商人と会う

 昼食を取った後、約束の時間の少し前にコウガと家を出た。

 これから会う商人さんは王都にいた頃に世話になった人らしい。

 武器屋のホストンさんも王都にいた頃からの仲で、聞いてみたら騎士団に入る前に、一緒のパーティーを組んでダンジョンに行った事があるそうだ。

 コウガが騎士団に入った事によりパーティーは解散し、ホストンさんは鍛冶師に専念していくことになったとの事だ。

 道理で仲が良い訳だな。コウガに領主ではなく呼び捨てで呼んでたからね。


 コウガと話ながら歩いていると、商人さんがいる店に着いた。

 店というか大きな倉庫のようだな。

 コウガが裏口から勝手知ったる様子で中に入っていくので、俺も付いて行く。

 中に入ると色々な荷物が置いてあり、やはり倉庫のようだった。

 裏口近くに青年らしい人物がおり、そちらに近づいていく。


「領主様、お待ちしておりました。大事なお話があるそうで」


「時間を取らせてすまないな。ククト。実は下の息子のお願いを聞いて欲しくてな」


「初めまして、リオン・スペンダーと申します。本日は時間を取って頂きありがとうございます。いくつかお願いがあり参りました。聞いて頂けますか?」


「これはご丁寧にありがとうございます。私はククトと申します。リオン様のお願いがどのようなものかお伺いして可能な範囲で対応したいと思います。では、こちらでお話を聞きますのでどうぞ」


 ホストンさん同様に、今後の付き合いがありそうなので、しっかりと挨拶をした。ククトさんは一瞬だけ驚いた様な顔をしたが、あとは至って普通の表情に戻っていた。

 ククトさんから丁寧な挨拶を頂いてから、奥の部屋に移動する事になった。

 それにしても、このククトさんに何かを感じるような気がした。直観的な感覚で正直理由は分からないが俺は家族以外に、ほんの少しだが鑑定を使ってしまった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

名前:ククト

年齢:30歳

種族:人族とエルフ族のハーフ

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 あれ程、鑑定を他の人には使わないようにしていたのに、どうして使ってしまったのか分からないが、鑑定結果はここまでしか見なかった。というより、種族を見て止まってしまったというのが正しいだろう。

 どうやらククトさんは人族とエルフ族のハーフらしい。異世界ものによくあるハーフエルフというものだろうな。

 この町でエルフを見た事はなかったが、先にハーフエルフに会えるとは嬉しい限りではあるのだが、よくある特徴の耳の先が尖っていて長いとか見た目がいいとか髪が緑っぽいとかはないな。見た目に関しては俺の美的センスが入ってくるので、当てにならないかもしれないな、コウガの方がイケメンに見えるからね。身内贔屓ともいうな。

 髪は緑というより、どちらかというと青に近く耳は人と対して変わらない長さだ。先も尖っていない。この世界のエルフの特徴が人間と変わらないのか、ククトさんがエルフの特徴をあまり継承しなかったのかは分からない。

 ラノベにはハーフエルフは迫害される話もあるし、エルフの事情もよく分からないので、学校へ行った時に王都でエルフを探してみるのもありだな。

 コウガに態々聞いて、もしも迫害されてる話を聞いたら空気が悪くなるからね。



 部屋に入ると商品などの荷物はなく、机と椅子があるだけだった。

 おそらく商談用の部屋だと思われる。

 俺とコウガは椅子を勧められたので、座ったらククトさんに飲み物は何がいいか聞かれ紅茶を頂くことにした。

 ククトさんは他の従業員の女性に飲み物を頼み、自らも俺たちの対面に座った。


 飲み物が来るまでに商会について話を聞かせて貰った。

 どうやら、この商会では直接お客には商品を売っておらず、ギルドや道具屋、武器屋や防具屋など必要な所に必要なものを売っているとのことだ。

 まさか異世界で卸業者のような動きがあるとは思わなかった。

 詳細までは聞いていないが、流れとしては卸業者と同じだと思えたし、この町では他にもいくつかの商会があり、一緒に王都に行き必要なものを手分けして買ってくる感じらしい。

