第18話 二つの同棲生活
『何か違う……。』
特にすることもなく、録画していたドラマを見ていると同棲中らしいカップルが出てきたCMが流れてきていた。
同棲生活ねー。
そういえば、杜和と結葵ちゃんって同棲中だよなー。
家も近いし、冷やかしに行ってこよ。
ということで、
「ヤッホー!!!! 元気にしてるかい?我が弟に未来の妹様よ!!!!」
「一体絶対、なんなんだよ……。一応元気ですけどね?」とドアを開けて渋顔の弟が出迎えてくれた。
「うん、知ってるよ。昨日もあってるんだしさ。」
「なら来るなよ。」
「エー、何。様子見に来ちゃ悪いの?じゃあ、これ要らないよね?」といって、後ろ手で隠していた手提げ式洋菓子ケースを見せた。
すると、そこに書かれていたロゴマークとケースについているテープの色から察して……。
「それってもしかして!!!! ポーストレの期間限定の最新作のプリンチーズケーキ⁉マジですか⁉ ありがとうございます! ほんとにありがとうございます、望様ー!!!! ほら、杜和君もお礼して‼」と廊下にいた結葵ちゃんが滅茶食らいついてきた。食らいつくとは分かっていたけどここまでとは……。
「へいへい、この度は誠にありがとうございました(棒)っと。んで、それ何よ?ポーストレ……は結葵が結構推してるスイーツ屋さんだったよな?」
「そう。それで、そこの期間限定新作を買ってきたんだからな?二時間待ったんだから........。映画一本見れるんですけど。」
「はいはい。それで?ただ冷やかしに来ただけではないんでしょ?」
「!! はぁ、なんでこういうときだけ、目敏いというか勘が鋭いというかなんなんだろね?これだよ。あんたの所にも来てない?この鬼人結社とやから。」そう言い、例の手紙を見せてみたが……。
「えーと、確か……。うん、やっぱりないね。」
「噓でしょ⁉」
「ホントだってば。ゲーム関係なんじゃないの?」
「本当にそうなのかな?もし、ゲーム内の問題なのなら、ほかにもいるわけだしさ……。それにゲーム内であった方が身バレもしなくていいと思うんだけどな?」
「まぁ、それもそうだよな……。」
「だったら、アレ関係では?」
「アレ?……RINGクエスト?だったら、余計なんでだろ???」
「この人謎だらけだな……。でもまぁ、あってみる価値はあるんじゃないのかな?もし不安なら、結葵に頼んで護衛を頼んだら?」彼女にアイコンタクト。
「護衛ねぇ……。あんたは?」
「俺は結葵専属だから、残念。」といっててへぺろという動作をする。これ以上なくムカつく。
「でも、護衛って言ったら望さんにも専属いますよね?」
「あの人はまだそうじゃないから。まだ、誓って無いからね。」とかといっているが誰の事?
にしても、一人はやっぱり少し不安かな。
「えっと、結葵ちゃん……。」
「大丈夫です!多分そういうだろうと思って兄に頼みました!」
「仕事が速いことで........。」
「さすがだな。」
「そりゃそうよ!!私を誰の娘だと思ってるのよ!」
「わかってるよ。合川組現組長、
「むー、なんか機嫌損なわされた気がするなー。」
「あーもー!わかったからそこでおとなしく座ってろ!!」
という感じで、完全に尻に引かれている弟ですね。
彼は、高校時に少しぐれて、プチヤクザと化していたんだよね。喧嘩とかでは右に出る人はいないんだけど……。父親が死んでから育て役が私と母方の祖母だったということもあって、女性に合わせて行動するんだよね。機嫌を取るのに忙しいというか、優柔不断というか。まぁ、よく言って相手に良く尽くすって感じかな?
