第13話:4人のドライブ
4人を乗せた車は福岡市内から西の方に向かっていた。お盆休み期間中だというのに車はほとんどいない。ここ数年のコロナの影響だろう。通常ならば202号線はそこそこな渋滞だ。
「東京では海が見えんの?」
ハガレンが運転しながら訊いた。助手席には旧姓加藤、俺とシホは後部座席に座った。
「葛西臨海公園ってのがあって、観覧車とか水族館とかあるけど、砂浜とかは……あんま行ったことないなぁ。あるとは思うけど。」
「へー、やっぱ東京すげえな」
何がすごいのか……何も返す言葉がなかった。
「それより、車買ったん?」
てっきり軽自動車か何かだと思っていたのに、7人乗りの中型のバンだった。
「まあ、家族が増えるかもしんないだろ?」
「ああ……」
すごい。同じ年とは思えない。アラサーとはそんなことを考える年なのか。
*
今日、ドライブに来ている
ただ、俺たちが「糸島に行く」と思ってもランドマークとなるものが思いつかない。結局、海水浴場辺りでうろうろして終わる。目的がドライブなので、海岸線が見えて走っていられれば俺は満足だった。
「なあ、市内だけど愛宕神社いかね? あそこ景色良いし」
「ああ、いいな」
糸島はホントに海岸線を走っただけで福岡市内に戻ってきてしまった。
そんなことは全く知らずに俺とシホは小さい時ここの境内でよくあそんだ。特に何があるという訳ではないけど、小さい山の上にある神社でとにかく見晴らしがいい。
あとは、ハトがいついていて、エサをやると集まってくる。
子どもの時にこれだけあれば十分だろう。山は探検したし、ハトはエサをやりながら捕まえようとした。あまり上品な思い出はないけど、思い出の場所には違いない。
福岡市の街と海を一望できる展望台から見ていると、なんか俺の悩みも少し薄れた気がした。
「ハマユウ、福岡には帰ってこねーの? あ、里帰りじゃなくて」
みんな同じことを聞くな。
「まあ……帰りたい気持ちもあるけど……」
「仕事か」
「ああ」
仕事は、大きく分けて「仕事内容」「お金」「場所」の3つの要素があると思う。大学卒業したときは、一番優先したかったのは「仕事内容」だ。東京に行けば「お金」の部分もまあまあ満たされる。「場所」の部分を切り捨てて俺は今の仕事を選んだ。
だけど、6年経って価値観が変わってきているのかもしれない。当時は微妙だったクラスメイトとの関係も今日の同窓会ではみんなすごく仲良くて……俺たちはみんな同胞って感じだった。
同じく厳しい世の中で10年生き延びてきた同胞だ。
シホと旧姓加藤が自販機でお茶を買いに行った。展望台の手すりに手を空けて、男二人横並びで海を見ながらハガレンが俺に言った。
「これは俺が言っていいのか分かんないけど、神園さんお見合いするらしいぞ?」
「え?」
思わずハガレンの方を向いてしまった。
「俺もかおり経由で聞いたんだけどさ」
俺は聞いてない。シホはそんな素振りは全く見せなかった。シホの家でも全くそんな感じはなかった。おじさんやおばさんと話してもそんな感じはなく、それほどまでに俺は彼らの中で子供のままなのだろうか。
「その……『青い鳥』じゃないけどさ、本当は青い鳥は遠くに探しに行かなくても近くにいるもんじゃねーか?」
俺の幸せ……俺がそれはなんなのか、分からないままなのに、ハガレンにはそれが分かっているかのようだった。
「よかったらさ、仕事紹介しようか? ほら、俺営業だから、色んな会社に行くやん? この間話した会社とか万年、人を募集してるらしいけど、誰も来ないらしいし」
「求人サイトとかみても、福岡で機械設計探すとほとんどが派遣でさ。そんな情報は助かるよ」
「ああ、盆明けたら行ってみるわ」
「頼む」
「神園さんのこと、どうすんだ? マンガみたいにお見合いをぶっ壊しに行くか?」
「バカ。俺たちはもうおっさんなんだよ。それなりにズルいことはやって来ただろ?おじさんのとこに行ってみるよ」
「盆だし、このあと神園さんちに送ったらいい?」
「いや、俺の家に頼む。手土産があった」
「ああ」
そう言うと、ハガレンが俺の肩に拳を当てた。「デュクシ」だな。
「俺がシホのこと好きだって、いつから知ってた?」
「高校の時から知ってるよ! 気づいてないと思ってるのお前だけだからな」
「マジか……」
1日ドライブの予定だったけど、半日で引き上げることになった。
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