第13話 カノジョが水着をほどいたら

「そ、そりゃ……好きって言ったけど……」


 正直に言う。むちゃくちゃ好みだ。

 その水着を買ってくれた。めちゃくちゃ嬉しい。

 でも、なんでソイツを着るのが、今なんだ?


「もっと、見てもらいたかったのに……あんなことになったから」


 変な邪魔が入って、楽しい時間に水を差された。

 口惜しそうに、唇を尖らせる。可奈かなも内心、苛立ってたのかも。


「……ここなら、誰にも邪魔されないし」

可奈かな。俺、もう無理」


 がばっとビキニ姿のカノジョを抱きしめた。

 びくっと震えた背中をギュッと包み込んで、耳元でささやいた。


「こんなことされると、俺。オオカミになっちゃうぞ」

「……わかるよ。青葉あおばくん、すっごく興奮してるって」


 俺の意思で制御できない、もう一人の俺が昂ってる。

 ソイツがズボン越しに、ビキニのボトムスに当たってた。


「一緒に、お風呂……入っちゃおっか?」

「うん」


 洗いっこのお誘いに、俺は二つ返事で答えた。

 潮の匂いがほんのり残る肌に、ボディーソープを塗り合って。

 身体を洗う――という名目の「ペッティング」だけで終わる。

 そんなわけがなく。


「――可奈子かなこ


 愛称でなくて、名前で呼んだ。

 俺自身の覚悟を込めて。


「お前を……他の誰にもやりたくない」

「……うん」

可奈子かなこを……抱きたい」

「……ちゃんと、避妊してくれるなら」

「あったりまえだろ。ゴム用意してる」


 おでこどうしをこすり合わせるようにして。

 俺と、可奈子かなこはキスをした。


 ***


 お風呂から上がって、俺は鞄の中をまさぐった。

 こんな日がいつ来てもいいように入れておいたコンドーム。

 パッケージからひとつ、袋を取り出した。


「お布団、敷いたから」


 お客さんを泊めるのに使う空き部屋に、真っ白な布団。


「でも、どうして……ガウンじゃなくて、水着姿がよかったの?」

「そっちの方が燃えるから?」

「――青葉あおばくんの、ヘンタイ」

「じゃ、シーン設定しよう。誰もいないプライベート・ビーチ。そこでイチャイチャしてる俺と可奈かな。オーケー?」

「……うん」


 真っ白な布団を、真っ白な砂浜に見立てて。

 俺たちは、今日のデートの続きをするんだ。


可奈かなの水着、すっごくかわいくてセクシーだよ」

「あんっ……んぁ……」


 耳元でささやいたまま、耳たぶを甘噛みする。

 お風呂場でのペッティングで一度昂っていた。

 カノジョのカラダが末端まで真っ赤に染まる。


「色白なのに、全身真っ赤になってる。ちゃんと日焼け止めした?」

「当ッたり前でしょ! 誰かさんのせいで、こんなになっちゃった」

「俺のせいだろ? 俺がさんざん可奈かなの身体を触ったから」


 首筋を舐めるように愛撫する。

 三角形の黄色いトップスを、押し上げる蕾がふたつ。

 水着の上からくすぐるように触ると、甘い吐息がこぼれた。


「――水着、汚れちゃいそう」

「どうやって外すんだ、これ」

「いいよ。自分でほどくから」


 カノジョが水着をほどいたら。

 ひときわ真っ白な洋梨ふたつがまろび出た。

 ボトムスも、おしりを浮かせてはぎ取ると。

 下腹部に、体液がついていた。


可奈かなも期待してたんだ」

青葉あおばくんほどじゃなかったけど」


 強がってみせるところもかわいい。

 黄色ビキニが好きだって頷いた俺に、渋い顔をして。

 でも、それをちゃっかり買ってるところもかわいい。

 もう、全部かわいい。


「そんなに、かわいいって言われると……はずかしい」


 両脚で隠された、ヒミツの花園。

 その扉をこじ開けるべく、カノジョの唇を奪いつつ。

 少したるんだ太ももと、おしりを撫でるように手を這わす。

 ありのままの毛色を残した、体毛の生え際にも指を滑らす。

 甘い吐息がこぼれ、時折、震えが全身に走る可奈かなのカラダ。

 目がとろんととろけた隙に、太ももの間に右手をはさみ込む。

 キスを繰り返しつつ、カノジョの抵抗を取り去っていった。


「あっ……だめ、こわいッ……」

「大丈夫だよ。優しくするから」


 手を握りしめて、目で見つめあって。

 肩の力が抜けるように、全身を撫でまわして。

 緊張をほぐしたカノジョのカラダと、俺のカラダが。

 薄皮一枚を隔てて、初めてひとつになったとき。

 透き通った青い目から、幾筋もの雫がこぼれ落ちていった。


 それが、初めての痛みによるものか。それ以外の何かなのか。

 さやたる可奈子かなこの感情が、かたなたる青葉おれにわかるはずもなかった。

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