なんか自分で言って気がついたけど、こいつに似た感じの人周りにもう一人いたな。
んで、話を少し戻すと、なんで私が結葵ちゃんに護衛の派遣を頼んだのかといいますとね、それは、彼女の実家が関わって来るんだよね。
その実家こそ、さっきもちらっと出ていたけど、【合川組】という超有名な暴力団ね。結葵ちゃんはその組長の娘で彼女のボディーガード兼彼氏がうちの杜和ですよ。
家は彼女のお兄さん、年は私と同じだったかな?の
そういえば、昔ちょっと風のうわさで聞いたことなんだけどさ。
今の世の中を裏で仕切っている暴力団が大きく分けて三つあってね。
その三つが、結葵ちゃんとこの実家の【合川組】と【宇都宮ファミリー】【
って言っても元は一つの同じ組だったはずなんだけど。みんな名前が変わっているから忘れたけど。
それで、その衝突で多くの一般民に被害が出ることを危惧し、とある組織が手を打った。
その組織が【鳳亀麟】っていうやつだったかな?今は自然解散ってなって知っている人が少ないんじゃなかったっけ?
その組織のリーダーだった人が、その三組を制御して争わないようしたんだよね。でも、その組織のリーダーが過労で亡くなって、そのあと彼の子供ー兄、姉、弟の三人が後を継ぎたがらなかったため、この世から姿を消したらしい。
にしても、やっぱりこの二人って系統違いすぎでしょ。
今目の前では、プリンを食べ終わった二人が今度はカップアイスを食べているんだけど、その食べ方が違うため軽めに喧嘩中。なんでそんなことで喧嘩になるの?
ちなみに解説しておくと、
結葵ちゃんは表面からカップアイスが平らになるように食べていく食べ方で、素直なタイプ。目の前にあるものから順に食べていく形になるから、欲求を真正面から受け止め、楽しみを見つける事が得意。あと、表面から食べるとアイスを長く楽しめるということで、楽しみを後に取っておきたい性格の人ともいわれているらしい。
対して、杜和はカップ沿いに周りから食べるんですよね。これは、あらゆる方向から物事を客観的に見るタイプらしい。また、深く考えた事なかったけど、この食べ方の人は、きっとアイスクリームが溶けないように食べようとしているため、リスクを考えそれを回避することが得意と言える。
ちなみに私は、端から底が見えるような形で食べていく食べ方ね。人とは違ったことを無意識に選ぶタイプ。底が見えるような形で端から食べていくと、スプーンに乗るアイスの量は多くなって一度に多くのアイスが食べられる。一度に多くのアイスが食べられるという事は、食べる時間も短くなる。なので端から食べるタイプは、一度に多く楽しみたいし、それによって楽しみが続く時間が短くなっても構わない性格とも言えるらしい。
一度にたくさん楽しみを味わいたいし、その時楽しかったらいいや、という感じで生きてますから、結構あっている感じが致しますね。
アイスの食べ方から見ても分かるように二人は性格が結構違うんですよね。
だから喧嘩もするとは思うんだけど……。
なのに結構長く一緒にいても嫌だっていう声は聞いたことないんだよな。
何でこんなに持つんだ。同棲分からん。
んとー……。
系統違いの同棲といえば……。
ピロン........
えっ、何?電話?あっ、違うラインか……。
相手だれよ……。
ってああ、系統違いカップルの片方からだった。
まぁ、そこは元カップルか。なぜかは知らないけど、どうも別れたらしいし。
それでえーと何々?
『次の一周年イベントの最終チェックしたいから手伝ってー!』
とかって言ってるし……。
あの、今まだ開始半年しかたってないのですが?
まぁ、用意周到なのは良いと思うけど。
何で私が行かなあかんのよ。
理由は知ってるけど!!!!
記念イベントが一年12か月を表し、ヘラクレスの12難題を模した12個の個別クエストから構成されているためである。
まぁ、調整に時間がかかってしまうため早めからというかこのゲームが始まってから順に調整されていた出来事である。
そして、今日は確かそんなイベントの最終的なチャックの日で........。
これにクリアしたら、イベントが始まるまでそのまま放置されるが、もしミスなどがあれば総力を挙げて直さねばならない。
ということになる。そして、土曜なのに呼ばれたのは私がデバック班のリーダーだからだろうが、有給を使ってまでも作った久々の三連休楽しませてよ。
全く…。まぁ、とやかく言ってもだから一応行くか。出番はないと思うけどね。
とかって言っていたのに何で出番出てくるのかな?
