情報規制1
俺は冒険者ギルドに着いて、エミリーさんのいる受付に来たのだが、何やらいつもと様子が違うのだ。
「リオン様、癒し草の依頼の達成報告ですか?」
エミリーさんが俺の事を様付けで呼んでいるではないか。
こんな事1度でもあっただろうか。いや、なかったはずだ。いつもの君付けはどうしたのだろうか?
何だか心の距離が開いた感じで、俺は少し悲しい気持ちになるが依頼の報告をする事にした。
「癒し草の達成報告とあと魔石の納品も一緒にお願いします」
俺は癒し草5つと魔石を一昨日と今日の合わせた分を机の上に取り出し、一緒にギルドカードも机の上に置いた。
置いたら、エミリーさんが顔を近づけて、小声で話しかけてきた。
「実は後ろの部屋にギルドマスターがいるの。それでリオン君が来たら、話があるから通すように言われてるんだけど、時間大丈夫かな?」
なんと!?急にギルマスイベントが発生したよ。ギルマスに聞かれてもいいように様付けしてたんだな。
それにしても、俺何かしたっけ?最近は負けた事で頭が一杯で何したか全然覚えていない。
何の用件だろうか。時間は早めに切り上げたから大丈夫だけど、ギルマスじきじきの話は気になるな。
というか、ギルマスが近くにいたから、様付けで呼んでたのか。普通は領主の息子に君付けはダメなのかな?俺としては様付けはこそばゆいのだが。
「エミリーさん、時間は大丈夫なので、依頼の報告が終わったら、奥に行けばいいですか?」
「ありがとう。依頼達成の処理をパパっとやって、終わったら私が案内するから大丈夫だよ。リオン君が話している間にギルドカードのランクアップの処理もしておくから、話が終わったら私の所に寄ってね」
そう言うと、エミリーさんはすぐに依頼達成の処理をしてくれて、俺は依頼報酬を受け取り、少しだが手持ちが増えて安心した。
その後すぐにエミリーさんが奥の部屋へ案内してくれた。
奥へ行くと休憩室みたいな部屋に入り、中には1人の男性が座っていた。
「ギルドマスター、リオン様をお連れしました。どちらのお部屋でお話しますか?」
「エミリー君、ありがとう。私の部屋で話をするので、何か飲み物をよろしく頼むよ」
ギルマスの口調は丁寧で、ゆっくりと落ち着いた感じの喋り方をしている。
だが、見た目はかなりガタイが良く、しっかりとした筋肉質な体だ。さらに髪が短く金髪な為、見た目とのイメージが全然違った。俺の勝手なイメージで申し訳ないがもっとワイルドな話し方を想像してしまった。
これは先にこちらから挨拶して印象を少しでも良くしておくとしよう。
「はじめまして、リオン・スペンダーと申します。先日冒険者登録をさせて頂いて、今日Fランクへランクアップする事になりました。若輩者ですが、どうぞご指導ご鞭撻の程よろしくお願い致します」
「ご丁寧にありがとう。私はこのテルーゼの町のギルドマスターをしているウォーレンといいます。それにしても噂通り、とても礼儀正しい少年だね。領主様もとても自慢していたよ。私自身もリオン君と話をするのを楽しみにしていたんだ」
何と、コウガはここでも俺の自慢をしていたようだ。色んなところでハードルが上がっていて、うれしいが期待が大きいな。頑張らねば!
