戦闘


 何度も何度も見てきた神秘的な洞窟。初めて見た時の感動は既になく、ルーダは視線の先にある湖を見つめる。


(今回は“当たり”を引いたな)


 魚人の化け物は、その日によっている場所が違う。水から体を出している日もあれば、水の中に沈んでいる日もある。


 ルーダが“当たり”と言ったのは、水中に沈んでいるパターンだ。


 あの化け物は水中にいる際、雷の属性を持った魔法攻撃が有効打となる。この洞窟に飛ばされると、化け物は必ずこちらに気づいて顔を出すのだが、それまでの間に一撃攻撃が叩き込めるのはかなりのダメージソースとなるはずだ。


 ゴブリンの村を壊滅させた際の魔力や体力は、この場所に来る際に全快している。初めこそ戸惑った仕様だが、ありったけの攻撃を叩き込める今となっては有難い限りであった。


「【サンダーボルトLv3】【サンダーランスLv3】【ギガサンダーLv2】【雷神の雷Lv1】【雷鳴怒号Lv1】」


 ルーダは、まだ姿が見えない化け物に向かって魔法攻撃系スキルを叩き込む。


 水の中であれば、攻撃は届くのだ。


 更に攻撃を重ねたいところだが、あまりやりすぎると、地上に化け物が顔を出してしまう。どうも、あの化け物はルーダがこの場所に来たことを察知することは出来ても、どこにいるかまでは把握出来ないようだった。


 その為、場所を悟らせないためにも岩陰などに隠れる必要がある。


 そして、魔法攻撃系スキルは、視界内に収めている場所までしか効果を及ぼせないのだ。


 その効果範囲を広げるために【鷹の目Lv1】と呼ばれる視界を広げる常時発動系スキルも取っているが、アレはLvがかなり上がらないと障害物の向こうまでは見渡せない。


 5発の攻撃を叩き込んだところで、ルーダは急いで物陰に隠れる。


「クソガキがァ!!出てくる前に攻撃してくるか?普通!!」


 水飛沫を撒き散らしながら、魚人化け物は姿を現した。


 何度も挑んで弱点や行動パターンを見ていた時とは違い、今回は本気で殺しに来ているルーダに流石の化け物も危機感を覚える。


 殺気を感じつつも、ルーダは物陰に隠れて自分に異常状態バフをかけた。


「【物理強化Lv1】【斬撃強化Lv2】【刺突強化Lv2】【迅速Lv1】【肉体強化Lv3】【衝撃軽減Lv2】【斬撃軽減Lv2】【魔法強化Lv1】【火属性魔法強化Lv3】【雷属性魔法強化Lv3】【魔法軽減Lv1】【水属性魔法軽減Lv3】【器用な指Lv1】【幸運の招き猫Lv1】【神の祝福ゴットブレスLv1】」


