第十一話 町の探索 銀狼周辺 一

 細い腕に引きられながら宿を出た俺達はすぐに解放された。

 それにしても白く、細い腕だ。

 焼けて肌麦色になっているガルムさんの腕とは大違い。

 まぁ年も年だし、年相応と言えばそうなのだが……。

 それにしても物凄い腕力だ。

 年上である俺達二人をつかみ、引きるくらいなのだから。


 流石狼獣人、といった所か。


「ふぅ、ひさしぶりの休憩きゅうけい! 感謝するわ! 」

「それはどうも」

口実こうじつができて、よかったよ」


 どこまでも尊大そんだいな言い方で、フェナはお礼をべた。

 それを聞き、俺達は苦笑いをするしかなかった。


「それにしても……あまり家から出ないの? 」


 外に出ることに固執こしつしたフェナに疑問を持ったのだろう。目線を合わせ、ケイロンが聞く。


「ふぇ? そんなことないわ! 買出しに行ったり、荷物にもつとどけに行ったり、取りに行ったり……ただ……」

「「ただ? 」」

「言われた時間に一秒でも遅れると怒られるから、あまり遊べないの」


 その言葉と同時に笑顔でアイアンクローを頭にかましているフェルーナさんの姿が思い浮かんだ。

 フェナも想像してしまったのか体が少し震わせ、ケモ耳と尻尾しっぽをしゅんとし落ち込む。

 そ、そんなにきびしいのか。

 そう思うと俺は……自由だったんだな。

 手伝いしながら遊ぶことが出来たんだから。

 町だからと言って、楽しい事ばかりじゃないんだ……。


 そう感慨かんがいにふけっているとフェナが元気を取り戻した。


「さぁどこに行きたい? 私のおすすめは市場いちばよ!!! 」

「どこに行きたいかと言われても、この町初めてだしな」

「ならフェナさん一押しの市場いちばに行こう」


 彼女は自分が行きたい所を言い、俺達も特にあてがないのでそれに同意した。

 そうと決まれば早い。

 三人で市場いちばに向かって行くのであった。


 ★


「あれま、フェナちゃんじゃない! こんな時間にどうしたの? 」

「ふふん! お客様に町を案内してるのよ」

「まぁまぁ、お客様! フェナちゃんの宿にやっとお客様が来てくれたのね! よかったじゃない! 」

「私が看板娘なんだから当たり前じゃない! 」


 フェナが恰幅かっぷくの良い人族のおばさんに話けられ、ドヤ顔していた。


 市場いちばに行こうとしていた俺達なのだが、店に辿たどり着く前に突然声をかけられた。

 驚いて振り向くと、そこには一人の女性がいた。

 一体何かと思っていたが、口ぶりからするとどうやらフェナの知り合いのようだ。


「紹介するわ! こっちは今日から泊まってくれる……え~っと」

「今日から冒険者ギルドに登録したアンデリックです」

「同じく冒険者のケイロンです」

「あら、冒険者なのね。私はあっちで夫と一緒に精肉店をやってるヘレンよ。時々ときどき私もギルドに依頼を出しているからその時はよろしくね」

「「よろしくお願いします!!! 」」


 ヘレンさんがほがらかに挨拶あいさつする。

 そう言えば、俺達フェナに自己紹介してなかったな……。

 俺達がガルムさんやフェルーナさんと話している時も大概たいがいフェナは気絶していたし。

 フェナも言おうとして、気が付いたのだろう。

 少し顔が赤い。

 自慢じまんげに紹介しようとした反動はんどうで物凄い羞恥心しゅうちしんが襲っているんじゃないだろうか? 

