第4話 いつデートすればいいんですかぁ!?

 どこからともなく、カレンダーを取り出すおふくろ。

 商店街のお店の広告が入った、壁掛けカレンダーだ。

 夏休みの期間をぶっとい青のマジックで囲んでいく。


「夏休みはここからここまで。で、夏期講習は――」


 仮決めで定規を当てた鉛筆で線を引かれる。

 真っ白だったはずの夏休みが鉛筆で汚されていく。


「この線を引いた期間、あおちゃんには夏期講習に行ってもらいます!」

「まじでー!?」

「本気と書いてマジです! お母さん、あなたたち二人のお付き合いを本気で後押ししてるんだから! あおちゃんには、高校に受かってもらいたいの」

「オワタ……俺の夏休みが、終わった……」

「まだ初日だからッ!」


 可奈かながツッコミを入れる。


「いつデートすればいいんですかぁ!? 大天使カナエル様ぁ」

「よく見て、青葉あおばくん。線を引いてないところがあるでしょ」

「ん?」


 まず、夏休みの最初から七月末までと八月最終週には線がない。

 八月は平日に線が引かれているが、山の日の前日で切れている。

 そのままお盆の時期には線がなく、お盆過ぎから線が復活する。

 線の引かれている日数は、五日、三日、三日、五日。計十六日。


「線を引いていないところは、夏期講習がない期間。そこに他の予定を組み込んでいけばいいんじゃない」

「そっか」

「赤点取ってたら、補講でここにも線を引かなきゃいけなかったんだから」


 それを回避するため、アメとムチを使い分けた個人指導を惜しまず。

 小テストのご褒美で、あのたわわな洋梨にも、触らせてくださった。

 大天使様のご慈悲に、改めて感謝……ッ! 圧倒的感謝……ッ!


「私も夏期講習受けたいって両親に言うから。一緒に頑張ろッ?」

「うん、可奈かなが一緒なら、なんとかガンバれる……」


 それを見届けたおふくろが手をひと叩き。


「そうと決まったら、デートの予定も決めちゃえば? 夏休みだから出来ることってあるでしょ! 勉強ばかりじゃ、張り合いが無くなっちゃうからねッ」

「デートかぁ……」


 どこに行こう。真っ先に思い浮かんだのは。


「海水浴!」


 大天使様が水着に着替えたら!

 灰色の世界が鮮やかに色づく!


(ビキニとか、うわぁ……やべ!)


 不純な想像が脳裏を駆けめぐるかたわらで、大天使様の表情がかげる。


「前よりも胸、大きくなっちゃったから……新しい水着、買わなきゃ」

「おっ!?」

「でも……お小遣い、やっぱり足りないかも……学校の水着でいい?」


 スクール水着だとぉ!?

 そういうのが好きな大人がいるとは聞くが、俺には何の魅力もねぇ。

 せっかくだから、もっとかわいい……いや、セクシーな水着がいい!


「ダメよ、可奈かなちゃん! せっかく日常を離れたデートなんだもの! かわいくて、セクシーな水着を選んで、あおちゃんを悩殺するくらいでなきゃ!」

「「何言ってるんですか、お母さん!?」」


 おふくろ、俺の心が読めるのか!

 そして、俺よりも前のめりなのはなんでだ!


「そうだ、いいこと考えちゃった。お店のお手伝いしてくれたら、お駄賃だちん出すから。高校生にならないと、外でアルバイトはできないでしょ?」

「この下のお花屋さん、ですか?」

「ええ、女の子が店先に立つとね、お店の雰囲気が華やかになるのよ~」

「どーせ俺が店に立つと、客が寄らねーっすよーだ」

「だから、あおちゃんはバックヤードでお手伝いね」

「はーい」

「働いてくれた内容に応じて、可奈かなちゃんとあおちゃんにも、バイトの子たちと同じくらいの金額は出すつもりだから」

「わ、わかりました! ふつつかものですけど、私、頑張りますッ」


 なぜか、可奈かなと俺がうちの花屋のお手伝いをする流れになっている。

 おふくろの術中に、はめられた気もするが――まあ、いいだろう。


(かわいくてセクシーな水着のためだしなッ!)


 ということで、夏休みの最初のデート――。

 いや、「課外活動」は花屋のお手伝いと決まった。

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