第19話 勝利の女神は下着をちらつかせているぞ(1)

模試もし、申し込んだ?」

「……ギャグ?」

「なんのこと?」


 夏期講習二週目、月曜日の朝。

 飯を食い終わり、塾に向かう。

 俺がぼーっとしていたせいか。

 可奈かなが渋い顔をして、言った。


青葉あおばくん、なんか気が抜けてない?」

「あー、やっぱそうだよな」


 楽しかった盆踊り。

 その後、カノジョといい雰囲気になって。

 キスをして、抱きしめて――。


(盆踊りの最中、飲まず食わずだったのが失敗だった……ッ!)


 お腹が満たされちゃうと、えっちなコトをしたくなる気持ちも遠のく。

 すごくもったいないことをした気分。

 恋人つなぎをした、カノジョが手を握りしめ、聞いてきた。


「……ねぇ、そんなに……したかった?」


 夏休み前はおさげ髪だったカノジョ。

 夏休み中は、地味子じみこを装う必要がないから、セミロングにしている。

 お店のお手伝いに入るときはポニーテール。

 そんなカノジョが、盆踊りの晩にかぎって、髪を結い上げた。

 いつもと違った雰囲気のカノジョに、俺は完ッ全に魅了されていた。


「したかったっていうと、ちょっと違うんだよ」

「……?」

「なんつーか。あの雰囲気に、ずっと溶け込んでいたかった」

「ふーん、要するに……もっと、イチャイチャしたかった?」

「それだ、それ!」


 もやもやしていた気持ちがはっきりしてきた。

 昨日は可奈かなが花屋のバイトをしに来たから、いちゃつく雰囲気じゃないし。


「それじゃ……今日、塾が終わったら、少し……」

「……ッ!?」

「あ、おさわりまでだからねッ」

「ヒャッホー!!!」


 男という生き物はとても単純だ。

 下着をちらつかせる勝利の女神に導かれるような生き物だ。

 俺のやる気は、いきなりMAX。

 なぜなら、おさわり――下着の内側の洋梨おっぱいに触れるから!


「だから、ちゃんと夏期講習やって、模試もしもちゃんと申し込んでね」

「マム! イェス、マム!」


 その日。俺は、二週間後の高校受験模試の申し込みを済ませた。

 凶暴でスブい。俺という牡馬おすうま手綱たづなの握り方。

 ホント、上手くなったよな。俺のカノジョにして、大天使様は。


 ***


 夏期講習二週目、月曜日の夜。

 いつものように、スーパーでお総菜を買って、カノジョの家へ。

 食べ過ぎると性欲が無くなるとわかったので、気持ち少なめに。

 食事が終わったら、シャワーの時間だ。


「洗いっこ、ダメ?」

「ダメです。まだ月曜日だもん」


 まあ、そう言うだろうな。

 今週の夏期講習は、あと火曜と水曜の二日が残っているんだし。


「先にシャワー、浴びてくるね」

「いってらっしゃい」


 今日も暑かった。

 空調のきいた塾の建物の中に長くいるんだけど。

 そのぶん、外を歩いたら汗だくになってしまうからな。


(のど乾いたな)


 冷蔵庫の麦茶をもらって、なんとなく暇を持て余して。

 学習塾の「オンライン自習スペース」なるモノをタブレットで開く。

 今日やった内容の復習を帰宅後にできるって、なかなか便利じゃん。

 期末試験の時に、小テストの復習をやっていたけど、あれの感覚だ。


可奈かなと同じ高校に行くために、がんばると決めたんだ)


 カノジョがシャワーを終えて出てくるまで。

 俺にしては珍しく、自発的に自習していた。

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