幕間 馬車の中の戦い2
アルス視点
リオンはそう言って、リバーシの説明をしてくれた。
まず、リバーシ盤という8×8の正方形のマスに区切られた板と、箱に入っている、表と裏が白と黒に分かれた丸い薄型の駒というものを使うそうだ。
リバーシ盤の中央4箇所の内、黒を左下に置いて、その斜め右上に黒置き、残りの2箇所に白を斜めに置いて開始する。
ここからは、実際にリオンとユウジン副団長がやりながら、教えてくれるようだ。
「まずは黒が先手になるのですが、初めにどちらが先手か決めて下さい。今回は僕が先手をやっていきますね。駒を置く時は、自分の駒で相手の駒を挟めるマスに置く事が出来ます。この時に縦、横、斜めと、相手を挟めるのであればどこでも置く事が出来ます。逆に相手の駒を挟めないところには置けないので、置けるのはこことここ、こことここの4箇所になります。ちなみに駒をリバーシ盤に置く事を、駒を[打つ]といいます」
リオンは指でどこに打てるか1箇所ずつ教えてくれる。
その内の1つに黒の駒を打ち、黒で挟んだ白の駒をひっくり返した。
盤面は黒4つ、白1つになった。
「次にユウジン副団長が白を打ち、白同士で挟んだ黒の駒をひっくり返せます」
ユウジン副団長は白の駒を1つ打ち、黒い駒を1つひっくり返した。
「次ですが、僕がここかここに打つと、黒にひっくり返せるのが2箇所になります」
リオンが黒を打った場所から横の白と斜めの白をひっくり返し、黒を2つ増やした。
「それで次にユウジン副団長がここに白を打つと、白の間にある2つの黒をひっくり返す事ができます」
ユウジン副団長が打った白に対して、黒が2つ直線に並んでいた駒を一気にひっくり返す。
「このまま駒を置いて行って、全ての盤面に駒が埋まった時に、多い色の方が勝ちというゲームです」
さらに細かなルールがあるようで、盤面が全て埋まる前に、全部黒、または全部白になった時点で勝敗が決まる事や、片方が打つ場所がなくなったら、パスになり、それが続いて打つ駒が手元の箱に無い場合は、相手の駒を使うなどを教えてくれた。
説明は終わり、最後まで打つ事になった。
リオンとユウジン副団長は、交互に駒を打っていき、全ての盤面が埋まった。数を数えてみると黒40個、白24個で、黒い駒を使ったリオンの勝ちだった。
「なるほどな。これはルール自体は単純で簡単だが、実に考えさせられるゲームだ。面白いじゃないか」
どうやら、ユウジン副団長は負けたのに気に入ったように見える。
確かにやり方は簡単だけど、考えさせられるゲームに思える。すごく面白そうだ。
「それじゃあ、次はアル兄とクルトさんかキースさん、やってみますか?」
「いや待て、アルスの相手は俺がやる」
「それなら、もう1セット出しますね。机に並べるとギリギリになるかもですけど」
リオンはそう言って、2つの板を机に並べた。リオンの言った通りギリギリだったが、何とか並べる事が出来た。
そして、僕とユウジン副団長、クルトさんとキースさんのリバーシ対決は始まった。
そして、対戦は相手を変えながら、何度も行われた。
このリバーシ、すごく面白い。
何度かやっている内に分かったのだけど、4つの角は置いたらひっくり返される事がないので、角を取った方が有利だという事が分かった。
そして、角を取る為に、その周りの3箇所に、相手の駒を如何に置かせるかが重要のようだ。
ただ、リオンにはこの戦法はあまり通用しなかったので、他にも何か秘策があるのかもしれない。
一度、休憩を挟んだ時に騎士の二人が交代して新しい二人が来て、リオンとお互いに自己紹介していた。
新しく来た二人はココさんとアマンダさん。今回の騎士団の中で、女性はこの二人しかいない。
そして、リバーシの説明を二人にして、僕とユウジン副団長はその二人に対して勝ちを重ねた。
「どうだ。副団長様の実力を思い知ったか」
リオンがこっそりと、「ちょっとコツを掴んだだけで、初心者に対してあそこまで勝ち誇るなんて」と言っていた。
僕もちょっと大人げないなと思ったよ。
早いもので、リバーシに夢中になった為、今夜泊る町に到着したのだった。
「なんだよ、もう着いたのかよ」
「リバーシに夢中になったので、早く感じますね」
