幕間 馬車の中の戦い1
アルス視点
スキルレベル上げを学校へ向かう前日までリオンと行った。
その間に、色々な話をした。
特に僕のパーティーに[強くなる為のマニュアル]を読んで貰ってもいいかどうかの確認が、とても重要だったと思う。
このままだと、僕だけ強くなりすぎて、パーティーメンバーがついて来れなくなってしまうからだ。
最終的には、マニュアルは見せないが少しずつ口頭で伝えていく事になった。
もちろん、伝えた情報は秘密にして貰う。教えていいかどうかの判断に迷ったら、今度はリオンが学校にいるから、相談してから話すかどうか決める事になった。
そして、学校へ行く当日、僕たちは家族に見送られてから馬車へ向かう。
家族には色々と応援されたし心配もされたが、しっかりやってくる事を告げた。
それに、今回はリオンが一緒だから、少し安心している。
とはいえ、帰ってくる時と同じで、僕は馬車を警護する方に回されてるんだけどね。
ギルド経由で、どうも依頼があったみたいだ。おそらく騎士団の副団長と引き分けたのが原因な気がするけど……
護衛の為、魔力は満タン近くにして少し減った状態を維持するようにするつもりだ。無駄がないように、ちょくちょく身体強化を行おうと思う。
護衛はリオンも一緒にって話だったけど、お父様はリオンには言ってないっぽいんだよな。
僕は馬車に乗り込む直前で振り返り、リオンに一応説明をする。
「リオン、こっちの馬車は先頭を行く警護用の馬車なんだ。僕たちの他には騎士の人が休憩の為に交代で乗るから、覚えておいてね」
「えー、警護用って同年代の子とは別になってしまいますね。折角遊び道具を作ってきたのに残念です」
警護用と聞いて緊張とかはしていないみたいだけど、全然違う事で残念がっているようだ。
確かに同世代の子たちと知り合う切っ掛けは少ない。というか全然なかった。
でも、それはこのスペンダー領が特殊だからだろう。
王都の貴族の子は、5歳になるとお披露目パーティーを行うそうだ。
その後も、貴族同士でお茶会やパーティーを定期的に開いているところもあるらしい。
リオンも同年代の友達を作りたかったのかもしれないな。
それは、学校まで我慢して貰おう。
それよりも、遊び道具っていうのが、気になったので時間が出来たら聞いてみることにした。
「リオン、学校に行けば同年代の友達がたくさんできると思うよ。今回は護衛の方をがんばろう。とは言っても、特に魔物とかに会った事はないし、僕達はおまけみたいな感じだから必要以上に気を張る必要はないんだけどね」
「わかりました。警護は馬に騎乗している騎士の方が行ってる感じですよね?それを交代で休んでるのが、この馬車ですか?」
相変わらず、理解するのが早いね。
「そうだよ。他にもう1台、同じように交代用の馬車がいるよ。それじゃあ、僕達も乗ろうか」
リオンに説明してから、馬車に乗り込むと、3人の騎士が座っていた。そして、その内の1人は、
「よう、アルス。久しぶりだな」
例の騎士団の副団長だった。王都からの帰りの護衛にはいなかったはずだけど。
「ユウジン副団長、お久しぶりです。僕が帰りの時はいなかったですよね?別でこちらに来たのですか?」
「ああ、ちょっと別件でな。おっ、そいつが例の弟か?」
そう言えば、ユウジン副団長には、僕よりも強い弟がいるって言ってしまったんだった。本気にはしてない感じだったけど。
「騎士の皆様、はじめまして。アルス・スペンダーの弟のリオンです。どうぞよろしくお願い致します」
「兄弟揃って、礼儀正しいじゃないか。俺はユウジンだ。よろしくな。それで、そっちの二人はガラとソドムだ」
ガラさんとソドムさんは、僕とリオンに挨拶してから、座るように席を勧めてくれた。僕は王都の帰りに、一緒だったので、二人はリオンに対して軽く自己紹介していた。
少ししてから、出発すると外から合図を受けて、馬車が走りだした。
「思ったよりも馬車は揺れないですね」
「良く気付いたな。何でも魔道具の研究成果が馬車の車輪に付けられて、揺れを抑えているんだとよ」
リオンの一言に対して、ユウジン副団長は答えてくれたが、馬車の車輪に揺れを抑えるものがあるなんて知らなかった。
そして、リオンはさらにユウジン副団長に質問していく。
「もしかして、サスペンションが搭載されているのですか?外から見た感じ全然わからなかったんですけど」
「その辺りは俺もわかんねぇな」
僕もユウジン副団長と同じで、よく分からないけど、リオンは納得したような顔をしている。
「あの、ユウジンさんはオルトカディア王国騎士団の副団長なのですか?」
「そうだな。二人の父親の変わりから副団長をやってるな」
お父様が領主になったから、その代わりに副団長になったみたいだ。
それにしても、ユウジン副団長は何しに来たんだろうか?その辺りを聞いてみることにした。
「ユウジン副団長は何しにスペンダー領まで来たのですか?」
「実は弟の方に用があって来たんだよ。リオン、お前は特別優秀者のA校舎に入って貰う事になった。それから、王都に着いたら、俺についてきて貰うから、そのつもりでいろよ」
「分かりました」
どうやらリオンは試験をやらずに、特別優秀者の校舎になるようだ。僕よりも強いからね。当然だね。
それにしても、リオンは特に驚いてもいないようだけど、まさか予想してたのかな?
