第4話 弟と彼の彼女と自宅訪問

 はぁ~、また詰みました。

 どうしましょ、これ。どっから手を付けたらいいの?


 ひとまず、今回のクエのターゲットになっていた大蛇は二匹。

 だけど、私が倒したのは一匹だけ。なのに何でか、クリアということになっていた。

 何でかな?


 そんなことを考えていたら、何かの音がしたような気がした。

 が、後ろを見ても、前を見ても何にもない。

 なので、改めて考えを巡らしていた。


 何かに集中すると周りが全く見えなくなってしまうのが、私の昔からの悪い癖だ。

 しかも、その見えなくなったり、見えていたりしても素通りしてしまうものこそが大切な物事であるという場合が大半だったりする。


 残念ながら、今もその謎天然スキル(?)が発動していた。


「おーい、見えてるだろうが、無視すんなや。」と横から声がした。

『何よ、ポンコツ。』と言いそうになって寸でのところで止めた。

 聞いたことがある声であるが、ポンコツもとい湊翔、すなわちハウンの声ではなかった。似ているが違う。

 彼は根っからの東京民で、変な関西弁は使わない。


 となると?

 私の知り合いで、関西弁を多用していて、男性、おまけに私にタメ語を使う人物。そして、この世界に出入りしていて、この場にいても可笑しくなく、湊翔ではない。

 となると、一人しか思いつかない。


「何よ。杜和とわ........じゃなくて、エーチ。」

「言い直そうとしても、無駄だし。」とすぐ隣に立って、私の失敗を笑っている優男に見えるが、性格を鑑みるとそう簡単にも言えない。


 黒髪の癖毛に翡翠のような濃い緑色の瞳を持っている、幼さが残っていてあどけない少年のように見える、成人男性のアバターがいた。


「んー、いやぁ。ちょっと、仕事の帰りでさ。近くでバトル音したからさー。ちょっと覗きに来たわけ。そしたら、最強魔術師さんと貴族兵隊長さんがいるから、ご挨拶をと思ってね。」とヘラヘラとした笑い顔でそう抜かす。

「ああー、そうですか。それはそれは、ご挨拶ご苦労様でございました。さっさと消えて。」

「おいおい、最後に本音出てるから。」とこちらも笑いながら会話に入ってきたのが、ハウン。


 なんで、皆様笑うのですか。今、私は頭が痛いのです。なので、面倒臭い男子コンビの相手をしたくはないのですがね。

 と思いながら、エーチの服装を見ていて気が付いた。いつもは、アイテムボックスに入れてあるはずの彼の相棒ー【ソンブルダガー】が腰のベルトに掛けられたままであるということに。


「ねぇ、杜和。あんた、なんか化け物と戦ったの?」

「えっ?あぁ、まぁ。」

「それ、どういうやつ?もしかしてだけど........いや、もしかしなくてもか。青色の大蛇でしょ。」

「おっ、おう。そうだけど……。なんで分かった?」困惑を隠せていない。

「まぁ、そこは、ギルド職員ということで許して。」

「いや、ギルドというよりかは、会社のメンバーというところが大きいんじゃねぇの?あいつ見たことないやつだったしよ。」と頭を掻きながら答える。


 うぐ。。。

 そうじゃないと答えられないのが痛いところだが……。

「その怪物の死体とか今ある?もしかして、結葵ゆきちゃんとかが解体とかしちゃったりしてる?」

 そんな、一見関係なさそうなことを確認する。

 関係なさそうに見えるかもだが、実はとても大事なことだ。


 どうも、蛇はアイテムになる部分以外はそのまま残るようであった。

 そのことを連絡すると、その体を解析しようという声が、会社内で出て来た。

 故に、あとで奴らの死骸をゲーム内にある会社の施設に搬送しないといけなくなったのだが、うっかりでも解体などをされてしまうと、こちらの予定が壊れてしまうからである。


「んー、それならたぶん大丈夫。結葵が一応姉貴に連絡入れて見てからって言ってたから。でも、俺が今会ってるのあいつらも知ってるし、まだしてないと思う。」

「なら、いいけど。今から死体もらってもいい?」

「おう、もちろん。」


 そういうことで、死体を手に入れるために彼の仲間の所へ向かいます。

 そういえば、あんまり話したくなかったから省いていたけど、今私と湊翔を先導している黒髪アバターについて詳しく言ってなかったっけ。(なんで湊翔もいるのかは知らないけど)


