第2話 過去と今
本日の目覚めは非常に悪い、睡眠不足である。何故なら昨日のあいつのせいだから。夜中に昨日のことがフラッシュバックし目が覚めてからこの始末である。
もう一眠りしたいところではあるが、寝たら講義に間に合わない。自分自身を奮い立たせ身支度を整える。さすがに昨日の今日で彼に会うことはないだろう。いや、そうであってほしい。
昨日と同じ時刻を待つが、祈りが通じたのか彼に会うことはなかった。電車の中でスマートフォンを見るとテレビでもやっていた爆発事件についてSNSで話題になっていた。話題になっているのは爆発事件の内容もだが、緊急搬送された1人の男が話題を呼んでいる。
SNS上によると、緊急搬送されたが左腕のやけどで済んだとのことで、厚着をしていたため重症にならず済んだという。ここまで聞くとただの奇跡的な話である。しかし男性が厚着をした理由が、数日前に偶然通りかかった占い師に厚着をすれば運気が上がると言われたためだとか。
SNSではその助言した占い師の話題で大盛り上がりの真っ最中であった。
『その人のおかげで助かったようなもんじゃん』
『預言者か』
『会って占ってほしい!』
『本当はこいつがやったんじゃね?(笑)』
『嘘くさいな~』
本人が読んでいたら嬉しいようなコメントもあれば、心無いコメントもありSNSは相変わらず言いたい放題だと感じた。
しかし、昨日の彼のことを思い出す。
『少しばかり、いや半年ほど前になるのか。その時から俺の身体に変化があった。』
彼はそう話していた。生まれてからではなく突然変化があった。もしかしたら他にも同じような人がいるのかと思い始めた。今まで架空の存在であった『能力者』が存在するのか?
色々なことを考えている間に大学のある駅に到着していた。慌てて電車を降り、改札を出る。これ以上考えてもしょうがないと割り切り大学へ向かう。
大学に着き教室に向かうと人はいるが友人はまだ着ていないようだ。とりあえず真ん中あたりの席を確保することにした。
席を確保してから5分ほど経ってから友人が到着した。自分も目覚めは悪かったが向こうも負けないくらい、大きなあくびをしながら向かってきた。
「おはよ~…。いや~韓国ドラマが面白くって徹夜しちゃったよ~。」
余計な考え事で寝れなかった私に対し、友人は何とも幸せな寝不足だろうか。少し羨ましい。思っていることは顔に出さず会話を続ける。
「おはよ。相変わらずハマってるのね。それぐらい講義にも集中した方がいいんじゃない?」
「それはそれ、これはこれ。そういえば今日は紳士には会わなかったの?」
今の自分にとって一番触れてほしくない話題に移行しようとしている。まぁ今更隠してもしょうがなく、元々話す予定ではあった。
「えぇ今のところはね。ただ昨日あの後もう一回会ったのよ。」
うそ!?マジ~ っと変わらずのオーバーリアクションが来るかと思ったがやけに静かだと思い、彼女の顔を見る。
目を見開き、口をコの字に、手はよくわからぬ角度を保っていた。古いリアクションそのものである。まぁ言葉にできない驚きなのだろう。
すぐさま我に戻った友人は、興味津々に身を乗り出し聞いてくる。
「ほんとうに!?もう運命じゃん!もしかして告白されたとか!?」
「いや、いきなりそれはないよ。ただちょっと話してみた。」
自分が逆ナンをしたと知れば、多分気絶するだろう。なのであえて黙っておく。
「え!どんな話をしたの!?恋人はいますか?とか!?」
「それもない。どういう人なんですか~みたいな。」
どうしても恋愛に持っていきたい友人。話したことを後悔する私。互いに得がない話な気がしてきた。
幸いと講師が教室に入ってきたので、話を遮ることにした。
「ほら、先生も来たからこの話はやめ、やめ。」
「お昼は尋問タイムね!」
あぁ、今日も疲れると、そんな感じがした。
懐かしい夢を見た。
私がまだ小学4年生位の時の頃の記憶。30人程度のクラスで、誰もが何も考えることなく日々を過ごしていた。
私はクラスの中で良くも悪くも、目立つような存在ではなかった。ただ友達も少しばかりいたし、クラスも割と明るい雰囲気であったため過ごしやすさはあった。
そんなある日、転校生がやってきた。男の子だったが、どこから来たのか、どんな顔だったか、名前も今では覚えていない。
とにかく静かな子で休み時間も教室で席に座ったまま本を読んでいたことは覚えている。スポーツ好きの子たちが声をかけるが返事もしないで、ずっと席に座っていた。少し変わっている子だった。
しばらく日が経つと、転校生には周りも声をかけなくなり、周りの子は噂をするようになった。そう「いじめられて転校してきたのではないか」という噂だった。
