第23話 お風呂場でイチャイチャ(2)

「今度は……私の番なんだから」

「うひゃひゃひゃ!」


 攻守入れ替え。

 わきの下くすぐり地獄の刑を執行された。


「さっきやられた仕返しね」

「うわ、やべ」


 かなりぞくぞくする。それがわかったんだろう。

 可奈かなの「仕返し」はかなりねちっこくて。

 もうひとりの俺が、勝手に膨れ上がってた。


「そこは青葉あおばくんが自分で洗って。私も自分で洗うから」


 一番恥ずかしいところだけは、個々できれいに。

 隅々まで垢を落としきって、洗いっこの時間が終わる。


「あー、やっぱ風呂は命の洗濯だな」


 広めの浴槽に、いつもより一段少なめにお湯を張った。

 そこに、仲良く肩を並べるように浸かった。

 両ひざを抱える「体育座り」で、可奈かなが小さくなっている。

 その肩を指先でつつく。ビクン、とカラダが波打った。


「なーに恥ずかしがってるんだよ?」

「うるさい」

「何もかも全部見せあった仲じゃん」

「うるさいうるさい」

「まー、そういう恥じらいがまた、かわいいんだけど」

「――ッ!!!」


 顔を真っ赤にして、押し黙ってしまう。


可奈かながあんまりかわいいから、俺、もう我慢できないや」

「え……あむっ」


 強引に肩を抱いて、唇を食んだ。


「ちょ、ちょっと……やめて、お湯が汚れちゃう」

「なにで汚れるのかなあ」

「……お、怒るよぉ」

「怒った可奈かなもかわいい。ちゅっ」


 耳たぶを甘噛み。


「んにゃぁぁん!」

「ね、ここでヤッちゃうか?」

「だ、だめ……のぼせちゃう」


 ま、普通に考えたらそうだよな。

 お風呂場汚しちゃったら、俺が洗うつもりだったけど。


「じゃ、そろそろ上がろうか」


 頷いた可奈かなと一緒に、浴室を出た。

 脱衣所にふたりでいても嫌がらないくらい、羞恥心が薄らいだらしい。

 水気をバスタオルでふき取って、ガウンを着たら。

 布団を敷いた寝室まで、可奈かなをお姫様抱っこで運んだ。

 そのまま布団の上にカノジョを下ろして、抱きしめる。


「電気、消すね」


 リモコンに細腕が伸びて、LEDの光が消えた。

 カーテン越しの地上の星明かり。暗がりに目が慣れた頃合いに。

 ガウン越しに抱きしめたカラダが、もぞもぞと動いた。


「めちゃくちゃ敏感になってる?」

「もう、誰のせいよ」


 今日のために、月曜日から仕込んだ。

 さんざんじらして、可奈かなのほうからおねだりしてくるように。


「ちゃんと責任、とってよね」

「はーい。責任とって気持ちよくしまーす」


 真夏の夜、夢見心地のような時間。

 ふたりだけの秘密が、またひとつ。


 ***


 カノジョを抱いた、二度目の翌朝。

 俺自身が思ってた以上に、心地の良い目ざめだ。

 最初の時ほど、緊張しなくて済んだのが意外だった。

 カノジョがすんなり、自分を受け容れてくれた。

 それがわかって、俺も苦しみを自覚しないで済んだ。


(かわいかったなぁ……可奈かな


 座ったまま、向かい合い、抱きしめる。

 そうされるのがどうも心地よいらしい。新しい発見だ。

 もっと、もっと、とおねだりしてくる。

 何回したか、数えるのも億劫なくらい、キスを交わし。

 カノジョを連れて、月まで飛び立った。

 地上に戻った後、眠り姫はいまだ微睡まどろみのなかにいる。


(さて、賢者タイムだが――)


 筋トレすっか!

 お姫様を起こさないように、ゆっくり寝室を離れて。

 朝日の差すリビングで、スクワットと腕立て伏せ各五〇回。

 これをやり切った頃合いに、半裸のカノジョが起きてきた。


「――おはよう。本当にやってたんだ、筋トレ」

「おはよう。可奈かなも一緒にやる? 上体起こし」

「けっこうですッ! 私、シャワー浴びてくる」


 昨日、あんなにかわいかったのに。

 なぜか、今はちょっと不機嫌そう。


「うーん、女心ってのが今一つ。俺にはわからねぇ」


 誰もいなくなった寝室に戻って、上体起こし五〇回。

 血の巡りがよくなって、明晰めいせきな頭で考えても。

 可奈かなの不機嫌の理由がわからなかった。

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