第27話 空に咲く大輪の花(2)

 お盆休みの花屋は、忙しい。

 墓参りでお供えする仏花を買っていく人が多いから。

 今日は台風明けの日曜日とあって、特にお客さんが多かった。


「店長。お墓用のお供え花、あと三つです」

「あおちゃん、バックヤードからお墓用の在庫追加して」

「オッケー」


 今日はバイトのお姉さんたちも、総出でシフトに入っている。

 その中に混ざっていても、ぜんぜん違和感のない中学三年生。

 仏花を両手で抱えて出てきたら、高校生くらいのカップルが可奈かなに声をかけた。


「店員さん。この間は、ありがとうございました」

「あっ。紫のアネモネの写真の人……ですよね?」


 あの時の高校生。その傍らに、綺麗な女の子。

 流れるようなストレートで、妖艶なほどの黒髪ロング。

 道行く人々の視線を惹きつけるほど、美しかった。


「なおくんが話してた店員さんって、この子?」

「もうひとり、男の子がいたはずなんだけど……」

「青葉くーん! こっちきてー!」

「はいはい、いまいきますよー!」


 仏花の在庫を店先に並べて、カノジョと並んで接客する俺。


「いらっしゃいませー。お呼びっすか?」

「ありがとう。君にお礼が言いたかった」


 いきなり、お礼を言われて、さすがに戸惑う。


「あの時、花言葉の意味に気がついて。みなとみらいに行ったら、彼女がいたんだ。ずっと、ボクを待ってくれてた」

「え……それじゃ、こちらの方は?」

「ぼ、ボクの――彼女です」


 カノジョ、と口にした瞬間。

 男子高校生が照れくさそうに、肩を抱いた。

 カレシの反応を面白がってる女の子が、俺をみて口を開いた。


「ねぇ。紫のアネモネの花言葉、あなたが教えてくれたんだって」

「――え、ええ。俺、花屋の息子なんで。花言葉も知ってたから」


 綺麗な女子高生に話しかけられて、少しドキドキする。


「そっかぁ……もう一度、なおくんと会えたの。あなたのおかげなんだね。私からもありがとうって言いたくて、彼氏と一緒に来ました」

「その、なんといえばいいんでしょうか……おめでとうございます」


 可奈かなが祝福の言葉を送った。

 このふたりの間に、いったい何があったのか。

 それは、まったくわからないけれど。

 俺と可奈かなは、そうと知らず、縁を結ぶきっかけを作った。

 そんな確信は、はっきりとしていた。


 ***


 台風一過で空の彼方、宇宙まで透き通る青空がうらめしい。

 これが一日早ければ、一緒に花火を見に行けたはずだった。


「今日、花火やるところあるんだね」


 今日のシフトが終わった可奈かな

 スマホでなにかをググってた。


「どこでやんの?」

山形市やまがたし霞城公園かじょうこうえんって……どこ?」


 帰国子女だから、日本の地理に疎いのか。

 って、山形なんて行けるわけねーだろぉ!


「東北のほう。東京駅から山形新幹線ってのが出てる。霞城かじょうってのはだな、山形城の雅称なんだ」

「ふーん、よく知ってるね」

最上義光もがみよしあきは『信長の野望』で使ってたから知ってる」


 その公園に、最上義光もがみよしあきのでっかい像があるらしい。

 仙台城の伊達政宗だてまさむねの像とどっちがデカいんだろう。


「あれ、この花火大会。ストリーミング配信もやるんだ。ハイテクだねぇ」

「コロナもあったしな。密にならずにすむように、って配慮なのかも――」


 待てよ。

 ストリーミング配信だったら、こっちでも見られるよな。


可奈かなさ。たしか、デカいテレビとホームシアターシステムあったっけ」

「うん。パパが買ったんだけど、ニューヨークに行っちゃったから。ほとんど使ってないし、まともに動くかわからないよ?」

「あとで見せてもらっていいか? ちょっとやってみたいことがある」


 YouTube視聴にも対応しているスマートTVなら、大画面で見える。

 そうでなくても、俺のChromecastがあれば、スマホから視聴可能だ。

 やってみる価値はある。

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