第22話 不良の裏に不動な陰あり

 メンドーだぞ?

 なんで、こんなチンピラが超重要なNPCに絡んでいるわけ?

 邪魔だしなー。


 ということで、好感度上げ及びクエスト解放のため、お助けに行こうか。

「ちょっと!人の物に手を出したら鉱山出たとたん自動でイエローネームになるんだからね?」

 おぉ?レイさん?


 そういえば、NPC領などでの犯罪行為は、通報された時点でレッドネームとなり賞金が加算される。それにはPKプレイヤーキリングも含まれるらしいが、設定で【対人】をカットしておくと、PKされなくなるとかなんだとか。


 でもまぁ、大抵のプレイヤーは対人設定をオフにしているらしいから安全なんだけど、犯罪都市やスラムに入ると、自動的にオンに切り替わる仕様なんだったっけ。

 自分から危険な場所に踏み込んだのだから、死を覚悟しろって事らしいけど。


 ここの鉱山【ライヒ山】の所有権は近くに領地を持っているNPC:メリーディエース・ディール、長いからミディって呼ばれているけど、にあるんだよね。

 そして、彼女の又の名をヘーリオス現伯爵。領地の規模的に言ったらそこまで上の爵位じゃなくてもいいのではないかと思ったりもするんだけど........。

 確か元々は子爵だったんだけど何かの功績のおかげで伯爵に上がったんだよね?

 その功績がなんなのか忘れたけど。


 そして、彼女は今から助けようとしているヴァナ爺さんの孫娘で、お爺さんは二代前の領主だったっていう設定だったよね?

 そして、お爺さんの息子でミディのお父さんの前領主:トラモント・ディールは……

 あれ、何だっけ?何かあった気がするんだけど?

 うーん、思い出せない。さっきの功績とも関係あった気もするんだけど……

 最近何故か思い出せないことが増えてきてるんだよな。

 はぁ、年って怖いね。


 そして、イエローネームについての説明を続けるけど

 犯罪被害者は、対象者の名前を赤もしくは黄色に変更できる。

 赤ネームとなった場合、都市部にいるだけで騎士たちに追いかけ回され、捕まると牢獄へ。

 黄色だったら情状酌量、ゲーム内時間で四十八時間以内にまた犯罪行為を行うと赤になるけど、黄色の場合は、他のユーザーからも攻撃を受けられるようになる。

 しかも、黄色ネームは殺しても犯罪にならず、倒した相手の装備品をランダムに取得できたりする。


 まぁ、だからNPC領地の管理下である鉱山で犯罪を犯したら自動的にイエローになるんだね。でも、こいつらがしたことはいうなれば、スリとか万引きだからな。

 レッドにして、牢屋にぶち込んでもいいと思うのだけど。

 直ぐに、保釈金とか届きそうだけどね。

 だってあいつらタトゥー入れてはるんだもん。

 タトゥー=ヤクザ=できれば関わりたくない人種、だからな。

 まぁ、しゃあないから挑むけどさー。


 にしても、この鉱山で悪さしたら黄色になるのかー。知らなかったよ。

 ここで悪さはしないつもりだけど、ここでクエストではないのにPKし出したらうっかりレッドになるなんてこともあるかもだから、ここでは陣営公認のシステムのバグ?を活用してみようかな。これはあまり知られてないしなー。だから目立ちたくなくて、今まで使ったことはなかったんだけどね。


 レイさんは釘指すつもりで言ったんだろうけど……

 こういう奴らにはそういった情けは効かないからね。

「あー?なんだよ?お前はあっちに行ってろよな?」そういってあっさり弾き飛ばされましたね。まぁ、彼女も鉱山の受付嬢のNPC?なんだよね?

 でも、自分で動いている感じだからAI?