「それと本来であればリオン様と呼ばないといけないけど、ギルドではリオン君と呼ばせて貰うよ。一応私はギルドマスターで君は新人冒険者だからね。敬語も私的の時はするが、そこの所は理解して貰いたいのだけど、大丈夫かな?」
ほうほう、領主の息子となるとやはり偉いんだな。
敬語も様付けも、堅苦しいだけなので、なくて全然大丈夫だな。むしろ領主の息子で生まれただけで、俺自身が偉い訳ではないから、このままでお願いしたいぐらいだ。
「僕に敬語も様付けも必要ありませんよ。領主の息子だからというだけで、僕自身が何かすごい事をした訳ではないので偉くないですから」
「そうか、ありがとう。随分考え方がしっかりしているね。では、私の部屋で話をしようか」
ギルマスのウォーレンさんに付いていき、一番奥の部屋に入っていく。
奥には執務机があり、手前には執務机とは別の机と両サイドに長椅子がある。
ギルマスが長椅子に座りながら反対側に座るようにすすめる。
長椅子に座って、少しするとエミリーさんがお茶を持ってきてくれた。その後、受付に戻るようで部屋から出て行った。
「さて、リオン君。今日はいくつか話しておきたい事があって、こうして時間を作って貰ったんだ。まずはギルドランクについての話をしようか」
「ギルドランクですか!?確かGランクからAランクまであるって最初に聞きました。それと特殊な条件か何かでSランクもあるとエミリーさんから聞いてます」
確かそんな感じだったはずだ。そして今日はGランクからFランクに今まさにランクアップの処理をエミリーさんがしてくれていると思う。
「そうだね。話したいのはEランクに上がる為の事なんだ。実は学校に行ってからじゃないと、Eランクには上げてはいけないというルールがあるんだよ。そもそも冒険者になれる資格のステータスプレートを取得後、すぐに冒険者になったとして1年でEランクになれる人なんていないと思われていたんだ。」
「なるほどです。Eランクには学校へ行った時にしかなれないという事ですね」
資料室でも言われたな。学校へ行かないとダメって。何か制限があるっぽい。
「そうなんだ。そこでギルドマスターが特別に許可を出した人に対して、王都にあるギルド、つまり学校が始まって条件を満たした人をすぐにEランクに上げて貰えるようにする制度が昔作られたんだ。今までこの制度を使った人はいなかったんだけど、今回リオン君には必要だと思った為、今回はその判断材料として直接話をしたかったのも理由の1つだよ」
「それは学校で何か教えて貰って条件を満たせるって事ですか?」
「学校へ行くと最初の方にいくつか重要な説明があって、それを聞いてからだね。学校が始まって1週間後にギルドへ行けばランクアップ出来るようになるかな。その為に色々聞きたいんだけど、リオン君は戸惑いの森ダンジョンのボス、ゴブリンキングを倒したのかな?しかも1人で」
おっと、やはりゴブリンキングを倒した事を知っているみたいだな。しかもソロで活動している事も知っているようだぞ。
嘘をつく訳にもいかないし、それにギルマスには知って貰ってた方がランクアップに影響するなら正直に言った方が良さそうだ。他の人にも結構知ってる人いるから今更感はあるけど。
「はい、1人でゴブリンキングを倒しました」
「やはりそうか。エミリー君から少し聞いているが、その服と帽子の装備はゴブリンキングを倒して手に入れた物だろう?その指輪と腕輪もそうかな?」
「そうです。これらはゴブリンキングを倒した時に手に入れた物の一部です」
よく見てるな。初心者冒険者が防具を整えたら気になるのかな?特にダークネスローブはコウガも知らなかったみたいだし。
「一部という事は、それなりに討伐しているという事だね。これはランクアップさせるには十分な実力があると思った方がいいね」
ギルマスが少し考え込んでから、
「まずEランクに上がるには、ギルド側からは結構慎重になっている部分があるんだ。Fランクはまだ初心者扱いになるんだけど、Eランクになればようやく1人前の冒険者として認められるような感じになっていてね。それは主に討伐依頼に関係しているんだけど、Eランクからは大怪我率が極端に上がってくるんだ。さらに死亡率も上がる為、その線を見極めてEランクに上げるかを考えると、登録から1年以内にEランクまで上がれる人はいないんだよね」
「では、僕が上がってもいいと思った理由はゴブリンキングを何度も倒しているからですか?」
「その通りだよ。ゴブリンキングを単独で討伐出来るならDランクでも問題ないけど、申し訳ないがギルドのルールだからランクアップは当分先になるからね」
ランクアップはすぐじゃなくてもいいかな。今すぐ上がっても出来る事が限られているからな。
それよりも何か制限されている話で教えて貰える事があれば是非聞きたいのだが。
「ランクアップはルール通りで問題ありません。それよりも学校で教えて貰えるみたいですが、今聞いてもいい事はありませんか?出来れば教えて貰いたいのですが」
「そうだね。色々と情報制限をしているところはあるんだけど、それは多分リオン君が強くなり過ぎたのが理由だね。とりあえずダンジョンについて教えられるところを話そうか」
ギルマスはそういうと執務机へ向かい引き出しから1枚の紙を取り出し、机の上に置いた。
そこには[ダンジョン内資源回収禁止リスト]というタイトルが表紙にでかでかと書かれていた。
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