調合用の釜を貰った

 アルスが疾風突きを覚えた翌日。

 今日から初級ダンジョンへレベル上げに行くことになったアルスは初日のみコウガとマリーが付き添いで付いて行くらしい。

 ダンジョンまでの道のりは覚えやすいのだが、歩いて1時間ぐらいかかるらしいので、注意点など説明しながら行く事になった。

 そして、何とダンジョンに行く前に冒険者登録をするというのだ。

 午前中はテルーゼの町の冒険者ギルドに行くとの事なので、俺も一緒に連れて行って貰おうとしたが、マリーにやんわりと断られてしまった。

 登録後、そのままダンジョンに行き、ある程度一緒にダンジョン内でレベル上げの手伝いをするという。

 昼食も冒険者がよく食べる携帯食料を買って、それをダンジョン内で食べるとのこと。

 1日でダンジョン探索を覚えるようにするとのことだ。次からは1人で行かないといけないからな。ある程度でも慣れないと大変だ。


 そして、昼食を俺とリカルド、ミランダの3人で食べた。

 その後、リカルドは仕事があるらしく、コウガの執務室に向かっていった。

 残された俺とミランダは紅茶を飲みながらまったりしていた。

 ちょうど二人きりなので、ミランダのことを聞いてみるかな。


「あのさ、ミラさんも学校行ったんだよね?どんな感じだった?」


「私は生産課だったんだけど、話聞きたいかな?」


「ミラさん、生産の方に行ったんだね。生産課の話でもいいから聞きたいな」


「それなら教えてあげるね。まず1年目は全員同じ授業を受けるんだよね。一般教養と戦闘実技があってね、一般教養は座学なんだけど、戦闘のこととか生産のこと、あとは国のこととか計算、文字の読み書きも教えて貰えるよ」


「文字の読み書きもあるんだね」


「平民も多いからね、一応親からある程度は教えて貰ってると思うけど、環境が悪いと文字の読み書きがあまりできない子もいるんだよ。それで教えてるって話だったかな」


「そうなんだね」


 なるほどね、日本ほど治安がいいって訳ではないしな。魔物がいる世界なんだし。家の手伝いを優先してるところも多そうだ。そうなると勉強したくても出来ない子が少なからずいるってことか。


「戦闘実技なんだけど、これが結構大変なんだよ。1年生の最終試験が初級ダンジョンのどこでもいいから1箇所攻略することなんだよね」


「え、確かボスを倒すのにレベル10でもきついって話だよね?」


 あれ、1年生の試験内容ちょっとおかしくないか?


「それはアルス様が今行ってるダンジョンのことだよ。あそこは初級ダンジョンの中でも中級に近い難しさだからね。学校の近くにある初級ダンジョンはもっと簡単だし、ダンジョンへはパーティーで挑むから、戦闘課の人からすればそこまで難しくはないと思うよ」


「お兄様の行ったダンジョンって難しいんだ。それに学校でもパーティー組めるんだね」


 なるほどね。学校の近くの初級ダンジョンは簡単なのか。確かミランダはレベル5だから、友達とパーティーを組んでダンジョンクリアしたんだろうな。


「そうだよ。学校ではパーティーの最大人数は4人までなんだ。冒険者とかだと最大5人なんだけどね」


「えっと、理由があるの?」


 パーティーの人数に上限があるのか?


「ダンジョンへ一緒に入れる人数が最大5人なんだよ。学校では試験の時に必ず先生が付きそう事になってるから4人までって決まってるの」


 ダンジョンに入れる人数が5人までって、少なすぎないか?それともダンジョンがめちゃくちゃ多いとかかな?


「ダンジョンに入れる人数に制限があるの?」


「うんとね、ダンジョンには何人でも入れるんだけど、ダンジョンに入る時に転移陣で別の場所に飛ばされるの。その時にパーティーを組んでないと別々のところに飛ばされるんだよ。それでパーティーの上限人数が5人で、それ以上は一緒にいても入れないんだよね。そもそも5人までしかパーティーが一緒に組めないかな」