「それからリオン、俺と戦え」
何とユウジン副団長はリオンと戦うように言い出した。
多分、リオンの方が強いから、やめさせた方がいい気がする。
と思って止めようと思ったのだけど、
「すみません、丁重にお断りします」
何とあっさりとリオンは戦いを断ったのだ。
「そうか、わかった」
あれ、ユウジン副団長は意外とあっさりと諦めた。
僕に対しては結構何回も暇を見つけては来て、模擬戦を付き合わされたのに。
「意外ですね。脳筋なのかと思いました」
脳筋って何だろう?
「何だ?その脳筋って?」
「脳が筋肉で出来ている戦闘バカの事を脳筋って言います」
リオンの言葉に対して、ガラさんとソドムさんが笑いながら、
「副団長の事ですね」
「全くです」
「おい、おまえら」
ユウジン副団長は怒っているが、本気で怒っている訳ではなさそうだ。
何かとても仲がよさそうに見える。
場がなごんだところで、ユウジン副団長が暇になったみたいで、
「暇だな。アルス、何か面白い事ないか?」
急に面白い事がないか振られてしまった。
どうしたらいいか考えるが、特に思い浮かばない。
何か面白い話はあっただろうか?
何かないか考えていたら、リオンが助太刀してくれた。
「よかったら、ゲームでもしますか?」
そこから始まったのは、早口言葉という言いにくい言葉を3回早く言うというゲームだった。
最初は簡単なものから、始まったのだが、
「なげやりなやりなげ、なげやりなやりなげ、なりやげなやりなげ あああぁぁ、最後ミスったーーー」
ユウジン副団長だけ、噛んでしまった。
それを見て、僕以外はみんな笑っていた。僕は我慢していたのだが、リオンは我慢せずに笑っているようだ。
失礼にならいないのかと思っていたが、ユウジン副団長は特に気にした様子はなかった。
何回かユウジン副団長は練習したら言えたので、次の早口言葉に挑戦するのだが、
「みぎめみぎみみみぎみみぎみぎめ、ああああ最初からミスったーーー」
「これは少し難易度が高いですからね。みぎめみぎみみみぎみみみぎめ、みぎめみぎみみみぎみみみぎめ、みぎめみぎみみみぎみみみぎめ です」
「「おおーーすごい!!」」
すごい!!副団長以外の二人も同時に褒めている。
ユウジン副団長は驚いて固まってしまった。
結局、たくさん練習したのだが、リオン以外は上手く言えなかった。
僕も何回も練習したのだが、中盤以降のみぎみみの時にみぎみぎ言ってしまって間違えてしまう。
そうこうしている内に、お昼休憩の時間になった。
馬車を止めて、少し広い場所で昼食になった。
お昼休憩では、騎士の人たちで集まり、話し合っていた。
1時間程したら、全員いるか確認してから出発した。
「アルスは知っていると思うが、この二人はクルトとキースだ」
リオンに対して、ユウジン副団長から騎士の二人を紹介された。交代で、今から馬車に乗るのはクルトさんとキースさんだ。
リオンはさっきと同じようにクルトさんとキースさんに挨拶した。
それから、今までの道程で異常もなく順調だという話を聞いた。
リオンから、僕にこっそりと「この調子なら魔力使ってもいいですよ」と伝えてきたので、身体強化で魔力を半分ぐらいまで減らした。一応何かあった時に残しておく方がいいからね。マジックハイポーションも一応用意しておく。
そして、早くもユウジン副団長がリオンに何かを求めてくる。
「リオン、さっきみたいなの他にないか?」
「あるにはあるんですけど、机がないとちょっとやりにくいですね」
どうやらリオンは他にも何か時間を潰す何かがあるらしい。
机が必要という事は、何かものを使うのかもしれない。
「ちょっと待ってろ」
ユウジン副団長がそう言うと、立ち上がり天井を取り出した。
いや、正しくは天井に机が取り付いていたようで、それを取り外したようだ。
そして、机の脚が内側に折れ曲がっており、伸ばしたら机として完成するみたいだ。
「おお、折りたたみですね。しかも天井に付いてたとは思いもよらなかったです」
リオンも天井に机があって、驚いているようだ。僕もびっくりしている。
そして、リオンは2枚の板を魔法袋から取り出した。
マジックバッグは秘密にしたいと言っていたから、あらかじめ魔法袋に入れていたのだろう。
机の上に板を綺麗に2枚並べた。見てみると縦と横の線がいくつも入っている。
それから、箱を2つ取り出した。
「何か面白いものが出てきたな」
ユウジン副団長はそう言うと、興味深そうに見ていた。もちろん僕も一緒だ。二人の騎士も同じように見ている。
「これはリバーシといいます」
リバーシという聞きなれない言葉と共に、リオンの説明が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます