二章 未知モンスター事件

ヨルムンガンド編

第3話 未知のモンスター、討伐しますか

 未知のモンスターさんよ?

 大人しく力開放しないで、ローランド達にやられてほしかったな。

 そうだったら、なぜかここらへんで一番強い魔術師とかとされている私が出なくてもよかったわけよ。

 何でそんなこと言われているのかは心当たりあるけどさ。


 あー、まぁ確かに?ローランドたちがやられてしまったんなら、だいたいのチームじゃ歯が立たないもんね。

 でも、だからって私に頼むか?


 うー、ギルド職員としては、街に被害出したくないし。運営者としては、なぜこんなことになったのか調べないといけないし。魔術師としては、モンスター倒して経験値やスキルやレアアイテムがもらえるかもだから、結果としては未知モンスター倒さないといけないんだけど!


 っていうかそもそもの話、モンスターどっから湧いた?


 ゲーム内にある三大都市ー賢神グローリーを祀っている、魔法使いの街:【オデッセア】、大地母神ナイルを祀る、生産の街:【ハーメルン】、そして、武神ガイストを祀る、戦士系キャラクターのスタート地点:【ブリュナーク】。


 この三つの都市は多くの人が集まるため野生の魔物たちが入ってこられないようバリアを張ってあるのだが……。

 それを壊した?もしくは、街の内部に外とつながるゲートができた?

 どっちにしても一大事なんだが。

 特にデバックのリーダーをさせてもらってるので、責任追及とかが……。

 嫌だなぁ。


 と悶々と考えていて、横にいた二人のことをほったらかしにしていた。


「えっと、ソーンちゃん。やってくれる?」とアスナ。

「あー、えっと……。別にやってもいいんだけど。っていうかやらないといけないんだけど。私そのモンスター見てないから、どうしたらいいのか分からないし……。ひとまず、本部に連絡してからかなー。」と決定を先延ばしにしかけていた所、運悪く?現実世界から連絡が……。


 ピロン!!

 目の前にポップアップ画面が現れ、スマホに着信があったことを知らせる。


 相手を見ると、今一番話したくない人物ー足立 大誠だった。

 でも、出ないのもなんだし、ということで、

「ごめん、ちょっと本部から電話……。」と二人に告げ、右耳のあたりを叩く。

 これで、一時的にゲームの世界から脱却し、スマホの音声をつなげる。


「もしもし?足立さん?円満井です。」

「あー、望ちゃん。よかった出てくれて。」

「こんにちは。」

「あのさ、今から本社来れる?」

「何かあったんですか?って聞くのは野暮ですね。オデッセアの未知モンスター騒ぎのことですよね。」

「うん。そうそう、さすが耳が早い。」

「すいません。チーフなのに、すぐ対処できなくて……。たぶんどこかバリアとかに欠陥があってそこから来たんだと思うのですが……。」

「いや、そんなことはないよ。ちゃんとバリアは機能してた。だから、望ちゃんたちのせいじゃない。」

「だといいのですが……。じゃあ、どうして?」

「それが、今のところ分かんないんだよなー。一先ず、その化け物倒さないといけないね。」


 この人が何を言わんとしているのかは分かった。

 結果、ローランドたちが言っていることをしないといけない、ということだが。

 これで、役に立てるのなら、やってやろうじゃん?

 塞翁が馬とも言いますじゃん?

 もしかしたら、ピンチがチャンスになるかもだし!


「分かりました。やって来ます。今どこにいるのか具体的な場所はわかりますか?」

「ゴメン、それが分からないんだ。パスディーナ大深林の方向に向かったとしか……。」

「ああ、そうですか。こちらの友人から聞いた話だと、北のエルミナ大森林の方へ向かったと。あと、スピードを鑑みると今は、ロワール渓谷のあたりなのではないかと……。」

「ロワール渓谷か……。」

「はい。今からでも、ロワール渓谷系のダンジョン及びクエストを一時的に中止させて、本格的に討伐したほうがいいかと。」

「そうだね……。急募で、街に要員を集めさせよう。」

「お願いします。私も魔術師として向かいます。」

「了解。宜しくね。最強魔術師さん♪」

「がんばりまーす。それでは失礼いたします。」


 割と穏便に電話を終えることができた。

 会話に出てきたパスディーナ大深林について少し補足しておくと、

 私がいる街:オデッセアの周りは森に囲まれている。ほんとに森しかない。

 その囲んでいる森全体のことをパスディーナ大森林という。

 その中で、街の北にあるのがエルミナ大森林と呼ばれている。

 それで今からそこに向かいます……。



 にしても、いつ着きますかね? ロワール渓谷!!

