幕間 馬車の中の戦い3

アルス視点


「ユウジン副団長、もしかして僕を説得にきましたか?」


 説得?何の事だろうと思っていると、突然ユウジン副団長が笑い出した。


「くっくっくっ、あーはっはっはっはっは。何でいきなりそこに辿り着けるんだよ。おかしいだろ。今考えてたって事は、手紙に書いてあった訳じゃないよな?」


「手紙に書いてあった訳ではありません。ただの予測ですので、自信があったとかではないです。4大魔境。これが関係してますよね?恐らく、国の一部、多分ですが、学校の特別優秀者だけに教えている内容とかじゃないですか?」


 すごい。

 4大魔境の話は、一部の人にしか詳しくは教えていないはずだ。一応、一般の人にも危険としか説明はされない。しかも4大魔境の言葉すら教えて貰えないのに。

 なのに、リオンはどこで4大魔境の事を知ったのだろうか?


「まじですげーわ。思った以上だ。リオンの言った通り、俺が来たのは説得だ。ただし、説明もしておくように言われていてな。昨日は仲良くなってから、説明と説得をするつもりだったんだが、思った以上に楽しかったからな。その事を少しばかり忘れていたんだよな」


 確かに早口言葉とリバーシは楽しかった。特にユウジン副団長は、すごく楽しんでたと思う。


「これから説明するのは、公爵様と話す為に必要な予備知識だと思って聞いてくれ。まずは4大魔境とは何かを教える。簡単に言うと危険な場所が4つあると思ってくれればいい。その内の1つがスペンダー領の迷いの森と言う訳だ」


「やっぱり、4大魔境の1つは迷いの森でしたか。予想はしていました」


 リオンはどうやら4大魔境の内の1つが迷いの森であると予想していたようだ。僕は学校で習ったから知っていたが、習う前からはそんな事全然知らなかった。


「さっきリオンが言っていたが、4大魔境の詳しい話を聞けるのは、学校では特別優秀者と魔法優秀者のみだ。それ以外で知りえるのは、スペンダー領に移った者達だな。移る前に説明されるから、移ろうと思ってやっぱりやめたって人間もいるが、そこは一応混乱を招かないように口止めをしているそうだ。ただ、スペンダー領で生まれてくる子供達は知らないから、学校で知らされる事になるが、成人前に、選択を迫られる。スペンダー領に戻るか、他で暮らすか」


 そうだったのか。確かに僕は学校で知らされたけど、領主の息子だからなのか、昔から迷いの森の魔物を間引く事をするって思ってて戻るつもりだったけど、実際は選択できるみたいだな。

 選択出来たとしても、家族のいるスペンダー領を離れたくはないと思っている。


「僕が冒険者として世界を色々見て回りたいと言った事を知っているから、スペンダー領に留まるようにお願いしてきたという事ですね」


「まあ、待て。確かにそうだが、説明は最後まで聞いた方がいいぞ」


「そうですね。すみませんでした。僕の悪い癖です」


 リオンに悪い癖があったなんて知らなかったな。全然記憶にないよ。


「それじゃあ、4大魔境について詳しく話すぞ。4大魔境とは何十年かに一度、魔物が爆発的に増える事がある。そのせいで近くの町や村を壊滅的にしてしまう場所が4箇所あり、それらの地域を4大魔境と呼んでいる。それで、魔物が爆発的に増えることをモンスタースタンピードと呼ぶんだ。さらに、スタンピードが発生する何回かに1回、上位種やランクの高い魔物が大量に出現する事があるんだが、その現象をモンスターフェスティバルと呼んでいる」