 どっちかは分かんないけど、戦闘力はあまりなさそうだね。

 ということでそろそろ助け舟でも出しますかね。


「レイさん、大丈夫ですか?」

「ええ、まぁ。」そう言いつつ、突き飛ばした、刈り上げている黒髪と首筋に虎の刺青を入れているという特徴のやつを滅茶苦茶睨んでいるレイさん。言っていることと顔があってないですから。

「通報したいんでしょ?だったら時間稼ぎくらいならしますので」

「ええっ!?でも!!!!」と今度はミデンが慌ててきた。

「大丈夫ですよー。ソーンさんはヨルムンガンドで最強の魔導士って言われてるんです!」とウキウキしながら言ってきたのは、レイさんにキュア魔法を施しているララ。

 レイさんは彼女の手際に驚いているのか、それとも発言に驚いているのか、はたまた容姿が気に入ったのか、彼女のことをガン見していた。

 エーチは何故かミデンを止めている。にしてもなんかすごく文句言われているね。

『やっぱり弟とかは嫌なんだ!!!!』とか……。ミデンさん弟でもいるの?


「まぁ、そういうことでここはお任せください。二人の事お願いね」そういって、軽く微笑んでチンピラ三人組に向かう。

「あー?今後は何だよ?」そういって、さっきの刈り上げの人物に似ているが違う、もしかして兄弟とか?がこちらに向かって手の裏を見せてきた。そして、そのままその手の上に魔方陣が……


 おー、これは........。

 このままだと、お爺さんも危ないかな?救助が先か。

 ということで、

「【クイック・トルネード】!」足元に魔方陣を出して、レッツゴー!

 お爺さんに向かって一直線。

 魔法で移動速度上げてる........けど........。

 二つをかけてるから疲れる。

 けど……

 人の命を守るためならそれくらいはしないとね。

 もう少ししたらお爺さんに手が届くけど、刈り上げの魔法がもう少しで発動されそうで……。


「お爺さん、少し失礼しますよ!!」

 そういって、彼が来ていたローブを掴んで皆がいる方へ軽く投げる。

 そして私もそちらへ行って……。


 ジリ……!!!!


 私が使っていたトロッコにお爺さんを入れ込んで振り返ったら........。

 瞬く間に炎の魔法が展開されていた。

 先ほどお爺さんがいた場所は刈り上げの片割れー出している肩に炎のような入れ墨を入れている方の魔法の影響で火の海の真っただ中になっていた。

「はぁ……、どうにか間に合った……。はぁ、肺が痛いwww」と言い上向きに寝ころんだ。どうも本当にギリギリだったようで私のローブの裾が少しだけ焦げていた。

「お疲れさん。でもまだやるんだろ?ほいこれ、栄養補給に。」上からにやけ面が出てきた。

「もちろん。とっ捕まえて牢屋にぶち込んで、お爺さんの鉱石を捕り返さないといけないし。あと、あの入れ墨も気になるし。」そう言って奴が持ってきた瓶をかっさらう。これはララちゃん製ではなく市販のポーションだった。


 ララは、エーチの相棒であるが、ハーメルンでちょっと人気な商人でもある。商人なため、いろいろな場所にも気楽に行き来できるし、客との会話などからいろいろな情報を手に入れることが出来る。そしてその情報を駆使してあいつを手助けしているのだが。

 彼女が売るのは、だいたいほかの店でも売られているものが多いが、少し特殊なものがあったりもする。

 それは彼女自作の効果が五割増しのポーションだったり、私が趣味で作った魔道具だったり、エーチが狩ってきた人たちの元持ち物だったり、ハウン達兵隊が使っている道具と同じ型のものだったり。そういうレアなものは特別な会員だけに卸しているらしい。


 にしても、あいつらが体の至る所にある刺青なー。

 すごく気になる。なんでだろ。

 脳内で警鐘が凄く鳴ってる。その理由解明は後回しにして。


「あー、あれな。どっかで見たことあるもんな。」刈り上げ一行を一瞥する杜和。

 あんたの睨み結構効くからね。今もあいつら少しすくみ上ってるし。

「そういうこと。」中身を飲み終えた瓶を落とす。地面に当たった影響で割れ、蒼い粒子になって跡形もなく消えていった。


「さてと、あいつらをどうにかする前にお爺さんの好感度は……。うん、いい感じ。あいつらはっ倒したらクエスト出るかな?」お爺さんの頭上には好感度を示しているアイコンが、数字は書かれていないが色の推移で何となくわかるようになっている。

 ということで、もう少し得点アップのためチンピラどもを縛り上げていきますか。


 にしても、ホントにこういう時にいいシステムがあるよね。まぁ、これはあまり知られてないなんだけどさ。このシステムはヨルムンガンドだけでなくEFOでも使われているから。今回はそれを使うことにするけど。

 ........。あれはシステム設定というか、単なるバグか?

