スムーズな話し合い
校長室に辿り着いたので、ユウジン副団長が扉を2回ノックして、中からの返事があったのち、「失礼します」と言ってから、扉を開けて中に入っていく。
この人、こんなに礼儀正しく出来たんだな。馬車の中の感じだと、何か平民って感じだったんだけど、もしかしたら貴族だったのかもしれない。
やっぱり人を見た目で判断してはダメだな。気を付けよう。
そして、俺もユウジン副団長の後に付いて行き、「失礼します」と言ってから中に入った。
校長室には3人いて、1人はグラスタール公爵だろう。窓際の椅子に座っている。
その前には机があり、その両端の近くに1人ずつ護衛が立っている。
「グラスタール公爵、リオン・スペンダーを連れて参りました」
ユウジン副団長が、直立した状態で公爵様に告げる。
「ユウジン副団長、ありがとうございます。では、部屋の前をお願いします」
「はい。失礼致します」
一言、言ってからユウジン副団長は部屋を出て行った。まるで面接が終わった人の様に。
と、そんな事より先に、挨拶をして印象を良くしておかなくては。
俺は漫画やアニメで得た見様見真似の貴族のお辞儀をしながら、
「はじめまして、グラスタール公爵。コウガ・スペンダー伯爵の次男、リオン・スペンダーです」
「リオン君、楽にしていいよ。私はセルギス・グラスタール。知っての通り公爵をやっていてね。立ち話では何だし、こっちの席に腰を掛けていいから」
ユウジン副団長とのやり取りとは違い、何ともゆったりした感じで、優しい言葉の掛け方だ。
年はリカルドくらいだろうか。優しい雰囲気なのだが、やはり公爵だからか貫禄がある。
「失礼します」
お言葉に甘えて、机の近くに置いてあるソファーに似た椅子に座る。座り心地がかなり良い。
席に勧められた後、公爵様も俺の対面に座った。
「君が来るのを待っていたよ。今日はお願いしたい事がいくつかあるんだ。リオン君も聞きたい事があると思うけど、先に私の話を聞いて貰えるかな?」
公爵なら普通、一方的に話しても良さそうなのに、こちらの都合も考えてくれるのは、ありがたい。
「はい。お願いとは、どのような事でしょうか」
「まず一番大事な事なんだけど、約2週間後に開かれる4大魔境会議に出て貰いたいんだよ」
全然予想していない話が出てきたぞ。
4大魔境の会議って何なんだ?
そう言えば、リカルドの手紙に4大魔境について習ってから、公爵様が来るって話だったけど、王都に着いてすぐ会う事になってしまったからな。
公爵というと、かなり忙しそうなイメージだから、こちらから会おうとして何日も待たされるよりは、ずっといい。
「出席するのは、大丈夫ですが、4大魔境会議について聞いてもよろしいですか?」
「おお、出てくれるのは助かるよ。4大魔境会議については、会議の前日に迎えを送るので、その時に説明するからね」
会議の前日に説明か。
何も準備出来ないけど仕方ないか。
「それから2つ目だけど、聖女様に会って貰いたいんだ。さっきと同じ会議の前日、説明の後にでも会って貰えないかな?」
おお、早くも聖女出てきたよ。
俺としても、聖女と会っておきたいと思ってたところだし、神託の内容を直接聞いてみたいと思ってたんだ。
「私も聖女様には会ってみたいと思っていたところです、会えるのを楽しみにしてますと聖女様にお伝えください」
私じゃなくて僕でも良かったかな。というか、公爵様に伝言頼んだのはまずかったか。
そう思ったのだが、公爵様からは、気にした様子もなく返事を貰った。
「それはよかった。実は聖女様もリオン君に会えるの、とても楽しみにしていてね。いい返事が貰えて助かるよ」
確か、勇者はいないから、俺に頼れって神託があったんだよな。
「この2つが決まったら後は楽だよ。リオン君、何か強くなる秘訣を知っているんだよね?それを広めたいって話を聖女様が神託で聞いたんだけど、次会うまでに、まとめてくれないかな?難しかったら、そういうの得意な騎士を向かわせるから」
おいーー。
何で俺がマニュアルの情報を広めたい事になってんだ。
