現代社会のヒーロー
@ueyama00
プロローグ
私、飯沼 華は都内の大学に通っている普通の女子大生である。
今日もいつも変わらず大学に向かうため電車を待っている。いつもと変わらぬ時間。いつもと変わらぬ都会の街並み。いつもと変わらぬ人々。何度も同じことを繰り返していると安心感はあるが、気怠さもある。別に何か刺激がほしいとかではないが、退屈はしたくはない。
いつもと同じつまらないことを考えながらスマートフォンをいじっていた時、ふと隣に立っているサラリーマンが目に入った。
やつれきった顔、傾いたネクタイ、整っていない髪の毛、剃ってない青髭。見るからにこれから会社に行こうと思う身だしなみではないことが一目でわかる。
(あまり、近寄らないようにしよー・・・)
そう思い視線をスマートフォンの画面に戻そうとした時、駅のアナウンスが流れた。
「まもなく1番線に電車が通過いたします。危険ですので白線の内側にお下がりください。」
最悪なことに、この最寄り駅は特急が止まらず通過していくのである。自転車で隣の駅までと考えたこともあるが、朝から体力を使うのも何ともと思い、結果的にこの駅で特急が過ぎるのを待つしかないのである。
そんなどうでもいいことを思っていたら、右隣が動く気配を感じ再び視線を移す。すると疲れ切ったサラリーマンが前に歩み始めていたのである。
(おーい、あぶないぞー、)と心の中でつぶやくが、
次の瞬間、疲れ切ったサラリーマンは回送電車がくる1番線ホームから迷うことなく落ちていった。
(嘘でしょ・・!)
最初は何が起きているのか全く理解を使用としていない自分がいた。すぐに頭の中を切り替え助けようと考えたが、あまりの出来事で何をすればいいか慌ただしい自分がいた。周りの人に助けを、と思ったが周りの大人もあまりのことすぎてポカンとした表情で呆然と立ち尽くしていた。
何事も起きていないかのようにアナウンスは「白線の内側に」と繰り返していた。
遠くから電車の音が近づいてくるのが嫌でもわかる。電車が来るまでもう5秒とない。
(もうだめだ・・!)
そう思ってとっさに目をつぶってしまおうと思った瞬間、「ブーーーーーー」という非常停止音とともに一人の男が落ちていったサラリーマンに向かって勢いよく飛び込んでいった。
緊急停止の音で感知したのか、人がいるのがわかったのか、電車は必死に止まろうと耳障りな金属音を鳴らしブレーキをかけて向かってくるが、ほぼ速度は変わらない。
もうだめだと思い、今度こそ目をつぶってしまった。
目をつぶったタイミングとほぼ同時に、自分の前を抑えきれない速度の電車が入り込んできた。自分の髪が電車の風圧で乱れるのが伝わってきた。
目をつぶってからどれくらい経ったろうか。二人はどうなったのだろうか。そう思い少しずつ瞼を開けていくと、電車は止まっていた。
緊急停止のブザーも止まり、周りも騒ぎ出しはじめた。駅員が二人の落ちた辺りを確認していた。しかし駅員の探している様子をみると人影が見当たらないようであった。
どこに消えてしまったのか、と思った時に先頭車両がざわつき始めたのだった。
慌てて自分も様子を見に行く。あまりグロテスクなものは見たくはないが、一部始終を見てしまった責任として最後の結末くらいはと思っていた。
しかし想像していた展開と全く異なる形が自分の視界に映り込んだ。
落ちていったサラリーマンを左肩で担ぎ、右手で電車を抑えている男の姿がそこにはあったのだ。
周りの人も私と同じように何とも言えぬ顔でその男を見つめていた。
そして注目も的の青年が大きな一息をついたあと一言。
「あぶなかったー。死ぬかと思った。いやでも人も電車も無事だし良かった、良かった。」
まるで「一仕事しました。」という感じで男は満足げであった。
唖然とする私と周り、満足げな男、しばしの沈黙が訪れる。
そう、これが私と「能力者」の彼の出会いであった。
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