第十二話 町の探索 銀狼周辺 二

 俺はヘレンさんや熊獣人夫婦から出てきた話で不信感を抱きながらもケイロンはフェナについて行った。最もケイロンにいたっては宿に入ってから「何かしらあるのでは? 」と感じていたようで、彼女についてくる前とほとんど変わらないが。


 あやしく思いながらも様々さまざま売店ばいてんの前を通る。

 意外なことにこのへんでフェナは有名なようだ。

 各方面から声をかけられている。

 そのたびに俺達と接するような感じで年上の人達と挨拶あいさつをしていた。

 俺達を紹介しょうかいする時最初は名前が出てこなくて俺達が前に出て自己紹介することがあったがそれも何回もり返したら、フェナも名前をおぼえ俺達が前に出ることがなくなった。


 この周辺でおつかいすることが多いのだろう。彼女の知り合いが多い事からそれがよくわかる。そしていい関係をむすべているようだ。

 獣人族、人族、エルフ族に魔族等様々な種族が入りじる中、彼女は分けへだてなく元気に接している。


「なぁケイロン。正直俺町に来るのは初めてだから分からんが……その……ここまで分けへだてない感じなのが普通なのか? 」

「んー、そうだね。流石にフェナさんみたいにという程じゃないけど、この国ではほとんど差別のようなものはないか、な」

「ふ~ん。ならフェナは珍しい部類に入るってことか」

「そうだね。まぁそれに人種差別はクレア教の教えにはんするからね。いくら大昔に人魔大戦があったとしても、誰もやらないよ。それこそ……」

「それこそ? 」

「いや、何でもないよ。さぁフェナさんはかなり前まで行ってしまったね。行こう! 」


 そう言い、誤魔化すかのような苦笑いでケイロンは更に小さくなってしまったフェナを追いかけていった。

 最後の言葉が気になるが、走っていくケイロンを俺は追いかけた。


 ★


 市場いちばの中央を通り過ぎ、半分過ぎた。

 そして気付いたがこの辺りはあまり子供を見かけない。

 親の手伝いで売店ばいてんの売り子をしている子もちらほら見つけたが、他はほとんどいない。

 小さなころから家の手伝いをしていたとしては親の手伝いをしていない子供が少ない事に吃驚びっくりだ。

 手伝いの子達もフェナと知り合いのようで、彼らに胸を張り銀色の耳をピクピク動かしながらも「お仕事中!!! 」と大人ぶっていた。


 いや、フェナ。君はお仕事はあまり好きではなかったんじゃないかい?

 違うか……。時間にしばられるのが嫌なのだろう。


「なんかこうしてみていると普通の女の子だな」

「いや、普通の女の子、だと思うよ」

「いやいや、たんに宿屋の娘ってだけじゃぁここまでしたわれないんじゃないか? 」

「そうかな? ん~そうかもしれない」


 「普通とは一体? 」と考えだしたケイロンに「だろ? 」と彼女の顔の広さは普通じゃない事を言う。

 それにフェルーナさんのアイアンクローをらってピンピンしてるのは物理的にも普通じゃない。普通の人族の頭が爆散ばくさんするほどの腕力でにぎられ無事なのだ。これを石頭いしあたま、で片付けるのは少し違う気がする。