 彼のこちらの名前は【エーチ・アビシシア】といいます。

 ロシア語で「永遠の」を表すヴエーチヌイーという単語と「約束」を表すアビシシアーニイという単語を文字ったらしいです。

 ロシア語?っということで、ピンと来た人は凄い。

 実は、彼は私の実の弟です。本名を円満井 杜和ままい とわ。私とは三つ差になります。

 彼の、この世界での仕事は暗殺屋です。ちょっと恐ろしいかな?けど、こちらではいたって普通のお仕事なんです。

 まぁ、それも彼のスキルと、スタート地点とその他もろもろが関係しているらしい。知らん。


 そして、もう一人重要な子がおりましてね。それが、先ほども出てきた結葵ちゃんね。

 どういう子なのかというと........

「あ、どうもこんにちは、望さん、天城さん。」と声をかけてくれた。

 いつの間にか着いていたらしい。


 今ほど声をかけてくれたのが結葵ちゃんのアバター、【ララ・エウぺ】。

 確か、スワヒリ語で寝ると白っていう意味の単語だったっけ?

 その名の通り、髪が白色なのよ。湊翔と同じ。そして、瞳は杜和よりも薄めの緑。

 今は、エーチの相方として情報収集役やターゲット以外の人の撃退役などをしているのだとか、結構有能な万能ちゃんなんです。


 それは現実でも同じで、優秀極まりないのです。

 合歓川 結葵ねむかわ ゆき、杜和の高校生時代からの彼女で私とも仲良くしてくれている。可愛い義理の妹(になるはずの人物)だ。

 しかし、彼女の家も、私たちの家もそれぞれが相当闇というか、重荷というかそういうものを背負っている。

 だからこそ、私たちがセットなのかも。


 そう思い、死体をマジックボックスに入れて回収し、次の週末に二人が私の家に来るということを約束し、その他諸々の仕事を終え、現実世界でも仕事に追われてすぐに七日が過ぎていった。


 ---------------

【一週間後/現実にて】


 ピンポーン!!!!


 私以外の人物がおらず、奥の部屋で仕事をしていたらいつの間にか寝落ちしてしまっていた。

 ということで、何の準備もしていなかった我が家に弟とその彼女を迎え入れてしまうことと相成ってしまった……。

 とか言っても、生活感があまりないおかげで、それほど散らかっているという風に見えないのが救いかな。


 玄関に急いでいき、ドアを開ける。

「いらっしゃーい。少し散らかってるけど。どうぞ。」

「姉貴の部屋は生活感がなさすぎだから、少しぐらい散らかっている方がいいよ。」相も変わらず減らず口を叩く茶髪にアバターと同じような緑色の瞳という外見の弟。

 その隣で、愛想笑いの結葵ちゃん。彼女は、肩ほどの黒髪と神秘的な紫紺の眸の持ち主。

 相変わらず少し無表情ぎみだが、相変わらず可愛い。のろけは置いておこう。


「まぁ、変わらずの杜和は入れなくてもいいかな。結葵ちゃんとGLしますー。」

「GL?なんだそれ?もしかして百合のこと言ってるの?」

「だったら何よ。あんたに関係ないでしょ。結葵ちゃん行こ。」

「じゃあねー、杜和。」と笑う結葵ちゃんを引き連れて中に入る。

 杜和さん、アワアワしてる。こっちもこっちで可愛いね。とか思いながら扉を閉じる。


 が、5秒くらいですぐに開ける。

 さすがにいたずらは良心を少し病む。

 とかとかこつけておいたが、本当は結葵ちゃんに言われたからであるけど、

 なんか、杜和絡みで報告があるとかなんだとか。


 実は、訪問に来ると言われた時もなんで来るのか詳しく聞かなかったんだよね。

 あのモンスターたちのせいでね、今あいつらは専門的は分析が行われているんでしょうね。これについては専門外なので分かりません。


 それに、あの事件のおかげでデバック班は大変だったんだよね。

 一応関係はないということになっているけど、どこで関係あるのか分からないから一応ということで、三大都市とその他に存在しているアバター所有の領地に貼ってあるバリアを欠陥がないか見直して、一応貼り直して、強化していた。

