幼なじみがドジっ子過ぎるので一生面倒を見ることを決心した

久野真一

第1話 幼なじみがドジっ子過ぎるので一生面倒を見ることを決心した

「暑いね……健介けんすけにい」


 隣を歩く、俺より一回り小柄なサイドテールの女の子が気だるそうにつぶやく。

 気温36℃、猛暑日というやつだ。

 空を見上げればかんかん照りの太陽が俺たちを殺しに来ている気がする。


「暑いな……鹿子かのこ。ほれ」


 ハンディ扇風機を彼女に向けてやると、


「ちょっと涼しいかも。ありがと」


 ふにゃりと表情を和らげた鹿子の笑顔はいつもながらなんていうか癒やされる。


「最近オープンしたカレー屋……なんて店だっけ?」

「ジュエルオブネパール、だよ。健介にい」

「そうだった、そうだった。無駄に記憶力だけはいいんだから」

「もう。だけは余計だよ」

「といってもお前ドジだからなあ」

「最近は少し改善したもん……あ」


 うだるような暑さの中、どうでもいい会話を交わしていると、鹿子が急にきょろきょろし出した。


「どした?」

「あ。財布……家に忘れた」


 あっという間に青ざめてあたふたし出す可愛い妹分。


「んーと……ごめん。後で出すから、ご飯代、出してもらっていい?」


 わざわざ二十分近くも歩いてきたのを引き返すのも辛いと悟ったのだろう。

 しょげた様子の鹿子。


「しゃーないな。その代わり、次行くときは鹿子の奢りな」


 鹿子はいわゆるドジっ子というやつだ。といっても、お話の中のような「はわわわ」とかいうタイプのドジっ子ではなくて、忘れ物が多かったり、注意力散漫だったり、片付けが苦手だったりと、色々な意味で現実的で、しかも困った意味でのドジが多い。


「ありがと。健介にい」


 そのくせ、こういう時に気遣いを読み取れる細やかさがあるいい子だ。


「さあ、なんのことだか」

「照れちゃって私が気にしてるのわかってるくせに」

「……まあ、な」


 鹿子も自分の性分……というより、生まれつきの性質のせいで俺に手間をかけさせていることを自覚している。だから時々こういう風に奢ってもらうことで差し引きでチャラにするのが昔からの暗黙の約束だった。


 ま、俺は俺でこいつがちょっとくらいドジでもこういう風に人のことを考えられる優しいところはいいところだと思ってるので、仕方ないやつだななんて思いつつも妹分として可愛がっている。


 なんてやり取りをすること数分。俺たちは目的のジュエルオブなんとかに到着。


「はー。ほんとにいい香り漂ってくるねー」

「おう。さっさと入るぞ」

「うん!」


 お目当てのカレー屋にたどり着いたせいかすっかり機嫌を直した様子の鹿子。


「おいひー。暑い中外に出てきたかいがあったよー」

「お前、食べてるときが一番幸せそうだよな」

「だって美味しいんだもん」

「まあ、たしかに美味しいけどな」


 出汁が効いたカレーは不思議と胃に優しくて、暑さで食欲が減っててもあっという間に完食出来てしまった。


「美味しかった。ありがとね」

「ま、ちょっと付き合うくらいはな」


 相変わらず暑い中を腕を組まれながら。

 昔から、こいつはそんな感じで俺に甘えてくる。

 これからも鹿子の世話を焼いたり、こんな感じで一緒にでかけたり……そんな日々が続いていくんだろうな。


 とおもったら途端に青ざめた様子に。どうしたんだ?