 私はいつもワープ魔法でいろんなところ行ってるから、歩いていくとこんだけ時間がかかるとか忘れてた……。


 ただいま足立さんからの電話が終わってから早二時間........もう少しで三時間か。だいぶかかるね。ワープでも時間かかるけどさ……。



 電話が終わり、討伐に行くという旨をアスナたちに伝えたら、いつの間に準備されていたのか。

 私ご用達の魔道具たちが、受付の所に鎮座してたし。

 まだ動ける人たちでご用意された、私用の護衛隊。

 あと極め付きは、王都から派遣された貴族兵。


 えっと、本当は魔道具以外はあまりいらなかったんだけど、断るのもなんだったので、受け入れたら滅茶苦茶時間がかかってます。


『エルミナ大森林は足場が滅茶苦茶悪いし、木々が光を遮っているところがほとんどなので暗いですし、道は細いから、こんな大人数で動くのには不向きなんですが。』

 ってちゃんと注意喚起したのにさ、何で連れてきた貴族兵全員動員させちゃったのよ。このポンコツ! と思ってみていたのがばれた。


「さっきから凄く僕のことを睨むけど、何かあった?」

「何があったのって白切るつもり?あんたのせいでしょ。こんなに時間がかかっているのは!」

「www、そうだね……。君がちゃんと忠告してくれてたのに無視したからだもんね。」とにこやかに微笑みながら頭を搔くのは、王都から来た貴族兵を率いている白髪・碧眼の隊長さん【ハウン・シャトー】。


 こちらの世界では今回が初共演?であるが、現実では意外と長い付き合いである。

 彼の本名は、天城 湊翔あまぎ みなと


 今は、このゲームにダイブする際に必要不可欠な道具ー電脳モジュール『リアライザー』を製造・販売している会社にて勤務している。

 おまけ程度に言っておくが、このポンコツとは、大学時代に同じ授業を取っていたことがある。大学時代の同級生だ。

 時々ではあるが、よく一緒に居酒屋に行っている。どちらもお酒が好きだし、話しているといい刺激になるためだ。よく会っているため、周りから『恋人か』『付き合っているのか』などと言われることが多いが、断じてそんなことはない。誰がこんな奴の彼女になんかなるものか。一緒にいて居心地がいいのは認めるが、それ以上の感覚はない。友人以上恋人未満、そんな今の関係性のままが一番いい。



 と考えつつ自分の薄紫のロングヘアーを束ね、着ている黒を基調としたローブの中に押し込む、そして、フードを深々と被った。見えているのは紫がかった青の瞳だけだろう。

 しばらく歩くと、うっそうとしていた森が開け、下に大きく切りだった谷が見えた。その底に、何やら緑色の物体がうようよしていて.......。


「「って、蛇⁉」」


 ハウンとはもってしまった。

 にしても、蛇かー……。 私爬虫類嫌いなんだけど。

 しかも、蛇というのに滅茶苦茶デカい!!!!

 気持ち悪い……。でも、しっぽ一振りで、人何人も払えちゃうもんな……。

 それに鱗もまあまあ硬いんじゃないの?


 なんか弱点ないのか。よし、【万能鑑定眼】で見てみよう。

【アングイス:毒蛇 大いなる精霊:ヨルムンガンドの手下。

 弱点:視力があまり良くない(元々視力は良くなく、正面60度ほどしか見えていない)→後ろから近づき、首を抑え動けなくするのが効果的】


 視力はあまり良くないのか。これは好都合。

 だけどさ、抑えれないから!デカすぎなのこの蛇。

 さすがはヨルムンガンドの手下ということですが……。

 うん?ヨルムンガンドって誰かって?

 えーと確か……。........忘れた。貴族兵隊長さんに聞いてみよう。


「ねぇ、ハウン。」

「はい。」何か、悪いことを言わんとしていると思ったのだろう身構える、彼。

「ヨルムンガンドってなんだったっけ?」と問い、顔を見上げる。

「へっ⁉ヨルムンガンドってそりゃあ……。忘れた。」

「あんたも?」

「ごめん。」

「別にいいけど。 って思いだした。この国ーワーディス王国を代表するってことになってる怪物じゃん。」

「あー、毒蛇のね!」

「そうだそうだ。」


 で、どうやってこいつ倒そう。

【あと、ヘビは目が弱い代わりに嗅覚が優れているので、ニオイのきついものを身体にぶっかけると悶絶するかも】とスキルが言っている。


 ........なるほど?