 パーティー毎ってことは所謂インスタンスダンジョンってことなのか。パーティーのメンバーしかいないなら、上級アーツとか色々使いたい放題じゃないか。

 しかも転移陣って事はダンジョンへは転移されるってことだよね?これはまた楽しみが出来たな。一体どんな感覚なのか。


「よくわかったよ。ミラさん、2年目からは生産課を受けたんだよね?どんなことをしたの?」


「2年目からは一般教養を引き続きやりつつ、生産についての授業をうけるんだけど、生産課でもいくつかの分野に分かれるんだよ。私は調合を専攻したんだ」


「調合が使えるの?」


 ミランダが調合使えるのは知っているが、一応聞いてみよう。そして、出来れば見せて貰いたい。見たら覚えられるかもしれないからな。


「使えるよ。調合はね、主に薬を作るのがメインになるんだよ。もちろん、薬以外も調合で出来る物はあるけど、薬関係の物が圧倒的に多いかな」


 調合って薬関係の物が多いのか。

 調合用の素材集めが大変そうだな。

 今の段階では調合を覚えてもレベル上げが困難かもしれないな。

 それでも、覚えられるなら覚えたいけどね。


「ミラさん、簡単なのでいいから1回調合見せて貰えないかな?」


「いいよ。じゃあ、準備するからちょっと待っててね」


「うん、待ってるね」


 おお、調合やってくれるみたいだな。

 今まで1度も調合見せて貰ったことないけど、もしかしたら言えば見せて貰えたのだろうか?

 まあ、今から見せて貰えるから、過ぎたことは気にしないでおこう。

 それよりも、調合をどうすれば使えるようになるかだな。しっかりと確認するぞ。


 5分程してミランダがお釜みたいな物を持ってきた。

 お釜の材質は分からないが真っ白で出来ており、持たせて貰ったらすごく軽かった。その中に葉っぱが数枚入っていた。


「リオン様、お待たせ。調合釜を持ってきたよ。この中に材料を入れて調合するんだけど、使う前に毎回ウォッシュとドライをする事は調合の基本だからね。あとこの釜は錬金でも使うことができるからね」


 そういうとミランダは調合釜にウォッシュとドライを使った。

 というか、この調合釜は錬金にも使えるのか。両方使えるって便利な釜だな。まあ、今は調合に集中しよう。


「基本は大事だからね。それで、その葉っぱは何かな?」


 ミランダが持ってきた三つ又に分かれた葉は、どこかで見たことがあるような世界樹の葉みたいな形をしていた。大きさは手のひらぐらいだ。


「これは癒し草だよ。町の外になるけど、この辺りでも取れる素材なんだ。今回はこの癒し草2つを調合して薬草にするよ」


「近くで取れるんだね。それに癒し草2つで薬草になるんだ。すごいなぁ」


 薬草は怪我した時にその箇所に当てて包帯で巻いておくと治りが早くなるのだ。

 俺も何度か足を擦りむいた時に使った事がある。次の日には傷跡も残っていなかったな。

 ちなみに、この世界で薬草は食べたり飲んだりはしない。

 それから薬草は緑色よりも少し青緑っぽい感じだな。大きさは癒し草とあまり変わらないが、三つ又がなくなり卵型の1枚葉のようになっている。


「調合はね、調合釜に素材を入れて調合を唱えるだけで出来るんだよ。ただ初めてやる場合とかだと、調合釜の中央に素材を置いてやる方が上手くいきやすいって言われているね」


「そうなんだ。あの、失敗したらどうなるの?素材がなくなっちゃうとか?」


「失敗しても素材は消えないよ。調合が失敗したら何も起きないだけだね。あと、熟練者になると同じものなら複数同時に作ることが出来るよ」


 なるほど。失敗しても素材が残るのはありがたいな。

 それに、大量調合も出来るのか。


「それじゃあ、早速やるから見ててね。調合釜に癒し草を2つ入れて、〈調合〉」


 ミランダが調合を唱えると一瞬調合釜の中が光った。光はすぐに収まり、釜の中を見てみると1枚の葉、薬草が出来ていた。


「すごい!一瞬で出来るんだね」


「ありがとう。リオン様、調合に興味あるなら、この調合釜あげようか?」


「えっ、いいの?」


 突然の提案でびっくりしたが、調合釜を貰ってもいいのか?これ高いものじゃないの?


「一応予備持ってるからね、欲しかったら上げるよ。ついでに癒し草も持ってきた分全部どうぞ」


「欲しい欲しい。うれしいよ。ミラさん、ありがとう」


「いいよ、リオン様が頑張ってるところ見るの好きだから。頑張ってね」


「うん、頑張るね」


 こうして、思いがけず調合釜と癒し草を手に入れるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る