第1話 出会い

  まるで当たり前のように男はサラリーマンを担ぎながら線路から駅のホームに上がってきた。目の前を走り抜けた一瞬だったため、見た目がわからなかったが、細身のアスリートのような体格、背丈は170cmほどあるだろうか。髪は黒く少し短め、顔はそこそこ整っていた。年齢は私より少し上だろう。

 見た目呆然と見る私と未だ唖然としていると周り。そんな時男に担がれていたサラリーマンが気絶から目が覚めたのか、今になって状況を理解したのか男の肩の上で騒ぎ始めた。

 「はなせ!おろせ!何で俺はまだ生きているんだ…」

 「なんで生きているって、当たり前だろ?」

 さも当然です!とした表情のまま、男は担いでいたサラリーマンを降ろした。

 すると騒ぎを聞きつけたのか駅員と駅長らしき人物が人ごみをかき分けて奥から現れた。

 「すみません、お客様通していただいてもよろしいですか。すみません。」

 やっとの思いで現場に到着した駅員と駅長。駅員は若々しくまだ入社して1年も経っていないであろう。逆に駅長はもう役職間近な少し威厳がある雰囲気のある人であった。

 状況をあまり飲み込めていなそうな駅長が眉間にしわを寄せながらことの原因である二人に聞く。

 「この状況についてご説明いただいてもよろしいですか。」

 少しお怒り気味の駅長に対し、件(くだん)の男は平然と答えた。

 「この人が死にかけていたから助けた。ただそれだけですが。」

 男はサラリーマンを見て、駅長の方に視線を向き直した。そして再び男に駅長が質問をする。

 「君の名前は?」

 「 裏瀬 正 。仕事を辞めて、今は人助けを生業としてる。」

 「人助けね…だから今回はそこの人を助けたと」

 まっすぐ駅長の目を見る男に対し、駅長はサラリーマンの方を見ていた。そして駅長はさげすむように、裏瀬に目を向け、称賛ではなく残酷な言葉を送った。

 「君は人助けをしたつもりかもしれないが、大きな間違えだ。一人の命を救おうとして君は100名以上の人を危険にさらしたのだよ。」

 聞いてる私は最初何を言っているのか理解できなかったが、電車に乗っている乗客のことを言っているのだと遅れて気づいた。

 「なら見殺せというのか」

 男は駅長の目を真っ直ぐ見ながら聞く。それに対し駅長も同様に真っ直ぐ見ながら応える。

 「結果的にはそうなってしまうかもな。だが、そこの彼は死にたくてそうしようとした。それに対し君の身勝手な行動で死にたくない人を死の危機にさらしている。現に今車内で軽くむち打ちにあって怪我した人がいる。それでも君は人助けをしているといえるのかね?」

 あまりにも残酷な言葉であったが、否定できない言葉でもあった。そんな中、更なる追い打ちをかけるように心のない言葉が飛び交った。

 「おい、会議があるから早く電車を動かしてくれ。大事な打ち合わせなんだぞ!」

 「そうだ!いつまで待たせるんだこっちも納期ギリギリの仕事があるんだ早くしてくれ!」

 「はい…すみません…今電車が遅れているようで…復旧がいつするのか…」

 次から次へと、さっきまで何もしなかった連中が唐突に水を得た魚のように騒ぎ始める。まだ電車が止まって10分しかたっていないのに偉い騒ぎようである。それを先ほどとは態度を変えた駅長がなだめ始めた。

 「大変申し訳ございません、お客様。幸いにも車内にいるけが人はお一人様だけなのですぐに復旧いたします。もうしばらくお待ちください。」

 駅長は再び男の方を見て話し始めた。

 「そういう訳だ。詳しい状況については事務室のほうで話を聞こう。幸いと電車は問題なし、そこまで長時間ダイヤの乱れもないから賠償金は間逃れるだろう。」

 「そうですか。なら良かったです。」

 男は落ち着いた表情のまま駅長に付いて行った。更にその後ろに駅員に支えられながら飛び込んだサラリーマンもくっついて行く。未だ「なんで生きているんだ…」とつぶやき続けるサラリーマン。

