デスゲーム2日目~人狼編①~
朝だ。
人狼ゲーム二日目。ゲーム内では三日目の夜をこれから迎える。この時空の歪みはいつまでたっても慣れないだろう。
狂人としては特にやれることは無い。だが、冷静に考えて今殺される可能性が高いのは私なのでは無いか?人狼からしたら確白を消すのがセオリー。騎士がハルなのかカオリなのか分からない今、守ってもらえる保証はない。それに盤面上では真占い師の水瀬を守るのが安定行動になる。人狼陣営としては願ったりかなったりな状況ではあるが、殺されてしまったら意味がない。
そこで、昨晩、水瀬にDMを送った。ブロックを解除し、久方ぶりのDMだ。背に腹は代えられない。命のほうがよっぽど大切だ。あんなやつでも、利用できるものはする。
『狂人は私。あなたは人狼でしょう?私を噛まないでね』
『分かりました。ありがとうございます』
最低限のラリーだったが、伝われば何でもいい。
人狼陣営に伝われば、後は白に二人を殺せば終わり。せめて身内内に人狼陣営がいることを願う。
そうこうしてる間にアラームが鳴り、扉のロックが解除された。
~~~~~~~~~~~~~~
『凄惨な夜が終わり、新しい朝がやってきました。今晩人狼に襲われたプレーヤーは……一人です』
アナウンスが告げる。まあ一人だとしても、会議を必ずスプリットにできるためもう人狼陣営の勝利は確定だ。
『犠牲者は吉澤カオリさんです』
「そんな……!どういうこと!?話が違うじゃない!!!!こんなのおかしい!!……お前、何を考えて」
『執行』
「うぐぅ……!?うう……こんな……こんなの……あっ……いたい……いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい!!!!!!!いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
カオリは床を転げまわっている。毒には個人差があるらしい。しかし、次第にカオリの動きが鈍くなっていく……
「あ……ああ…………クソ……」
それきり、動かなくなった。
『それでは、会議を始めてください』
~~~~~~~~~~~~~~
「どういうこと?水瀬」
開口一番はハルだった。
「さっきのカオリさんの死に際の言葉、どう考えてもおかしいよね。『話が違う』ってどういうこと!?明らかにあんたの方を向いて喋っていたけど」
「……」
「何とかいいなさいよ……!」
「あー、ウチから説明するよ。昨日の会議中に『人狼は確実に次のターンカナちゃんとマキちゃん、またはマドカちゃんを狙うだろうからマキちゃんを騎士として守ろう』って話になったのよ。だからそれのことだと思うよ?まあ、騎士COしちゃったから仕方無いかなーって☆」
「騎士は私よ……ッ!」
「どうかな……カオリちゃんが殺された以上カオリちゃん=白の図式は完成してる。つまりカオリちゃんが騎士だったというのが自然しゃない?」
「くっ……!」
エリの言う通りだ。もう盤面上人狼はハルで確定している。しかし、人狼陣営は三人。大丈夫、ハル。私と帰ろう。マドカとエリカは……悔しいけど、もうどうしようもない。とりあえず……
「いいかしら?水瀬さん、今日は誰を占ったの?」
これで水瀬が適当に白の人物を黒と言えば人狼陣営はそっちに投票すれば終わる話だ。もし投票がこじれてスプリットになっても騎士が消えた以上二人噛めばゲーム終了。水瀬の占い師騙りが響いたわけだ。
……しかし、本物の占い師はどこにいたのだろうか。
「はい……私が占ったのは、山本エリさん、あなたです。占い結果は……黒でした。」
「へえ……」
「え?」
このターンはエリを吊ればいいという訳だ。おそらく吊れるだろう。エリカとマドカの票はあとで誘導しておこう。
「ちょっ……どういうこと?マキちゃん」
「言った通りです。エリさんが人狼と出ました。ハルさんとカオリさんは盤面上で詰められると思い、まだ何も情報が無いエリさんを占うのは、理に適っていると思いますが」