最初はクラスのほんの一部だけだったのだが、気がつけば別クラスのところまでその噂は広がっていった。
噂が広まった結果、別クラスのいじめっ子たちが面白がってからかうようになった。最初は周りを囲んで話しかけているだけだった。日に日にエスカレートしていき、机の上に雑巾を置いたり、ランドセルを隠したり、靴を隠したりと悪い方向に向かって行った。
クラスの誰もがその現場を見ていたが、誰一人としてそれを止めようとするものが現れなかった。止めたいという気持ちはあっても自分がいじめられると思ってしまったのか、それとも自分が被害にあわなければいいと思っていたのか、今ではわからない。
ある日、帰えろうと上履きを履き替えると例の男の子が自分の下駄箱の前で止まっていた。見ると靴が無いらしい。
「ねぇ、先生に相談しようか?」
あまりにも見ていられなかったため声をかけた。しかし彼は振り向きもせず立ったままだった。
「嫌なら、嫌って言わないとあいつらずっとやり続けるよ。」
一方的に話しかける。しかし返答はなかった。
「なんかしゃべったら!」
思わず強く怒鳴ってしまった。彼があまりにも無言なのでムカついてしまったのだ。
しかしそれでも彼からの返答はなかった。彼は上履きを下駄箱に入れ、靴下のまま帰ろうとする。
「ねぇ、待ってよ。そのまま帰るの?靴一緒に見つけよ?」
すると彼は少し振り向いて何か喋ったが、良く聞こえなかった。そしてそのまま靴も履かず彼は帰って行った。
彼が何といったか聞こえなかったが、しゃべっていた口の形で理解しようとする。
「な・ん・で・い・ま・さ・ら…」
彼は多分そういっていたのだろう。何で今更助けようとするのか。最初から助けてほしかった。今考えるとそう伝えたかったのだろう。
そして次の日。
登校すると教室で担任の先生が待っていた。いつもは明るいのにとても暗い表情をしていた。すぐに嫌な予感がした。
チャイムが鳴ると、先生は真剣な表情で私たちを見ながら話し始めた。
「○○君何だが…昨日から家に帰っていないらしい。何か知っている人はいる?」
クラス中の空気が重く、沈黙の時間が流れる。
言いたいけど言えない。最後に彼と下駄箱であったといいたいが、自分が罪にとらわれるのではないかと考えてしまった。
そしてクラスのみんなも同じだ。何故ならいじめを見ていて何もしていないから。
沈黙の時間は続く。嫌な時間である。
「そうか…。わかった。」
担任の先生は二言だけ言い、その後何も言わず職員室へと向かった。
周りのみんなもどうするか考えたが、なぜかこういう時ポジティブに考える。
『風邪引いただけとか…』
『親に休めとかいわれたんじゃね…』
それは自分たちへの言い訳に聞こえてきた。そして私もそう思うことにした。
それから、担任の先生から一切彼の話は出てこなくなった。生徒間ではよからぬワードが飛び交う。
『不登校かな?』
『誘拐されたとか?』
『もしかして自…?』
私はこの噂を耳にし、下駄箱で話したことがよみがえる。最後に彼につぶやかれた一言がどうしても頭から離れなかった。
「何で今更」なぜ自分だけ。もともとは噂をした奴といじめた奴が悪いのに。何で自分なのだろうと考え込んでしまう。
もしかして私のせいなのか。あの時止めていれば変わったのか。いや、いじめが始まった時に止めていれば。
学年が変わりクラスが変わってから、彼とは別のクラスになってしまったため、彼がまだ学校にいるのか、それとも転校してしまったかわからなくなった。周りも忘れようとして忘れたのか話題にもならなかった。
ただ私はずっと後悔し続けた。中学、高校と上がって行っても後悔し続けたのであった。
今でも残っている。「何で今更」という呪いのような言葉が頭の中に。
もしあの時ヒーローがいれば変わったのか…。
「華!ほら起きないと!」
私の肩を揺らす感覚がして目を覚ました。どうやら寝不足のため講義中に寝てしまったらしい。
見上げると心配そうにこちらを見る有紀の姿があった。
「大丈夫…?寝不足ならもう帰って休んだら?」
「大丈夫だよ。ありがと。大分寝たから元気になったよ。」
自分なりの笑顔で返答する。まだ少し心配気味の友人だが、すぐに笑顔で返答する。
「そっか!なら外にご飯食べにいこ!2限目は無いしゆっくりできるじゃん!」
元気な友人。自分はいい友人を持ったと心から思う。
急かす友人につられるように急いで教室を出る。
大学を出て近くのファミレスに移動した私と友人。
安くてそこそこうまいイタリア系のファミレスでとても気に入っている。
とりあえずゆっくり食事をしながら、有紀が韓国ドラマの話をする。
一時間程世間話が続き話題が変わる。
「そうだ、今日3限目終わったら新宿に買い物いこうよ。」