「ねぇ、ここおかしくない?今のままだと、皆が思っているようには動かないけど?」
「噓でしょ⁉」などと周りの人が騒ぎ始めた。
そして、その間にコードをざっくり斜め読みで確認しておくと........。
「えーと?ここが根源じゃないかな?ここが変だからさっきのところでうまく作動しないようなコードになっているみたいだよ。」
「ありゃりゃ........。ここって、結構最初の方だよね?しかも最悪なことに…」と渚沙さんがしょんぼりしている。
「他のクエストでもそのまま採用されてるとか?」と横から足立さんが首を突っ込んできた。
「ご明察、タイン。にしてもどうしよう。これのままだと上手くいかないから変えないといけないのは分かるんだけど。どうやったらいいんだろうね?」
「ほぼ一から考えることになるので........。」他の社員がざわめき始めていた。
「もしかしたら、これイベントに間に合わないかもね。」
「そうかもー。ほら、だってあのモンスター騒ぎもあるしねー。今はそれの対応に結構人員割いちゃってるしね。」
「となると、これは諦めるのが良いのか?」
「えー、どうしよう?」
「ともかく、今回はいったんそれを直すとして........。一応他のイベント用にダンジョンとかストーリーを考えておかないとね。」
ということで、なんか問題出てきたなー。
って言っても大変なのは、これからそれを直していったり、新たなイベントを考えないといけない、システムエンジニア班なんだよね。
だから、それに比例してこれを率いていたリーダー兼元系統違いカップルの片割れである渚沙さんが大変なことになってしまうんだよなー。
とかって思っていたのにこんなことしてて大丈夫?
「えっと……渚沙さん........。」
「ダイジョーブ、大丈夫。後輩の一人にご飯奢るくらいお財布への打撃はなんともないよ。」
「いや、あの。財布への心配ではなくて........。」
「分かってるってば!でも、今は大丈夫だよ。少し早めな昼休みなだけだし。のぞみんはもう帰るんでしょ?三連休が2.5休になっちゃったけどねwww」
「まぁ、そうですけどそれは仕方なくないですか?」
「うん、なんかタインにあとで怒られそうだけどね。」
「あー、足立さんは何気に真面目ですからね。」
「んー?タインはそこまでじゃないよ~?」
「えー?そうですか?」
「そうそう、私はまぁ論外だけど。」
「それは分かってるんですね。」
「あたりまえだよwww でも、真面目度で言えば三浦っちか?だけど、彼はいつもはサボってるから、やる時はやるよって派か。となるとナンコー君が一番だよ?」
「あー、そうか。確かに三浦さんもまぁ、真面目ですね。にしてもまさかのナンコー君もランクインですか?」
「んー?そうじゃないだろって思ってる?実は彼は根っから真面目だぞ?」
「そりゃ、元彼なら持ち上げなきゃいけないでしょうけど……。」
「???えっと、いや。ナンコー君とは付き合ってないけど?」
「えっ!?でも、昔同棲してませんでしたっけ?」
「あー、うん。そういえばそんなことしてたねー。私としたことがうっかりしてたよ。」
さて、ここで、いったん説明を挟ませていただくとして、今回は上に出てきていた三浦さんとナンコー君について説明して行こう。二人とも前にちらっと出てきてはいたんだけど説明はしてなかったからね。
ということで、まずは三浦さんからかな?
