第7話 杜和と裏スキル屋
『永遠に僕たちは望む未来のために精進いたします。』
という、謎の声……嫌、謎ではない。本当は誰の声なのか、それは感覚ではわかっている。しかし、それを理性は認めさせてくれないのだ。
それに、それを認めて、姉や結葵に言ったら逆に心配されてしまうかもしれない。
今、ヒェロナをいう怪物を倒したばかりだし、何か関係があると思うかもしれない。というか思うだろう、あの二人だぞ。思うに決まっている。
ゲーム制作の初期メンバーであるという地位をうまく利用して自分が携わっているゲームの世界を思う存分楽しんでいる姉。
心理学者の端くれとして、フルダイブでのゲームというのが皆の心にどのような効果をもたらすのかを観察したいと言ってはいるが、本当はただ単に姉たちが作ったゲームをしてみたいだけだという少し可愛い恋人。
簡単に言ってしまえば、二人とも好奇心の塊だ。うん、好奇心しかない。
そして、今俺がこのような症状を訴えてしまったら、その無限の好奇心の矛先が少しずれるだけだ。
それもそれでいいのだが……。
何故か釈然としない俺。
なぜか知らないが、胸のつかえが下りない。
これは何かを暗示しているのではないかと……。
しかも、声の主である俺たちの父親ー
不安しかない。
これだけ不安になるのはいつ以来だろうか。
母が消えた時は、そこまでではない。
というか、覚えているわけ無いか……。俺まだ三歳だぞwww
ということは、親父の時か?
でも........、確かに悲しかったし、不安だったけど……。
今の気持ちと少し違う。
じゃあ、いつだろ?
分からないが、なぜかそれがーその時のことが、今一番大事なことであったように感じた。しかし、この時は思い出すことはできなかった。
俺の様子がおかしいということに気が付いたらしい二人に言い訳して、逃げ出してきた。二人に言えるわけがない。
聴いてしまったら、多分姉は俺と同じことを考え不安になってしまうと思う。
また、事情をあまり知らないであろう結葵も感情が伝播してしまうかもだし……。
ということで、逃げてきました。
しばらくここで散策してから帰ると二人には言ってあります。
残った二人は、先にハーメルンに戻って事情説明などをするらしいです。
と、いうことで逃げ出した俺は何をしているのでしょうか。
本当に先ほど居た森の中をぐるぐると散策しております。
時々、誰かに狩られたらしい魔物の死骸があったりした。
その時は、近くまで行って宙に宝箱がないのかどうかを見に行ってしまう。
これは、暗殺者の仕事の癖である。
暗殺者は殺しの証拠を残してはいけない。なので、如何なるものでもダメなのである。なので、ドロップ品はすべて一応回収する。仲間同士で殺したやつのやつでもある。自分が殺したもののドロップ品は何の苦労もなく手に入れることができるが、俺以外が殺した人のを回収するのは大変である……、一般的な人には。
ふつうは、鍵開け用のスキル持ちが開けるしかない。なので、そのスキルを持っていない人は鍵開け用の店に行って頼まないといけないらしい。俺は、今まで使ったことがないが。
というのは、俺の固有スキルのおかげである。
まぁ、固有スキルでもないけど、数が少ないスキルということ。
逆に姉のように本当にその人しかもっていない固有スキルを持っているという人は稀なのではないのだろうか。
話がずれかかっているな。
俺の固有スキルというのが、こいつ【SA―メモリーオーブ】(対象者のスキルをコピーする。 また、それを自身もしくは装備にインストールする事で、スキルを自分のものとして扱うことができる。)というもの。
簡単に言うと、自分は持っていないスキルを他人からコピーして使えるようにするというやつだ。
姉の万能鑑定眼もチートだが、俺の奴も結構チートだ。
なので、レアリティは1/3である。
俺のほかに、まだ使用者が二人いるというのが信じられないが……
ということで、本当にスキルを持っている人からパクったやつを使って、鍵を開け、ドロップ品を回収していく。
そんなことを繰り返してうろついていたら、自分の居場所を見失った。
まだ、作っている途中の地図は当てにできないしな……。
うん、俺地図作れるんだよ!すげぇだろ?
っても、これもスキルのおかげなんだが、
【地図作成】(測量器を使用して地図を作成することができる。)
というやつ。案外役に立つぜ。
にしても、マジでどうしようかな。道に迷った……。
当てにできない地図を当てにした結果です。
どうしよう。こんな森の中、人がいるわけが........ない…よな?
今、木々の隙間から薄ピンクの髪をポニーテイルにしている横顔から美少女の人が見えた気がしたんだけど……。
…
........
................。
「今のは見間違いだよな!あんなかわいい子がこんな森の中にいるわけ…。」
「ゴメン。バリバリいるんだよね。」
と今ほど幻覚であると決めつけた娘が、可愛く小首をかしげて微笑んでいた。
というかいつの間に俺の目の前にいたのだ?
もしかして、君、忍者?
怖え........。けど、可愛い。
やべぇやべぇ。何呆けてるんだよ!
俺には結葵がいるし……。
やっぱり、俺、ギャル風の子が好きなのか?
もう、ここは離れよう。道を尋ねるのは彼女じゃなくてもいいだろ。
そそくさと離れようとして後ろを向いたとき。
「あれれ~?あ~しに道を聴かなくてもいいの?道迷ってるんでしょ?」
「な……なんでそのことを⁉」
「いや、さっきからそこらへんグルグル回ってるから。もしかしたらーって思って出て来たら、なんか惚けられたし。」
あああああ……ああああああああ!
全部見られてたー⁉
どうしよう?俺、このまま殺されます?
