第3話:同窓会に出席する
実家の団地には、帰って挨拶もそこそこに着替えてすぐに家を出た。休日で仕事を休みだった父さんはテレビで野球を見ていた。
大谷がアメリカで何か記録的なすごいことをしたらしい。俺は野球はあまり好きじゃなかったので、正直どうでもよかった。
それよりも、父さんはテレビに夢中であまり話をしなくてよかったことの方にほっとしていた。
*
同窓会は、姪浜駅近くの大きめの中華飯店で行われた。
当時同じクラスだった約30人と当時のクラス担任が一度に集まれる座敷を持っている店なので、かなり広い。駐車場も第1、第2とあって合計で50台は停められそうだった。
普段、この部屋はどんなことに使われているのだろう、と 見知らぬ中華飯店のことを心配してあげたくなるほど広い部屋だった。
入り口には男女が一人ずつ小さなテーブルを置いてちょこんと座っている。ここが受け付けらしい。
「参加費5千円と担任への記念品代5千円で合計1万円です」
「あ、はい」
カバンの中の長財布から1万円を取りだした。今日のためにおろしておいた。久々に財布を取り出した気がするし、現金に触った気がする。
「あと、胸に名前書いて名札付けて」
名札……と思ったけれど、高校を卒業して10年も経つとクラスメイトの名前が出てこない。現に受付の男女二人も顔は知っているのに名前が出てこない。
きっと記憶喪失の人ってこんな感じなんだろうなぁ。
「名札」というと聞こえはいいけれど、白いクラフトテープにマッキーの太字の方で苗字を書いて胸に貼るだけ。
女子の方は「□□(旧姓○○)」と書かれているものを貼っている人もいたので、結婚しているのだろう。
名前が思い出せないうえに、苗字が変わっていたらもう「顔を見たことがある他人」としか言いようがなくなる。
なんとなく、今の世の中なのでプライバシーのことなど気にならない訳じゃないけど、ここにいるのはかつてのクラスメイト。一緒に3年間過ごした仲間……なのだ。
受付手続きを終えると、席は自由に座っていいらしい。部屋には4人用の丸テーブルがいくつも置かれていた。
「お! ハマユウ久々! 東京で夢かなえたヤツが登場だ!」
そう囃し立てたのは、「ハガレン」こと
「よしてくれよ。恥ずかしい」
「そーゆーなって! 今回お前が一番遠くから来たんだから!」
「え? そうなの?」
俺は現在、東京の西葛西に住んでいる。千葉と思われることも少なくないが、れっきとした東京だ。
「まあ、座れって! 俺に東京話を聞かせてくれよ!」
「なんだよ、東京の話って」
4人がけの丸テーブルには既に、ハガレンとその横に加藤が座っていた。たしか、加藤……かおりだったと思う。
目が少しいじわるそうなのは、昔のまま。でも、接してみると意外と面倒見がいい。現在、肩くらいまでの髪の長さの彼女は、高校時代もっと髪が長かったはずだ。
もっとも校則のために長い髪は三つ編みにしていたので、正確な長さは分からない。今は少し緑かかったワンピースを着ている。普段仕事着で休みのみというよりは、主婦のよそ行きという感じのワンピース。
胸の名札を見ると「芳賀(旧姓 加藤)」と書かれている。彼女は結婚したようだ。
「加藤は、『芳賀』になったのか。ハガレンと分かりにくくなったな」
「そのハガレンと結婚したからね」
「は~⁉」
旧姓加藤の発言に俺は大げさに驚いて見せた。多分、高校の時の俺はこんなキャラだったはず。
「俺はお前にLINEしたろ!」
慌てて俺に言うハガレン。そう言えば、以前 結婚したと言っていたな。結婚式は出席したかったけど、仕事で行けなかったんだ。
それくらい俺の心には響かなかった事柄だったのかもしれない。まあ、俺の心が死んでいるんだろうな。
「高校の時の同級生同士って現実的に結婚するんだな。マンガの世界の中だけの話かと思った」
「私も驚いてる」
「お前、当事者だろ!」
旧姓加藤のボケにハガレンのツッコミ。なんとなく当時を思い出してきた。
俺たちは高校時代4人でつるむこともあったので、10年ぶりの再会とは言え割と早く打ち解けられた。
ハガレンと旧姓加藤と俺と……
「あ! 来た来た! 志穂ちゃんこっちこっち!」
「あ、かおりちゃーん! 久しぶりー!」
シホ……
俺の幼馴染であり、初恋の人、そして、憧れの人だ。
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