唐突な友人からの誘いだったが問題なく了承した。
上機嫌な友人。多分私をまだ心配しているのだろう。このお昼中も彼の話題について触れてこなかったのだから。
その後、特に大きな進展も話題もなく3限目が終わり二人で新宿に向かう。
駅についた途端、いつもと雰囲気が違うのが伝わってきた。
警察官が5 ~ 7人以上改札口の近くをうろついているのだ。
「なんかあったのかな?やけに警官多くない?」
「そうだね…。なんか事件の犯人でもうろついてるのかな?」
不穏雰囲気が流れた駅構内を早々に抜けようと少し早足になる。
しかし、こういう時に限って出くわしなくない人に遭遇するのであった。
そう、裏瀬 正が仁王立ちしていたのだ。
明らかに嫌な表情をする私を見た有紀は小声で聞いてくる。
「知り合い?もしかして元カレ?」
なんで普段は勘がいいのに、こういう時外すんだー!!っとツッコミを入れたいが。深いため息を吐いて友人に小声で伝える。
「有紀が会いたがっていた噂の紳士様ですよ…」
その一言を聞き、彼と私を交互に二度見を繰り返す友人。そして芸人顔負けのリアクションで話しかけてくる。
「えーーーーーー!!嘘!?あの人が!?噂の!?」
「えぇ、そうですよ。有紀が会いたがってた、シ・ン・シ・さ・ん!」
まさかとは思ったがまたも出会うことになるとは。ということは警察がいるのはもしやこの男のせいなのでは?と思いつつせっかくなので話しかけてみることにした。
話しかけに行く私を見て友人は頭の処理が追いつかずプチパニック状態になっている。
そんなことは気にせず彼に声をかける。
「お、お疲れ様、です。裏瀬さん。私のこと覚えてますか?」
「あぁ、お疲れ様。昨日の喫茶店で話したー…、飯沼さんだっけ。」
後ろの方で「喫茶店!?」と聞こえた気がするがほっておこう。
「そうです!ところで今日はここで何をしているのですか?警察の方もいるようですし、また何かやったんですか…?」
「俺ではない。ニュースは見てない?結構話題になってたはずけど。」
ニュースになっているということは結構大ごとでは?っと思いスマートフォンで調べる。するとSNSでは大きく『新宿駅、爆破予告!』と大々的になっていた。
「爆破予告ですか?だから警察の方が…。でもこういうやつは大体何も起こらないって感じじゃありません?」
「確かにそうかもしれん。ただ嫌な予感がする。」
「もしかして『能力者』の勘みたいなことですか?」
「昨日の工場爆発事件といい、何か引っかかっている。とりあえず不審なものには近づかづ…」
彼が忠告をしてくれようとしたところで友人が割り込んできた。
「初めまして!紳士さん!私、宇井 有紀と申します!いきなりですが、二人はどういう関係までいったんでしょうか?後ろで聞いた限りでは喫茶店というまだ友人から聞いていないワードが聞こえたのですが!!」
躊躇なく、そして面倒な元カノのごとく割り込んできた友人。そういえば喫茶店については話してなかった。
「どうも。裏瀬 正...と言います。えーと、飯沼さんの友人なの…かな?」
友人の気迫に負けたのか少し弱弱しい裏瀬さんであった。
二人が話し合っている間少し考え事をする。
(昨日の爆発事件が気になっていたっていったけど…やっぱり「能力者」は実在する?…いや、それはないはずだ。だって今まで…)
色々と思考を巡らせている横で友人がはしゃぎ始めているので止めることにした。
「裏瀬さん毎日こうやって人のために活動しているのですか?もうヒーローじゃないですか!将来間違いなく有名人ですよ!」
「有紀~。そこまでにしなさい。裏瀬さんが困ってますよ~。」
そういい無理やり彼から友人を引き離す。
「え~~。もっと色々聞きたかったのに~。」
「友人が失礼をいたしました…。それじゃ、私たちはこれで。」
一礼をしてその場を立ち去ることにする。彼は少し苦笑いをしていた。
彼を背に向けて歩き始めて10歩ほど、右横にある柱の陰に特撮もののロボットが置いてあるのに気がついた。
(どうしてこんなところに…。誰かの忘れ物かな?)
その視線が気になったのか、友人も隣からのぞき込む。
そして…。
裏瀬は二人が去ろうとした後、すぐに誰かの視線を感じた。
視線のもとを探すと、券売機の近くにパーカーのフードを被った奴が目に入った。ここからでは見えないが、パーカーのポケットに手を突っ込んでいる。
そして、視線が自分ではなく振り返る。視線は先程去ったばかりの二人を見ていることに気づく。
二人が柱の陰にある何かに気になっている。
真っ先に二人の方へと走り出す。走り出すと同時にフードの奴を確認すると、俺が走り出したことに気づき慌ててポケットの中の何かをいじっている。
(間に合うか…!)