「あ、ごめん。店にスマホ忘れた」


 なるほど。まあ、こんなのもいつものことだ。


「じゃあ、取りに行くか」


 またこの暑い中を……とは思うけど、仕方ない。


「いい、いい。これ以上迷惑かけらんないよ。健介にいは先に帰ってて!」

「お、おい!」


 止める間もなく、あの妹分はダッシュで店の方に走り去ってしまった。

 焦りすぎて車に轢かれたりしないといいんだけど。


(まあ、ここで待っといてやるか)


 焦ってるとさらにやらかすあいつのことだ。

 見守っててやらないと危なっかしくて仕方ない。

 それに、こんなのだっていつものことだし。


 なんて思っていたのだけど、異変は二学期前日に起こった。


◇◇◇◇


先輩・・。明日から……その、迎えに来なくていいから」


 夏休み最後の日。いつものように二人でお昼ごはんを一緒した帰りで。

 鹿子は予想外のことを言い出したのだった。

 ちょっと待て待て。


「えーと……なんで急に?知らない間にお前になんかしてたか?」


 悲しそうな顔で言う鹿子の表情を見ると胸が痛む。

 これまでこいつを傷つけるような無神経なことは……色々言ってたかも。

 ドジだなあとか、考えてみれば鹿子は結構気にしてる節があったし。

 一人だと心配だなとかいうのも保護者かよという物言いで頭に来たかも。

 ああ。思い出すと色々地雷踏んでたかもしれないな。


「色々言ってたかもしれないけど、無神経で悪かった」

「違う違う。先輩はいつも良くしてくれてるって」


 と思ったら、慌てて違う違うと否定しにかかる鹿子。

 だったら一体なんだっていうんだろう?


「これまで先輩・・にはいっつも迷惑かけて来たでしょ?」

「いや、別に迷惑なんてことは」


 ないと言い募ろうとしたんだけど。


「よく財布忘れるし。先輩とおしゃべりしてて人とぶつかるし。道に迷うし……。スマホ忘れるし。今日だって家に財布忘れて来ちゃったもん」


 俯いて言う鹿子は真剣で、しかも……目からじわっと涙まで溢れて来ている。


「先輩は優しいから。いつも「別に気にしてない」って言ってくれるけど、いつも足引っ張ってばかり。幼稚園の頃から、ずっと、ずっと……!」


 涙がポロポロとこぼれ落ちる。

 そうだよな。

 ドジっ子なんて言えば可愛らしい言い方になるけど。

 優しいこいつが気にしてないわけはなくて。

 でも、慰めさせるだけになるのをわかってるから。


「だからね。当分は先輩に頼らず、なるべく一人でなんとかしてみるから。ほら。最近は忘れ物防止タグとか、私みたいな不注意でドジな人でもなんとかなるアイテムだって色々あるし、ね」

「待て待て。鹿子が自分で気をつけるのはいいことだと思うけど、その……」


 お前のそれは生まれつきだろ、と言おうとしてハッと気が付いた。

 まさしく生まれつきだからこそ、こいつはずっと気にしていたわけで。

 生まれつきだから、どうにもならないだろなんて言ったら余計傷つけるだけだ。


「先輩が私のこと、悪く思ってないのはよくわかってる。でも、迷惑かけてる自分が許せないから……しばらくそっとしてくれると嬉しい」

「そうだな。わかった。でも、辛くなったらいつでも頼れよ」

「うん。ありがとね」


 そんな泣き笑いの表情を最後に、俺と鹿子の関係は変わった。


 朝は鹿子の家に迎えに行って、時々は一緒に朝ご飯を食べて。

 一緒に登校して、休み時間には俺のクラスまで鹿子が遊びに来て。

 冷やかす友達に「そんな関係じゃないから」なんて否定して。

 放課後はやっぱり時々一緒に遊びに行くような、そんな関係だったけど。


 別々に登校して、会えば会釈と軽い世間話くらいはして。

 俺のクラスまで遊びに来ることはなくなって。

 放課後は一緒に遊びに行くこともない。

 そんな、顔見知りの先輩と後輩の関係になってしまった。


(あー、なんていうかもやもやする)


