第12話:朝食と居場所

 朝から家を出た。休みの日だというのに6時に目が覚めた、最悪だ。いつも起きている時間に目が覚めるというのは休みの日に損した気分。ただ、身体は今日が休日だと知らないのだろう。


 まだ父さんは寝ていた。だから起こさない様に家を出た。団地と言うものはある意味便利だ。人がたくさん住んでいるのでその周囲には食べ物屋さんやスーパーがたくさん集まってくる。


 牛丼屋に行って鮭と納豆とたまごが付いた定食を食べるか。たしか600円くらいの定食。時間はまだ7時。ハガレン達がドライブに迎えに来るのは10時。やっぱりもうちょっと早めてもらえばよかった。


 玄関ドアを静かに閉めて家を出た時だった。



(ピコン)『ユウくん、起きてる?』



 シホからだ。



「起きてる」


『よかったら朝ごはん食べに来ない?』



 牛丼屋とシホの朝ごはん……1秒で判断できる。

 俺はその足でシホの家に向かった。



 玄関前でチャイムを押すか迷っていると、ドアが開いた。



「おはよー」



 超能力者か! 何時に行くとか俺はシホに伝えていない。



「……おはよう」


「うちはもうみんな起きとーよ? 遠慮なくどうぞ」



 家族が寝ているのではと俺が気にしていることも分かってる、と。



「おはよう、雄二くん」


「あ、おじさん おはようございます。朝からすいません」


「いいよ、いいよ。うちは朝が早いから気にせんで」



 テーブルで向かいに座っているおじさんはにこやか。朝から新聞を読んでいる。俺はなんだかこの家の普通の時間に紛れ込んだみたい。俺がこの家に来たのって、もう10年以上前だ。まだ子供の時の感覚で接してくれているのだろうか。


 キッチンにはおばさんとシホが並んでいた。家族仲は良いみたい。こんな雰囲気は我が家ではありえない。俺の家は散らかっているし、それをきれいにできる人はいないのだ。



「まずはコーヒーね」



 コーヒーありがたい。俺の朝はコーヒーから始まる。テレビはお盆休みでも普通通りの朝の情報番組を流していた。テレビはついているけど、誰も見ていない感じ。



「おまたせ」



 シホが持ってきてくれた朝ごはんは焼き鮭と納豆とたまごだった。うーん、プライスレス。


 この家では、いつも朝からこんなにちゃんとした朝食を食べているのだろうか。丁寧に生きている。だから、シホも丁寧に生きているのか。親の環境が子供にも影響する。


 じゃあ、俺はどうしたら俺の理想に近づけるのか。あの父さんから学ぶことなんてほとんどが反面教師にしないと学べない。



「雄二くんは東京なのか」


「はい」


「福岡には帰ってこないのか?」


「んー……」


「もう! いいでしょ! お父さん!」



 シホが助けてくれた。もちろん、福岡で生まれたので福岡で暮らしたい。でも、仕事ってそれだけじゃない。


 その後は、なんとなくどうでもいい会話で朝食を食べた。


 実家を見て思ったけど、俺の部屋が既にない様に、福岡に俺の居場所はもうないような気がした。一番安心する場所が幼馴染の家だというのはやっぱり普通じゃない。



 朝食を食べて、もう一杯コーヒーをもらって飲んでいると、ハガレン達が迎えに来てくれる時間になったのだった。

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