第8話 月【サークルの変態】
ドがつくレベルの変態である。
先ほどサークルの後輩の
海風がプリーツスカートを巻き上げると人生破滅しちゃうなんて状況に自らを置き、背徳感で遊ぶような上級者だった。
「あぁん……ッ、らめぇ♡ あッ♡ あッ♡」
自宅に帰って、写真を現像して。
片手には写真が握られていて、豊かな想像力の中では彼と一緒に横になっている。
妄想の中での立場はMだった。
自分一人だけ服を剥がれて、忠誠の口づけを迫られる世界に
(――ッ、だめっ、いつ妹が帰ってくるかわからないのに……)
ドがつくレベルの変態である。
だがしかし、その事実を知るのはただ一人。
両親や妹にさえ、その真実をかけらたりとも掴ませていない。
清楚で品行方正な優等生。
それこそ彼女が20年掛けて作り上げた仮面。
そして、抑圧の象徴でもあった。
「ふっぎゅぅぅぅぅぅ♡」
理想の自分を汚すのは気持ちがいい。
みんなの期待を裏切っているという実感が、
中でもこの日は特別理性が崩れていた。
「
ちょっとからかうだけのつもりだった。
だが思った通りにはいかなかった。
(濃厚雄フェロモンずるいのぉぉ♡ あんなのにあてられたらおかしくなっちゃうっ♡)
優等生としての仮面がなかったらあの場で襲っていた。
相手次第では警察沙汰になっていてもおかしくなかった。
理性が持ったのは幸運であり、不幸でもあった。
手を出してしまっていれば、今こうやって悶々とくすぶり続ける衝動に身を焦がされる必要もなかったのに。
(次の飲み会で送り狼してしまいましょうかっ♡ 確か彼、一人暮らししてるって話ですものっ♡)
恋する乙女の妄想は止まらない。
(酔っぱらって理性を失った彼を肉欲に溺れさせて、私同様に破滅の道を歩ませるっ♡ あはんっ♡ サイテーでサイアクな私っ♡)
高ぶりが最高潮を迎える。
内からほとばしる衝動に身を震わせる。
「はぁ……はぁ」
余韻が心地よい。
天にも昇るようなふわふわした気持ちで、次の一手を考える。
外堀を埋めるという言葉がある。
古い時代、敵の城を攻め落とす際には外周に作られた防衛用の堀を埋めるところから始めたことに起因する。
転じて現代では、目標を達成するために周辺からじわじわと攻略していくことを意味している。
童貞というのは一度も攻め落とされたことがない難攻不落の城だ。
対して処女は一度も攻め込んだことのない兵士。
やはり先に宣言した通り、グルチャにツーショットを投稿するのはマストだろう。
写真サークルメンバー全員を巻き込んで、自分たちが付き合っているという噂を周知の事実にしてしまうのだ。
嘘も100回つけば真実になる。
一人虚を伝うれば万人実を伝う。
入り混じった虚実というのは多数派が真実なのである。事実はしばしば虚構に飲まれる。
告白?
必要ない。
七面倒くさい工程をまるっとすっぽかして、
それが
「くすくす、一緒に転がり落ちましょう? ゆるりゆるり、と」
パソコン経由で吸い出したツーショット画像を
すぐさま既読がふたつみっつ、みっつよっつと増えていく。
・ちょっと! 集会すっぽかして何してんの⁉
・かーっ! 公衆の面前で見せつけてくれやがりますね……(怒)
・え、えぇぇ⁉ もしかしてこよみ先輩と
反応ににやにやが止まらない。
だが、ここではあえて付き合っているとは言わない。
目的は彼女自身が喧伝することではなく、周囲が「あの二人もう付き合ってるだろ」と認識すること。
それまでは虎視眈々と機をうかがい続ける。
『うふふ、そんな関係じゃありませんわ。ただ
・な……名前呼び⁉
・やっぱり付き合ってるじゃねえか!
・ヒューヒュー
・ちょ、違いますからね⁉ こよみ先輩も! あんまり勘違いさせるような言い方しないでください!
最新のリプライは意中の相手からだった。
もう少し誤解を広めたかったのに、残念だ。
残念で残念で仕方ない。
だから、誤解を加速させよう。
『ムキになるところが怪しい』
・なんで先輩がそっち側なんですか⁉
(ああ、もう、本当にかわいいなぁ)
湿った指を下唇にはわせる。
大人の色香、エロスを纏う魔性の女。
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