その2 探偵っぽい、とは?
「おおー!?」
「いや〝おおー!?〟じゃないだろう? ちょっと待ちなさいって」
感嘆の声をあげて拍手する先崎を制して、火箱はあわてたように口を挟む。
「あのね凛音くん、きみってば、もしかして勝手に仕事の依頼を受けてきちゃったわけ?」
「まさか! いくらなんでもそこまでの越権行為はしませんよ!」
けたけたと笑って凜音はいった。
「ただ、わたしのお友だちがいま直面している問題の解決に、所長やトオルくんならば力を貸してあげられると思って、ウチの事務所を紹介したまでです。
そう言えばあの子、今日は四時間目までだって言っていたから、そろそろ来る頃だと思うけど……」
凜音の独り言に答えるかのように、玄関のチャイムが鳴る。
「あ、ちょうど着たみたいです! ほら、所長もトオルくんもボサッとしない! 早くゲーム隠して、それからこう……なんか探偵っぽくしててください! いいですか? 探偵っぽくですからね?」
「おいこら。探偵っぽくってなんだ? 探偵っぽくてえのは? 俺たちは普段、探偵っぽくないとでも言いたいのか?」
パタパタとスリッパの音を響かせて玄関へと向かう凛音に向ってブツクサ言いながらも、火箱は立ち上がり、ファイルキャビネットから適当なバインダーを引き抜ぬいて開く。
「……なあ、ヒバよ。もしかしてそれって〝探偵っぽい〟のか?」
「しらん。けど、すくなくとも仕事をしている風には見えるだろうが?」
さも何かを調べている体でページをめくりながら、火箱は「ほら、なにやってんだ?」と促していった。
「おまえも壁で片手腕立てなんかしてないで、仕事しているフリでもするか、せめて難しい顔でパイプで煙草でもふかしていろよ」
「いや、パイプなんか持ってねえよ……」
そもそも俺、煙草やめたしね。と、先崎はあきれたように呟いていった。
「しかし、ヒバよ。こう言っちゃあなんだが、おまえさん、よく凛ちゃんの友だちの依頼なんて引き受ける気になったもんだな」
「まだ引き受けるかどうかはわからないがな。ただ、じっさい暇だし、金がないのも事実だしよ。凛音くんの手前、せめて話だけでも聞いてやっても損はないだろう?」
「けどなあ、凜ちゃんの友だちってことは現役のJDだろう……?」
「大学生かどうかはわからないが、まあ同世代の女の子だろうな」
それがどうかしたか? と訊ねれば、先崎は「いやあ、だってさあ……」と渋い顔でいった。
「こう言っちゃあなんだけどさ、俺、そんな若い子から悩みやトラブルを相談されても、正直、解決するどころか、内容を理解できる自信すらまったくないぜ?」
「おいおい、なーにびびってやがんだよ、おまえは?」
あきれたように鼻で笑って、火箱は手にしたファイルをパタンと閉じていった。
「いいか、よくかんがえても見ろ? 相手はたかが十九、二十歳の小娘なんだぞ? そんなガキんちょが抱える悩みやトラブルなんて、せいぜい悪徳ホストに騙されて
「すみません。そういうおっさんの偏見、キモいんで、マジでやめてもらえませんか?」
冷え冷えとした口調に振り向けば、いつの間にか凛音が玄関からもどってきていた。
「あれ? 凜ちゃん、お友だちは?」
「なんだ? 玄関まで来ておいて、まさかビビって帰っちまったのかよ?」
「はいはい、そうガッツかない。せっかくの依頼人が怯えちゃうでしょうが」
怪訝な顔をする中年男ふたりを手で制し、凜音は肩越しに後ろを振り返えっていった。
「ほおら、
「おいこら、勤労学生。圧がすごいってどういうことだ、圧がすごいってのは?」
「おいヒバ、後ろ、うしろ。凜ちゃんの後ろをよく見てみろよ」
言われて火箱はようやく、凜音のスカーチョにしがみつくちいさな手の存在に気がついた。
「それでは依頼人をご紹介します。わたしのお友だちの、
「…………。はっ?」
はたして凜音の後ろからひょっこりと顔を出した依頼人とは、女子大生どころか、その背に背負うランドセルですらおおきく感じられる、幼い女の子であった。
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