 元々、鹿子のことは可愛い妹分だと思っていた。

 ドジで不注意で、でも健気なところが可愛らしくて。

 運動は苦手だけどその分勉強を人一倍頑張る努力家なところも好きで。

 そんな彼女が側に居ないだけで心にポッカリ穴が空いた気分だ。


「なあ、最近、鹿子ちゃん来なくなったけど、喧嘩でもしたのか?」


 よくつるむ悪友も、さすがに心配だったらしい。


「喧嘩はしてない。ただ、さ。あいつ、ちょっとドジだろ?」

「でも、そういうところも愛嬌ってやつだろ」

「鹿子はそう思ってなかったんだよ。俺に迷惑はかけられないってさ」


 正直言って、俺自身もしんどい。

 でも、鹿子が決心したことだ。

 あいつの言うことを尊重するしかない。


「それで最近黄昏れてたのかよ」

「まあ、そういうこと。水臭いだろ?昔からの仲なのにそういうの気にしてさ」


 本当に水臭い。


「水臭い以前にお前、恋人とそういう状態でほんとにいいのか?」

「え?」


 同意してくれると思っていた悪友からの言葉は思いもかけないものだった。


「いやいや。別に鹿子とは本当に恋人じゃないぞ。別に照れ隠しとかじゃなくて」


 誤解されても仕方ないかもしれないけどさ。


「マジか」

「マジだよ」

「でもさ。鹿子ちゃん、あれどう考えてもお前のこと好きだろ」

「いやいや。あいつは妹分で……」


 考えて、ふと違和感に気づいた。

 俺は高二で鹿子は高一。

 兄貴分だから、なんて理由だけで今まで一緒にやってきたんだろうか?


「さすがに断言してもいいけど、鹿子ちゃんお前のこと好きだぞ」

「言われてみれば、そう、かもしれない……」


 これまであえて考えたことがなかったというのが近いだろうか。

 他に友達も居ない一学年上のクラスに一人で遊びに来る。

 休みの日には当然のように一緒に遊びに行くし、お昼だって食べる。

 冷静に考えて、平然としていた俺が何か間違っている気がしてきた。


「お前が考えたことなかったのが驚きだよ」

「いや確かにそうだ。考えたことがなかった」


 俺自身、なんでここ最近ずっとモヤモヤするんだろうと思っていたけど。

 昔からの仲なのに水臭いという以上に……。


「兄貴分としてはそれを踏まえてどうするんだよ」

「ぶっちゃけ……好きなんだとは思うけど、今のタイミングで告白とかもなー」


 どうにもこうにも間が悪い。

 それに好いてくれてる可能性が高いっていうだけだ。

 本当は異性として意識してないかもしれない。


「ヘタレ」

「なんとでもいえ。せめてきっかけでもあれば違うんだけど……」


 やっぱり間が悪い。


「ふーん」


 急にニヤニヤしだす悪友。


「きっかけがあればいいんだな。きっかけが」

「待て。なんか嫌な予感がするんだが」


 と言っている間に悪友は何やらスマホの画面を凄い勢いでタップ。


「ほい。ってわけできっかけはこれでOKな」

「は?」


 と思っていると、スマホがヴヴヴとLINEの通知を告げる。


【先輩。放課後に重大な話があるからって……ホント?】


 おいぃー。


「お前、何やらかしてるんだよ」

「きっかけがあればやるんだろ」

「まさか……」

「鹿子ちゃんにお前から重大な話があるって伝えといただけだよ」

「これ、もう言うしかない流れじゃないか」


 いくらなんでも急すぎだろ。


「諦めてぶつかって来い」

「お前なー。もし、これで完璧に振られたらどうするつもりだよ」

「まあ、ひょっとしたらそうかもな」


 こいつ。煽るだけ煽って放置かよ。


「でも、このままだと気まずいだけだろ。玉砕したら愚痴くらい聞いてやるから」

「あー、もう。お前、昔からほんとにお節介なんだから」


 小学校の頃からそうだった。腐れ縁ってのは本当に厄介だ。


「今度、マックでバリューセット奢ってくれてもいいぞ?」

「逆だよ、逆。玉砕したら、回らないお寿司奢ってもらうくらいしないとな」

「お小遣い吹っ飛ぶんだけど、まあいいぜ」


 お節介な親友なことで。

 こりゃもう告白するしかないわけだけど。

 

(はてさて、どう言ったもんだか)