あの時よりも距離は短い。集中力を高め、目的めがけてありったけの「力」を使う。
自分たちがロボットに気をとられていると、後ろからもの勢いよく彼が飛んできた。
するといきなり彼はロボットを拾い上げ、そのまま先にあるロッカーまで走って行った。そしてロッカーにロボットを入れ、扉が開かないように抑え込んでいる。
え、っと隣で友人が声を漏らすとほぼ同時に、爆発が響き渡る。
そして同時にロッカーの前にいた彼が吹き飛び、柱に衝突する。
「裏瀬さん!!」
今までとは異なりすぐに身体が動いた。すぐに彼のそばへと駆け寄る。
柱に背を任せるように脱力しきった状態で座り込んでいた。体が吹き飛んだにもかかわらず、身体がどこも吹き飛んでいないのが奇跡に思えた。
目の前にあるロッカーは、真ん中に大きな穴を開け、爆発の威力を一瞬で伝えるほどのものだった。
後ろでは有紀が慌救急車に連絡しているのが見え、野次馬が周りに集まり始めた。
騒ぎを感じたのか警察官が慌てて近づいてきて、倒れている彼を見て意識があるか確認をしながら私に尋ねてくる。
「息はしているな。あなたは怪我ありませんか?」
「はい…私は大丈夫です…。彼は大丈夫なのでしょうか?」
「気を失っているようですが、状態は何とも…。一体何があったのですか?」
「よくわからないです…。ただそこの柱の陰におもちゃが在って見ていたら、彼がそれをロッカー入れた瞬間に爆発したんです…」
「爆発…!ということは例の予告は本当だったのか!小倉さんすぐにこちらに来てください。事件発生です!」
警察官は無線で応援を呼ぶ。そして野次馬に向かって指示をする。
「皆さん!大変申し訳ないのですが、ここで立ち止まらず速やかに外の方に避難をお願いします!また近くに不審なものがございましたらすぐに近くの警官に教えてください!」
近くにいた他の警察官もこの事態を無線で聞いたのか速やかに駅にいた人の避難誘導を始めた。
「すみませんが、あなたから詳しい事情を聞きたいので後でよろしいでしょうか?」
隣にいた警察官に言われ、うなずく私。すると奥からタンカーを持った救急隊員とスーツを来た中年のおじさんが走ってきた。
「林!けが人は!?」
「けが人はここです!呼吸は確認しておりますがすぐに連れていった方がよいかと。」
「すぐ搬送をお願いします。そちらの子は?」
中年のおじさんは私をみてけが人ではなさそうだと判断したようで、林と呼ばれた警官に確認をする。
後ろでは救急隊員の方がタンカーに裏瀬を乗せ、怪我の状態を見ながら速やかに救急車の方へと向かって行った。
「小倉さん早かったですね!彼女は現場の近くにいて不審なものを見かけたということで。重要参考人として詳しく話を聞くために残ってもらいました。」
「なるほどね~。じゃねえだろ!爆発物が近くになった現場に残ってもらうんじゃね~!」
林と呼ばれていた警察官に中年のおじさんがお叱りをする。
「とりあえず、彼女を早く安全なところに避難させろ。その後駅一帯はとりあえず安全確認がとれるまで閉鎖。そのあと現場の確認だ!」
はい!と元気よく返事をする林さん。そのまま私も一度避難することになった。
後ろを振り向くと穴の開いたロッカーが目に映る。とても同じ場所とは思えないくらい殺伐として雰囲気が流れていた。
爆発から2時間くらい経過しただろうか。地下はまだ爆弾が残っているのではないかと引き続き捜索が続いている。
その影響で地下の店、通路は閉鎖状態。電車の方は一時運転中止していたが、動いてはいた。さすがに電車を止めることは難しいのだろう。
友人ははぐれてしまい、私は現場近くにいたということで、現場の状況確認につき添っている。
「こんな遅い時間までつき合わせてしまい申し訳ない。申し遅れました、私は警部補の小倉と申します。今回の爆破事件の担当をしていてね。詳しいことをお聞きしても?」
中年のおじさんこと、小倉警部補は私に対し親切丁寧に対応してくれた。
「私は、飯沼 華といいます。大学生です。今日起きたことなのですが…」
小倉警部補に友人と買い物に来たこと、怪我をした彼のこと、柱近くにあったロボットのこと等すべてを話した。
小倉警部補はずっと耳を傾けながら、現場の場所、話し込んだ時間、何か不審な人物が近くを通っていなかったかを聞いてきた。
「そうか。大体わかりました。ありがとう飯沼さん。しかしロボットが爆弾だったとはね。」
「小倉さん、ロボットの大きさと形状からしてなのですが、とても爆薬と発火装置を仕込めるような大きさではなさそうです。それにロッカーをあそこまで破壊するということはなかなかですよ。」
「そうなのか?彼女の証言と、裏瀬さんだっけか。彼がロッカーにぶち込んだという話から考えると、大きさに間違いはないだろう。例えばそのロボット自体が爆薬で出来ていたらどうなんだ?」
「確かにそうですけど。でも彼女の証言からネットで探してみたのですが全く同じ形のものがあるんですよ。わざわざ形や色まで似せて作りますかね~?」
小倉警部補と別の捜査官らしき人が話し合いをしている。少しアウェイ感を感じるがしれっと去るわけにはいけない。