 少しうつむいている。

 

 それにしても、まさかの依頼主がいるとは思わなかった。時々ときどきでいいから依頼ボードをチェックしよう。


 そう意気込いきごみながらもヘレンさんと別れ、そのまま市場いちばへと俺達は向かった。

 商業区なだけあって道中どうちゅう様々さまざま店舗てんぽが見えた。

 どれも赤い煉瓦レンガで作られている。しかし色の違う建物も見えた。多分大きな商会で塗装とそうするのに余裕よゆうがあったのだろう。


 途中とちゅうで商業ギルドも確認。

 流石、というべきか冒険者ギルドとはことなり大きく、そして派手はでだ。


 職員らしき人達が中に入ったり、出たりするのを確認できたがどの人もこれまでに見たことのない服装である。

 冒険者ギルドの職員とはことなり清潔せいけつあふれる服装。

 冒険者ギルド職員の服装はどちらかと言うと機能美きのうびを追っていったような感じであったが、こちらは『見せること』におもきを置いている感じだ。しかし不快感ふかいかんは感じない。派手はで外観がいかんの職場とはことなり非常に落ち着いている。


 ★


 バジルの町の市場いちば


 俺達は右に左に目新しい建物や人を見ていると、すぐに市場いちばへと辿たどり着いた。

 そこには様々さまざま簡易かんい的なお店が立ち並んでいる。

 市場いちばへ入り、フェナが「見て周るわよ」へ行こうとするとまた違うところから声がかかる。


「おりゃ? フェナじゃねぇか! んん? 後ろのはフェナ……あれか「何言ってんだい!!! 」ぐふぇ! 」


 はちみつの売店ばいてんをしている熊獣人男性がカウンターしにフェナへ何か言おうとすると、ゴッ!!! という音がした。

 俺達が吃驚びっくりしていると受付の男性の後ろからやってきた体格たいかくのいい熊獣人の女性に頭に鉄槌てっついが落とされていた。


まったくもう……デリカシーってもんをつけろっていつも言ってるじゃないか! 」

「そうは言ってもよ……別にいいじゃねえか」

「何の話? ベアおばさん? 」


 いきなり現れた熊獣人夫婦のじゃれ合いにき込まれながらもフェナは頭をかしげた。


「いやいいんだよ。気にしなくて」

「ふーん……。夫婦の秘密ってことね! ふかくは詮索せんさくしないわ」

「なんか変な誤解してねぇか、フェナ? で、結局けっきょくそっちの男前おとこまえは誰なんだ? 」

「聞いて驚くと良いわ! 我が宿のお客さんよ!!! 」

「「え……なんだってぇぇぇぇ!!! 」」


 ふん! と胸を張り、威張いばる。

 え? 何なのその反応?

 さっきのヘレンさんといいそこまで驚くことなのか?

 驚いた顔の熊夫婦を見て、ケイロンに小声こごえで聞いてみる。


「な、なぁ……。なんでこんなに驚かれてるんだ? 」

「わ、わからない、よ」

たんに客が来ないだけじゃぁここまで驚かないだろ? 」

「うん、それは僕も思う」


 これは本人に聞くしかないな。

 小声こごえで話していたのをやめ、フェナにささっと近付きいただす。


「なぁフェナ。何をかくしてんだ?」

「べ、別におかしい事なんて、な、何もないんだから!」


 素早く目を右往左往うおうさおうさせながらフェナは否定する。

 しかしこのあせりよう、何かある。


「フェナさん、今のうちに言ってくれたらうれしいな」

「本当に何もないいだからっ! 」


 ケイロンがにっこりとしかし威圧感のある笑顔でフェナをめる。

 しかしフェナもかたくなに否定し、膠着こうちゃく状態となった。


「……まあ運が良けりゃ、実害じつがいは無いと思うから……」

「あんた……人様ひとさまの商売を邪魔する気かい? 」

「いや、そう言うわけじゃないが……」

「はぁ、大丈夫だよ、お前さん達。あまり気にすることでもないからね。実際あそこには金銀夫婦がんでるだろ? それが何よりの証拠しょうこさ」


 俺達がめていると、ベアと呼ばれた女熊獣人がこっちを見て「大丈夫」と言ってくれる。

 その言い方だとむしろ不安が増すんだが……。


「まぁなんだ。頑張りな」


 何か意味深な言葉を投げけられ、俺達は強引にフェナに次の所へ連れて行かれるのであった。

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