第16話 鳥風|???の熱視線2

 それで、その次の日曜日は約束通り美羽みうとデートに向かった。


(うーん、なんか悪寒が……)


 家を出る前はなんともなかったのに。

 美羽みうと出会って少ししたあたりから、背筋に嫌な汗が張り付いている。

 風邪だろうか?

 いや、どちらかというと、誰かに見られているような……。


 振り返る。

 誰かがいるわけでもないけれど。


 結局、視線の正体に気づけないまま。

 俺たちは目的地へ足を運んだ。


 向かった先は映画館。


 総額1000万円を奪い合うデスゲームに巻き込まれた主人公が、ヒロインと一緒に勝ち進み、最後は主催者を倒してハッピーエンドという内容だった。

 ざっくりと言えば。


 だけど、それより俺が気になったのは――


(なんか、女優さんみんなえっちくない?)


 俺はドラマや映画に詳しいわけじゃないけど、なんかみんなめちゃくちゃ美人。

 国を傾けることなど造作もないレベルの美女が勢ぞろいしている。


 女優だけじゃない。

 エキストラだってそうだ。

 右からべっぴんさんべっぴんさんべっぴんさん、ひとり飛ばして、べっぴんさん。

 ちなみに飛ばしたひとりは特徴のないのっぺりした顔の男性。


(なんていうか、男性が中性的になって、その分女性がより美しくなったっていうか……)


 うまく言葉にできない。もどかしい。

 もやもやがずっと頭に残っている。

 あとムラムラ。

 そんな肌を露出させたら世の男どもが発情しちゃうって。



「映画館って初めてだったけど、音響設備すごいのね」

「あはは、最初びっくりして俺の袖引っ張ってたもんね」

「んな……っ、驚いてないわよ! 袖だって、別に、ちょっとだけしか引っ張ってないし……」


 映画が終わった後は近くのカフェで感想戦を行った。

 俳優の容姿が話題に上がるのはいつかないつかなとワクワクしてた。

 だけど、美羽みうは一向にそのことについて話さない。


(あ、あれ? 俺の思い過ごし? 今の俳優さんってあんな感じがデフォルトなの?)


 そんなはずないと思うんだけどな。

 うん、やっぱり何かおかしい。


(そういえば、最近どこかで女性の美貌レベルがうんぬんって話を聞いたような気が……)


 あれはどこだったか。

 どういう話からそんな言葉を聞いたんだったか。


 何か大事な話を忘れているような――


「……ゆう? ゆう?」

「え?」

「どうかした? 怖い顔してたけど……つまんなかった、かな? アタシと一緒にいるの」

「そんなことないよ‼」


 しくった。

 変なこと考えてる場合じゃなかった。


「えと、そうだ! 最後のシーン! まさか冒頭のコメディシーンが実はシリアスな話だとは思わなかったよな」

ゆう……、うん。そうね! それに、主催者を追いつめる外連味たっぷりなセリフも――」


 難しい話はあとだ。

 今はこの瞬間を大事にしよう。



 市民大会で行われるバスケットの大会に参加してほしいとうたに頼まれたのは、もはや日課となった市役所横のバスケットコートでの夜練の休憩中のことだった。


 なんでも予定していたメンバーが骨折して、参加できなくなってしまったらしい。


 そこで白羽の矢が立ったのが俺ってわけらしい。

 なるほどね。


 市民大会って一般の部とジュニアの部でわかれてなかった?

 俺、うたのチームに入れないと思うよ?


 と聞けばどうやらうたが一般の部で参加するらしい。

 中学生ならジュニアの部でもいいのに。

 本当にバスケットが好きなんだな。


 彼女にもっと経験を積ませてあげたい。

 そんな思いから俺はふたつ返事でうなずいた。



(なんか、女子率高くね?)


 うたとチームを組むと聞いた時から男女混合のチームってのは予想していたけれど、参加メンバーの大多数が女子だった。

 俺のチームに限らず、他のチームも。


 え、これ俺が参加しても本当に大丈夫なやつ?


(……パス回しメインでゲームを進めるか)


 今日俺がここに来た目的は、未だ学校の部活でスタメンに選ばれていないうたに実戦経験を積ませるためだ。

 いかにして彼女を生かすか。

 そこに焦点をおいてゲームを展開しよう。


うたッ!」


 ゴール下でロールをしたら、ちょうどゴールの正面にうたがいた。

 低い弾道で回されたパスは、うたが受け取ると自然に膝をためた形になる魔法の一球。

 ボールを持ち直す、力をためるという動作をカットする俺の必殺技。


「打て!」


 両手打ちで放たれたシュート。

 ディフェンスがひとりもついていない完全フリー上体からの一球。

 それをうたが外すわけもなく。


「ナイッシュ」

「ん、とーぜん」


 さあ、次はディフェンスだ。


 勝つぞ、絶対――


 ――ぞくぞくぞくっ!


 うっ、まただ。またこの感覚だ。


 なんなんだ、いったい。


「お兄さん!」

「ちっ、抜かせるかよ!」


 意識の間隙を縫われ、抜かれかけた相手に片手でバックチップ。

 振り返ることなく伸ばされた腕はボールだけに触れる。

 そして、グリップの利かない外用のボールですらつかめる俺なら確実にボールを奪い取れる。


「1本、決めるぞ」


 かわいい弟子の前だ。

 醜態晒してる場合じゃない。

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