 男は嫌気がさしたのか、励ましたかったのか、サラリーマンに向かって言い放った。

 「なんで生きているって、そりゃ守るためだろ。家庭でもプライドでも地位でも守るために生きるんだ。守るものがないなら探せ。自殺を決意できるなら、簡単に見つけられるだろうさ。」

 先程とは違いすごく真剣な表情で男はサラリーマンを見た。聞いたサラリーマンもつぶやくのをやめ、ふらつきながらも自分の足で事務室に向かって行った。

 私はただその二人の背中を心配そうに見届けていたが、騒ぎ始めた中年男性がボソッとつぶやいた。

 「なにが守るためだよ、くだらん。全くいい迷惑だ。」

 この時私は、何か言い返してやろうと思ったが辞めた。駅長といい、ここにいる人達といい、何か間違っていると感じていたが何が間違っているか明確に理解していなかった。いや、理解しようとしていなかったのかもしれない。

 後に電車の整備士が先頭車両にくっきりと手形のような凹みがあることに気づくが、この時は誰も気づかなかった。


 結局大学には30分遅れで到着、何とか講義には間に合った。すでに講義は始まっていたが、出席を読み取るカードリーダーが読み取れたので駅でもらった遅延届は出さずに済みそうだ。

 後ろの方にいる友人、宇井 有紀(うい ゆき 通称:有紀)の席へ静かに向かって行く。

 「おつかれ~。珍しいね、遅刻なんて。さては、彼氏とイチャついてたか~?」

 「おつかれさん。残念、紹介してあげたいけど、まだ見せられないな~」

 「あと何年先になるのやらね。で?本当は何なの?」

 「まさかの、まさかよ。私の真横でサラリーマンが飛び込むなんてね。」

 え!!っと有紀の声が講義に響く。若い男性講師は一度こちらを何事かと思ったようだが、すぐに謝罪し講義は続いた。

 想定外の返答に驚き、思わぬ声を出してしまった有紀は「ふぅ~」と冷や汗をふき、話を戻す。

 「自殺現場に出くわしちゃったの!?もしかして見ちゃったの!?」

 「飛び込むのは見たんだけど、横から変な男が現れてさ。なんだかんだで助かったのよ。」

 今朝起きた話の経緯を簡単に説明する。

 「なんだ、死人を見なくて済んだわけか。良かったじゃない、そしてその男に惚れてしまったと…」

 はぇ!っと今度は私の声が講義に響いた。講師は少し眉を寄せていた。すみません…と小声で謝罪。そして有紀にすぐさま小声で訂正をする。

 「違う!っていうかどうしてそうなるの!?」

 「だって華、途中からその男の人のことばっかり話すんだもん。そりゃ~ね~…。(笑)」

 「そりゃ話の中心人物だからでしょ!」

 そうなんだ~とあまり信じていない顔をする友人。これ以上話していると色々とマズイ気がしたので一旦講義に集中することにした。

 講義中ちょくちょく隣の友人がにやにやしながら見てくるも、無視を続け講師が講義の終わりを告げた。

 「今日の講義はここまでにします。長期休み明けで気が抜けている方もいるようなので史来週はしっかりしてくださいね。来年は就活ですよ。」

 名指しせずとも私たちのことを言っているのだろう。そんなことお構いなしに私の友人は、…居眠りをしていた。

 (この子は大物になるな…)

 将来の彼女に期待をします!と思い、彼女を叩き起こし次の講義へと向かうのであった。

 2限目の講義も終わり、昼食の時間となった。話題はやはり今朝のことであった。

 「でさ、その紳士は連れてかれちゃったわけなんでしょ?助けたのにおかしくない!?」

 「そうなんだよね…。まあ特に電車も問題なかったから賠償金は見逃してもらうらしいから何とも言えないけどね。」

 昼食を食べ終え、3限目以降はとっていないため誰かの邪魔になることもなく話すことができる時間である。

 「その後どうなんたんだろう…。」

 思っていたこと小さくぽつりとつぶやく。そのままお説教受けて返されたのか。それとも警察に引き渡されたのか。SNSをちょくちょく確認しているが、大きな事件でもないため誰からの情報もないのであった。

