国境を越えて 後編
ググル先生とグリちゃんの頑張りで、日が落ちる前に関所に着きました!
グリちゃんの背中から降りると、
(
のアナウンスと共に、身体のあちこちがプルプル震えている。
普段使わない筋肉を使ったから、その反動なのは分かるが洒落にならん。
覚束ない足取りで関所の門番に出国の手続きを頼むと、右手が目に入ったのか嫌そうな顔をされた。
「チッ、罪人が何の用だ」
「国外追放を受けました。出国の手続きをお願いします」
そう告げると、面倒臭そうに紙とペンを押し付けられた。
「それを書いたら、さっさと出ていけ」
「分かりました」
書類に必要事項を記入していると、門番が馬鹿な事を言い出した。
「おい、魔獣は置いて行けよ。罪人には分不相応だからな」
単に、お前が欲しいだけなのでは?
思わず口から出そうになった言葉を、慌てて飲み込む。
国境警備隊がこれでは、国の腐敗は相当進んでいるようだ。
「関所の門番が、公衆の面前で堂々と追剥ですか? 嫌だわ。怖いわ。わたくしの持ち物を奪おうとするなんて、国境警備隊も質が落ちましたのね。仮に置いて行ったとしても、グリちゃんは貴方の物にはなりませんよ。私以外には、懐かないですし。下手に手を出せば、死んじゃうかもしれませんね。大怪我で済めば御の字ですわ」
うふふと笑みを浮かべて、グリちゃんの首筋を撫でる。
心得たとばかりに、グリちゃんはグルルルと低い唸り声を上げた。
門番は、グリちゃんの威嚇にヒッと情けない悲鳴を上げている。
(個体名グリちゃんが、威圧を獲得しました。グリちゃんの威圧効果により、失神者十三名・失禁脱糞者三名・逃走者十一名……)
(被害報告は要らないから! それより、この状況を何とかして!!)
予想以上の効果に、私は慌ててググル先生に打開策を求めた。
法にギリギリ触れるんじゃないかと思う内容を提案された。
(門番の隣に設置されている
ググル先生のアドバイスを受けて、空間収納から学生証を取り出し、混乱に乗じて
グリちゃんは、邪魔と言わんばかりに尻を振って門番目掛けてボディブローを喰らわせている。
ざまあみろとは思ったが、留まっていたらまた面倒臭いことになるのでグリちゃんの背中に乗ってレイア市国側の関所まで逃げた。
北方神聖教会レイア市国の関所で入国の申請をすると、
「罪人の入国は出来ない」
とあしらわれてしまった。
おかしいな?
レア様から神託が降りているはずなのだが、話が関所まで届いていないのだろうか?
その返事は、想定内だ。
「一度で構いません。わたくしと獣魔を鑑定して頂けますか? その上で、わたくし達の入国を認められないと仰るのであれば引き下がりますわ」
丁寧な口調で下手に出て様子を見るが、
「何故、そのような事をしなければならない。罪人は、罪人だ」
とけんもほろろに一刀両断されてしまった。
うーむ、これでは計画がとん挫してしまう。
流石に、レイア市国を無視して上空を飛んで国境を超える手もある。
それをすると、次の国に入国する時に辻褄が合わなくなってしまう。
説明を求められるだろうし、レイア市国に確認も行くだろう。
ここは、ごねる一択だな。
「皇国では、悲しい事に皇族といえども冤罪が罷り通っております。……本当に鑑定もせず、わたくし達を追い払っても宜しいのですね?」
薄く笑みを浮かべる私に、レイア市国の門番達が何やら相談をし始めた。
さて、彼らはどう動くだろう。
様子を見ていたら、
「少し待て。上の者を呼んでくる」
と言って門番の一人が席を外した。
「貴方は、どうされますか? 先に、わたくし共のステータスを確認されますか? 見られてやましい事はありません」
ニコリと微笑むと、門番は少しの沈黙の後に、直径10センチの鑑定石を持ってきた。
「……鑑定するだけだ。ここに手を翳してくれ」
「はい」
鑑定石に手を翳すと、パァッと白く光り私のステータスが表示された。
名 前:リリス・ガイア
種 族:人
職 業:冤罪で国外追放されたガイア皇国の元第二皇女・聖女
レベル:8
H P:51/128
M P:109/184
スキル:成長促進・鑑定眼・HP自動回復・MP自動回復・空間収納・状態異常耐性無効・詠唱破棄・魔導の極み・カウンター100%・並列演算・並列思考・思考加速・隠蔽・隠密・武闘・神託・騎乗
称 号:全魔法属性適合者
加 護:女神レアの加護
装 備:丈夫な乗馬服・丈夫な鞄
持ち物:???の卵
スキルの項目に騎乗が追加されている。
成長促進が、良い感じに働いたのかな?