 匂いが強いものか。

「へい、ハウン。何か匂いが強くてあいつにぶっかけられるものない?」

「『hey,siri』みたいな感覚で呼ぶな。匂いが強いもの?うーん、そういえば、なぜか知らないけど、荷物の中に匂いが強すぎる香辛料がたくさんあった気がする……。」


 それを聞いた途端、ほおが緩んでしまった。

「それ使ってもいい?」

「良いけど、なんでにやけてんだ。」

「ふふん!あいつを倒す糸口を発見したからだよ。」

「ならお任せしますわ。最強魔法使いさま。」

「私、今日それ何回聞かないといけないんだろ。」


 それはひとまず置いておいて、さっさと倒すぞー!

 貴族兵が大きな樽を蛇の上の崖のふちに設置している。

 それを、私が合図したら、一気に倒して怪物を悶絶させて、私が魔法で仕留めるという算段だ。


 全部の樽をセッチングし終えたらしく、連絡係が合図を送る。

 それを見て、樽を倒していいとの合図を送る。

 それをみて、全部の樽を倒しにかかる貴族兵及び護衛用冒険者たち。


 次々と蛇に向かって中身を落としていく樽。

 その樽の数が増えていくごとに、奇妙すぎる声が谷底から聞こえてくるという始末。

 しかも、その鳴き声が爆音すぎる。

 早めに終わらしたい。


 最後の樽を倒しにかかっている間、私は地面に魔方陣を描いてた。

「何してんだ?お前なら、そんなもんに頼らなくても倒せるだろ?まぁ、デカいけど。」

「普通ならそうかも。でも、今回相手にするのは未知のモンスターだからね、一応予防線張っておこうかなと。」

「ふーん、そんでどんな魔方陣書いてるわけよ?」

「魔法に精通していない人に言ってもチンプンカンプンだろうから言わない。まぁ、見てなって。」


 そう言って、最後の樽から真っ赤の、いかにも辛そうな液体をぶっかけられて悶絶する大蛇に向かって崖から落下する。普通ならば死にますわな。

 でも、魔術師は死にませんwww


 無事、崖の底に到着。

 悶えている蛇。こいつの首を捕まえるのね……。

 取り押さえるといた方がいいのか?

 まぁ、早く倒そう。


「【ピーラー・アイス】」と小声でつぶやく。

 すると、空から蛇の首を刺すように、大きな氷柱が降って来た。

 そのまま、蛇の首に刺さり、あたりを深紅の血が降る。


 このまま動かなくなったらいいのだが……。

 そう簡単にもいかないか。


 シャーアー


 と、悲鳴に比べたら小さいがまだ鼓膜が割れんばかりの威嚇を見せる。

 身体もそれに合わせて大幅に揺らす。


「さすが、未知モンスターさん。強いね。こっからはこちらも本気で行かせていただきますか。」そう言い、右手から魔道具で私の相棒のスピアを呼び出す。


 そして、その矛先を蛇に向け、横っ腹の適当な部分に刺す。

 が、皮が随分と厚いらしく全然刺さらない。


「よいしょっと、刺さってクレー。刺さってくれないと私死ぬからー。」とかと言っていながら、手の色が変わるほど力を入れていると、刺さりました。


「おー、刺さった。良かった良かった。それでは、【アイス・バーン】」

 次の瞬間、蛇の氷漬けが完成しました。

 刺した槍を通して内部にまで魔力流し込んでるからね。只今、絶賛カチコチよ。



「それではトドメ?と打たせていただきましょうか。」

 一応、考えていたやつがあったんだけど、それは皮の硬さでちょっと問題かもだから。

 どうしようかな……。

 に致すか。蛇って焼いたらおいしいのかな?

 まぁ、それはどうでもいいけど、焼いて氷一旦溶かして、皮も焼いちゃお。


 刺していた槍を抜き、数歩下がる。


 パチン。

「【フレイム・バレット】」指を鳴らして魔法発動。

 勢いで風が出てきて顔に髪がまとわりつく。避けて大蛇-アングイスの方を見ると、煌々と燃えていた。

 はいはい、焼き蛇完成。

 でも確か、蛇って首切らないといけないんだったけ?