 「やっぱり気になっているんだ!紳士の彼を!」

 目を見開き、輝かせる有紀。今まで見たことないくらい輝いた目。

 「だから何でそうなる!そしてなんでそんなに嬉しそうなの!?」

 「だって華から男の話なんて聞いたことないんだもん!自分じゃないとはいえ、目の前に突如現れた紳士に目を引かれるのは当然でしょ!」

 そんな馬鹿な!男の話くらい…、確かにないなと認めてしまう自分がいた。そして先程から気になっているもう一つのワードについて聞く。

 「紳士って?ヒーローとかの間違いじゃなくて?」

 「だってその人『自分は人助けやってます』って言ったんでしょ?ヒーローだったらヒーローです!って名乗ればいいのに。でもカッコイイじゃん!だから私は紳士と呼ぶことにする!」

 相手のことを思っているのか、それとも何も考えていないのやら。途方に暮れていると彼女は何やら思いついたのかニヤニヤしながら提案してくる。

 「もし紳士のことが気になるのならあの人にお願いすればいいじゃん!」

 「あの人?詳しそうな人いたっけ?」

 「いるじゃん、「ネットの女王」が!」

 自分と同じ学年、正確に言うならば留年を繰り返し同じ学年に存在する不思議な人。名前もあまり覚えていないのだが、あだ名があり「ネットの女王」と呼ばれている。なんでもネットで学費を稼いでいるらしく、怪しいところつながりがあるとかないとか。ほとんどの人が姿を見ておらず、留年しても進学をしているためどうやっているか誰もわからない不思議な人である。

 「確か、て…なんとかさんだよね…。あったこともないし、代償がデカそうだから嫌だ。」

 「そうね、まぁ運命であればきっとまた紳士に会えるよ。」

 (別に会いたいわけではないのだが。)

 そう思いつつも、少しばかり興味があるのは事実である。すると彼女が疑問を投げかけてくる。

 「そういえば紳士の人って、どこから走ってきたんだろうね?」

 「え?駅のホームからでしょ?」

 「だとしたらすごくない?だって近くにいなかったんでしょ?遠くから人が落ちてったのを見て走ってきたわけでしょ?相当足に自信があったんだね。」

 確かに彼女の言う通りだ。あの男はサラリーマンが落ちてから数秒足らずで自分の前を横切って行った。気づくスピードもだが停止ボタンを押してからと考えると人間離れしすぎだろう。そして何より…

 「電車の前に立って巻き込まれないように電車を抑えてた…?」

 この独り言はどうやら有紀には聞こえなかったようだが、何か思っていたよりもすごいことが目の前で起きていたのではないかと気づき始めた。

 昼食後の長話を終え、有紀はバイトだと肩を落としその場で解散することにした。時刻は午後2時を過ぎたところだ。バイトの予定もないし、今朝のことも少し忘れたいと思い一人街に出歩こうと考えた。

 有紀となら渋谷やら新宿なのだが、今日は一人なので大学近くを出歩くことにした。2時とはいえ人はまばらにいるように思えた。

この辺は服などのアパレル系よりも本やスポーツ店が多い場所である。飲食店も少なくなく、近くの高校生たちは部活帰りに飲食をしていたりするのを見かける。おいしいと評判の店もあると聞いたことがあるので、今度有紀と来てみよう。

その後、大きめの本屋に行き雑誌を立ち読み。何か面白いものはないかとぐるぐる回ったが目新しいものはなく。時刻を見ると2時半とあまり時間は経っていなかった。

本屋を出て、もう帰るかと駅の方に向かって歩こうとした時、横断歩道からものすごい勢いで人が転がってきた。転がってきた驚きよりも目の前で何かを抱きかかえ、かがんでいる男の姿への嫌な予感のほうが勝った。

「まさか…」

また思わず漏れてしまった独り言。そして脳裏によぎる今朝の出来事。デジャブといってもいいのではないだろうか。今の自分を他の人から見ると、よほど嫌な顔を浮かべて見えているに違いないと思うくらい顔が引きつっているのがわかる。