「そうね……その通りだわ。ずっと場を回してる時点で怪しいなとは思っていたけれど……」
「……なるほど、そういうことか」
「?」
「そういうことなのね、マキちゃん」
「エリさん?」
エリの様子がおかしい。今までのお気楽ギャルの雰囲気が崩れ、どこか……大人のような、そんな圧を感じる。
「……ちょっと、相談タイム挟まない?いつもみたいにさ」
「……いいでしょう」
各自が席を離れる。
~~~~~~~~~~~~~~
「ハル、どういうことだよ!」
「知らないわよ!」
集まって早々、エリカとハルが口論を始めた。
「私は頭が悪いけど、エリってやつの言うことは分かったぞ。カオリが死んで怪しくなるのはお前じゃねえか!!」
「そうなるのを見越してあえてカオリを殺したに決まっているでしょ!?だいたい、水瀬がエリさんを黒って言ったんだから、こんなの私を黒にするための誘導に決まってるでしょ!?ていうか、言っとくけどエリさんが黒なら一番怪しいのはあんたよ、エリカ!!」
「なにィ……?」
「私は読み違えていた……最大効率がいい殺し方は確かに初日に私を噛むこと……だけど身内の情があって実行に移せなかった……その可能性を考えていなかった」
「てめぇ何言ってやがる」
「要するに、最後まで私たちを生かしておいて罪の意識を薄くしようってことでしょ。でももうそんなこと言ってられないところまで来た。エリカ……もし次の会議が来たら、私たちはあなたを吊らないといけない。それにあなたには容疑もある」
「ごちゃごちゃと……容疑だと?」
「サクラを殺したのはあなたよね、エリカ」
「なんだと……?」
「見せるのが早いわね、ついてきて」
ハルは皆を連れて真ん中の死体置き場へ向かった。カオリの無残な死体が新たに加わっている。
「これ見て」
カオリの手を上げ、手首を指さした。
「手首にでっかい痣があるでしょ?ブレスレットの毒針がこういう作用を起こすみたいなの」
「お前よくそんなモン触れるな……」
「……まあ、慣れてるから。エリカもわかるでしょ?」
「……ああ、悪い」
ハルの父親は莫大な借金を残し首を吊っている。当時ハルはまだ11歳だったそうだ。父親の亡骸を11歳の子供が一人で縄から下ろしたというが、どれほどの作業だったのか。
「それで、こっちがサクラの死体なんだけど、手首に痣が無いの」
「本当だ」
私は知っていたが、改めてみると一目瞭然だ。
「で、頭の方に大きな打撲痕があるの……つまりサクラは見せしめではなく誰かに殺されている」
「それで、なんで私が犯人なんだよ!!」
「昨日メッセージが届いた。そもそもサクラが他殺という情報はそのメッセージ主から送られてきたものなの。それで、そいつが送ってきたのは動画で……エリカ、あなたが金属バットでサクラを後ろから殴っている映像だった」
「な、なんだとォ!?」
「これ、わかるかな」
ハルが取り出したのはタブレットだ。どうやらタブレットにはカメラ機能がついていて、例の動画の顔が映るシーンの写真を撮っていた。
どう見ても、エリカと同じ顔の少女が映っている。
「んだこれ……知らねえよ!!」
「じゃあこの動画は何よ!!」
「知るか!!捏造でもなんでもしたんだろうが!!」
「そんなことできる環境じゃないのはエリカも知ってるでしょ!?」
「その送り主だよ!!」
二人は怒鳴りあいの喧嘩になっている。無理もない。真占い師から確白判定を私とマドカがもらっている以上、次に吊られるのはこの二人のどちらかだ。
「でもサクラは実際に他殺よ!」
「てめえは……!長年の仲間よりどこの馬の骨かも分かんねえやつを信じるのか!!」
「私から見れば今のあなたは人狼よ!!!」
「てめえ……!!!!」
「エリカ!!!!!!!!」
大声で静止する。
「駄目よ、エリカ、暴力は……反則行為で今死んじゃうでしょう。頭を冷やしなさい」
「……チッ」
「ハルも……いくらなんでも追求しすