デスゲーム2日目~人狼編after side④~


 ここまで来るのに長かった。


 水瀬マキは、壁によりかかり目を瞑る。



 始まりは鴨志田という男。あいつは扱いやすかった。無能なくせに自尊心の塊。少し承認欲求をくすぐってやるだけで簡単に心を開く、典型的なダメ人間。あの齢で中身赤ちゃんはもう救いようが無いだろう。


 ただ扱いやすかったがゆえに無能すぎて肝が冷えた。私が最初に「デスだよ」に来た時、必要以上にこっち見やがって……視線が気持ち悪いことこの上ない。


 あの現場スタッフはその点優秀だった。私の要望にはすべて応えてくれるし、仕事も完璧だ。……その分私に対する要求もすごかったが。


 始まってからは楽しかったな。マドカは簡単に操れたし、ハルも狙い通り自滅した。エリカの最後の推理はすごかったな。正直まだ正体をバラす気は無かったけど、あんまり必死なもんだから、笑いを堪えられなかった。まあ、私には狂人様がついている。生存意欲ばっかり高い、夢見がちなお山の大将が。


 補充要因とかいう連中も使えた。面白いようにうろたえて死んでいったな。気の毒だけど、もともと死ぬ予定だった人らしいし、まあいいだろう。


 そういえば、鴨志田のやつ仕事が珍しく間に合ったな。エリを吊る過程で、こいつにも私と同じ通常のブレスレットがついていたら台無しだからな。鴨志田に頼むしかなかったが、何とかブレスレットが間に合ってよかった。


 くく……しかし……なんど思い出してもエリカの死にざまは笑える。一人だけ真実にたどり着いたのに仲間の誰からも信じてもらえない、哀れな女……


 私に対する過度な暴力、ハラスメント行為……忘れていないからな。スカッとするものだな。報復というものは。いや、復讐か?まあどちらでもいい……


 明日はハルを噛むところからだ。別に生かして吊ってもいいが、いい加減マドカの目が覚めてしまうかもしれない。奴は頭がいいからな……見せしめとして殺そう。


 そして、マドカとカナの決戦投票か……楽しみだ。楽しみすぎる。これはやみつきになるな。癖になる。次は私に金払いが悪くなった豚共でも集めるか……


 ブーッ、ブーッ


 スマホの着信音が鳴る。この番号は……遠山のものだ。


 ふむ。


 まあ無視してもいいが、今更奴にどうすることもできないだろう。大丈夫、どうせもう遠山には何もできない。この会社が非合法で、己が犯罪の片棒を担いでいる限り。


「もしもし」

「……もしもし」


 気弱なキャラ設定を忘れない。まあ映像で見られているから無駄かもしれないが……


「……やっと出てくれましたね、水瀬マキさん」

「ああ……すいません、気づかなくて」

「ああ、もういいですよ。


 こいつ……

 まあ暴れすぎたか。


「あら、そうですか。それで、今更何の御用ですか?遠山さん。デスゲームは明日終わりますよ」

「そうですね、お疲れ様でした。こちらからは一つ提案をしようと思いまして」

「提案?」

「ええ。水瀬さん、あなたはこれからルールブックの改変を行うつもりですよね?」


 へえ……そこまで気づいたのか。


「勘がいいですね。ひょっとして、そちらの社員さんの誰かが何か話したりしましたか?」

「鴨志田さんなら査問委員会に連れていかれましたよ。ですから、もう秘密の連絡はしなくて大丈夫です。その現場スタッフからもらったであろう、社内連絡用スマートフォンを使って」

「……随分物知りですね」

「恐縮です。さて、明日でデスゲームは終わりますからね。こちらとしても無事にデスゲームを終わらせたいのですよ。ですからどうでしょう、今一度手を組みましょう」

「……いいでしょう。私の要求は分かっていますか?」

「先ほど該当のページを変更しておきました。お手元のタブレットでご確認ください」


 タブレットを開く。……なるほど、完全に要求通りだ。


「ありがとうございます。すべてが終わりましたら、改めてお礼をさせてください」

「いえいえこちらこそ……その時はまたよろしくお願いします。それでは失礼します」


 なかなかどうして物分かりがいい。遠山に色仕掛けはしなかったが、存外ここも篭絡してよかったかもしれないな。まあ女の勘というか、こいつは私に落ちないなということはなんとなくわかっていたのでやらなかったが。


 さて、最後の準備だ。マドカに脅迫文を送る。カナは……今頃悔いているだろう。悩んでいるだろう。お前が生き残るには私と手を組むしかないんだ。果たしてお前は最期にどんな顔をするのかな。

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