24 気合いを入れて張り込み!(前)
「ハルト。多分『いかにも』な連中は、そうあからさまにこちらとの接触を避けたり大きな声を出したりはしないだろう。探し出すのはハルトの双肩にかかっているぞ。人探しは探偵業務の基本中の基本。
「!」
俺の弟子。
その言葉に、分かりやすく僕は舞い上がった。
僕も、僕もついに「ただ養われる者」ではなく、叔父さんと仕事が出来る!
「屋敷をウロウロするもよし、コイツ抱えて宝物庫の入口で張り込みしてみるもよし、だ。記念におまえが方針を決めて調査をするんだ」
そう言って、叔父さんの方はくしゃくしゃと僕の頭を撫でた後、ご当主エイベルさまの所へと向かって行った。
結局、火竜騎獣軍の九割以上が、竜導香を使って、西に逃げた
しかも辺境伯家に残ったのは、新人ばかり。
今回はスピード勝負。西に着いてからも事態がどう転ぶか分からないとのことで、いざと言う時にも自分で判断のきく、新人以外の軍人たちを連れて出ることにしたのだ。
「……俺は学校のセンセじゃねぇんだぞ……」
なんてコトを叔父さんがぶつぶつ呟いていたところから考えれば、新人を置いて行ったのは置いて行ったなりに理由があって、もしかしたら休業中とは言えS級冒険者の肩書を持つ叔父さんに、実践教育をしてもらいたいとの思惑が多少なりとあったのかも知れなかった。
「アンヘル。西から誰が出て来ようと怯むな。辺境伯代理の権限は与えておく。前回の我が領への濡れ衣が晴れるのが理想的だが、少なくとも今回強奪された卵は取り返して来い。そもそも『竜の牧場』は冒険者ギルドの管轄。そして冒険者ギルドが誇る英雄・リュート殿がここにいる。こちらが咎められる謂れは何一つないのだ」
「はっ! 心強い言葉を有難うございます!」
要は身分の話を持ち出す者がいても、気にせず暴れてこいと言うことなんだと、察した軍団長さんの笑顔がいっそ清々しかった。
そうして、ちょっとすぐには数えられないほどの
あれじゃ、西の辺境伯家を乗っ取りに来たと思われるんじゃ――と心配する僕に、リュート叔父さんは「むしろ、そう思わせに行くんだよ。いったい誰にケンカを売ったのか、思い知らせるために」と、苦笑いしていた。
なるほど、今後くれぐれもエイベルさまにはケンカを売ってはいけないと言うコトなんだろう。
「さて、こっちはこっちで内通者探しだ。頼んだぞ、ハルト」
「ハイっ!」
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ザイフリート辺境伯家のお屋敷の中には、代々受け継いだ武器以外にも、美術品を含めたガラクタ――もとい、雑貨類を保管する宝物庫の様な場所があると言う。
まずはその場所を確かめに行った僕は、ちょうどその宝物庫の斜め向かいあたり、手入れ道具と思われるモノが大量に置かれている部屋があるのを発見した。
ちなみに
「よし、じゃあここで張り込みしようか」
ほんの少しだけ扉を開ければ、宝物庫に出入りをする人間がそこから垣間見えると言う、実に張り込み向きの部屋なのだ。
「あ、でも飲み物とか食べ物とか要るよね。僕だけじゃなく、キミのも」
僕の問いかけにも、
「……とりあえず、厨房で食べ物と飲み物貰おっか」
そりゃ可愛がられるよなぁ、と思わず
普段から
まして子犬となれば、愛玩動物以外の何物でもないに違いない。
厨房に行く途中でも、僕よりもむしろこの仔犬をガシガシ撫でて「おまえ、また脱走してんのか」なんて笑っている使用人がいるくらいなのだ。
厨房では、張り込みとは言わずに「
問題は、今日のうちに誰も盗みに来なかった場合なんだけど、リュート叔父さん曰く「あれだけ派手に
厨房から戻る途中の廊下で、今度は今回ついて行かなかった火竜騎獣軍の新人だと言う三人組とすれ違ったけど、叔父さんとの打ち合わせ通りに「
納得されてしまうのは、僕が十代前半の、見た目にも明らかなお子様だからだろう。
これが叔父さんなら、それを建前に何をする気だと勘繰られること請け合いだ。
最初僕はちょっと拗ねていたけど、叔父さんが「その見た目は今だけなんだから、せいぜい利用しろ」って、発想の転換だ、って言ってくれたから、そこで気合を入れ直したのだ。
宝物庫前の倉庫に戻ると、仔犬が床に転がっていた丸い球に興味を示したので、仔犬はしばらくその球で遊ばせておくことにする。
「でもずっと、その球で遊んでいられるとは思えないしな……」
そしてきっと僕も途中で退屈になる気がしたので、倉庫の中で仔犬と遊べる何かがないか、ゴソゴソと中身を確認していくことにしたのだった。
だけど、僕が宝物庫の掃除用の備品庫だと認識していたところが、まさかこっちにもアレコレと価値のある品物が混ざっていたことを知るのは、もう少し後の話だ。
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