第28話 空に咲く大輪の花(3)

 俺はシフトの終わった可奈かなと一緒に。

 可奈かなにやってきた。


「ただいまー」

「おじゃましまーす」


 誰もいないとわかりきった家。

 だけど、無言で帰宅するよりホッとする。


青葉あおばくん、麦茶いる?」

「サンクス。もらっとく」

「あ、まずは手洗いねッ」

「はぁい」


 靴を並べてから、洗面所へ。薬用ハンドソープで指先までしっかり洗う。両手を拭いて。スマホの画面も拭きとって。準備は万端。

 リビングのテレビに向かう俺。

 テレビの型番を調べて、スマホで取扱説明書をダウンロード。目次を調べて、VODサービスの使い方を見つけた。スマホ片手に、リモコンを操作する。


「これ、ようつべイケるじゃん……あ、ダメだ。ネット未接続になってる」


 テレビの裏面。つながっているケーブル類に、LANケーブルはなかった。でも、この機種なら無線LANにも対応しているらしい。


可奈かな、Wi-Fiルーターってどこ?」

「んー、どんなの?」

「あー、わかった。じゃあ家電いえでんから線たぐってく」


 固定電話につながった電話ケーブルを追跡。そこから、光回線の終端装置を発見。その近くに、白いWi-Fiルーターを見つけた。


「SSIDみっけ。これをパシャリと撮って」


 また、テレビの前に戻って、無線LANの設定を進める。


「よし、IPアドレス取れた。これでネットにつながるな」


 試しにVODに切り替えて、YouTubeに入る。たまたまトップ画面にあった、人気アーティストのPVを適当に流してみる。問題なく再生された。


「次はホームシアターシステムだな」

青葉あおばくーん、麦茶ぬるくなっちゃうよ」

「あ、わりぃ! つい、夢中になってた」

「のめりこんじゃうと集中力すごいよね」


 可奈かなが麦茶と茶菓子を出してくれた。ありがたくいただく。


「ねぇ。どうして」

「ん?」

「なんでいきなり、こんなことやってるの」


 俺がテレビをいじりはじめた理由を聞いてきた。


「このテレビ、スマートテレビっていうヤツなんだけど」

「うんうん」

「YouTubeとか、Netflixとか。コイツで直接見れるんだ」

「え!? 知らなかった」


 どうりで。ネット設定が一切されてなかったわけだ。


可奈かながさっき調べてただろ。山形で今晩やるって花火のアレ。コイツで見れるかもしれないと思って」


 青い瞳がパッと開く。


「スピーカーシステムで聴けたら、ちょっとくらいは臨場感出るかな、と」

「ホントに?」

「やってみないとわかんないけど。たぶん」

「わかった。楽しみにしてるね」


 一服してから、スピーカーシステムを調べる。

 よく見かけるサウンドバーじゃない。アンプを使った本格的な機器構成。テレビの光出力端子から、アンプの光入力端子にケーブルがつながっていた。


可奈かなのお父さん、かなり音にこだわってたみたいだな」

「うん。これで映画見てて、すごく満足そうだったの。覚えてる」

「使ってなかっただけで。今でもモノは動くと思うけど」


 アンプに電源投入。電源ランプがついた。コイツは生きてる。

 アンプの入力を外部入力に切り替え、テレビの音声がスピーカーに流れた。


「あとは、ライブに対応しているかだな。VTuberのライブを検索して……」

青葉あおばくん、なんかすごいね」

従兄いとこのお下がり、いろいろもらったりするし。ネットの設定なんか、しょっちゅうおふくろに丸投げされるから。嫌でも覚える」


 人気のVTuberのライブがテレビで流せた。これで疎通確認完了。


「これでオッケー! 十九時開始だったよな。うちで着替えたら、また来る」

「え、なんで着替えるの?」

「そりゃ、花火観るなら浴衣だろ?」


 目を丸くした可奈かながはにかんだ。


「それじゃ……私も浴衣に着替えて、待ってるね」


 俺たちはこれから、昨日の埋め合わせをするんだ。

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