そんな私に気がついたのか小倉警部補が話を中断して話しかけてくる。
「事件の詳細は戻ってからだ。飯沼さん引き留めてしまったので問題なければ家まで送りますよ。」
「あ、ありがとうございます。ではお言葉にあまえて。」
「じゃあ、そういうことなので現場の方は一旦頼む。俺は送ってくる。」
小倉警部補は捜査官にそう伝え、私を連れて車に向かう。
車に向かう途中、病院に行ってしまった彼はどうなったのだろうかつい考えてしまう。そんな私の心を見透かしたかのように小倉警部補は話しかけてくる。
「裏瀬さんは右手を軽く捻挫した程度で済んだらしいよ。なかなかの幸運の持ち主だね。本来でられば骨折か、右腕が吹き飛んでいてもおかしくないレベルなんだがね。」
「そうなんですね。良かったです。どこの病院に搬送されたのですか?」
「確か~、近くの医大病院に搬送されたのかな。3日くらい入院になるだろうって話だよ。」
「そうなのですね…。面会とかはできますか?」
「できるはずだよ。我々も彼には色々状況を聞きたいし。」
とりあえず彼が生きていることに一安心した。自分と友人を守ってもらってまだ何も言えていないのだから。
ただ今回の件を思い出す。警部補たちの会話を聞いていた際に引っかかっていたことがあった。
『ロボットの大きさと形状からしてなのですが、とても爆薬と発火装置を仕込めるような大きさではなさそう』ということ。捜査官に言われて通販サイトから調べてもらった際に同じものがあった。
普通爆弾であれば、中が空洞でその中に爆薬を入れるならわかる。しかし、今回見たロボットはいくつかのパーツを変形させてできるものであり、空洞の箇所は限りなく少ない。にもかかわらず、あの爆発力であったのだ。
普通だったら迷宮入りの謎なのだろうが、とある言葉が脳裏によぎる。
『能力者』。彼が言っていた言葉が今回の事件の答えを出している気がしてならなかった。
能力者であれば、今回の不可能な事件も可能にできるが、実際にそんなことができるのだろうか。
自分が深く考え事をしている間に気がつけば、小倉警部補の車の前までついていた。
どうぞと助手席を案内され、失礼しますといいながら乗り込む。
家の場所を教えて向かう道中、小倉警部補は再び話しかけてくる。
「しかし、不思議だな~。爆弾もそうだけど、どうして彼は君たちが見ているのが爆弾だと気づいたんだろうね。確かにロボットがあるのは不自然だけど、君の話を聞くと柱の陰になってたんでしょ?」
「確かにそうですね。もしかして犯人らしき人物を見かけたとか…?ってそんなわけないですよね、少しですけど他の人もいましたし。」
冗談のつもりで言ったのだが警部補は真剣な顔をしながら答える。
「なるほど、その線はあるな。こりゃ明日早速彼に聞き込みだな。中々の名推理だね。」
「多分間違ってますよ…。そういえば、救急隊員の方が来るのが早かったですね。こうなるとわかって待機していたのですか?」
ふと思いついた質問を警部補にしてみる。友人が救急車を呼んでいたが、それから5分も待たずに警部補と共に来たのだからいくら何でも早すぎだろうと思ったのだ。
「それがね、今となっては幸運の話なんだけど。君のそばにいた林君が一昨日だか占いをしてもらったんだよ。その時に今回の事件が起きるから救急車を先に呼ぶと命も助かるかもってね。最初は全員でくだらない冗談だと笑っていたけど、爆破予告があってこれだからね。笑えないよ、ほんと。」
予言。そういえばネットニュースでも話題になっていた。助かった人は知らない人に声をかけられて助かったのだと。
(予言者に、爆弾魔。もしや同一人物?でも人を助けるくらいならここまでの爆破はしないだろう。ということは別人。能力者は3人以上いる?)
頭の中で能力者の存在が確実なものになりつつある。だがさすがに警部補にはこの話は出来ないと思いとどまった。
奇跡的にけが人が一人で収まった事件。これから起きる大きな事件のまだ実験的なものであったとも知らずに。
自宅についたのは夜中の八時になった。親が出迎えに来たときは、顔の血の気が引いたような表情で現れ、私が何かしでかしたのではと泣きそうであった。
すぐに小倉警部補が説明をしてくれたので何とかなったが、母は心配そうな顔のまま私を家に入れてくれた。
私が風呂に入っている間にどうやら小倉警部補と母が話していたらしく、ちょうど母が玄関で警部補の見送りをしていた。
「大変だったね、最初警察の方から連絡があった…とき、は…もう。」
私の目の前で泣き崩れる母。それを見て私も涙が自然と出てきた。
私は実感がなかったが、もしあの時、あの人がいなかったら自分はもっと悲惨なことになっていたのかもしれない。
しばらく泣き続けて、部屋に戻った時にスマホを見ると大量の着信と通知が入っていた。それはすべて友人の有紀からの連絡であった。
よくよく思い出すとはぐれてから一切連絡するのを忘れていた。有紀も母と同じ位心配していたのだろう。
メッセージでは無礼だと思い、電話をしてみる。
「もしもし!」
1コール。どえらい勢いで応答してくる有紀。
「ごめん、連絡遅くなって…」
「ほんとだよ!めっっっっっちゃ心配したんだから!」
