田舎少女のダンスは都会慣れしてない

人形さん

第1話 プロローグは簡単に。ダンスは感覚で。

 


 始まりは何の変哲もないただの一言だった。


「きみもダンスやってたの?」


 ただの帰り道。少し大きめな公園。鳴り響く音楽。突拍子もない同級生。

 何の変哲もない光景だけど、私は少しだけ期待した。もしかしたらダンスをやっているのかもって。

 だってこんな田舎にダンスをやる人なんていなくて、いつも私一人だけで踊っていた。だからダンスをやっている人に飢えていた。


 でも返答は興奮している私にとっておちょくっているのかと思ってしまうほど能天気であった。


「……だれや?」


 私の事なんてどうでもいいからyesかnoで答えてよ!


 ☆


 はぁ。

 そんなため息が出てしまうほど今日という日が嫌だった。だけど本来今日と言う日は花があるはずなのに。まるで地獄のような顔をしているけどそんなに気分が下がってしまうのはなんでなのか。今日はとある高校に入学するの。


 それならなんでため息をついているんのか? だって入学は人生の階段を一歩上がった気分になれる人生で数回しかない特別な日なのに。

 ……それは入学とはいっても転入だから。お父さんの転勤で元々通っていた高校から東京の学校に転入になっちゃって……仲良しな友達がいっぱいいたのにな〜。


 そんな風に転入初日に改めて思い出しちゃっていたりするからあまり気分が良くなかった。正直心残りも多かったし、それに友達は「東京良いな~」なんて言っていたけど、私はそこまで憧れとかなかったから。


 はぁ。


 そのため息は誰かに聞こえる事もなく、溶けて落ちていくのであった。


「海(カイ)~。もうすぐご飯だよ~!」


 すると、扉の向こうからノックと共に聞き覚えのある声で呼びかけてきた。お母さんだと思う。

 その声は優しく、さらに心地よかった。あんなお父さんがよくこんなにいい人と結婚出来たなと思ってしまうくらい良い人だと思う。


 そんなお母さんはいつもは声をかけにこないが、学校初日と言う事で呼びに来てくれた。


「は~い。今行く。」


 私は返事をして、ネガティブな気分を入れ替えながら重い体をベットから脱出させる。


「うん!」


 私は気合を入れながら着替えて、リビングに行くのであった。



 ☆


「はぁ。」


 私は学校を帰ろうとしていたとき、今朝と同じようにため息をついてしまった。それは学校があまり良さそうでは無かったから。一応東京と言う事で、綺麗な人とかネットでよく見る様な奇抜な人がいると思っていた。そんな人がいるのであれば、楽しそうと思っていたのだけど……残念な事に、そんな人はいなかった。


 皆真面目さんで髪を染めている人なんて1人もいなかった。そんな訳で、一部分に赤いメッシュを入れている私が浮いているようであった。髪を染めていい校則に最近変わったみたいだから、入れている人もいると思ってんだけどな〜。


 それに! これが一番大事なんだけど、あの学校ダンス部が無かったんだよ!


 ダンス部があると思っていたのに、どこを探してもダンス部なんて文字は書いていないし、しょうがなくクラスの人に聞いたらないって言われちゃって……。東京だからどんな高校でもダンス部があると思っていたから安心していたから結構がっかりしちゃった。


 そんな訳で、今日は想像と違う事が多くて疲れてしまったのだ。


 正直ダンスは結構やる方だから、入りたいと思っていたんだけどな~


 だって、引っ越す前の高校でもちゃんとあったんだよ!


「はぁ」


 私はまたため息をついた。だけど、ため息をついたところで何も変わらない事は良く分かっているので、気分を直して行きたい。


「よし。踊ろう。」


 帰り道ではあるが、突然ダンス欲が高まってきた。いつもならその場で踊れるほど、人気が少ないのだがここは東京。周りには沢山の人がいるので場所を考えなければいけない。だけど、今回はそこまで考える必要は無さそう。


 なぜならまだ学校の敷地内にいて、もう授業が終わっているからだ。授業は終わっているおかげで、部活動を行っている人しかおらず、さらにはその部活動を行ている生徒たちは基本的に決められた活動場所以外には行かないはずなので、場所さえ考えれば踊れる場所は作れそう。


 なので、まずは場所を考えよう。出来れば全身が移る……ガラス張りの所が良い。動きを見ながら踊った方が踊りやすいからね。それに、もし人が通りかかったとしてもすぐにわかる。


 別に人見知りと言う訳では無いが、親しくない人に自分から見せたいと思ったりはしない。


 だから、人通りが少ない場所にいきたいんだけど、どこがあるかな?

