デスゲーム2日目~人狼編⑤~


 人狼ゲーム四日目は壮絶の一言だった。


 人狼ゲームのような盤面整理も心理戦もなく、あるのは盤外戦略。丸山エリカの推理はほぼ正解だったし、水瀬さんが豹変したときは肝を冷やした。


「しかし、アレだな、丸山エリカの言う裏切り……こちらの調査通りだったね」

「ええ、いい証言でした。裏が取れましたね、先輩!」


 映像室ではいつも通りの二人がモニターを眺めていた。


 部長とともに社長室に水瀬マキ身辺調査の直談判を行ったわけだが、意外にも社長はこれを快諾。どうも一介の女子高生が社員を誑かし、D組社員を二人も殺したのがそうとうご立腹だったようだ。


 そこからは早かった。現代を生きる殺し屋の力で優れているものは暗殺能力ではない。情報収集力である。諜報員が優れていないと監視社会の現代社会で殺人などそう簡単に行えない。社長の呼びかけもあり、諜報部隊の全勢力が水瀬マキの調査に当たった。


 22時を回ったあたりで水瀬マキの家族構成・学校での姿・そして夜の顔。すべてが筒抜けとなった。切れ者といえど女子高生。本物のプロの手にかかれば造作も無い。


 そして、その諜報の手は社内にも及んだ。無事、最後の内通者である実行犯も特定に至った。


「で、先輩!結局どういう手口だったんですか?優木サクラ殺人事件と今に至るまでの手口は?」

「別に……鴨志田さんが白状したことと丸山エリカの推理通りだよ。まず水瀬さんは売春の常習犯だった。ある日鴨志田さんと出会い、ひょんなことから鴨志田さんが殺し屋の会社に勤めていることを知った。それも、デスゲームを運営していることまで。おそらく名刺か何かをスッたのだろう。そこで水瀬さんは利用できると踏み、鴨志田さんと逢瀬を重ねた」


「なんか言い方古いっスね、先輩」

「……いいだろ別に。そしてホテルに呼び出し、あらかじめ仕掛けておいたカメラで脅迫用の映像を入手。鴨志田さんを内通者として、最初から自分好みのデスゲームを行う計画を立てた」


「自分好みというのは?」

「さあ……分からないよ。まあ今回の人狼ゲームみたいな展開でしょ?仲間同士でギスギスさせるってやつ。そのためのDM工作だろうし」


「スマホ用意したのは現場班の例のスタッフでしたっけ?」

「そうみたいだね。ミーティングで足しげくこっちに来た時に落としたみたい」


「改めてモテモテすぎません???」

「そうね……その過程で現場スタッフからの紹介でちょうど手が空いていた殺し屋組から一人つながったみたい。こっちは色仕掛けじゃなくて、正当な依頼として」


「あれ?でも記録は残っていないんですよね?」

「そうだね。正式、というより個人で受けた依頼って判断らしい。別にそれは規約違反でもないし、金銭のやり取りも済んでいる」


「あとは、現場スタッフとその殺し屋が協力して優木サクラを殺害……ですか」

「うん。隠しカメラをその際セットしていて、出雲ハルに送った映像はその時のものだね。予め合成するつもりだったみたいだね。合成したのは鴨志田さん。簡単な動画編集ならあの人できるからね……」


「元ファイル確認しましたけど、普通一発でバレますよね……だいぶ杜撰でしたけど」

「まあね……で、用意していたスマホを使いそれぞれにDMを送っていた。最初は気づかなかったけど、この時優木サクラのスマホも入手していたんだね。これも例の現場スタッフくんだ」


「働くな~彼」

「ほんとにね。だいぶ優秀だったらしいんだけど今回の件でどうなることやら……」


 この会社における懲罰……考えたくもない。鴨志田さんと現場スタッフくんはよくて謹慎。悪くてD組行きか……


「DMの内容は丸山エリカと華村カナには疑心暗鬼にさせる文章、出雲ハルには依頼、江藤マドカには脅迫……この最終局面で、お互いの関係性が壊れる布石になっていた。水瀬さんの狙いは、最後の最後、崩れ行く友情の中での復讐完了、といったところか」

「これが……水瀬マキの思惑……」


「そして明日、すべてが終わる。誰も生き残らない、人狼の完全勝利で物語は幕を閉じる」

「……そこからが私たちの仕事っすか?」


 にこ、と遠山は笑った。そのまま業務用スマホを取り出し、ある番号へかける。




「もしもし」

「……もしもし」

「……やっと出てくれましたね、水瀬マキさん」

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