 モンスタースタンピードが起きないようにする為に、魔物の間引きをするって話なんだけど、昔からやっているが、どうしてもモンスタースタンピードは発生するって聞いた。

 この辺りは学校で習ったけど、また聞くとスペンダー領を守る為にも、もっと強くならないといけないと強く思えてくる。


「それでな、この後の話はアルスも聞いた事がないと思うが、一緒に聞いててくれ。モンスターフェスティバルが起こった時には、魔王も同時に出現していたみたいなんだ。そして、魔王が現れる時には、必ず勇者と聖女が現れていたらしい。そして、今までは勇者と聖女が、モンスターフェスティバルで出現した魔物を倒し回って、魔王をも討伐したと言われている。勇者と魔王の話は、王都でも物語として、すごく簡単に語られたりして知られているが、実際の詳しい内容は国の偉い人達と、ごく一部の人しか知らない事だ」


 魔王の話は、パーティーメンバーに聞いた事がある。勇者が魔王を倒して世界が平和になるって話だった。

 真実はもっと複雑でやっかいなのだと知った。


「なるほど、聖女様が今の時期にいるから、次のモンスタースタンピードが、モンスターフェスティバルの可能性が高いという訳ですか。今後魔王が出現する可能性があるという事なのですよね?確か勇者はいないって信託があったはずですが」


 聖女様がいるって、どうしてリオンはそんな事を知っているんだろうか。これって僕が聞いてもいい話だったのだろうか。

 僕は聖女様の事を学校でも聞いた事はなかったのだけど。


「本当に、何でこっちの情報は筒抜けになってるんだか。リオンの言う通り、聖女様は去年学校を卒業して今は王都の公爵家で過ごしている。その聖女様から、この間信託があったみたいで、魔王の復活はないとの事なんだが、どうやらモンスターフェスティバルは起こるそうでな。魔王が復活しないからなのか、勇者もいないらしい。そして、勇者の代わりなのか、信託ではリオンに頼れと聖女様は聞いているそうだ。さらに言えば、モンスターフェスティバルは今から6年後に起こると聞いている」


 モンスターフェスティバルが6年後って、そんなに早く起こるなんて……

 僕が領主になっている間に起こらないかもしれないと、どこかで思っていたけど、そんな訳にはいかなくなってしまった。

 あと6年の間に、もっと強くなる必要が出てきてしまった。

 これはパーティーメンバーに何としてでも、マニュアルを使って強くなって貰わないと。さらに言えば、特別優秀者と魔法優秀者の人達にも強くなって貰った方がいいような気がする。

 それから、騎士団や魔術師団の人達にも、伝えた方がいいような気がするんだけど、リオンは嫌がるかな。


「本当に6年後か?嫌な予感しかしないんだが」


 リオンが小さな声で何か言っていたが、よく聞こえなかった。

 何て言ったのかな。

 ぽつりと何か言ったかと思ったけど、その後は何も言わないままだった。


「それで、リオンは冒険者で世界を回りたいって話は聞いているが出来ればスペンダー領に残って欲しいんだ。ただ、これは正直どっちでもいい。それよりも、リオンは強くなるコツを知っているそうだな。それを一部の人に教える事は出来ないか?」