 市場いちばの子達と話し終えたのかフェナは俺達の所へたったった、と銀色の道を作りながら小走こばしりでやってきた。


「またしたわね! これだから人気者は困るわ! 」

「ハハハ、流石看板娘だね、フェナさん」


 められたのが嬉しいのか耳をピクピクと動かしながら答えた。

 そして、再度歩き出す。

 するとまたもや色々な人達に声をかけられた。

 彼女が色々な人と挨拶しながら俺達も挨拶をする。

 勿論け出し冒険者である事も伝える。

 挨拶あいさつした中には冒険者ギルドに依頼を出している人もそれなりにいた。

 彼らに「その時はよろしく」と言われ、顔つなぎが出来たのは予想外の収穫しゅうかくだ。

 人とのつながりは大事である。

 今度ギルドに行ったら確認してみよう。


「すごかったな」

「そうだね。これだけの人脈じんみゃくを持ってるとは思いもよらなかったよ」

「まぁおかげで俺達はその恩恵おんけいを受けれたわけだが」

「フェナさんと来て正解だったね」

「最初は……反対だったがな。あやしさ満々まんまんだったし」

「ハハハ、それは……まぁ仕方ないよ」


 俺達は笑いながらも彼女の後ろに横について行く。

 色々と声をかけられる彼女は周りを明るくしているようだ。

 恐らく彼女が持つ尊大そんだいながらも陽気ようきな性格のおかげなのだろうか。

 宿屋の看板娘、というよりかは市場いちばのアイドルと言った方がしっくりくる。

 そう思うと微笑ほほえましくなり市場いちばを一周するころには疑うことを忘れ、微笑ほほえましくなっていた。


 ★


 市場いちばを一周し終わった後、俺達は入り口にいた。


「そろそろ帰るわよ! 」


 空を見上げると太陽がかたむいている。

 気付かなかったがかなり時間がたっていた。

 濃密のうみつで長い時間歩き回ったせいか時間を忘れていたらしい。


「晩御飯が待ってるわよ! さぁ、帰りましょう! 」


 どこまでも尊大そんだし口調くちょうで命令されながら、俺達は銀狼へ帰るのであった。


 その道中どうちゅう


「なぁケイロン。市場に子供が少なかったが……手伝いはしないのか? 」

「ん? デリクは学校には通わなかったの? 」

「学校? 」

「え? 」


 話がかみ合わない。

 ケイロンが黒い瞳を俺に向け、見上げる。


「あれ? デリクが文字を書いたりできてたからてっきり学校に通っていたと思ったんだけど……」

「いや、俺の村は教会の司祭様が勉強とか魔法を教えてくれていたから学校? ってものに通ってないぞ? 」

「……そんな村があるの、か。すごいね、君の村の司祭様は」

「そうだぞ、女性にもモテモテだ。それで学校って何? 」


 足を進めながらも感心かんしんしているケイロンに学校とやらについて聞く。


「まぁ村の司祭様がやってることと同じだよ。ただ、教えるのは教会の人じゃないけど」

「ふ~ん。町ではそれが普通なのか」

「いや、町というよりかはこのドラグ伯爵領の町、かな」

「他の領地ではやってないのか? 」

「そうだね、比較的お金に余裕よゆうのある領地しかやってないね」


 俺達は話ながら進む。

 逆に考えると今働いているフェナは学校とやらに通っていないことになる。

 町では例外的存在なのかもしれない。


「なるほど、学校に行っているから市場いちばにいない、と」

「そう言うことだと思うよ。多分今日市場いちばにいた手伝いの子達は学校に行っていない子達だと思うよ」


 そうか、と相槌あいづちをうち石畳いしだたみんで行く。

 フェナが前をリードしているおかげかきた時よりも視界が広い。

 市場いちばに行った時のドキドキ感もなく、冷静に周りを見れる。

 それに加え夕暮ゆうぐれ時なせいか、道や建物が来た時とはまた違う雰囲気ふんいきだ。

 もしかしたら日がれる時間帯までに依頼を終えることが出来なかったら道に迷うかもしれない。

 気を付けねば。


「さぁ、ご飯に着いたわよ! 」


 そうこうしているうちに、宿屋『銀狼』に着くことが出来た。

 最早『宿屋』の事を『ご飯』と言ってしまっている。

 お腹がすいているのだろう。

 銀狼に入る前にふと足を止め、開けた視野で銀狼の更に奥の区画くかくを見た。

 銀狼を出る時はそのまま市場いちばに向かったためあまり気が付かなかったが、銀狼は丁度ちょうど商業区と居住区の境目さかいめにあるようだ。


 宿の向こう側には家が立ち並んでいるのがよく見える。

 更に顔を動かし見ると、少し小高こだかくなっている所に何けんか高そうな家が広い間隔で建っていた。

 多分貴族様の家か?


「なにしてるのよ! さぁご飯よ、ご飯! 」


 フェナのその言葉に押され、銀狼の方へ顔を戻し宿へ足を向けるのであった。

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