、こっちはアンデリックと言います」

「お~坊主達。依頼を受けてくれたのか! ありがてぇ」


 緊張して自己紹介を先にするの忘れていた!

 それにしてもありがたい、とは?


「依頼を出したはいいもののあんまりよぉ……受けてくれないんだわ、これが」


 頭に疑問符を浮かべながら店主らしき人を見ると、つるつるの頭をきながら困った顔をする。


「最近はさばく物が多いんで、来てくれて助かった」


 ニカァと笑い、うれしそうにする。

 何というか……子供が泣いて飛び出しそうな笑顔だ。


「じゃぁこっちだ。来てくれ」


 俺達はそう言う店主についていった。


 ★


 精肉店解体所。

 ここは精肉店の受付がある所から少し離れた場所にあった。

 周りには物資——様々さまざまな動物を運び入れる為の小屋や保存庫のようなところもあった。


「こっちが解体所、こっちが保存庫だ」

「保存庫、ですか? 」

「あぁ。くさったらいけねぇからな。全部ベーコンに出来りゃぁ良いんだが、家で料理するために生肉を売ってくれって客もいる。だからくさらさないために作った」


 自慢じまんげに言う店主の目線の先をう。

 解体所と同じくらいの大きさだ。

 

「保存庫、ということは何か魔道具でも使っているのですか? 」

「お、わかるか! いやぁ、高かったんだ。これが。保存用の魔道具」


 ケイロンが保存庫を見ていたら突然そう言った。

 保存用の魔道具?

 何それ?


「多分、凍結フリーズが付与された魔道具、かな」


 ナチュラルに俺の心を読んだケイロンが小さな声で説明してくれた。

 な、なるほど。

 ようするに……高そうな何か、だな。


「まぁそれは良い。解体所だ」


 店主に誘導ゆうどうされる形で保存所の隣に併設へいせつされた解体所へと向かった。


 解体所の中に入るとそこにはイノシシ鹿しかクマ等様々な動物達がいた。

 驚いたのは動物達だけではなくモンスターもいたことだ。

 何故なぜモンスターが?

 不思議に思いながらも店主の説明を聞く。


一先ひとまず、動物の解体を頼む。一応聞いておくが……解体の経験はあるか? 」

「俺はあります」

「僕は……ない、です」


 気まずそうに顔を下に向けるケイロン。


「おお、そっちの坊主はやったことあるか。で、そっちのはない、と」

「ええ」

「いや、構わねぇ。というよりもはなから出来るとは思ってねぇから、俺が手本てほんを見せようと思ってたんだが……坊主に任せていいか? 」

「動物は大丈夫なのですが……このタイミングで言いにくいのですが、モンスターの解体経験はないで、す。ハイ」

「モンスターは構わねぇ。あとで俺がやる。まぁやってくれるにはしたこたぁねぇが……。まぁ食肉用の動物を頼むわ。終わったら店の裏側から入って教えてくれ」


 後は道具を置いてある場所などを教え「頼んだぜ」と言い店主は解体所を出ていった。

 

「デリクは解体の経験あったんだ……」

「山で倒した動物を食べる時にね。まぁ家族で順番じゅんばんにやってたからおぼえただけだけど」


 そう言い、動物が置かれている場所を見る。

 左側にはすでに息絶いきたえている動物達がそれぞれ別個べっこに置かれており右側には種々しゅしゅのモンスターが、そして中央には……何もなかった。

 何だ、この真ん中は?

 不思議に思いながらも一体のイノシシを持つ。


 お、重い……。

 仕方ない。


筋力増強パワーライズ


 魔法で強化された腕でイノシシを持ち、元いた場所まで持ってきた。


 ドスン!!


 大きな音を立てて、イノシシを置く。


「大きいな……」

「そうなの? この大きさが普通じゃないの? 」

「いやいや、村だったら精々せいぜい取れてもこれの半分くらいの大きさだった」

「へぇ……。どうして大きいんだろうね? 」

えさになる物が多いのか、栄養のある物があるのか……」


 そう言い、再度イノシシの山を見上げる。


「こいつらが、襲ってきたとなると……」

「モンスターじゃなくても脅威きょうい、だね。こんなにも数がいるんだもの」


 引きった顔で俺達はイノシシ達の亡骸なきがらをみる。

 突進とっしんされた時の事を考えると身震みぶるいする。

 死にはしないもののとてもじゃないが冒険者どころじゃなくなる、な。


 イノシシとは別の動物を見る。

 よく見れば他の動物達も普通のサイズじゃない。

 恐らくこの周辺ではこれが普通のサイズなのだろう。

 もし外に行くことがあるのなら気を付けなければと、と思いながらも状態を見る。


「一撃で仕留しとめてるな、誰がやったんだ? 」

「難しいの? 」

「いや、難しくはないけど……素人じゃない」

「まぁ精肉店におろすくらいだから」


 うぐっ! 確かに。

 でも綺麗きれい傷跡きずあとだ。首筋に一撃。そしてそこから血抜きをしたのだろう痕跡こんせきが見られる。

 矢、だろうか。少なくとも火属性魔法ではない。

 だけど俺の体の大きさの二倍くらいあるイノシシ首筋くびすじ貫通かんつうしている。どんな矢を使ったらこんなになるんだよ……。

 と、いうかどんな剛腕ごうわんだ?

 俺が観察かんさつしていると、ケイロンが近くにり顔を近づけのぞいてきた。


 何か……甘い匂いがする……。

 ドキドキする……。

 ま、まて! 相手は男だ!!!

 

「さ、さて、やろうか」

「そうだね、やろう」


 こうして俺達は最初の一頭、イノシシの解体を始めるのであった。

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