 体育館裏とかは人通りは少なそうだけどガラス張りでは無いからあまり嫌だし、校舎の裏口は多分先生とかが通りそうだし……、あ、そうだ。


 今日同じクラスの女の子から本棟から別棟にいく通路のした、ちょうど一階なんだけど、そこに何処からも見えない影になる場所があるって言っていたな~。一回見に行ってみようかな?誰かいたら直ぐに別の場所に行けばいいし。


 そう思い来た道を戻りながらその場所に行くことにした。



 ☆


 ここかな?


 私はそれっぽい一目が無い場所にこれた。初めての学校だったけど、休み時間に同じクラスの人が学校の中を案内をしてくれたのである程度目安は付いていたのでスムーズに場所は分かった。


 すると、そこには誰かいたようだ。

 ここに来るまで一切人気を感じなかったのである程度音も遮ることが出来るのかも知れない。そんな事を思いながらその男の子に目を向けた。


 何やらダンスをしているようだったので思わずではあるが興味が湧いてしまったのだ。だけど、こんな場所で踊っているということは見られたくないのだろう。それならばこのように見ているのは無礼なのかも知れないけど……少しくらいなら良い、、よね?


 そう思いながら見てみると、見間違えてはおらずその男の子はダンスをしているようであった。だけど、イヤホンで音楽を聞いているようなのでどういう曲調で踊っているのか分からない。


 ただ曲が分からなかったとしても、その体の動きには目を見張る所がある。


 一つ一つの動きが綺麗で滑らかな流水のようである。それに、なぜか分からないけど心にグッとくる感じがある……迫力があるって言えばいいのかな?私のダンスとは違った雰囲気で今すぐにでも一緒に踊りたいと思ってしまうほどであった。


 だけど今の私は盗み見と言う立場であり、男の子は集中しているので……誘う事は駄目そう。


 だけど……そんな事を思って諦めてしまっているとはいえ今すぐにでも一緒に踊りたいと思ってしまうほど体がうずうずしている。




 ……ああ。駄目だ。今すぐに踊りたい。



 ジャリ



 すると、無意識に体をうずうずさせてしまっていたみたいで丁度足の裏についてしまっていた砂がコンクリートとこすれてそれなりに大きな音を出してしまった。それはイヤホンをしているとはいえ男の子にも聞こえてしまうほどの音であった。


「え、だれ。」


 私はやってしまったと言う顔をしながら足元から顔を上げると、隠れていた私の方に顔を向けていた。残念な事にバレてしまったようだ。


 ・・・もうこうなったら誘っちゃっていいよね?


「こんにちは!私は今日転校してきた桜木 海なんですけど、今のダンス凄いカッコ良かったですよ!」

「え、あ…そっそうなんだ。」


 すると、さっきのダンスの雰囲気とは違い今は臆病な感じになってしまっている。完全に予想していた人相とは違うのだが……これなら押せば行けそう。


「それで、良ければ一緒に踊りませんか!」

「……えっと僕最近始めたばっかだからあんまりそう言うの分からないんだよね。」


 え、あのダンスで最近始めたの……

 ちょっと本当に一緒に踊りたくなってきたんだけど。


「いいよいいよ。私が教えるからさ!」

「でも……」

「もう!何か心配事でもあるの?」

「いや。よくSNSでよく見るダンスはまったく知らないから……ほら、僕のダンスを見てたなら分かるでしょ?ああいうのとはジャンルが違うから。」

「ふふふ。」


 私はその言葉に思わず微笑んでしまった。確かに、JKがよくやっているダンスはショート動画とかで流れてくる、可愛いダンスが多いもんね。それをやれと言われたって恥じらい心が勝ちそうな性格してそうだし。


「?」

「あんな素人が即興でやっているダンスなんてやらないよ。これでもダンス歴は5年なんだよ!そこら辺のJKよりも歴が長いんだからね。」


 そうダンス歴を話すと驚いた様な顔をしてくれた。多分そんなしっかりやっているとは思ってもいなかったのだろう。


「さっき君がやっていたダンスってヒップホップでしょ?それなら私も経験はあるから合わせられるよ!さあ、踊ろう!」

「……」


 流石にここまで問題が無いと何も言えないみたいだ。


「それなら音楽は決めちゃうね。」


 何も言えないようなので同意したということで、押し通してしまう事にした。少し嫌がっていそうだけど、まあ別にいいでしょ。


「ん~。何が良いかな?やっぱり、ヒップホップだとやっぱり……」

「……ごめん、やっぱり無理です。」

「え?なにかあったの?大丈夫だよ、私が合わせるから。」

「いや、1人で自由に踊るのが好きで……合わせるとか、そもそも決まった振りをするダンスはやったことが無いんです。」

「……」


 完全に予想外であった。だってあれだけ良いダンスをしているということは、それなりに経験があるものだと思っていたんだけど……ここまで拒否するとは思わなかった。それに、1人で自由に踊るって言う事は、即興って言う事でしょ?