しかも神託でって、俺の事ばかりなのか。でも、まとめて欲しいってマニュアルがある事は知らないみたいだな。
そもそも、広めたいとは思ってないんだけど、俺は今後仲間になるであろうパーティーメンバーに強くなって欲しいだけで、あとは迷いの森の対処してくれている人達ぐらいだ。
誤解されないように説明しなくては。
俺はとりあえず、強くなる為のマニュアル、初級編と中級編の2つを取り出して、公爵様に渡して貰う為に近くにいる騎士に渡した。直接渡しても良さそうな感じではあるが、騎士の人も受け取ってくれたから間違いではないらしい。
「あの、こちらは強くなる為のマニュアルの初級編と中級編です。これを使って、今後私の仲間になるであろうパーティーメンバーに教えようと思っていました。なので、広めたいと言う訳ではないです。混乱を招くかもしれないですし、反乱が起こる可能性がある事も理解しているので。ですので、グラスタール公爵が、誰に教えるか選別して、検討して頂けないでしょうか?」
何か、仕事の依頼みたいな感じになってしまったが、どうやら意味は通じたようだ。
「おお、もう出来ているのだね。これはお預かりします。もちろん、私以外では国王様とごく一部の人にしか見られないようにするから」
そう言って、マニュアルを魔法袋にしまった。どうやら、ここで確認はしないようだ。
このマニュアルに対しての報奨金を、今度会う時には用意しておくとの事だった。
流石に反乱はないと思うけど、混乱はするから、広める事はないだろうと言われた。
まずは、国王陛下と信頼のおける者、何人かで話し合ってから、希望を決める。その内容を俺と話し合い、最終決定とするらしい。
俺は希望を聞いたら、頷くだけなので、実質王様達が決めるようなものだな。よっぽどの事がない限り大丈夫だろう。
「リオン君、ありがとう。そうだ、4大魔境の件が片付いたら冒険者として世界中旅したいそうだね。神託で聞いたよ。上手い事立ち回れるように私の方で手配しておくから、心配しないでね。それじゃあ、こちらからは今回はもうないのだけど、リオン君の方から聞きたい事があるんだよね?」
神託すごいな。
俺が決めたい事、あっという間に決まっちゃったよ。
他にも聞きたい事はあるけど、公爵様に直接ってなると、気が引けるな。
とりあえずは、学校の先生辺りに聞いてから、どうしても分からなかった場合に公爵様を頼る事にするか。
「いえ、大丈夫です。グラスタール公爵のお話で、私が聞きたかった事は、ある程度聞けました。神託すごいですね」
「本当、神託すごいよね。昨日聞いた情報だから、精度がすごいでしょ。おかげでスムーズに進んでよかったよ。私はこれから国王様との約束があるから失礼するね。もし何か聞きたい事があれば、ユウジン副団長経由で連絡をしてくれればいいからね」
どうやら、俺はモンスターフェスティバル対策の要で、出来る限り情報は共有したいようだ。
公爵様は、今はそこまで時間が取れないけれど、会議の前日にはある程度教えてくれるらしい。
分からなくても、まだ時間はあるからゆっくりでいいそうだ。
そして、挨拶をして公爵様が部屋から出ていく直前で、
「この学園にはダンジョンが多いのだけど、どこもスペシャルステージの解放条件が満たせなかったんだよ。リオン君には、学校生活の中で出来る限り発見して欲しいと思ってる。これは、モンスターフェスティバルとは別件だけど、強くなる為には重要な事みたいだからね」
そう言ってから、護衛の騎士を引き連れて、部屋を出られた。
俺は一人部屋に残されたのだが、どうしたものかと思っていたら、少ししたらユウジン副団長が部屋に入って来てくれた。
「ユウジン副団長が来てくれて助かりました。一人残されてどうしようか迷ってたので」
「俺も今、公爵様にリオンを頼まれてな。よし、冒険者ギルド行くぞ、その後はダンジョンだ」
どうやら、次の目的地は決まっているようだ。
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