「まぁ、ともかく、うちの店来なよ。道教えてあげるから。」
「へっ⁉」
「何、ぼさっとしてるわけ?早くしてよ。あーし、あんまり外好きじゃないし。おまけになんか監視されてるしさ。」とめんどくさそうに行って木々の中にあった建物の中に消えた。
あそこが彼女が言っていた、お店だろうか?
ともかく入る。滅茶苦茶ひっぴり腰になってしまっているが。
これで、高校時代地区の天辺に立っていた元不良だと言っても信じてくれなさそうだが........。
入った瞬間、後ろでドアが閉まった。
びっくりした........。
「あ~しは、川崎……、違う。
「そっか、俺の名前は、エーチ・アビシシア。気楽にエーチって呼んで。」
「分かった。エーチさん、どこに行きたいの?」
「うん?どこって?」
「店の表の扉は好きなところにつなげることができるの。だから、場所教えて。」
「うーん?簡単に言ったら、『ハウルの城』みたいに扉を開いたら繋がってる場所が変わるってことですかい?」
「うんwww そう。」不服にもなぜか笑われた。
「なんで笑うの。」少し声が怒っていたらしい。途端に笑うのをやめるカナデ。
「いや、何となく。エーチさんがジブリ作品を見てる印象がなかったので。」
「う…。まぁ、俺は好んで見ないかな?でも、俺の姉は見るの好きだぜ。そういえば親父も好きだったな........。だからかもな、別に好きじゃないのに見てたのは。」
なんか、泣きそうになって、慌てて店の商品を見る。
なんか水晶のような丸いものが並べてあるが........これは、多分…。
の前に、「ああ、悪い。俺、ハーメルンに行きたいんだ。そこで、姉たちと待ち合わせしてるから」と矢継ぎ早に言うと、
「りょ!待ってね。合わせるのに少し時間かかるんだー。」となぜかノリノリで?繋げに向かった。
その間に、店の中を散策する。
先ほど、見たのと同じような水晶らしい風貌の球体が鎮座している。
これらの球体はスキルである。体から取り出すとこのような形なのだ。
そして、それは簡単に売ったり買ったりすることができる。
物々交換も有りだが、だいたいは此処のようなスキル屋で買うのが一般的である。
にしても、ここの水晶の色、面白いな........
どうやったら、こんな色になるんだ?
そんなことを考えて回っていると壁に書きかけらしい地図がかかっていた。
「なぁ、カナデ。この地図はどこのなんだ?」
その声にカナデが振り返る。
「あー、えっと。ここの森ですよ。と言っても今店のあたりしか書けてないんですよ。しかもお金かけてそれだけ。ひどいでしょ?」と笑って、調整に戻った。
なんか、お礼がてらできないだろうか…。
でも、今から外に出て書くのもなんだし…。
と思っていたら、俺の後ろポッケから紙が落ちた。
ってさっきまで書いていた森の地図じゃん。
こんな奴いらな........くない。と破ろうとしていた手を戻し、壁にかかっている地図と見比べた。
偶然にも、俺が書いた部分は壁の地図に書かれていなく、壁のに書かれている部分は俺のには書いていないところだった。
そのあとは無我夢中で、お互いを書き写していった。
それが終わった時、
「終わりました?」と横から声が........。
「って、うわぁ⁉ 驚かすなよ!!!!」本気で心臓が止まると思った。
そういう俺に対して苦笑いするカナデ。
「にしても、凄いですね。地図作れるんですね。」と本気で感心している。
そして、「繋げたので帰れますよ。」と言って入ってきたのとは違う戸を指した。
その扉を開けると、見慣れたハーメルンの街並みが広がっていた。
「本気で助かった‼ありがとな。」
「いえいえ、こちらこそです。そうだ。お礼にこれ、持っていってください。」と言って、いちばん近くにあった球体を押し付けてきた。
「良いよ。道案内のお礼に書いただけだし…。お礼にお礼だと終わらないじゃんか…」
「ムウ… なら、入店記念でいかがですか?無料で」と言って押し付けた。
こうなると貰わざるおえない
「分かったよ。貰う…が、最後に一つだけ聞かせてくれ。こいつもそうだが、何で虹色の球体が多いんだ? もちろん、言いたくなかったら言わなくていいけど。」と尋ねる。
どうも答えたくなかったのか、答えにくかったのか。押し黙ってしまった。
「スキルの影響だとだけ言っておきます。」
「そうか。そんじゃ、色々ありがとな、裏スキル屋さん?」と言って玄関先の階段を降りる。
降りた後振り返ると、カナデが驚愕の顔をしていた。
「『相手に厳しく、自分に優しく』頑張れよ。じゃあな。」そう言って、俺は店を離れた。
この世界のゲームのスキルの色は2つだけ。ノーマルの白銀とレアの金のみ、なのに何故、彼女のスキルは虹色だったのだろうか?
手に持ったままの球を見て改めて考えたが分からなかった。
そういえば、ネットでスキルを売っている、『自称』超人気バイヤーさんがいるんだけど........。
その人の売り物スキルは一般的な二色ではあるのだが........。
その人のHPのアイキャッチやバナー、Twitterのヘッダーに水晶がよく映っているんだけど、確かそれ、虹色だったような........。
しかも、確かそのバイヤーの名前が…シブ、だったかな?
シブって、英語でsieve って書くと千石・千石通しっていう意味になるんだよね........。
これ偶然?多分違うよねwww じゃあ、このもらったスキルどうしよう?
多分、滅茶苦茶すごいやつだね。
こんなのもらってもよかったのだろうか?
「『相手に厳しく、自分に優しく』か。親父の言葉、初めて役に立ったかも」そんなことを思いつつ、姉達との待ち合わせ場所に向かった。
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