その4 謎の二人組による粗暴な救出
「ハッハー! 見たかよ、ヒバ! おもしろいなー、このプラズマ・ライトっての!? これもうライトって言うか、ほぼレーザーだぜ、レーザー!」
「おいこら、サキ! 言っとくけど、それリースだからな!? もっと慎重に扱えよ」
ほとんど肩撃ち式のロケットにしか見えない巨大なライトを担いだまま、ブルドーザーの上からクレーン車のデッキ部分へと軽々と飛び移るスキーマスクの大男に、クレーン車の運転席から身を乗り出したスーツ姿の男が苦言を呈する。
「ていうか、サキ。おまえさん、なんだって顔なんか隠してんの?」
「は? 何いってんだ、ヒバ?
「そーゆーこと言ってんじゃないんだよ? なんで自分の分のマスクだけ用意していて、俺の分はないのかって訊いてんだよ、こっちは?」
「ああ、なんだそんなことか。大丈夫、後でクルマに戻ったらグローブボックスを見てみろよ。ちゃんとおまえの分も用意してあるからさ」
「なら、先に言っておいてくんない!? 俺もう、ベトナム人ギャングに素顔晒しちゃったよ!?」
「え? だって
言い争うスーツ姿の男とスキーマスクの大男。
緊張感の欠片もないそのやり取りに、クレーン車のアームの先に吊るされたまま窃盗団のベトナム人と衝突してズタボロになったシュンジも、思わず呆れて「なんなんだよ、アンタらは……」とこぼした。
「つーか、なんでもいいから、ここから降ろしてくれよぉ……」
シュンジが弱々しく呻くと、スーツ姿の男とスキーマスクの男は、今になってその存在に気づいたかのようにハッと顔を見合わせる。
「おっ……おい、ヒバ。これ、やばくないか? たしか依頼は〝無傷で身柄を確保〟だったよな?」
「きっ、緊急避難だ! 問題ない! それにほら、そこに転がってる彼のオトモダチに比べりゃあ、目立った外傷とか全然ないだろう?」
「おっ、おおっ! そうだな、うん! 首も変な方向に曲がってないし、頭が割れて中身も見えてないもんな!?」
ハッハッハ、とわざとらしい声で笑い合うスーツ姿の男とスキーマスクの男。
「……ほんと、アンタら、なんなんだよ、もう……」
ぐったりとしてふたたび訊ねるシュンジに、しかし謎の二人組の男たちは、やはり何も答えようとはしなかった。
なぜなら、いったんは蹴散らされたベトナム人窃盗団が、拾い上げたバールや鉄パイプを手に、いっせいにクレーン車へと殺到してきたからだ。
「
そう叫んで窃盗団に激を飛ばすのは、あのベトナム人のおっさんだった。
「おっと!? さすがにやばいな、おい!?」
「ああクソ! 冗談じゃねえぞ、まったく……!」
スキーマスクの大男があわてて左手でクレーンのアームを掴み、右手でプラズマ・ライトの筐体を保持するいっぽう、スーツ姿の男はぼやきながらクレーン車のアクセルを吹かす。
「おい……待てよ、おっさん? いったい、なにをする気だよ?」
変わらずアームの先に吊り下げられたままのシュンジは、ゆっくりとクレーン車が前進しはじめたことに気づくと、振り返って足をバタバタさせながら叫んだ。
「ざっけんな、テメェら!? 先に俺をこっから降ろせよ!?」
「うるせー! もとはといえば、いまどき闇バイトなんかに手を出したおまえが悪いんだろうが!? 助けてやるだけでもありがたいと思え!」
「まあ、そういうわけだから。すこし辛抱してな」
運転席から身を乗り出してスーツの男が怒鳴り、デッキに立つスキーマスクの大男が肩を竦める。
「まっ、待て待て待て! 停めろ! 停めてくれええええーー!」
顔面蒼白になったシュンジの悲鳴をかきけすように、マフラーから盛大に青白い排気煙を吹き出し、クレーン車がいよいよ加速しはじめる。
正面から迫っていた窃盗団があわてて左右に飛び退いて道を開けるなか、スキーマスクの大男は先程と同じように細く絞ったプラズマ・ライトを小刻みに明滅させて、武器を投げつけようとする者の目を的確に潰していく。
しかし、クレーンのアームに掴まってデッキに立つスキーマスクの大男の位置からは、運転席の反対側、つまりクレーン車の左側にいる窃盗団にたいしてはプラズマ・ライトの照射することができなかった。
そのため左方向にいる窃盗団からの攻撃には完全に無防備な状態であり、投げつけられた鉄パイプや、その他いろいろな礫が、クレーン車のボディにガンガン当たるのだった。
幸い、スキーマスクの大男にはアームが盾になっていたし、もとより強化ガラスで守られている操縦席を兼ねた運転席にいるスーツの男も無傷であった。
唯一人、アームの先に吊り下げられているシュンジだけは事情がちがった。
「ギャアアアー! 痛い痛い! やめ、やめてくれええええーッ!」
シャベルで頭を殴られ、何度も鳩尾に拳を叩き込まれ、クレーンに吊り下げられたまま窃盗団と激突を繰り返し、ただでさえ傷だらけだったシュンジは、大小さまざまな礫に晒され、いまやズタボロの満身創痍と状態であった。
「死ぬ! 死ぬ死ぬ死んじゃうって!? おいテメェらフザケンナ──」
飛んできたスパナが額に命中し、シュンジは一瞬意識が遠くなる。
──あ。俺、死ぬわ。
そしてついに死を意識したその瞬間、シュンジは自分の身体がふわりと軽くなるのを感じた。
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