 男は立ち上がり抱きかかえていたものを降ろす。3歳くらいの男の子が現れた。抱えていた人が違えど、またも見た光景である。

 すると横断歩道の向こうから母親らしき人が駆け寄ってきた。

 「ハルト大丈夫?いきなり何をするんですかあなたは!警察呼びますよ!」

 そう怒鳴り散らし、男の子の手を引き横断歩道を戻って行ったのであった。

 そして今度はどこから現れたのか強面のおじさんが現れ、同じく彼に怒鳴り散らす。

 「てめぇ唐突に出てくるんじゃねぇ!もう少しで轢くところだったじゃねえか!」

 そう吐き捨て強面のおじさんは停車していた大型トラックに乗り込んでいった。

 嵐のような時間が去っていった。場の状況が今一理解できてなく取り残されている私と怒鳴り散らされた彼だけ静かに立っている。そして彼は何も言わずそのままどこかに向かおうと歩を進めかけた。

 「あの!すみません…」

 何故声をかけてしまったのかわからない。慰めようとかそういうつもりではなく、ただ彼に興味を持ってしまった。

 彼は振り返り、俺のこと?という不思議な顔をしながら自分自身を指さす。

 「そう!…。ちょっとお話したいのでお茶でもいかがかな~って?…」

 人生初のナンパ。それも逆ナンである。こんな場面を我が友人にでも見られた時は多分爆発、いや絶対爆発するだろうと思う。

 彼に声をかけてから10分経過した。変わったのは場所だけで、会話はほぼ一切なし。目の前にテーブルに置かれている紅茶のカップが二つ並んでいる。ただただ沈黙の時が流れ続けるのであった。

 私が声をかけたのだから私から話さねば!とは考えるも何からはなせばいいのやら。恥ずかしい話男性経験が絶望的になく、非常に緊張している。

 あまりにも話しかけなかったせいか、彼の方から話し始めたのであった。

 「俺の名前は裏瀬 正。表裏の裏に瀬戸際の瀬、正しいは正の字。」

 「あ…、えーと。私は飯沼 華。飯に沼って書いて、下は華やかなって字。です。」

 そっか。っと裏瀬は素っ気ない返答をする。身のないような会話だったが少し緊張感が薄まった気がした。

 「さっき結構怒鳴られてましたけど、何かあったんですか…?というかすごい勢いでしたけど大丈夫でしたか?」

 「さっきは親が話に夢中で子どもから目を離し、子供は横断歩道を歩き始めて危うくトラックに轢かれそうになってたから飛び込んで助けた、っていう流れ。」

 「なるほど…。実は私今朝裏瀬さんがサラリーマンを助けた現場にいたんです。あの時もでしたが助けたことを主張しないんですか?」

 「そういえば今朝はそんなこともあったな…。人を助けたことを主張することに意味はないだろう。今朝の状況を見ればわかるように、主張したところで逆に怒りを買うだけ。」

 裏瀬という人は、どことなく落ち着いているというか、諦めているというか、何ともつかめない人だと少しわかった。

 「確かにあの時は主張したところで、って感じでしたね…。あの後はすぐに解放されたんです?」

 「いや…。サラリーマンの人は何もしゃべらなくなっちゃうし。駅長はずっと『人助けが、人助けが~』だし。黙っていると聞いてるのかと怒鳴られるし。苦痛の2時間だった。」

 それは気の毒にと思い、冷め始めた紅茶を一口すする。ふと昼食の時に友人と話したことを思い出す。

 「今朝もさっきもそうなんですけど、すごい運動神経ですね。何かスポーツをされていたんですか?」

 「いや、何も。高校の時は陸上部で棒高跳びやってたけど、今は何もしてない。」

 「でもすごい足速かったですよ。下手したら電車よりも…(笑)。」

 「確かに今は電車より早いかもな。」

 いつも友人と話すように冗談のつもりで言ったはずなのだが、まさかの返答に困惑してしまった。

 「え~っと…。本当にそうなんですか…?」

 最後の方は小声になりすぎて聞こえているのか怪しい。だって電車よりも早く走れるなっていきなり言われても、オリンピック選手じゃあるまい。というよりオリンピック選手以上である。しかし嘘をでも冗談でもないですといわんばかりに真っ直ぐな目でこちらを見ていた。