 私、即興ってあまりやった事無いんだよね。


 皆で合わせて踊ってカッコ良く揃っていたら楽しい‼…っていう感じだったし、即興。ストリートダンスはあまり興味が無かったんだよ。


 だから、即興しかやっていないと言われても‥…どうすればいいんだろう。


 ……いいや、バトルっていう感じにすれば一緒に踊らなくていいよね?それだったら、大丈夫だと思うし。


「分かった。それならダンスバトルにしよう!それなら大丈夫でしょ?」

「……分かった。」


 しぶしぶと言う感じではあったが、今回は了承してくれた。

 あれだけ拒否してくると思わなかったから、さっきはドンドン進めちゃってけど、やっぱり先に了承を得た方が良かったんだね。


「好きな音楽はある?合わせるよ。」


 音に関してはそれなりに知っている方なので、あまりにも定番から外れているミーハーな奴では無かったら大丈夫なはず。


「それなら決めさせて。いつも踊ってる曲があるから。」

「いいよいいよ。」


 すると、男の子も乗り気になってくれたのか自分から決めてくれるようだ。


「えっと、50Centの【In Da Club】なんだけど。」

「おお!良いね~私も好きだよ。」


 と言う訳で曲は決まった。


「それじゃあさっそくやろっか。」

「うん。」


 その合図とともに流してくれた。


 ふぅ。

 さて、どうしましょうか。即興に関しては初心者と変わらない上に、今の私はアップもしていないからどこまで動けるか分からない。それに比べて相手はさっき踊っていたみたいだから万全な状態だと思う。


 こちらの方がダンス歴が長いとはいえ、さっきのダンスを見てしまったら、あまり自慢できる部分ではないということは分かる。それくらい存在感があって見とれてしまうダンスだったから。と言う事は、あまり下に見ない方がいいかもしれない。


 そう思って曲を確認していると、男の子が自信満々とは正反対の感情をともしながらも、ノッてきているのか先にダンスを始めた。それは私としてはどの様なダンスをすればいいのか分からなかったのでありがたいの一言である。


 そう思いながら男の子がダンスを始めると、その場の雰囲気が変わった……いや、私の気持ちが変わったと言った方が良いのかも知れない。どういうことなのか?


 そのダンスに気合の入れようによって私の心が刺激されたのだ。「もっと真剣になれ」って。


 やったことが無いから出来ない。じゃなくて。

 まだ経験が全然ない人だから分かりやすいような。じゃなくて。

 自分の方が上手いから合わせる。じゃなくて。


 私が今できる技術を全て使って押し潰す。そんな気持ちで向き合わなければいけないんだって、そんな気がしてる。それくらい男の子はこのバトルに真剣になっている。


「ふふ」


 だから、私は思わず笑みをこぼしてしまった。だって、転校してから私にとって日常って言うのは灰色になってしまっていたから、こんな刺激は世界を色づかせてくれるような感じがしたから。


 さあ、真剣になろうか。


 男の子のダンスが終わった瞬間私が勢いよく前へでる。それは、自意識過剰な自己中の威圧だ。


 ほら、私のダンスをよく見てよ。って、中臆させるために、男の子の集中を切らさないために。


 1,2,3,4,『5』『6』『7』『8』


 そのリズムと共に私の体は熱くなる。一つのリズムも逃さないように体が振動して、慣れない即興に脳が戸惑いながらも一瞬一瞬成長していっている。


 ほら、私のダンスを目に焼き付けなよ。


 曲は私の体を動かして、リズムは動きを整えてくれる。それは自然に頭で考える前に技が出てくるようになってくる。


 多分今の私のムーブは男の子のダンスと比べて見劣りするかもしれない。だって、初めてだし。だけど、それはムーブだけを見た話。


 私が今まで培ってきた、誰にも負けない程の主役感はどこにでもついてきてくれる。どんなダンスでも同じ動きをしていたとしても、私は他のダンサーよりも圧倒的な存在感があるんだから。


