俺とカノジョと夏期講習、たまに甘々なデートを添えて

第15話 はじめての夏期講習

 遊びまくった土曜日の疲れをとるため、日曜日は予定を入れなかった。

 夕方、某国民的アニメのエンディングが流れると、憂鬱な気分になる。


「あー、明日から八月かぁ。あっという間だったな」


 明日、八月一日から夏期講習とやらが始まる。

 今週は月曜から金曜まで五日間連続だ。全然休みじゃない。

 三週間後には、高校受験の模試があるらしい。

 いろいろ詰め込んだ予定と向き合うと、気が滅入ってくる。


「あー、憂鬱だ」


 ベッドにごろ寝していたら、LINEの通知音が鳴る。


『今日、新しい下着を買いました♪』

「……ふーん」


 URLが添付された。

 累計販売数三〇〇万枚突破の大人気ナイトブラ――と書いてある。

 サラシを巻くのをやめたカノジョは、ブラに気を遣うようになったらしい。


「いいんじゃね――え!?」


 着用した写真が添付されてきた。


「な、な、なんて大胆な」


 びっくりしてる間に、メッセージの送信が取り消された。


『恥ずかしいので、このメッセージは自動的に消滅しました♪』

「おいぃぃぃぃ――ッ!?」


 レモンのような黄色のブラ。

 初めてカノジョを抱いた、昨晩の記憶が重なって。

 憂鬱だった気分が噓のように吹き飛んでしまった。


 ***


 翌日。

 俺と可奈かなは駅近の個別指導塾にいた。

 学校の教室みたいなモノを想像していた俺は、面食らった。


「黒板が……ない!」

「個別指導だもんね」


 飛沫防止対策なんだろうか。

 パーティションで仕切られたブースがずらりと並んでいて、個々のブースにはアクリル板が立っている。

 俺と可奈かなには別々の指導員がついて、指導してくれるらしい。

 最初にタブレットを渡された。これで質問に答えていくと、何がわからないのか、AIが教えてくれるんだとか。

 なんかすごい。

 ひとりひとりに先生がつくから、置いてけぼりにされない。

 学校の教室でのつまらない授業。その延長を想像していた俺が、まったく予想だにしなかった新しい世界が、そこにあった。


 新鮮な出来事ばっかりで、気がついたらお昼になっていた。

 おふくろが作ってくれた、ふたり分の弁当を可奈と食べる。


「お母さんのお弁当、おいしいね」

「うん」


 可奈かなはだし巻き卵が気に入ってるらしい。

 洋風が好みかと思いきや、なかなか意外。


「これをめちゃくちゃにするなんて、世の中にはひどい人間がいるもんね」

「……」


 初めてセックスしたとき打ち明けた、俺の過去。

 言うか、言わないでおくか。正直、悩んでいた。

 今は、言って正解だったと思い始めてる。

 俺も、可奈かなも、心に傷を負った者どうし。

 傷のなめ合いと言っていいのか、わかんないが。

 互いにいたわり合う関係になれそうな気がする。


「お母さんのためにも、高校合格。勝ち取ろうね」

「うん」


 その後、個別指導塾の教室長と面談する機会があった。

 俺と可奈かなが受験しようと考えている高校について。

 可奈かなは学力的に全く問題ないらしい。むしろもう一ランク上げてもよいのでは、という提案があったほどだ。

 逆に、俺はかなりチャレンジャブルな目標だと指摘された。今の学力では、二つも上のランクになるだろう、と。

 公立高校の選考方法には、中学校から提出する内申書の成績が含まれる。二学年の九教科の評定合計に、三学年の九教科の評定合計の二倍を加える仕組みらしい。

 つまり、二学年の成績が致命的に悪かったぶん、足を引っ張っている。

 このあいだの期末試験を頑張っていなかったら、受験する目標校を一ランク下げるように提案していたそうだ。


(かなり頑張らないと、まずいみたいだな)


 自分の実力を測るため、教室長から模試の受験を勧められた。

 模試は三週間後、八月二一日。


 それをひとつの目標として、自分の学力を上げていこう――。


 困難な目標を頭ごなしに否定することなく、教室長は俺を激励してくれた。

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