 三大都市はバリアの面積が多いので徹夜で二日かかった。あと、アバターの領地は面積は少ないが母体数が異様に多いので非常に疲れた。

 そして、それらが全部終わったのが先ほどの土曜の朝5時です。

 今は、それから二時間後です。眠たいです。


「えー、で。本日の御用は何でしょうか?」

「えーと、この度、正式に結婚を見据えた交際を開始することとなりました!」と杜和が嬉々と報告する。

「おー、それはそれはおめでとう。やっと結葵ちゃんのお父さんが許してくれたの?」

「ええ、そうですね。兄はだいぶ前に認めてくれていたのですがね。父としては、娘の将来をともにする相手をちゃんと見極めたかったようです。」

「まぁ、そうでしょうね。親からしたらそれは大切だよね。私も、結葵ちゃんだから厄介な弟を任せられているからね。」

 といつも思っていることが口からこぼれてしまった。


 驚いて、目を見開いている結葵ちゃんとそれをはたから見て微笑んでいる杜和。

 いいね。

 こういうありふれているけど、愛に満ちている風景を

 

 そんなこと今言っても埒空かないけどね。

 でも........

 やっぱりいてほしかったな。


 あー、やばい。

 眼が熱い……。

 けど、今はちょっとなー。

 一区切りつけてからにしよう。よし。 

 何かが伝ってきそうだったので、少し上を向けていた視線を前の二人に改めて合わせる。

 そして、結葵ちゃんに向かって膝をつく。そして、


「改めて、杜和のこといつもありがとう。これからも姉弟ともどもお世話になります。」といって首を垂れる。

「いえっ!こちらこそお願いします!」こちらも合わせたように垂れる。


 その後、慌てて私の顔をあげさせようとする結葵ちゃん。

 気持ちは嬉しいけど、今はちょっと無理……。

 泣き顔を人には見せれないから。

 ふたりの関係の進展が嬉しいのと、今両親がいないのと、その他諸々の様々なことが混ざって、ごちゃごちゃになって、頬を伝っていく。


 そのことに気付いた杜和が結葵ちゃんを宥める。

 こういうところが嫌い。

 普段は気が利かないくせに、こういうところは効くんだよ。

 湊翔もそうだけど……。なんで……。

 また、泣きそう。


 二人のおかげで少しだけ生活感が出た部屋に私の情けない嗚咽が響く。

 そして、それを見守ってくれる人がいる。それだけで今は十分だよ。


 そう、その時は思っていた……。



 暫くしてようやく落ち着いた私。

「うん、ゴメン。うん、いろいろゴメン。」泣き腫らして赤くなっている目を隠しつつ謝る。

「大丈夫だよ。それに、それはしゃあない。」

「うん、私もすみませんでした。」と、結葵ちゃんがシュンとする。


 結葵ちゃんが悪いわけじゃないのに……。

 どうやって機嫌を直してもらおうと思考していると、誰かのスマホが鳴った。


 直ぐに、杜和と結葵ちゃんがそれぞれのスマホを確認したが違うようだった。

 ということは私か。

 どっちだろ。会社用?それともプライベート用?