「警察の人に色々聞かれてたからさ。ほんとごめんね。」
「それはわかってるけどさ。連絡くらいくれたっていいじゃんか~!」
よほど心配してくれていたのが伝わってくる。しかし一番心配しなければならないのは私ではなくもう一人の方だと思った。
「私は大丈夫だよ…。裏瀬さんがかばってくれたから。けど…。」
「…。そうだね…。」
先程の騒がしさから、急な沈黙の時間が流れる。
「ご、ごめんね。なんか心配させちゃって。裏瀬さんも入院はしているけど捻挫程度らしいから、ほんと良かったよ、重傷とかにならなくて。」
「裏瀬さんが頑丈な良い人でほんと良かった。もしいなかったらなんて想像したくないよ。」
「そうだね。私、明日裏瀬さんのところにお見舞いに行こうと思うんだけど、有紀も行く?」
「あったり前じゃん!命の恩人に挨拶も差し入れもしないとは不届き者よ~!」
少しずつではあるが、本調子を取り戻しつつある友人。私も少しではあるが元気をもらった気がする。
「じゃあ!明日は大学サボってお見舞いに行こ~!」
「いや、講義は、まあいいか。恩人のお見舞いだし、たまには休んだって罰はあたらないか。」
「真面目な華が悪友に染まりつつある気がした…!」
その後集合場所と時間を決め、いつものように少し無駄話をして電話は終わった。
疲れていたせいかその後すぐ寝たようで、記憶はほとんど残っていなかった。
翌日。
時間通りに集合した私と有紀。目的である病院は小倉警部補から聞いていたため、血眼になって探すことなく、すぐに着くことができた。
受付に行き、裏瀬さんの部屋番号を聞く。用紙を書いている時に後ろから声をかけられた。
「こんにちは、飯沼さん。お見舞いかい?」
気がつくと後ろに小倉警部補がいた。花束を思っていたので警部補もお見舞いのようだ。
「小倉さん、こんにちは。小倉さんもお見舞いですか?」
「そうだよ。お見舞いと事情聴取というか事件の詳細を聞きたくてね。隣の子はお友達?」
「そうです。同じ大学に通っている友人です。名前は…」
「宇井 有紀と申します!」
紹介と思った矢先に割り込んで自ら自己紹介を始める。おまけに敬礼のポーズもつけて。
「元気な子だね。私は小倉と申します。今回の事件の担当でね。」
「担当ということはやはり刑事さんなのですね!かっこいいな~。」
何を浮かれたことを言っているのだこの友人は。少しは緊張という言葉を覚えてほしいとため息をつく私であった。
彼のいる病室まで小倉警部補とともに歩く。歩いている最中も有紀は小倉警部補に興味津々であった。
「警部補なのですね!通りで見た時にできる男の人って感じがしました!」
「去年なったばかりなんだけどね。色々な事件を見てきたけど今回ような大きな事件の担当は初めてだから、結構テンパっているよ。」
言葉ではそういっているが、テンパっているようには見えなかった。やはり事件を任されるほどしっかりとしている人だと感じた。
「そういえば私たちはまだ病室に入らない方がいいのでしょうか?これから裏瀬さんに事件について聞き込みなんですよね?」
「いや、君たちも事件の関係者だから一緒に居てもらった方が助かるよ。裏瀬君もきっとその方が安心できるだろう。」
そんな話をしていると目的の病室に到着していた。4人部屋のようだが使用しているのは裏瀬さんのみらしい。事件のこともあってわざとそうしたのかはわからないが、他の人に聞かれにくいのでありがたいことである。
病室に入ると、右奥の方にベッドから上半身を起こし、テレビを見ている彼の姿があった。
入ってきた私たちと小倉警部補を見て、テレビを消しイヤホンを外して話しかけてくる。
「二人とも怪我が無いようで何よりだ。そっちにいる人は~…」
「私は小倉。警部補で今回の事件の担当をしている。裏瀬君には今回の爆破事件の重要人物になるから話を聞きたくてきたんだ。そしたらちょうど彼女たちも見舞いで来ていたので一緒にね。」
ひとまず部屋に入り、話を聞かれないようにドアを閉める。看護師さんには先程小倉警部補が事件の話をすると伝えていたので問題ないだろう。
「早速で悪いが、昨日の事件の話を聞いても?」
彼は無言で頷く。
「まず君がどうしてあの現場にいたのかから聞きたい。」
「爆破予告があったから本当かどうか確かめに。」
事実ではあるが、さすがに「爆破を止めに来ました!」なんて警察には言えないだろうと思っていた。
「なるほどね。あまり良いことではないが、そのおかげで今回二人無傷で済んだからよかったのかもね。二人とはどこで知り合ったの?」
「飯沼さんとは少し前から面識があったのだけど、宇井さんは事件の日に初めて。」
「そうです!私はあの日に初めて知り合いました!華の方は少し前に町で声かけて知り合った感じです!」
良いフォローなのか何とも言えないが、これもまた事実ではある。
「割と最近なのね、二人とも。まぁそこは事件とは別だから置いておこう。で、一番肝心なところなんだけど、どうしてあのおもちゃが爆発するって気づいたの?」
「二人と話終わってから、視線を感じて追ってみたらフード被った奴がいて、二人を見ているようだったからまずいと思ってとっさに。おもちゃかどうかは知らなかったけど、とりあえずロッカーにぶち込んだって感じ。」