 従業員の女性が飲み物を持ってきてくれたので、俺は今回の要件を伝える為、話し始めた。


「ククトさん、水魔法のオーブを王都のオークションにかけて欲しいのですが、お願い出来ますか?」


「えっ、リオン様は水魔法のオーブをお持ちなのですか?」


 ククトさんは俺に聞きながら、コウガの方に顔を向けていた。

 俺もコウガの方を向くと、頷いているのを確認する。

 それを合図に魔法袋から、水魔法のオーブを机の上に出した。


「こちらが水魔法のオーブになります。ウォーターボールが使えるようになるオーブです」


「こんな貴重なものを売ってよろしいのですか?」


 やっぱり魔法のオーブは貴重なんだな。今後も被りは出てくると思うから、売るのはお金が必要になって、オーブがダブった時だけにしよう。


「2つあるので大丈夫です」


「ふっ、ふたつあるのですか?」


 ククトさんは驚いていたので、コウガがゆっくりと説明を開始する。

 リオンが初級ダンジョンに毎日行っている事。

 毎回ボスのゴブリンキングを1人で何回も討伐している事。

 オーブは他にもいくつかある事。

 今後も何か売りたい物が出てきたら、オークションに出して欲しい事。


 コウガパパ、ゴブリンキングを1人で倒した事を簡単に言っていいのですか?

 確かに俺も最近ホストンさんの店の店員さんに言っちゃたけど、大丈夫だよね?心配になってきた。


「なるほど、よくわかりました。リオン様、オーブは大切に預からせて頂きます。ただ、すぐにはこちらのオーブが水魔法なのかわからないので、後ほど調べさせて頂きます」


 そうか、鑑定がないとこれがどんなオーブか分からないんだな。

 確かにゲームとかでも、何を手に入れたか分からなくて、鑑定屋で見て貰って、詳細が分かるとかあるな。それか専用のアイテムを使うとか。

 この世界に鑑定屋があるとは思えないが、どうやって調べるのだろうか?


「ククトさん、どうやって水魔法のオーブかどうか調べるのですか?」


「リオン、詳しくは言えないがどんな物か確認する方法はこの町にもあるんだ」


 ククトさんの替わりにコウガが教えてくれた。

 この町にも鑑定屋みたいのがあるのかな。

 とりあえず、コウガの話には頷いておくことにした。


 オークションで売却出来た場合は、ククトさんに手数料として売上の10%を渡すらしい。

 売れなかったら、オーブを返却するだけでいいらしいが、魔法のオーブならまず間違いなく売れるとの事だ。

 売れなかった場合でも、手間賃などがいらないのか聞いたら、他の用事のついでだから大丈夫と言われた。


 オーブの話はある程度決まった為、次のお願いを聞いてもらおう。


「実は欲しいものが2つあります。賢者の布と月石の粉末というアイテムなのですが、出来れば2つずつ欲しいのです。値段とか分からないのですが、オーブを売ったお金で買えるか分かりますか?」


 これは魔法袋(中)を作るための素材である。そう、1千万級のお宝である。これの素材が買えるのであれば、俺が錬金して売るという方法で金策出来るというものだ。

 まずは俺とアルスの分が欲しいので、素材の値段次第では、もっとたくさん欲しいと思っている。錬金して売れば大金になるからな。

 一気に売るのは相場が下がるかもしれないので、徐々にオークションに出していくのがいいとは思う。そんなにたくさんの素材は手に入らないとは思うけどね。

 まずは、話を聞いてからだな。


「賢者の布と月石の粉末ですか…正直どちらも取り扱いした事のない商品なので、値段をはっきりと申し上げられません。王都に行った際に冒険者ギルドに依頼をかけようと思いますが、値段については私に任せて貰ってもよろしいでしょうか?もちろん、王都で情報収集は致しますので」


「それで大丈夫です。よろしくお願いします」


 値段は俺も分からないので、ククトさんにお任せで大丈夫だろう。


 こうして、俺の親孝行の為の準備が着々と進むのだった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

後書き失礼します。


いつも読んでいただきありがとうございます。


3章までは毎日更新する予定でしたが、出来なくなりまして、次の話が書け次第、更新になると思います。申し訳ありません。


コメントやレビューなどもいつもありがとうございます。

書いたと思ってた事がコメントを見て抜けてる事に気づきまして、それ以外もほんの少し修正すると思うので、修正後お知らせします。


ギフトを送って頂いた方々も、本当にありがとうございます。

それなのに更新頻度が落ちるのが、心苦しいです。


可能な限り執筆時間を取って、更新していきますので、今後もよろしくお願い致します。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る