第21話 勝利の女神は下着をちらつかせているぞ(3)

 人間、目的が定まると本気になる。

 俺は、恐ろしいほどの集中力で夏期講習に臨んでいた。


(夏期講習終わったら、可奈かなとイチャコラするぞ!)


 二日目の夜は、可奈かなのブラを外し、ねちっこく洋梨を触らせてもらった。

 だけど、下半身には一切手を触れていない。

 可奈かなが無意識に両脚を動かしていたのも、見て見ぬふりを貫いた。


 そして、三日目。

 今週の夏期講習は今日が最後だ。


「おはよう、可奈かな

「おはよう、青葉あおばくん」


 いつものように、家まで迎えに行く。

 恋人つなぎをしようとして、なぜかビクッと震えが走った。


「どうした、可奈かな

「……な、なんでもないから」


 ギュッと手を握りしめると。

 可奈かなも握り返してくるんだ。

 だから、わかる。嫌な反応じゃないって。


 おれで朝飯を食いながら、おふくろと会話を交わす。


「今日で夏期講習の前半、最後だったわね。調子はどうかしら?」

「うん、思ってたよりずっとわかりやすい。先生も丁寧だからさ」

可奈かなちゃんは?」

「え……あ、はい! とっても楽しいです!」


 実際、可奈かなは優等生とはいえ。

 学校生活自体が楽しかったわけではなさそうだし。

 学びをとても前向きに楽しめているのは、事実だ。

 にしても、この反応は――何か、考えてたのか?


「あおちゃん、模試の対策はできてる?」

「うん。オンラインで自習する方法教えてもらったし。帰りに可奈かな寄って、夜飯食った後、自習やってる。ウチだとマンガとかゲームとか、気が散っちゃうからさ」


 模試の結果がどうなるかはわからねーが。

 とりあえず、過去問を解いたりしている。


「じゃあ、今晩は可奈かなちゃんの家で勉強してきたら?」

「……それ、外泊OKって意味っすか?」

「ま、ここまでガンバってきたご褒美も兼ねて。ね」


 おふくろぉ。アンタ、ホントに親なのか。

 でも、ありがたい提案ではあるんだけど。


「ちゃんと明日、同じ時間に朝ご飯を食べに来なさいね」

「羽目を外しすぎるなってことだろ? オッケー、了解」


 約束を守っているからこそ、見て見ぬふりをしてもらっている。

 それが、よくわかっているから、信頼を裏切る真似はできない。


 ***


「ふぅ! 終わった!」

青葉あおばくん、お疲れ様」


 お盆前、八日間の夏期講習。

 それをぜんぶ、やり遂げた。

 いつものようにスーパーでお惣菜を買って。

 俺たちは可奈かなに帰った。

 一緒に軽めの夕飯を食べて、可奈かなが食器を洗う間、俺は浴槽の掃除。


『お湯張りをはじめます。お風呂の栓はしましたか?』

「しましたよー」


 磨ききった浴槽に、お湯が入り始めた。これで、準備完了。

 あとは、お湯で浴槽が満たされると、機械が教えてくれる。


「さてと、ちょっくら勉強すっか」


 名目上は、可奈の家で勉強してくるためのお泊まりなんだ。

 なのに何もやらないでは、嘘をついたことになってしまう。

 タブレットを開いて、オンライン自習スペースで一時間弱。

 頭が疲れた頃には、とっくにお風呂が沸いていた。


「あー、疲れた! 自習終了!」

「青葉くん、お疲れ様。梨の皮剥いたけど、いる?」

「いるに決まってんじゃーん! いただきまーす……もぐもぐ……うめー!」


 シャリシャリしてて、瑞々しくて、ほんのり甘い。

 これは「幸水」ってヤツ。冷蔵庫で冷やしたから、いっそうおいしい。

 可奈は果物の皮むきも上手いんだな。ホント家事にそつがない。


「「ごちそうさまでした」」


 脳みそに糖分が回ったせいか、疲れが飛んだ。


「お風呂、入ってくるけど……青葉くんは?」


 チラッ。

 可奈がこっちをチラ見してくる。

 これは、ひょっとしたら、ひょっとする?


「洗いっこ……する?」


 俺が聞くと、可奈は真っ赤な顔して、首を小さく縦に振った。


「あ、でも、後で来て……脱ぐところ見られるの、恥ずかしいから」

「……オーケー」


 どうせ裸になるんじゃん? とはあえて言わないでおいた。

 ということで、ついに待ち焦がれた「洗いっこ」の時間だ!

 ウッヒョー!

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