 その存在感は男の子を飲み込んで負けを認めさせるだろう。そう強く思いながら、私のダンスは終わった。


 どこか満足感があって、乱れた息が私の心を満たしてくれる。これが真剣に全力で戦ったダンスだと。慣れないルールに戸惑いながらもその中で全力を出し切った私は壁に体を預けた。


「……さあ、どっちのダンスが良かったか教えてよ。」


 私はわざと自分で決めるようなことはせずに、男の子に審査をお願いする。……もう結果は分かっているから。

 それは、男の子の顔を見ればすぐにわかる。


「……」


 だから、「貴方のダンスの方が凄かった」って言ってほしい。私はその言葉が欲しくて戦ったのだから。


 だけど、そうはいかなかった。


 男の子は何を思っているのか。走ってその場を離れてしまった。それは審査の放棄と言う訳では無いと言う事は私は良く分かる。だけど、言葉が欲しかった私にとってそれは敗北と同義だ。


「ちょっと!待ってよ!」


 直ぐに追いつこうと思い走ろうとしたが、たった一回のダンスに全力をつくしてしまい、膝が笑っていた。元々そこまで身体能力はなかったが、ここまで体力が落ちているとは思わなかった。


「あぁ……でも、最後の顔は良かったな。」


 何も言わず逃げてしまった男の子が見えなくなるまで目で追い、私はその場に座ってしまう。勝敗が付かなかったのは残念ではある。


 だけど、男の子の最後の顔は私にとって忘れられない物になるだろう。だって、あそこまで悔しそうな顔は今まで見たことが無いから。




 ☆男の子


 僕は思わず走り出してしまった。それは逃げるためであり……どうにもできない感情が溢れだしてしまいそうだったから。


「はぁはぁ」


 どこまで走っただろうか。周りを見ると、どこか分からない公園に僕は居た。


 でも、今の僕に取ってみればここにこられたのは良かったのかも知れない。。気持ちを落ち着かせるためにも。


 だって……僕はあの海さんのダンスを見た時、全ての感情が吹き飛んでしまったのだから。でも、そんな状態でも一つだけ思う事があった。それは僕の心を強く揺らして……そして目が離せなくなっていた。


 海さんのダンスは、何と言えばいいのか分からないから、たどたどしくなってしまうが力ず良かった。一つ一つの動きの熟練度が凄いのは一目でわかったが、それ以上に……主人公感と言えばいいのだろうか、見て居ろっていうか、目が離せなくなるほどの感情が詰まっていた。


 その感情に刺激されて僕は、頭が回らなくなっていたんだ。多分口を開いていたら凄いと言っていたと思う。それほど魅了されていた。


 今まで僕が踊ってきたダンスがなんだったのだろうかと思ってしまうほどである。


 だから、逃げてしまった。せっかくダンスに誘ってくれたのに。


「はぁ~。」


 呼吸は落ち着いてベンチに座っていたのだが、思わず深いため息をついてしまった。頭が冷えたからどれだけ無礼な事をやったのか思い返してしまう。


 元々、そこまで人と交流が無いから、普通の人よりも会話と言うのが鮮明に記憶に残ってしまう。


「はぁ~。」


 ため息しか出ない。


 だけど、そんなとき目の前から声が聞こえた。


「ありゃ?君そんなため息をついてどうしたんかいな?」


 それは僕よりも年が2歳くらい上の大学生くらいの声であった。

 声をかけられたことに思わずびっくりしてしまい、直ぐに顔を上げるがやはりと言うべきか、そこには大学生くらいのお兄さんがいた。背が高くて僕よりもイケメンでモテそうなお兄さん。


「そんなため息ついたら幸運も逃げてしまうよ。」

「あ……すみません。」


 優しく声をかけられたのに、慣れていないからか上手く喋ることが出来ない。


「?あぁ、君もしかしてもしかしたらコミュ障と言うやつかい?田舎から出てきたばっかだから、そういう人と出会ったことが無くてね。」

「そうなのかもしれないです。」


 お兄さんの熱量について行けずに上手く返せないが、それでも気分が軽くなってくる。


「そうだ、コミュ障でも出来る良い遊びを知っているんや。一緒にやらんかい?」

「えっと、遊び?」

「そうそう遊び。ストリートダンスっつうやけどな。」


 すると、どこから出したのかお兄さんの手にはスピーカーが合った。

 ……なぜか分からないけど、今日はダンサーに会う1日らしい。




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