検証
「──っは!!」
ルーダは目を覚ました。
カーテンから漏れる陽の光は、優しくルーダを包み暖かな温もりを感じさせる。
「........夢、だったのか?」
あの怪物によって切断されたはずの身体は問題なく動く。何度も拳を握りしめては手を開くが、どこにも異常は見られなかった。
「なんだ、夢か。冒険者になる前に嫌な夢を見たな」
ルーダは、ふと視線を動かす。死ぬまでの事が夢ならば、視界の端に映った一万と言う数字は無いはずだ。
しかし、視界の端に現れている。忌々しい一万という数字は、彼の視界の端に存在していた。
「ははっ、正夢か?俺に死ねってか」
淡い期待は崩れ去り、乾いた笑いが込み上げる。ルーダの目の端には涙が浮かんでいた。
「ステータス」
まだ何かの間違いであってくれと望む彼は、最後の希望をかけてステータスを開いた。
「Lv1のステータスオール10。これでどうやってあの怪物を倒すんだよ」
ステータスを見てさらに絶望した彼は、スキルの欄にも目を通す。そして、【ファイヤーボールLv1】と言う表記に驚いた。
「【ファイヤーボールLv1】がスキル欄にある。間違いない。俺はファイヤーボールを使えるぞ」
家の中の為試すことは出来ないが、その脳裏には【ファイヤーボールLv1】のスキルの撃ち方が焼き付いていた。
そしてひとつの仮説が浮かび上がる。
「アレは夢じゃない?」
何度思い返しても、あの光景を夢とは思えない。身体で感じた全てが現実だと訴えていた。
「僕は、生き返った?」
ふと視線を枕元に映すと、そこにはあるはずの無いものが置かれている。陽の光を浴びて金色にも輝くように眩い1枚のカード。死ぬ前に手に入れた冒険者ギルド所属を示すカードだった。
ここまで条件が揃うと疑いようもない。
ルーダは1度死んで生き返ったのだ。
「何がどうなってるんだ........」
こうして、ルーダの恩寵“一万歩の旅路”の検証が始まった。
【ギルドカード】冒険者所属を示すカード。カードには階級があり、鉱石で表される。一番下は
人が生きていくには、必ず歩く必要がある。ルーダは逃れられない
先ずは、その視界に映る一万と言う数字。
自分の歩と連動して減って行くように思えたが、それは間違いではなかった。
一歩進むごとに数が1減っていく。そして、数が0になればあの空間に飛ばされて再び魚人の男と退治する羽目に。
もちろん結果は惨敗。彼が死んだ後、全ての時間が巻き戻っていたのだが、この怪物はその影響を受けていなかった。
そして時間は巻戻り、ルーダは15歳になった日に目覚める。
次にステータス。
レベルがひとつ上がる事に、そのレベルに対応したポイントが貰える。
Lv1~2に上がる際は10ポイント。Lv2~3に上がる際は20ポイント貰え、Lvが一つづつ上がる事に貰えるポイントも10づつ上がるようだった。
死ねば割り振ったステータスは全て無駄になる。Lvは1に戻り、ステータスは全て10になっていた。もちろん、ポイントをも0。持ち越しはできない。
しかし、スキルは死んでもそのままだ。手に入れたスキルは、死んで巻き戻されても尚使える状態にある。ルーダはここに勝機を見出した。
取れるスキルは片っ端からとり、ポイントを使ってスキルLvもあげていく。
1度覚えれば永続的に使えるためか、消費するポイントは目が回るほど高かったりもしたが、何度目かの挑戦の際に見つけたゴブリンの村でのレベリングが安定し始めてからは12~3までなら比較的簡単に上げられるようになった。
スキルには種類があり、物理攻撃、魔法攻撃、物理防御、魔法防御、異常状態、常時発動系スキルの6種類だ。
物理攻撃、防御系スキルは体力を消費し、魔法攻撃、防御、異常状態系スキルは魔力を消費する。
更に、スキルLvが上がれば消費する体力、魔力も多くなるのだ。
あまり調子に乗ってスキルLvを上げすぎると、序盤で使うスキルが無くなってしまう。