 またも沈黙の時が流れる。さすがにこれは本人から何か語ってもらわないと話が進まない。それか話の流れを変えるか。変えるとしたら何の話に?頭の中であーでもない、こーでもないと考えているうちに、彼が話し始めた。

 「少しばかり、いや半年ほど前になるのか。その時から俺の身体に変化があった。」

 「変化ですか?一体どんな?」

 「テレビで見るようなヒーローみたいな、力が何十倍にもなったというか。表現しにくいけどそんな感じ。」

 本日何度目だろうか、こんなに頭が理解してくれないのは。私が理解に苦しんでいる顔を見て彼は近くにあったスプーンを手に取った。

 念力か手品でもするのかと思ったが、スプーンを握りしめ親指で軽々しく曲げたのであった。

 「これだけだと信頼はされないだろうけどな。まぁ信じるかどうかは任せる。」

 彼はそういいながら曲げたスプーンを元に戻し何事もなかったかのように置くのであった。

 「じゃあ、その能力?に目覚めてから人助けを始めたのですか?」

 「いや、う~ん、何とも言えないな。ただ今の俺がいるのは二人の影響というか願いというか。それを守り続けようと思うから俺はこうして人助けを続けている。」

 ここまで私はずっと彼のことを感情が薄い人なのかと思っていたが、語っていた彼はどこか嬉しそうで、悲しそうでもあった。

 「じゃあ、俺はもう行くよ。紅茶代、ここにおいていくよ。」

 彼はそういって店を出ていった。またどこかに人助けに行くのだろうか。

 店に一人取り残された私。一つ謎が解決したようなしていないような課題が増えたような気がした。

 

 その後、店を出た私は真っ直ぐ家に帰ることにした。正直気がついたら家に戻っていた。帰宅途中ずっと彼のことが頭の中から離れなかったのである。

 風呂から上がると母がテレビでニュース番組を見ていた。どこかの事故現場の映像が映っている。

 「こちら爆発事故の現場です。現在工場内が燃え、消火作業をしております。」

 現場リポーターの後ろには、消防車が3台ほど見えその先には夜にも関わらず明るくなっているのがわかった。

 「近隣の情報によりますと、18時半ごろ大きな音が聞こえすぐに煙が立ち始めたとのことです。また何かわかり次第お伝えします。」

 私がテレビを見ていたことに気づいたらしく、母は話しかけてきた。

「爆発事故だって。工場は町工場らしいから怪しいもので作っていたのかね。」

 「そうだとわかりやすけどね、とにかく近所じゃなくてよかったね。あ!お風呂、ガス消しといたからね。」

 サンキューと軽い母の返事を聞き、部屋に戻る。

彼ならばあの現場に向かったのだろうか。そうだとすれば大変なことであろう。今日みたいに人を助けるのも、助けたいという思いが強くなくては動けない。だって自分も死ぬかもしれないのだから。

布団に入り寝ようとするが、意識がなくなる寸前までずっと彼のことが頭から離れなかった。


町工場の火災現場。

消化が終わり、現場に足を踏み入れる消防官たち。まずは人が残っていないか確認をする。この工場の責任者に聞いた限り、緊急搬送された1名以外人は残っていないと聞いている。

工場内はほぼほぼ焼け焦げてしまっていた。どうもプラスチック材料を扱っている工場だったらしい。

とりあえず炭化した工場内を回るが人らしき影は無いことが確認できた。

すると一人の消防官が何かを発見したようだ。駆け寄ってみると同じ背丈ほどのものがあった。

「ここが偉く焦げていて、出火原因だと思われるのですが。」

発見した消防官が懐中電灯でその場所を示す。どうやら工場の機械のようだ。やはり予測通りだったようだ。

工場の責任者に聞いた話だと、最後に残っていた担当者は機械の修理をしていたらしく、古い機械のため潤滑油が燃えたのではないかと話していたそうだ。

出荷原因も判明したため、別の場所も調べようとした時足元に何か落ちていた。拾い上げる消防官。

「小さいプロペラ…?」

ほぼほぼ炭になっていたため、判断がつかない。ただ今回の出火には関係ないだろうとほっておいて行ってしまった。

それが今回の爆発を起こしたものの一部と知らずに。

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