第6話 Kanako's Boot Camp

 可奈かなと一緒におれに帰って、おふくろの作った朝ごはんを一緒に食べた。

 さすがに泣くことはなかったけど、可奈かなの表情はとても生き生きしていた。


可奈かなちゃん、いつからうちのお店に来てくれる?」

「先に夏休みの宿題を片付けちゃうので、明後日あさってからでもいいですか?」

「私はいつでもいいわよ。あおちゃんは?」

「そうだな、可奈が来る日と合わせよっか」


 そう答えたら、おふくろがなぜか目をウルウルさせてた。


「あおちゃん、偉いわぁ。夏休みの宿題から先にやるのねッ」

「え、なんでそうなんの?」


 不意に答えたら、女性二人のジト目が俺に突き刺さった。


「あおちゃん。夏休みの宿題、いつやるつもりだった?」

「宿題って夏休みの最後に頑張るもんじゃねーの」

「「違うからッ!」」


 おふくろとカノジョが揃ってツッコミを入れた。


「わかった。あおちゃん、お母さん指令です。可奈かなちゃんと一緒に、夏休みの宿題をやってきなさい!」

「えーっ! マジで!?」

「本気と書いてマジです。今日は帰ってこなくていいから」

「「はぁ――ッ!?」」

「明日の朝ごはんのとき、進捗を教えてちょうだい」


 こんな形で外泊の許可――いや、指令が出るなんて。

 おふくろ。あんた、親だろ。そんなんでいいのか!?


可奈かなちゃん。うちのあおちゃんが宿題をある程度終わらせるまで、ビシバシやってもらえるかしら?」


 娘の手を取るかのようなおふくろ。


「え……あ……はい、わかりましたッ!」


 困惑、理解、快諾。

 あっという間に、逃げ場が無くなった。


「……マジかよぉ」

「ということで、青葉あおばくん。さっそく鞄に各教科の課題を放り込みなさい」

「昨日部屋片づけたから、ゲームやろうと思ってたのにぃ」

「ゲームと、私とのデート、どっちが大事?」

「マム、デートでありますッ。マム!」


 即答。


「よろしい。可奈子カナコズ・ブートキャンプへようこそ。短期決戦です。厳しくいくからそのつもりで」

「マム! イェス、マァム!!!」


 こうして、俺は「Kanako's Boot Camp」に入隊した。

 おふくろが脇でクククと笑いをこらえていたのを、俺は見逃さなかった。


 ***


 各科目で宿題が出ていた。一学期の復習がメインだ。

 いざやってみると、思ってたほど大変じゃなかった。


「このあいだ、期末試験対策で勉強した範囲と、ある程度重なってるから。そんなに苦じゃないでしょ?」

「うん、たしかに」

「これ、夏休みの最後にやってたら、だいぶ忘れてて苦労してたと思う」

「やっぱ可奈かなって頭いいわ」

「それほどでも。むしろ、毎回これを後回しにしてきた青葉あおばくん、かなり無駄な苦労してたんじゃないかな」

「……そりゃ、勉強が嫌になるわぁ」

「夏期講習受ける予定もある。デートの予定もある。だから宿題も計画的に進めて、とどこおりなくやり遂げる。ぜんぶ、つながってるの」

「オーケー。これ早く終わらせちゃおう」


 可奈かなのリビングで、黙々を宿題を進める。

 その集中力は、どうやって確保されたのか。


(今日のスケジュール達成したら、あとはおさわりの時間サービスタイムッ)


 今日は帰ってこなくていい!

 つまり、早く終わらせたら終わらせたぶん、可奈かなとイチャコラできるッ!

 不純な動機に突き動かされた俺は、可奈が決めた一コマ五〇分を一セットに、各教科の宿題を片付けていった――のだが。


「あぁ……さすがに、疲れてきたぁ……」


 お昼におふくろの弁当を食った直後、強烈な眠気に襲われた。


「うーん、ちょっと時間割に無理があったみたい。いったん三〇分間、昼寝の時間を作りましょうか」

「たすかるー」


 臨機応変な対応。

 期末試験前とは違って、ある程度余裕があるから、融通が利くのが救いだ。


「ねぇ、可奈かなぁ」

「なに? 青葉あおばくん」

「カノジョの膝枕でお昼寝とか、アリ?」

「落ち着いてお昼寝できないので、ナシ」

「デスヨネー」


 冷たくあしらわれ、俺は早々にあきらめて、机に突っ伏した。

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