 放課後までに、口説き文句でも考えておこう。


◇◇◇◇


「それで……話って何?先輩」


 結局、放課後になってみんなが帰った後の教室にて。

 俺と鹿子は机の上に座って相対していた。

 なんだかこんな光景も久しぶりな気がする。


「鹿子、俺のことその……避けてるだろ」


 どう切り出したものか迷った末に出てきたのはそんな平凡な言葉。


「避けてるというか……迷惑はかけられないし」

「いやいや。逆に極端なんだって。結構気まずかったんだぞ」


 ああ、もう。どうにも話運びがうまくない。


「私も実はちょっとしんどかった。やらかしたかもって」


 たはは、と力なく笑う妹分……好きな女の子。

 さすがに自覚はあるか。


「ドジをなんとかしようとかは良いんだけどさ。別に避けなくても良かっただろ」

「今まで通りだと、健介にい・・・・に頼っちゃいそうだから」

「気持ちはわかるけどさ。やっぱ極端だって」

「そうだったかも。ごめんね。逆に気まずい思いさせて」

「気まずいどころじゃなかったぞ。心に穴がぽっかり空いた気分っていうかさー」


 本当に勘弁してほしかった。

 

「あの……心に穴がぽっかりって……えーと」


 あ。やばい。雰囲気が変わった。

 見るからに鹿子がそわそわし出したし、露骨に視線をそらしてる!

 ガタガタと貧乏ゆすりまで。


 ええい、もう。口上をどうのこうの考えている場合じゃない。

 

「要するに鹿子、お前のことが好きだから、避けられるの嫌だったんだよ」


 言ってしまった。言ってしまった。

 ドジだけどこういうところは好ましく思っているとかなんとか。

 色々口上を考えてきたのに。全部吹っ飛んでしまった。


「実は……私も、健介にいのこと好きだった。だからもうちょっと釣り合わないとって、最近色々頑張ってたし」

「好きなのになんで避けるんだよ」

「だって……迷惑かけたらどんどん評価下がって行きそうな気がしたし」

「ああ、もう。ほんっとどうしようもないなー」


 俺も、こいつも、どっちもだけど。


「私がどうしようもないのはよくわかってる」

「そういう意味じゃなくって。まあ俺もたいがいどうしようもないってこと」

「え?」


 だって、親友にお膳立ての一つもしてもらわなきゃ告白の一つもできないわけで。


「とにかく!鹿子がドジなのは昔からだし、そういうところも、頑張ろうとして空回るところも好きだからさ。付き合わないか?何なら永久就職でもいいぞ?」

「っぷ。永久就職とか、お母さん世代じゃないんだから、古いよー」

「それはどっちでもいいから。返事は?」


 まあ、この様子ならもうわかってるんだけど。


「うん。私はドジで不注意で、いつも迷惑かけてばかりだけど。そんな私でもいいなら。その……もらって、ください!」


 え。ちょっと待て。


「ええ?もらってくださいって……」

「だって。永久就職でもいい、んだよね?」


 しまった。そっちの方はちょっとしたジョークのつもりだったのに。

 まさか本気にされるとは。

 目が潤んでるし、頬も紅潮してるし、お付き合いじゃなくてプロポーズぽいものと思ってる?


 ここでもし、「お付き合いはいいんだけど、さすがにもらうのはまだ……」とか言ったら、こいつ絶対泣くぞ。小さい頃から懐いてたくらいだから、こいつのある意味での生真面目さはすごくよくわかっている。


 でも、まあ。


「わかった!もう永久就職でもなんでも来いだ。どうせ別れるとか想像できないし」


 ヤケだヤケ。鹿子を悲しませるくらいならそのくらいしてやる!


「え?」

「え?」


 うん?