ステータスボードと私を交互に何度も見ていた門番は、頭に?マークを浮かべてながら絶叫した。
「え? は? えええええ??」
驚いている、驚いている。
そして、ガバッとその場で土下座してきた。
「もももも、申し訳ありませんでした!! 聖女様だとは、知らなかったのです! 何卒、何卒……お許し下さいぃぃ」
私のステータスだけで土下座なら、グリちゃんのステータスも見たらもっと凄い反応が見れそうだ。
意地悪をする気はないので、私は慈愛を込めた笑みを浮かべて言った。
「貴方は、忠実に職務を全うされただけですわ」
「何て寛大なお言葉! ありがとう御座います! 聖女様に冤罪で罪人に仕立て上げただけでは飽き足らず、罪人の刻印を刻むとは許しがたい。だから、鑑定石が赤く光らなかったのですね」
憤っている門番に、私は首を傾げた。
「わたくしが触れたら白く光りましたが、鑑定石が赤く光るとどうなるのですか?」
「罪歴がある者は、罪の重さに関係なく赤く光るのです」
成程、それで人の出入りをチェックと同時に罪人の炙り出しをしているのか。
公の場で
是非とも、一つ欲しいものだ。
そんな事を考えていたら、上官を連れてもう片方の門番が戻ってきた。
「ジル、そいつが鑑定しろと騒いでいた愚か者か?」
私の相手をしてくれていた門番ことジルを上官が、𠮟りつけている。
ジルの顔が、真っ青から真っ白になっている。
「アルフォート殿っ! この方は、女神レア様がお認めになられた聖女様ですよ!! 右手に罪人の刻印が刻まれてますが、レア様が冤罪であると証明されております。リリス様、もう一度鑑定石に手を翳して頂けますか?」
ジルの鬼気迫る顔に若干顔を仰け反らしつつも、鑑定石に手を翳した。
鑑定石がパァッと白く光り、私のステータスが晒される。
アルフォートが、表示されたステータスボードと私を交互に何度も見ては「信じられない」と呟いている。
「わたくしの獣魔も鑑定石で確認下さい」
アルフォートは、グリちゃんに鑑定石を向けると同じよう白く光りステータスが晒される。
グリちゃんの職業・
「聖女様、並びに聖獣様、誠に失礼を致しました! 御無礼と暴言は、どうか私の首一つでご容赦願えないだろうか?」
アルフォートの言葉に私はチラッとグリちゃんを見ると、
(主殿、妾は腹が減った。入国手続きとやらは、まだ掛かるのか?)
と頓珍漢な事を聞いてくる。
グリちゃんにとって、暴言よりも食事の方が大切らしい。
(もうちょっと待っててね。直ぐに終わらせるから)
思念伝達でグリちゃんを宥めつつ、私はアルフォート達に声を掛けた。
「わたくしも、グリちゃんも怒ってませんよ。レア様が、わたくし達が訪れる事を神託でお知らせたと仰っていたのですが、末端までは届いていなかったようですわね。改めて問いますわ。レイア市国入国の許可を頂きたく存じます。わたくしは、祖国を追放された身。亡命という形で、わたくし共を守って頂けないでしょうか?」
両手を組み神に祈りを捧げるように懇願すると、
「勿論であります!」
と方々から聞こえて来た。
取り合えず、レイア市国へ亡命第一段階は成功したようだ。
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