「おもちゃだろうと関係なくロッカーに入れるつもりだったのか。爆弾かどうかはわからなくても怪しい男がいて、爆破予告もあればそういう行動になってもおかしくはないね。しかしすごい勇気だね。普通、伏せろ!とか逃げろ!とか自分の安全を確保したいと思うんだけどね。」
確かに裏瀬さんは自分の安全よりも私たちのことを心配して行動してくれていた。しかしもし裏瀬さん以外の人だったらなんて考えたくもない。
「俺にはこれしかないって思って行動したまでなので。」
「確かにね。変にピリついているのに余計なことを言ってしまうと混乱をまねきかねないからね。冷静な判断だね。君以外はけが人もいなかったし。ただこっちとしては君も怪我しない方向ですましたかったけど。」
「裏瀬さん怪我しちゃったけど、私たちはこうしてピンピンしているんですから、ほんと良かったですよ!裏瀬さんもドンドン自慢してください!」
少し悲しい空気を瞬時に明るい空気に変えていく有紀。思わず全員笑顔になったので、本当に助かっている。
「ごめんね、ちょっと暗い雰囲気なっちゃったね。そういえばフードを被った人を見たって、特徴とどこにいたかはわかる?」
「券売機の近くに。服は黄色だったので分かりやすかったのを覚えています。性別はわからないですが、身長はそこまで高くなかったです。」
「ありがとう。これだけでも収穫はあった。あとは監視カメラを観て確認だな。しかし未だに爆発物があのおもちゃっていうのがな~。」
小倉警部補は頭の後ろを書きながら、席を立ちあがった。
「私は一旦これで戻るとしよう。皆さんの邪魔になっちゃうし。また明日監視カメラの映像を持ってくると思うからよろしくね、裏瀬君。君たちも何か思い出したら連絡頂戴ね。」
そう言って小倉警部補は去ろうとしたタイミングで有紀も席を立つ。
「私、なんか飲み物とか買ってくるね~。」
小悪魔的な笑顔を浮かべながら小倉警部補と共に去っていった二人。
取り残される私と裏瀬さんなのであった。
「二人ともいっちゃいましたね…」
「そうだな…。」
二人がいなくなってから病室は少し寂しさを増す。ただ今までの色々あったことに対して自分の考えを話すチャンスでもあると思った。
「裏瀬さんは、今回の事件は『能力者』と関係していると思いますか?」
直接的な質問。だが有紀がいつ戻ってくるかわからないので躊躇している時間はないと思った。
「多分。俺と同じ『能力』を持った奴だ。ちなみに二人には俺のことは話しているの?」
「いいえ。有紀はすごい興味津々になって色々質問攻めになると思うし。小倉さんは多分信用してくれないんじゃないかな…。」
「そうだろうな。だから俺もあまり二人には話す気はないんだが。ただ君の友達は大分勘がいいようだな。」
「そうですか?能力のことは何も話してないですよ。」
「俺が駅にいた理由の時に助言していたから、能力ではないけど何かしら思うところはあるのだろう。話を戻すけど、俺が見て、感じたことはフードの奴は『能力者』だろう。」
「何か根拠はあるんですか?」
「俺がロッカーにぶち込んだあのおもちゃ。重さといい構造といい、ただのおもちゃだった。ロッカー入れた直前に真ん中握りつぶして半分にしたけど、感触も普通のプラスチック製な感じだった。そして何より、爆発するタイミングがおかしい。」
「タイミングですか?普通な気がしますが。」
「俺が走り出したタイミングで、フードの奴も対処されると気づいてポケットの中の何かを動作していた。発火装置があるのなら俺が手に取ったタイミングで爆発しなければおかしい。にもかかわらず俺がロッカーに入れて1、2秒位の間があった。」
「それの何が変なのですか?聞いている限り、ただ起爆装置が起動して経過した気もするのですが。」
「爆破予告を出し、人の出入りが激しい駅で、警察の目を欺けるような爆弾まで作れるのに?」
確かにそういわれるとおかしいとは思う。
爆弾が見つかり、裏瀬さんがいきなり走るのを見れば、起爆するだろう。
もし時間式であったとしても、ポケットの中で焦って動作している点に矛盾が生じる。
そう考えると起爆するタイミングは確かにおかしいことではある。
「でも、それが『能力者』だと思う理由には結びつかないんじゃ…?」
「もしテロリストやサイコキラーのような奴であれば、俺が手に取ったタイミングを見ての爆破をしている。しかし俺がもっている時ではなく、ロッカーに入れた瞬間。まるで遊んでいるというより、確認?をしている感じがした。」
「じゃあ、犯人は最近能力に目覚めて本当かどうか確認したかったってことですか?」
「ちょうどその前の日に爆発事故もあったし、それも関係していると俺は考えている。」
確かに話の流れ的にはありそうではあるが、『能力者』のことを考えてしまうと色々な可能性が出てきてしまう。頭が痛くなる一方である。
頭を抱え、深いため息をするが、一つ疑問になったことがある。
「そういえば、裏瀬さんは自分以外の能力者にあったことあるのですか?」