「私は……付き合いが続いたら、そういうのもありかなーくらいだったんだけど」

「いやいや。今の流れでさすがにそこまでわからないぞ」

「でも、健介にいがいいなら本当に永久就職を約束してもらってもいい?」


 こいつ……なんて嬉しそうな顔で。

 でも、言質をとられたのなら仕方ない。


「おっけ。おじさんたちには「結婚を前提に付き合ってます」って言おうか」

「いいの?」

「さすがにそっちは本音だろ?ならいいさ」

「そういうところ大好き!」


 感極まったのかぴょんとジャンプしてこっちの机に飛び乗って……ちょっ。


「おま、バランス。バランス……!」


 いくら軽いっていっても人一人の体重考えろ。

 ぎいと机が傾いたかと思うと……いっつ。


「いたー。こういう時にまでドジかますなよ」


 幸い、頭から直撃は避けたけど。


「ごめん……えと。大丈夫?」

「大丈夫だけどさ。さすがに距離が……」


 もし教室を通りがかったやつがいたなら、きっと鹿子が俺を押し倒しているように見えるだろう。とおもったら、ちゅっと唇に冷たい感触。


「その……キスってその……いいね?」


 てへへと嬉しそうな鹿子だけど、俺はと言えば。


「お前なー。さすがに昨日の今日で大胆過ぎるだろ」


 一周回ってちょっと冷静になってしまった。


「だって……プロポーズしてもらえたから嬉しくって」


 でへへと完全に色ボケしてらっしゃる。


「ほんっと仕方ないやつなんだから」

「でも、もらってくれるんだよね?」


 また嬉しそうな顔をしやがって。


「はいはい。もらってあげますよ。もらってあげます」

「健介にい。なんか気持ちが足りないー」


 夕方の教室で、そんな風など阿呆な言い合いをしていた俺たちだけど。

 

「おお、健介に鹿子ちゃ。うまく行っ……お幸せに」


 廊下から顔を出した悪友が一瞬で何かを察したかのように、去っていった。


 というわけで、翌日から俺たちの扱いがどうなったかというと。


「あの子が健介君を押し倒してたんだって」

「大胆だよねー」

「でも、元々私らの教室に押しかけて来てたくらいだしねー」


 休み時間に遊びに来た鹿子を前にひそひそ話をするクラスメート。


「焚き付けたのは俺だけど、さすがにTPOはわきまえてくれよな」

「いやいや。誤解だって」

「みなまで言うな。見えないところでヤる分にはなんもいわんから」

「だからヤッてないっつーの。鹿子もなんとか言ってやってくれよ」


 昨日の件を見た悪友はもう完全に俺たちの仲がそこまで進んだと思ったらしい。

 だから、鹿子にフォローを期待したのだけど。


「すいません……今後は、気をつけます」

「おおい!?」

「往生際が悪いっての。とにかくTPO・・・はわきまえてくれよな」


 何故か鹿子は否定しないどころか肯定する始末。


「なんで否定してくれないんだよ」

「だって……もらってくれるんでしょ?いずれするんだし」


 どこか夢見心地の表情の鹿子。

 こいつは調子に乗るときはとことん調子に乗るな。


「そりゃ、いずれはするんだろうけど、気が早過ぎ」

「私にしてみれば遅すぎるくらいだよ。ようやく振り向いてくれたのに」


 むう、と頬を膨らます様子が不本意ながら可愛らしい。

 でも、ようやく、か。

 鹿子は一体いつから俺のことを好きだったのか。


「その辺は色々悪かったよ。ところで、いつからだ?」


 考えてみると、鹿子が俺に懐いていたのは相当昔からだった気がする。

 それを思うと少し罪悪感もある。


「幼稚園の頃から。ほんとに、ずっと、ずっと好きだったんだからね」

「嬉しいけど、そんな昔から好かれることしてやったか?」


 幼稚園の頃なんて、俺だって鹿子のドジをフォロー出来る程じゃなかった。

 何故だかとにかく俺にくっついて来たがったものだっけ。


「してくれたよ。本当に色々とね」

 

 なのに、この世いっぱいの幸せを集めたような顔で妹分は言う。

 でも、鹿子の視点からだとまた違うこともあるのかもしれないな。


「じゃあ、教えてくれよ」

「うん。色々話してあげる。だから、これからもよろしくね。健介にい?」

「ま、お前は俺が一生面倒みてやらないとだしな」

「そういうこと。健介にいが居ないと私は駄目だから」


 憎たらしいほど可愛らしい。


(これはもう、生涯添い遂げるしかないな)


 そう心に誓った俺だった。


☆☆☆☆あとがき☆☆☆☆

ドジっ子で愛が重い子と、ちょっとヘタレな男の子のお話でした。

楽しんでいただけたら、★レビューや応援コメントいただけると嬉しいです。

☆☆☆☆☆☆☆☆

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