 ごっそりと魔力が減っていくのが分かるが、これもあの怪物を倒す為だ。


 異常状態系スキルは、相手に異常状態デバフを掛けられるだけでなく、自己を強化する異常状態バフとしても使える。


 使い方によっては、異常状態バフ異常状態デバフとして使うことも可能だった。最も、そんな機会は無かったが。


 補助も兼ねている異常状態系スキルは、他のスキルと比べてかなり数が多くしっかりと相手を選んでスキルを使わないとあっと言う間に魔力が尽きる。


 まだ攻撃に魔法攻撃系スキルを使いたかったルーダは、必要最低限のスキルだけを選択した。


 幸い、まだ化け物はルーダを見失っている。まだ2.3発は魔法攻撃を叩き込めるだろう。


「【デコイLv1】【偽装証言Lv4】」


 化け物がこちらを探していることいいことに、その場にもう1人の自分を出現させて声を録音させる。


 次の一手として、相手の気を逸らすのに一役買ってくれるはずだ。


 ルーダは、身を屈めたまま素早く移動し、もう一人の自分とは離れた位置に場所を取る。


 そして、スキルを作動させた。


「ファイヤーボール」


 先程自分がいた位置から、自分の声が洞窟内に響く。


 化け物はすぐさま反応して、最初に自分を殺した攻撃である水の斬撃を放ってきた。


 水の斬撃は、岩を切り裂いて分身の腕を切り飛ばす。


 それと同時にルーダは動き出した。


「【ファイヤーボールLv4】【ファイヤーストームLv3】【フレイムLv3】」


 意識が逸れている化け物に襲いかかる炎は、正しく業火。


 生きたまま焼かれる気分を味わえと言わんばかりに放たれたスキルは、化け物の体を燃やしていく。


「ぐあぁぁぁぁぁ!!」


 あまりの暑さにもがき苦しむ化け物は、すぐ様火を消す為に水の中に入った。


 そして、その隙をルーダは見逃さない。


「【サンダーボルトLv3】【サンダーランスLv3】【雷神の雷Lv1】」


 水の中に全身が入れば、また感電を狙える。ルーダは容赦なくスキルを乱射した。


 既に魔力は底が見えており、スキルを撃てても精々1.2発が限界だ。しかし、これでかなりのダメージを与えることが出来ただろう。


 ルーダは、Lv2で無詠唱化を獲得できた【次元箱Lv3】から弓と矢を取り出す。


 このスキルは魔法攻撃系スキルでありながら、相手にダメージを与えることが出来ない珍しいスキルだ。更に、魔力消費も無い。


 効果は、自分の横に次元を超えた箱を出現させることが出来る。そこに物を入れれば、持ち歩くことが出来る為このスキルを手に入れてからはお金はここに貯金されていた。


 なお、生き物は入らない上に、新たに獲得したものをこの次元の箱に入れても指定してなければ持ち越せない事が分かっている。


 今は不便性を感じないが、いつか不便だなと思う日が来るだろう。


「そこかぁ!!」


 感電のダメージを貰った化け物は、体が鎮火すると直ぐに顔を出すと口を開いて水のレーザーを放った。


 狙いは正確であり、確実にルーダの脳天を狙っていたが、ステータスが上がり異常状態バフまでかけているルーダはこの攻撃を難なく避ける。


 そして、付け焼き刃の弓で攻撃した。


「効かぬわぁ!!」


 化け物は矢を片手で振り払うが、ルーダの狙いは正しくそれ。


 避けられる事も想定していたが、今回はとことんついていた。


「【縮地Lv1】」


 一瞬で距離を詰めるスキルを使用。これは体力を消費するので、魔力とは別判定である。


「【運命の一撃Lv3】【全力の一刀Lv1】」


 懐に入り込んだルーダは、己の持てる全力の一撃を繰り出した。


【運命の一撃】は自身の運命と器用のステータスを参照に確率で致命的な一撃クリティカルのを出すことが出来る。更に、致命的な一撃クリティカル成功時、その倍率をLvに応じてあげることが出来た。


 今回のLvならば300%である。


【全力の一刀】は自身の体力を全て消費し、その消費した体力の数値だけ攻撃の倍率をあげるものである。


 体力を100消費して放てば、100%の倍率が乗るのだ。


 そして今回の倍率は142%である。


 致命的な一撃クリティカルも問題なく発生し、化け物の身体を切り裂く。


「ぐぬぅ!!」

「ぶっ」


 化け物は、苦し紛れにその腕を振り回しルーダに攻撃、油断しきっていたルーダはマトモに一撃を食らってしまった。


 しかし、即死は免れる。念の為にかけておいた防御系スキルが役に立ったようだ。


「見事なり矮小なるものよ。鍵を探すといい...見つけれれば、な」


 最後の化け物の呟きは、ルーダの耳に入っていなかった。





【クルース】魚人の化け物。討伐推奨レベルは12。水中時は雷属性魔法で炙り出し、地上に出てきたところを殴れば割と簡単に討伐できる。水中時の弱点は雷属性。地上に出ている時の弱点は火属性。ルーダと初めて出会った時にファイヤーボールを避けたのはその為。物理ならば斬撃が弱点であり、防御力は低い。

 水属性魔法攻撃系スキルを得意としており、無詠唱化までLvをあげている。





 目が覚めると、ゴブリンの村にいた。


「勝った、勝ったぞ!!」


 死闘(死にまくった)末の勝利、それに喜ばないわけが無い。


 だからこそルーダはまだ気づかない。


【一万歩の旅路】が【九千歩の旅路】に変わっていたことに。

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N歩の旅路 杯 雪乃 @sakazukiyukino

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