今まで能力者はいると仮定してきたが、そもそも裏瀬さん以外の能力者は存在するのかという疑問がある。もしかして一人しかいないこともあるのだから。
「少し前に…」
裏瀬さんが何か話そうとしたタイミングで、元気よくドアが開く。
「おお!仲睦まじくお話しているね!お二人さん!」
買い物に行った友人が元気よく戻ってきたのであった。本当に絶妙なタイミングである。
「おかえり有紀、遅かったじゃない?」
「二人きりで話したいことがあると思って空気を読んだじゃないか。感謝してほしいよ!」
なら、もうちょっと時間をくれと思うが、変に思われるのも何なので何も言わないでおこう。
「ところで、二人は何の話をしてたの?」
聞いてくるだろうとは思っていたが、話に夢中で誤魔化す準備を忘れていた。どうするか考えている中、裏瀬さんが話を切り出す。
「この病院について話してた。なかなか綺麗だし、景色も見れて良かったって。」
「なんだ~、恋バナ的な展開はないのか~。残念。」
「何を期待してるのよ、あなたは…。」
有紀が戻ってきてから事件の話はなく、楽しい会話が続いた。裏瀬さんも笑っていたし本当に楽しい時間だった。
「そうだ!今度三人で買い物に行こ!」
「そんな、またいきなり。私だけならまだしも、裏瀬さんは忙しいんだから。」
「俺は別に構わないけど。買い物はめったにいかないから、いい気分転換になるし。」
まさかの承諾に少し驚くが、そんな間に話はどんどん進んでいく。
「よ~し!決まり!じゃあどこかにショッピングにレッツゴ~!」
「どこかにって、今すぐはいけないでしょうが…。」
失笑しつつも、有紀の勢いには正直助かっていると感じた。
今回の事件、少しでも早く忘れたいと思うが、能力者については未だに気になっていたのであった。
時刻は16時。窓からは傾いた日が夕暮れに近づこうとしていた。
有紀が戻ってきてから大分話が盛り上がり、長話をしてしまったがもう帰らなければならない時間である。
「もう16時か。有紀そろそろ帰ろ。」
「そうだね~。バカ話も次にとっておかねば!」
会話をしつつ席を立ち、身支度を整える。
「すみません、裏瀬さん。お休みのところお邪魔してしまって。」
「いや、俺も健康なのに入院してるから、楽しかったよ。」
「じゃあ、裏瀬さん!今度の日曜日はちゃんと予定開けておいてくださいね!」
大丈夫だよと応える裏瀬さんを後に、退出していく。
病室を出て帰ろうとエントランスへ向かう。
途中リハビリ中のおじいさんや、花を持ちこれから面会に来た人、小さな子供と色々な人が通り過ぎていく。
歩きながら裏瀬さんが言いかけた言葉を思い出す。
『少し前に』
つまり、会ったことがないではなく、能力者にあったことがある。または少なからずとも疑いのある人物に遭遇したということになる。
(裏瀬さんに今回の事件の犯人。裏瀬さんが前にあったことがある人を含めればすでに3人以上いることになる。もしネットで話題になっていた予言した人もそうだとすると…)
「もしも~し。華さ~ん。聞いてますか~。」
友人の声で我に帰る。考え事をしていたせいで会話を聞いていなかったようだ。
「ごめん。聞いてなかったよ…。」
「大丈夫?まだ疲れてる?どこかご飯でも食べよって思ったけど。」
「大丈夫だよ。犯人どんな人なのかな~って考えちゃって。喫茶店でも入ろう!」
適当なことを言ってしまったが、いつまでも隠しきれるものではないだろう。
病院を出て近くの喫茶店に行く。
時間帯のためか人はいるがまばらであった。角の席をとり一息つき、考える。ここで有紀に能力者について話すかどうかを。
「ねぇ、有紀はさ。もし能力者、がいたら信じられる…?」
「華らしくない壮大な質問だね…。そうねぇ、見たことないし自分だけじゃあなんともな~。どうしたの?いきなり。」
「いや、…。警察の人が珍しい爆弾だって言ってたし。ネットでも予言した人もいるし。もしかしたらそんな人達がいるのかなぁって思っちゃって。」
「考え過ぎよ。予言なんて適当に言ったことが偶然当たった人だろうし。爆弾は…わかんないけど!」
「じゃあ、有紀は信じない?」
「華が信じるなら私も信じるよ!」
思わぬ回答に目を丸くしてしまった。
「私は華が真面目で嘘が下手なのを知っているし、信じられるから。華がUFOでも宇宙人でもいるっと信じるなら、私も一緒に信じないとさ!それが友である!っよし!めっさ良いこと言った、今日一の名言ね。」
「ほんと、良いこと言ったよ…。」
そう小さくつぶやく。本当にかけがえのない友人を持ってしまったという喜びと後悔を感じる。
「ん?なんか言った?」
「何でもない!よし今日は私がおごって上げよう。」
子供のように両手を上げ喜ぶ友人。
ここで裏瀬さんのことを話してしまうと、向こうに悪い。だからもう少しだけこの秘密は自分の中でとどめて置くことにしようと思った。
とりあえず、嫌なことは忘れ楽しい時間を過ごそうと切り替える。
ただ、いつかは話そうと決めた。そのいつかはわからないが遠いかもしれない近いかもしれない。もしくは、すでに気づいているのかもしれない。
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