歩数を節約しなければならない関係上、遠距離攻撃という手段は何時でも使えるようにしたかったルーダが長時間スキル一覧と睨めっこしていたのは想像に硬くない。
常時発動系スキルは、その名の通り常に発動するスキルだ。消費体力、魔力も無く、取っておいて損は無い。更に、肉体を強化するスキルや、魔力量を増やすスキルなどもあれば優先して取りに行く価値がある。
しかし、それだけ使いやすく強いスキルはポイント消費が激しすぎた。一番ポイントの低い常時発動系スキルでも、取得に100ポイントも使用しなければならないとなると、ルーダの顔も曇る。
1度の周期で得られるポイントは、大体780ポイント程度。そこからゴブリンの巣を壊滅させるために必要なステータスを割り振ると、スキルに使えるポイントは大体150程度になってしまう。
消費ポイントを抑えるために無理してステータスを低くした際、ゴブリンにタコ殴りにあって死んでしまった。
あの怪物に殺されなくとも戻れる事を知ったのだが、棍棒でリンチにされる痛みはかなりキツい。
毎度挑みに来る子供を、痛みなく一瞬で殺してくれるあの怪物が慈悲深く見えた程だ。
それ以降、ルーダは安全マージンを取りながら戦うようにしている。
次に、持ち物。
1度目の巻戻りの際に、ギルドカードを手にしていたルーダだが、巻戻りの際に何か一つを指定して次の挑戦に持って行けるようだった。
1度の持っていった物は、最初から持っている所持品判定になるのか指定しなくとも次からは持ち越される。生き物は不可。
お金や魔物の素材に関しては、袋に入っていればそれごと持って行けるようで、硬貨を1枚の1枚のちまちま集める必要が無かったのは幸いだろう。
ルーダは資金を集めていい装備を買うために、ゴブリンの魔石などを集めては死に戻って1度にまとめて換金する方法を取っていた。
ギルド職員は怪しんでいたりもしたが、正規のギルドカードを持っている以上換金を拒むことは出来ない。
そうやって貯めた金でルーダは、ミスリルと呼ばれる高級な鉱石出できた剣を手に入れることに成功した。
そして最後に歩数。
何を持って『一歩』とカウントしているのかの検証だ。
先ずは歩幅。これは、どれでも一歩とカウントされた。
例え足踏みであろうと、一歩とカウントされてしまう。
では、歩かない方法ではどうか?
父親にお願いして台車に乗せてもらい、それを引っ張ってもらうとおおよそ3~4m進んだところで『一歩』とカウントされた。
この発見は大きいが、実用性に欠ける。いつも父親が台車を引いてくれる訳では無い。
実用的であるのはやはり馬だ。両親が冒険者をやっていた頃に持っていた馬が今でも飼われており、ルーダはこっそり馬を盗み出すと街を出て馬を走らせた。
乗り方は幼い頃から学んでいる。両親も、一端の冒険者になったら馬をあげるつもりでいた。
そして馬はなんと7m程で一歩とカウントされたのだ。流石に山の中を走らせることは出来ないが、大幅に歩数を節約できるようになる。
そして、検証を繰り返し、あの怪物の弱点を探り、何度も何度も気の遠くなるような繰り返しの作業の末にルーダは十全と呼べる程度の準備を整えた。
「よし、武器と防具は新調したし、父さんと母さんにもこの事はバレてない。スキルLvも現状僕が考えうる最高のものになった。あとは、Lvを上げて奴に挑むだけだ。これをクリア出来れば、きっと僕は英雄になれる」
ここまで頑張れたのは、ルーダの不屈の精神と英雄への憧れからだ。実際強くなれているし、全てが終われば遥かなる高みに自分は居ることだろう。
家を出て慣れた手つきて馬を盗み、ゴブリンの村に向かう。
道中でも見つけた魔物は片っ端から殺し、Lvを上げる。
そして歩数が残り1となった時、ルーダは自己最高Lvの15にまで達していた。
ポイントを全てステータスに配分し、彼は全ての準備を終える。
「よし、行くぞ」
そうして、ルーダは最後の1歩を踏み出した。
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