 強くなる為のマニュアルの事を言っていると思うんだけど、これはどうすればいいのか分からないな。

 状況的には、教えて多くの人の強力を得た方が、いいと思うんだけど。

 僕が色々考えていたけど、リオンはすんなりと答えてしまった。


「いいですよ。公爵様にはどちらにしろ、その事を話すつもりでいましたし、話が早くて助かります。ユウジン副団長も今見ますか?」


 リオンはもう既に公爵様に相談する事を決めていたようだ。多分今の感じだと、公爵様に強くなる為のマニュアルを見せて、一部の人に教える感じだったに違いない。

 リオンが簡単にいうので、ユウジン副団長は少し困っているような感じになっていた。


「ちょっと待て。そんな簡単に決めていいのか?しかも俺に見せるって、それは公爵様と話したあとにしてくれ。俺が公爵様に怒られるだろ」


「そうですか。あの、4大魔境の事は大体分かりました。それ以外にも何か情報はありますか?」


 これ以上の情報があったら、覚えきれないかもしれない。

 そう思っていたのだが、ユウジン副団長の言葉に助かってしまった。


「ああー。あったかもしれないが忘れたわ」


「ふふ、分かりました」


 リオンが少し笑ってる。


「副団長、俺達が聞いていい話じゃなかったんじゃないですか?」


「そうですよ。こんな大事な話聞かされてどうするつもりですか?」


 そういえば、リョウさんとヒルデガルさんもこの重要な話を聞いていたんだった。

 僕も一応居ていいとは、さっき言われたけど、本当によかったのだろうか。


「お前達にもわざと聞かせたんだよ。じゃなきゃ、とっくに追い出してるわ。お前達には俺が忙しい時に代わりにリオンとアルス、二人への連絡役をして貰うからな。あとは雑用だな」


「ああ、なるほど。わかりました」


「了解です」


 どうやら、リョウさんとヒルデガルさんは連絡係と雑用を任されたみたいだ。


「よしっ。話すべき事は終わったから、リバーシやろうぜ」


 大事な話の後だと言うのに、やっぱり、ユウジン副団長はリバーシが好きなようだ。


「リバーシよりも5人で出来るカードゲームしませんか?」


「「「「カードゲーム?」」」」


 リオン以外の皆が声を揃えた。

 リオンは魔法袋の中から、箱を取り出して、その中に入っているたくさんのカードを取り出す。


「これはトランプというカードなのですが、全部で54枚あって、これを使って何種類か遊ぶ事が出来ます」


「へぇーー。また面白そうなもの出して来たな」


 リオンがまず、トランプについて説明してくれた。

 トランプとは、1から13までの数字を4種類の図柄分52枚のカードと、2枚の特殊カードを使う遊び道具だそうだ。

 4種類とは、魔法にもある属性から取っていて、火、水、風、土の絵が描かれており、火の1なら火の絵柄が1つ、火の2なら火の絵柄が2つカードに描かれている。数の分だけ絵柄が増えるので、分かりやすかった。

 そして、特殊カードは光と闇のカードで、これはゲームによって使い方が異なってる場合と、全く使わない場合もあるそうだ。


 トランプの説明が終わったら、次はいくつか遊び方を教えて貰った。トランプを使って遊ぶ事をカードゲームと言うらしく、この時から王都に着くまで、ずっとカードゲームをして過ごしてしまった。


 トランプを使ったカードゲームというのは、本当に色々な遊び方があり、ババ抜き、大富豪、神経衰弱、七並べ、ポーカー、ダウト、ぶたのしっぽ、この他にもまだ遊び方はあるらしいが、今回は時間が来てしまったので、ここでおしまいだ。

 七並べは机の面積が少し足りなかったせいで、カードを被せながらやっていたが、広い場所ならもっと楽しめたと思う。

 神経衰弱も4種類の各8まで計32枚だけでやったのだが、全54枚でやったら、もっと難しくて面白いと思えた。



 ユウジン副団長が、大富豪の時に、


「大富豪って、貴族なのか?」


 と、聞いていて、それに対して、リオンは、


「確かに、そうですね。えっと、大富豪が王族で富豪が貴族になるのかな」


 と、答えていたが、


「王族でも金がない王族もいるぞ」


 と、言い出したのだが、


「これはゲームですから、大富豪は王族じゃなくて、大富豪なんです」


 と、強引に言いくるめようとしていた。

 ユウジン副団長も、


「それもそうだな」


 と、納得していた。


 僕も正直、ゲームなのでどっちでもいいと思った。


 そして、どのカードゲームでも、リオンは強かった。この馬車の中の戦いを制したのは、リオンで間違いない。


 ただ、すごく楽しかったので、途中で少しの間だけだったが、魔力が満タンになっていた。

 だって、大富豪が面白すぎるんだもん。しょうがないよね。


 こうして、アルスとリオンは無事に何事もなく、王都に辿り着いたのだった。

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