そして、ナンコー君もとい
そして、最後にどうして渚沙さんが充さんのことをナンコー君と呼ぶのかについて触れておこう。
渚沙さんは新田義貞とすると、充さんの位置づけはまさかの楠木正成。意外……ではないけど、結構仲がいいし、似た者同士。それにライバルも同じだしね。
そして、新田要素を強めにするため楠公君=ナンコー君と呼んでいるらしい。これは本人に昔聞いたから知っているんだけど。
また、足立さんをタインと呼ぶのもそれに関係している。というのも、渚沙さんのライバルは公認で足立さん。そして彼は足利尊氏と重ねられている。また、世紀の天才アインシュタインとも重ね合わせており、今の愛称となっている模様。
渚沙さん、彼のことが嫌いなのかと思うけど、ライバルとしてもシステムを創り上げた天才としても、歴史の人物と重ねてリスペクトしているらしい。
あーそうだ、あとついでに、中枢メンバー【太平楽】の由来を少しだけ。
私たちのメンバーの多くは、偶然にも鎌倉時代に活躍した武将の子孫だと言われています。まぁ、私は鎌倉時代にゆかりはあるが武将ではないんだよね。そこは、機会があれば話しましょうか。それに十一人という人数もカギになってきます。
『1333(元弘3)年の新田義貞の鎌倉攻めの際、
そして、そのお寺の近くに極楽寺坂切通という道があります。この道は鎌倉七口の一つとされています。そしてその道は鎌倉時代の公文書といえる『吾妻鏡』にその名は見られず、京都と鎌倉を結ぶ重要な連絡路としては、鎌倉時代初期には海岸沿いの稲村路が使われていたと考えられています。そして、その道の名前が初めて出てきたのが、南北朝時代の軍記絵巻『太平記』です。
では、ここで皆さんに質問です。太平記の太平の意味は何でしょうか?
これは簡単でしょうか?
『世の中が平和に治まり穏やかなこと。また、そのさま。』
それがメインの意味であり多くの人がとらえている意味でしょう。
しかし実は、もう一つこの単語には意味があります。それが、『勝手なことを言ってのんきにしていること。勝手気ままにふるまうこと。また、そのさま』
これはそっくりそのまま私たちのゼミの雰囲気に当てはまります。みんながみんなそれぞれの希望や夢に向かって自分の主張を言い、勝手気ままに、そして暢気に過ごしていたためです。
そして、これは
そういう理由があって私たち中枢メンバーは【太平楽】と呼ばれています。
「で、話を戻すとですけど、タインー足立さんはそこまで真面目じゃないと?」
「うーん……。真面目なのは認めるけどさ、それは今だからであってさ。元はそんなにきちっとしたキャラじゃなかったんだよ?どんな感じだったけな?あーそうだ。ただの目つきが鋭いから一人が多かったくせに孤独嫌い。」
「そうなんですか?信じられない。足立さんは誰にでもにこやかで周りには絶対誰かいますけど。」
「それは……きっかけになる人がいたからだよ。」
「きっかけになった人ですか。」
「そうそう。それは、私にとっては充だし、望ちゃんにとっては杜和くんや湊翔君。杜和君にも影響を与えた彼女さんがいるでしょ?」
「あー、なるほど。なんとなく分かってきました。でも、足立さんて彼女さんとかいましたっけ?」
「……。いたんだよ、昔は。」
「今はいないんですか?」
「うん、いないよ。しかもその人はもうこの世にすらいない。」
「……っ!!!!」
そのことを話す渚沙さんはどこか悲しそうだった。
そりゃそうか。その人との関係はどのような物なのかは分からないが、ほどほど親しかったのだろう。
「これは言ってもいいのかな……。」
?なんか、渚沙さん悩んでる?
「今は、彼女のことについてはまだ言えないけど、いつか絶対教えるから待ってて。」
「!もちろんです!待ってます。にしても、私そろそろゲーム内で用事があるのでお暇してもよろしいですか?」というのも、もうそろそろピオーニアへ行くためコード達との待ち合わせ時刻になるのですよね。
「もちろんいいよ!お疲れ様。」
そう言う渚沙さんに見送られ私は、お店を後にした。
「この事件の裏にその人が絡んでいるなんて言えるわけがないんだけどね……。」
そんなことを、渚沙さんがつぶやいていたのも気づかずに。
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