「副団長は、夢中になりすぎですよ」
確かに副団長は一番楽しそうにやっていたと思う。
ココさんとアマンダさんも、途中から慣れたのか徐々に他の人達にも勝てるようになっていた。
僕も楽しかったので、あっという間に町に着いた感じだ。
このタイミングで身体強化で魔力をほぼ使い切ってしまう。
町の宿屋での部屋割りは、最初の馬車のメンバーと同じだった。
夕食を食堂で食べた後に、部屋に戻って、また魔力を使い切る。
意外な事に、部屋に戻ってすぐ、ユウジン副団長になるべく早く寝るように言われた。
部屋に戻ったら、リバーシやろうと言うのかと思っていたからである。
ユウジン副団長に、この先は野宿が3日間続くから、休める時に休むのがいいと言われたので、その通りだと思った。
寝る前になって、リオンは少し手紙を読んでいたが、読み終わった後に、何やら考えていたようだったけど、ユウジン副団長に「明かりを消すぞ」と言われたので、そのまま寝る事になった。
そして、次の日、朝食を取ってから、順番に馬車に乗り込んでいった。
馬車に乗る前にガラさんが、もう一台の護衛用の馬車に乗る騎士の為に、リバーシを貸して欲しいとリオンにお願いしていたので、2セット渡してしまったのを見た。ユウジン副団長が今日もやりたいと思うんだけどいいのかな。
「リオン、貸しちゃっても良かったの?」
「もう1セットあるので、大丈夫ですよ。あと他のもあるので何とかなると思います」
どうやら、もう1セットリバーシはあるようだ。しかも他にもあるらしいので、心配しなくて良さそうだ。
だけど、リオンの元気がないような気がするけど、気のせいかな?
「リオン、何かあったの?」
リオンは少し考えてから、答えてくれた。
「色々と考える事があって、ユウジン副団長に聞きたい事も増えました」
「それって昨日寝る前に読んでた手紙の事かな?」
手紙を読んでから、少し元気がないように思えたのだ。
「そうですね。ただ、内容が誰にも言えない事なので、すみませんがアル兄にも今は言えないです。ただ、学校について少ししたら話すと思うので、それまで待ってて下さい」
どうやら、誰にも言えない秘密の事が手紙に書いてあるようだ。
お父様からの手紙なのだろうか?少し気になるが、リオンが今度話してくれるというのだから、それまで待つとしよう。
僕はリオンに頷いてから、馬車に乗り込んだ。
ユウジン副団長とまた別の騎士二人が乗っていたので、リオンが騎士とお互いに自己紹介をした。
今回の二人はリョウさんとヒルデガルさんだ。この二人は騎士団の中でも、優秀なのだと聞いている。
そして、少し談笑してから出発となった。
リオンは昨日の楽しそうな雰囲気とは違って、真剣な表情でユウジン副団長に話し出した。
「王都に着いたら、ユウジン副団長についていく事になっていますが、グラスタール公爵の元に連れて行くつもりですか?」
グラスタール公爵。確か国王様の右腕とされている重要人物だったはずだ。
リオンはグラスタール公爵に呼ばれているのだろうか。
リオンの問いかけに、ユウジン副団長も真剣な表情で答えてくれた。
「よくわかったな。昨日寝る前に読んでた手紙に書いてあったのか?コウガ副団長は、この事を知らないはずなんだが」
お父様が知らないという事は、あの手紙はお父様からではないという事だ。
一体誰からの手紙だったのだろうか。
「お父様からではないです。ですが、それ以上は言えません。それと、ユウジン副団長は、ずっとこの馬車に乗ってるので、僕の見張りをしているのかなと思ったのですが、違いますか?」
「手紙が誰からか言えないという訳か。まあいいか。あと、俺は別にリオンを見張っている訳ではないからな。そう警戒しなくていいぞ。俺は一応リオンの護衛として来ているだけだ」
そういえば、ユウジン副団長は護衛として、馬車の外に出てなかったと思っていたら、リオンを直で護衛していたみたいだ。
リオンが黙って考え込んでしまった。
数分間、沈黙の時が流れる。
やがて、考えがまとまったのかリオンが話始めた。
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