 そう思いながら、カウンターキッチンのカウンター席においてある二台のスマホを見に行く。

 鳴っていたのはプライベート用だったので仕事ではないと安心したが、相手をみて怪訝に思った。


蓮花れんか?どうかしたのかな?仕事だったらもう一つの方に掛けるよね。たぶん……。」


 今の電話をかけてきたのは会社の同僚でCG担当のプログラマーの一人、青天日 蓮花たばため れんかという。

 歳は私よりも二つ下で、蒼の髪と双眸を持つクールビューティさんだ。


 少し不安なまま彼女からの電話を取る。


「もしもし?蓮花?」

「望ちゃん?ごめんね。お休みなのに、それに朝まで仕事してたのに。」

「あー、それはまぁ........あんまり気にしないで。何があったの?なんかミスあったの?CGと合わなくなっちゃった?」

「あー、そういうことじゃないけど……。ある種そういう問題よりも厄介なことが起こった。」


 そのことで、ピンと来た。

「もしかして、」と別に聞こえていても二人なら問題ないけど、声を潜めて聞く。

「残念ながら……。」と声のトーンで分かるほど本当にがっかりしている。

 確かに、あれの繰り返しなら大変。

 でも、彼女の落ち込み具合からして単にそれだけじゃないような気がした。


 となると?

 ........まさか……。

「そう、あたり。」

「ああー、そりゃ大変だわ。実体験こみで。」

「だよねー。」


 彼女はゲーム内では、【シアン・ノイロビ】という名で、三大都市の一つーハーメルンにあるギルドで受付嬢をしているのだ。


「そいつらって…また、蛇?」

 それを言ったとき、杜和と結葵ちゃんの二人が何かに感づいたらしく、そそくさと帰る準備をしながら、こちらに聞き耳を立てているのが分かった。


「違う、違う。今度は蛇じゃない、亀。」

「亀⁉」驚きすぎて声が裏返ったわ。

「そうなの。ともかく、前の事案を体験している人から助言もらいたくて。」

「あー、分かった。ゲーム内で良い?用意出来たらハーメルンの所に行く。」

「了解です。あまり急がなくていいので、場所は分かってるので。」

「そうなの?でも、善は急げっていうから出来るだけ早くする。」

「分かった。待ってる。」

 そう言って電話を切る。


 これからの行動をイメージしていると、後ろから肩を触れられた。

「わっ!?なに?って、杜和か……。驚かせないでよ。」

「あー、ごめんごめん。なんかあった感じ?」

「まぁね。」

「それ、先週の蛇と関係あるんだろ?」

「多分ね。まだ詳しいことは分かってないけど。」

「ふーん?それで、また倒しに行くの?」

「そのつもりだけど?それくらいしかできないし、私。」


 それを言うと大げさに溜息を吐く。そして、後ろの結葵ちゃんと目配せして頷いて........何してるの?


「望さん、もし邪魔じゃなかったら、私と杜和君も行ってもいいですか?」

「えっ!?べ…別にいいけど?でも、なんで?」

「姉貴、相変わらず感悪すぎ。俺らも一応、蛇と応戦してるんだぜ?姉貴たちがまだ気づけてない何かを見つけられてるかもじゃん。」

「あっ。そっか!」そうだった........。忘れてた。


「それに........なんでも一人で背負うな。今は俺らとか、ほかにも頼れそうな人いんだから。」と言いつつ、いつの間にか靴を履いて、家にー二人が同棲しているマンションに、行こうとしている。二人が全力で走ったら十分くらいで部屋に着きそうな距離だが。


 ふたりが言わんとしていることは分かるし、有り難い。

 でも、私は素直ではない。


「もー、勝手にしろ!この馬鹿ども!」そう怒鳴りつける。

 それを受けて二人が走り出す。笑顔で

 それを見てから、二人の後ろ姿に向かって

「今から三十分間は待つ!それまでにギルドに来い!来なかったら一人でハーメルンに行く!」とまた怒鳴る。

 それを受けて杜和が手を挙げた。


 もし、三十分以上たってもあの子たちは来る。

 それを分かっているうえで、行先まで言ってしまう私は二人に甘えているのだろうか?


 それは、それでいい事なのかもしれない。

 昔の私と比べたら。

 さて、サクッと朝ごはん食べて、ダイブして二人を待ちますか。


 また、未知のモンスターと対峙しないといけないのに、さっき会った二人にゲーム内で会うということの方が嬉しすぎで、楽しみで、こちら側のろくに長くない髪を結って、八分丈のシャツの袖を捲って鼻歌で『CHE.R.RY』を歌っていた。

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