 忘れたけど一応切っとこうか。切らなかったら復活するとかだったら嫌だし。


 ……。

 炎の中に向かって空から魔法放ってお終いにするか。

 ということで、棒高跳びタイム!

 愛用のスピアを使って........


 えいしょっと!!!!

 空への浮上成功。落ちる前に首切ろう。体を反転してっと……。

「【ウィンド・スライサー】」

 炎の中に向かって、予備も含めて三発発動させる。

 炎の中で、何かが、切れたような音がした。

 多分........倒せた。


 もし倒せてなくても、周りにいる貴族兵たちや冒険者たちでどうにかできるでしょ。

 私は退散するぞ。

「【ワープ】」


 先ほど、魔方陣を描いていたところまで戻ってきた。

「おー、お疲れ。大活躍だったな。」

「まあね。でも、さすがに疲れた。魔力補給してはいたけどさ。」

「そうなのか?特に何もしてなかったと思うが?」

「一応予防線は貼ってあるよ?」

「予防線って言ったら、その魔方陣しか書いてなかったと思うけど?」

「そう、これだけ。だけど、二つの役割を持ってたってわけ。」

「一つ目が、避難込みのワープ魔法。二つ目は、回復キュア系魔法ってわけだね?」

「そう、当たり。」

「にしても、やっぱりスゲーわ。全属性の魔法が使えるスキルを持ってるのって。」

「あー、まあねぇ。なんでこんなスキル、もらえたのだろう?」


 私が最強の魔法使いだと言われている所以は、今話題に上がっているスキルにある。

【SA-属性魔法・全】私が持っているスキルの一つだ。

 この世界の魔法系スキルは、属性ごとに分かれている。

 例えば【属性魔法・光】というスキルがあるが、それは光属性の魔法しか使えない。

 他の属性の魔法は使えないのだ。それが、この世界での常識。


 しかし、それを覆しているのがこのスキル。

 何と全属性の魔法を使えることが可能なのだ。

 そのレアリティーは1/1。 つまり、私だけが持っているスキル。

 まぁ、お陰様で先ほどのような戦い方が可能なのですが。

 私のもう一つの戦闘系スキル【槍術】と合わせたら最強だよ。


 等と考えていたら、音ともにポップアップ画面が出てきた。


【Quest Clear エルミナ大森林の大蛇オロチを退治せよ

  戦利品:

 【SA-古代魔術知識】失われた古代魔術を使用することができる。

 【呪いの杖】蛇のモチーフがあしらわれている魔法杖

   その他 詳細はアイテム欄へ

 】


 なにこれ、これクエストだったの⁉

 知らないよ。けど、なんかもらえたけど。


 ポップアップ画面に出ている二つはレアスキルとレアアイテムだ。

 それ以外を確認すると、あんまりどうでもいい感じのアイテムばかり。

 この二つは一先ずキープで、それ以外は街に帰ったら売るか、【ヨル観】の取引場所にあげるかだな。


【ヨル観】とは正式名称を【ヨルムンガンド観光協会】というインターネット上にある情報サイトの一つ。各種掲示板だけでなく、スキル考察やクエスト考察、アイテムデータなどの情報が多く集まっている。

 ほとんどのユーザーが使ってるんじゃないかな?


 まぁ、ともかくクエストクリアだからな。

 帰ってもいいよね?

 そう思っていると、またポップアップ画面が……。

 今度は何?と思ったらアスナからの連絡だった。

 通話というボタンを押すと、アスナのホログラムが目の前に現れた。


『ヤッホー。ソーンちゃん。どうだったかな?倒せた?』

「えっ、うん。つつがなく。緑色の蛇でしょ?ばっちり倒したよ!」

『そっかー。良かった。って、え?ソーンちゃん、緑の方しか倒さなかったの?』

「うん?緑の方って緑のデカ蛇しかいなかったけど?」

『あっ、あれ?おかしいな……。二匹セットだと思ってたんだけど……。』

「ちょい待て!蛇型の未知の怪物って何匹いたの?」

 不穏な話の流れに、冷や汗が出てきた。


『二匹だよ。緑色のと青色のと』とアスナは言った。


 マジで?なんでそんな大事なこと最初に言ってくれなかったの?

 でも、だったら何でクエストクリアしたことになったの?

 あー、もう謎だらけやん!!!!


 後ろから聞こえる足音に望たちは気づかなかったのだった。


 これから、この謎のクエストとその戦利品が絡む、私たちの夏の大冒険が始まることになるとは、この時はみじんも思いもしなかったが。

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