 まぁ、分からないけど。これで、私がうっかりあいつ等をキルしたとしても名前は赤くならない。


 炎の人が早まってこっちに魔法を出してくれたからね。

「ということで、今度こそあなた達捕まえてあげる。【クイック・トルネード】。」

 この魔法は、

【クイック】速度が15%上がる 消費MP:15

 というのと

【トルネード】風属性の魔法。強風を起こして攻撃する。威力は強め。消費MP:20

 の二つを掛け合わせたものだ。


 あー、ちなみにさっきの火の海にした魔法は

【ファイアトルネード】火属性の魔法。炎の渦で攻撃する。威力は絶大。消費MP:50

 こっちね。結構魔力使うんだけどな?


 まぁ、いいや。あいつが炎の使い手なのなら使うのは……。

 そう考えていたら、相手のほぼ目の前まで来たけど、魔法の矢がメンドイ!!!!

 避けるだけで体力減る!!!!

 もーめんどくさい。なんでこのゲームはめんどくさい出来事が次から次へと起こるんだよ⁉

 ということで矢をどうにかしよう。

「【ロックボム】。まぁ、そこまで効かないと思うけどさ。」

【ロックボム】岩の塊を敵に向かわせ、敵の前で破壊する。砂により敵の命中率を下げる事が出来る。威力は普通。消費MP:15


 威力はあまりないけど、目くらまし位にはなるでしょ。

「おい、レント!」

「分かってるってば!【ファイアートルネード】!」

 うん、あの炎輩ーレントの魔法で回避してくると思ったけど。

 これには残念ながら穴がある。


「やっぱりこう来るか。ということで、【ビックウェイブ】!」

 レイトが起こした炎の渦を私の大津波が消火していく。

 その過程でものすごい量の水蒸気が出来て視界がよろしくない……。

「嘘だろ⁉あれ、俺の最大火力だったのに⁉」

 あー確かに、さっきの奴よりは暑かったな。

 けどね、私の魔法もすごいんだよね。

【ビックウェーブ】津波を起こして攻撃する。威力は絶大。消費MP:50


 ということで、水蒸気が止んだら縄ででも縛っておくか?

 とかと思ってたら、剣が出てきた?

「噓でしょ?このままじゃキルしないといけないじゃんか。まぁ、良いけど。」

「何ごちゃごちゃ言ってんだよ?死ぬ準備はできてるんだよな?」

「その言葉、そっくりそのままお返しするね。そっちこそ、殺される準備できてる?」

 そう言って右手から出していた薙刀で一振り。

 柄が相手の横っ腹にクリティカルで吹っ飛ばされて、柱にあたってはい、サヨウナラ。粒子となって消えていく剣士様に何となくお辞儀してしまった。


 ----


「そんで、あんたらは通報で赤くなるので、その前に聞きたいことをいろいろ聞いて行こうか。」

「ぐう。。。」エーチによってグルグルに縛られている一行。

 尋問役は私だけど、監視役?の視線が凄いことになっている。

 そして一番睨んでいるのはもちろん被害者であるヴァナ爺さんなんだけど。

「はぁ、なんだよ?なにが聞きたいんだよ?」滅茶苦茶食って掛かって来るのは、レントの兄らしい首筋虎野郎ーナオトなる人物。


「五月蠅いな?そんなこと言うんなら今すぐ牢屋にぶち込んでもいいんだけど?」

「うう、大人しく聞くよ。」

「その方がいいよ?今度逆らったらあなた達もキルするしね?」

 ぞわわ……。微笑んだら何故か相手方ビクついたんだけど。普通に笑っただけなんだけどな?

「なんでそんなに余裕なんだよ!ロイドを殺しておいて!!!!お前も一緒に牢屋行きだろうが⁉」

「ロイド?ああ、さっきの剣士さんの事?…そういえばウェールズ語で灰色って意味だったっけ?まぁ、確かに銀髪だったなぁ。にしても、私は彼をキルしたからって牢屋に行きませんけど?」

「はぁ⁉喧嘩売ってんのかよ⁉」どうもナオトはすぐ頭に血が上るらしい。レントは先ほどからビクついて兄の後ろに隠れている。話を聞くのならナオトから誘導尋問させた方が楽かな?

