第7話

「ヒーローとはまた大きく出たものだね」

「でも、間違ってはいないと思いますよ?」

「ふむ。では、どうして私のような人間がヒーローになれると思うんだい?」

「えっと、その、ニートさんは私を助けてくれたからです!」

「私と出会ってすぐの頃、君は街角で不良に絡まれていたね」

「はい、覚えています。あの時は怖かったですけど、ニートさんが助けに来てくれて本当に嬉しかったんです」

「私とアンナが初めて出会った時も、君は不良に絡まれていたね。正直言って驚いたよ。まさかあんな場所で君に会うなんて思ってなかったから」

「そうでしたっけ?」

「ああ、しかも君は私を見て『王子様みたい!』と言ってきたからね。……ふふっ、今となっては懐かしいな」

「はい、本当に懐しいです。あの時の私はまだ子供でしたから」

「しかし、あの時から君は既に強かった。自分より体格の良い男を相手にしても決して臆することなく立ち向かっていた。あの頃の君はまさしくヒーローだったよ」

「そ、そんなことないですよ〜」

「いいや、本当のことだ。私は今でも鮮明に思い出せるくらいだからね」

「えへへっ、なんか照れちゃいます……」

「だからこそ、今の君がいるんだろうね」

「……どういう意味ですか?」

「そのままの意味さ。あの頃の君も確かに強い人間だったが、同時に弱さを知っていた。自分の無力さに嘆いていたはずだ。だが、今は違うだろう?」

「はい!今の私は強くなったつもりです!大切なものを守ることができるようになりました!」

「ああ、その通りだ。アンナは間違いなく強くなった。それも私が想像していたよりも遥かにね」

「ありがとうございます!これも全部ニートさんのおかげです!」

「ふふっ、それはどうかな?」

「え?それってどういう意味でしょう?」

「簡単な話だよ。君の心が強いのは紛れもなく彼女自身の力によるものだということさ」

「私の……心の力?」

「ああ、そうとも。人間は誰しも心に強さを持っている。そして、その力は無限大だ。もし仮に君が弱いままだとしても、それでも君はきっと強くなる。どんな困難にも打ち勝てるだけの力を秘めているんだよ」

「ニートさん……」

「だから、何も心配することはない。これから先、何があったとしても大丈夫だ。何故なら、君はもう一人じゃないのだから」

「はいっ!」

「ふふっ、ようやく笑ってくれたね。やはり君には笑顔がよく似合う」

「え?そうでしょうか?私っていつもニヤけてるだけだと思うんですけど」

「ふむ、君自身は気付いていないようだね。では、教えてあげようか」

「え?何をですか?」

「君は笑っている時が一番可愛いという事だよ」

「……っ!?///」カァッ!

(あぅ〜、顔が熱いです……)

「おや、どうしたんだい?そんなにも顔を赤くして」

「う、うるさいです!バカっ!」……

「……ねえ、ハニーちゃん。少し良いかしら?」

「なんですか?おばさん」

「……っ!!ま、まだ私はそんな歳じゃありませんわ!!」

「はいはい、分かってますよ〜。それで、何か用があるんじゃないんですか?」

「そうでしたわ!実はお願いしたいことがありまして」

「え?お願い?別に構いませんけど、一体何でしょう?」

「えっと、私と一緒に街まで買い物に行って欲しいのです」

「街に?どうして私と一緒が良いの?」

「え?そ、それは……その、一人で行く勇気がないと言いますか……。ほ、本当はニート様をお誘いしようと思っていたのですが、断られてしまいましたし……」

「ああ、そういうことですか。分かりました!一緒に行きましょう!」ニコッ(微笑み)

「あ、ありがとうございます!」パアアッ!(嬉しさのあまり輝く音)

「では、早速向かいますわよ〜!」

「はいはい、慌てなくても街は逃げないよ〜」………………

「着きましたわ!」

「相変わらず賑やかなところですね」

「ええ、この街は王国で最も栄えておりますから当然ですわ」

「そうだね。ところで、今日は何を買いに来たんですか?」

「そうでした!忘れるところでしたわ!今日の目的は、この店で売っておりますスイーツを買うことですわ!」

「……ん?それだけですか?」

「ええ、そうですけど?」キョトン

「あの、もしかしてですけど、お金を節約するために買わないとか言い出しませんよね?」

「ギクッ!」

「……やっぱり」ジトー

「ち、違いますわよ!私だってたまには贅沢がしたいだけですわ!」

「本当かなぁ〜」

「ほ、本当ですとも!」

「じゃあ、質問を変えます。おばさんはどれくらいの値段のものを買うつもりなんですか?」

「えっと、これくらいのもので……」

「それくらいなら、私が払えるよ。だから、遠慮せずに好きなものを買っていいからね」

「え?でも、悪いですわ」

「気にしないでください。私もたまには甘いものが食べたかったんです」

「そ、そうなんですの?」

「うん、だから遠慮なく選んでね。あ、もちろんお財布の紐は私がしっかり握らせてもらいますけどね」

「うぅ、分かったわ。では、私はこちらのケーキにしますわ」

「はい、了解しました」

「ありがとうございますわ。……あと、一つだけ聞いてもいいかしら?」

「はい、なんでしょう?」

「さっきのセリフって、まるでニート様みたいでしたわ」

「え?あ、えーと……」カァッ!

「あら?もしかして図星だったのかしら?」ニヤリ

「べ、別になんでもないですよ!さ、早く買いに行きましょう!」グイグイ

「ふふっ、分かりましたわ。では、参りましょうか」クスッ…………

「うぅ、また負けてしまった……」ガクリ

「まあまあ、ドンマイだよハニーちゃん」

ポン

「慰めてくれるのは嬉しいけど、その呼び方は止めて欲しいな……」

「ふむ、何故だい?」

「何故か恥ずかしいんだよ。それに呼びにくいでしょ?」

「そうかい?私は結構気に入っているのだがね」

「もう、しょうがない人だね」

ハァ……

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