第4話 ヒサイシさんの恋

 ヒサイシさんは夕飯の用意をするため、家からふらふらと歩いて30分ほどのところにある、街の中心のスーパーマーケットに来ていた。


 ヒサイシさんは店内に入った。夕方で主婦の姿が多かった。ヒサイシさんは不意に数多いる主婦の姿をジッと見てしまった。あの人はいないかどうか探してしまった。


 あの人とはヒサイシさんの家の前に住んでいる、桐原さんのことだ。桐原さんは30代前半ぐらいの年齢の人で、髪が長く腰の位置まであり、それにストレートパーマをあてていた。肌の色が透き通るように白く、綺麗な雪女のような人だった。そんな桐原さんはめったに笑わなく、いつも眉間にシワがはいっているような少しきつさを感じさせる女性だが、ヒサイシさんは桐原さんのそんなところにも、惚れていた。ヒサイシさんは桐原さんの姿を見ると、いつも心臓の裏側に鳥肌がたつような、なにか神々しい感覚を憶えるのだった。桐原さんはだいたいこの夕方5時ぐらいに、幼稚園児の娘さんと一緒に買い物をしている。だからヒサイシさんはいつも桐原さんに会いたいと思って、この夕方5時を目安に買い物に来る。


 ヒサイシさんはスーパーマーケットをふらふらと買い物カゴを持ち徘徊した。目は下を向いている。口元はニヤけている。ときどきブツブツと独り言を言う。そして頭の中で電球が光ったように、何かをひらめいたように、視線を上げ、桐原さんの姿を探す。それを繰り返す。


 この日は桐原さんに会えなかったようだ。


 ヒサイシさんは肩を落とし、シャウエッセンのソーセージと卵一パックを購入した。


 そしてヒサイシさんは自宅へ、ふらふらと帰っていった。


 ヒサイシさんは桐原さんのことを考えている間は、この世界の不条理を忘れることができるのだった。

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