「別に売っているつもりはないけど……。私があなたたちと違って赤くならないのは、でしょ?」


 ……

 私以外の人が全員動きを止めた。というか思考から停止してんの?

 まあ、そこまでこのバグは広まってないからね。

 でも、初期メンバーは知っている。


「……えっと。つまり、僕が最初に手を出して、貴方はそれに対する正当防衛ということになって、たとえ人を殺したとしてもレッドネームにはならない……ということですか?」こっちが本性なのかな?少し兄の態度をうかがいながらレントが私が今使った裏技の種明かしをしてくれた。

「うん、そういうこと。すぐに頭に血が上るお兄さんとは違って周りの観察とかに優れているみたいだね。お兄さんたちに付いて行かなかったら活躍の場がいっぱいあったはずなのに残念だね。」と本気で笑った。

「えっと、ありがとうございます?」少し困ったような、褒められて喜んでいるかのような少しあいまいな表情をした。


 しかし、その矢先、彼の肩にある刺青が光り出した。

「えっ!?ユニさん?嘘でしょ........。」

「マジかよ。何で撚りによってこのタイミングで……。」

 レントと同様にナオトの奴も光っている。

 にしても、かー。

 コードとかリュイもその人について、アルバ中央駅であった知り合いらしき人たちと話してたかな。........同じ人とは限らないけどさ。

 でも、注意は必要だよね。


「あああああー。俺らが組織に入ってから今までこの【リビングタトゥー・不動明王】が勝手に作動したことはなかったのに!!!!」

「確かに、まぁ、それほど重大案件が起こったってことだろ?でも、この不動明王の手によって消される感じは……。」と二人がごちゃごちゃ言っていたら、本当に消された。

 まぁ、レント・ナオト兄弟には、縛った時にちゃっかり追跡魔法をかけておいたので、どこに飛ばされたのかわかるんですが。っていっても、一気に南の方へ行ったな。そこら辺って、ソルトっていう国の方じゃなかったっけ?そこら辺はひとまず置いておこうか。


 ここまで聞いたりした情報をいったん整理しておこう。 

 まずは、ナオトとレントの兄弟にあるタトゥー【リビングタトゥー・不動明王】っていうらしいけど、それが彼らの入っている組織に関係しているらしい。

 そして、その組織のリーダー格らしき人物がユニさんなる人物。

 この人についても気をつけておかないとだね。

 あと、どうでもよさそうだけど二人の姉ね。

 なんとなくだけど二人とも見たことあるような無いような……。

 なんか引っかかるな。


 にしても、その組織とコード・リュイさんは関係あるのだろうか?

 実は二人もタトゥー入れていたし、ユニさんなる人物についても仲間らしき人と話していた。

 となると、やはり信用しない方がいいのかも?


 それに、タトゥー関係で行くと、不動明王ね。

 あの背中から靄みたいな手が出てくるのはびっくりした。

 見える人が限られているのか、私とお爺さん以外は彼らが急に消えたと慌てているみたいだった。なんで、私だけ見えてるんだ?

 にしても、不動明王は仏教に登場する明王で、降三世明王ごうざんぜみょうおう軍荼利明王ぐんだりみょうおう大威徳明王だいいとくみょうおう金剛夜叉明王こんごうやしゃみょうおうら五大明王や八大明王の主尊とされている。簡単に言ったら、熱血な鬼神だよなー。


 ........

 うん?鬼神?........きじん........鬼人?鬼人結社⁉


 いや……。いやいやいや。まさかまさか。

 ここでこんなに繋がるか⁉分かんないけど……。


「それにしても........先ほどは助かったぞ、ありがとうな若人たちよ。そこで、お前たちの力量を見込んで、頼みたいことがあるのじゃが……。」

 そう後ろにいたお爺さんから声がかかった。


 あっ、お爺さんの隠れクエストの存在忘れてたわ。

 しゃあない、もうひと頑張りだね。

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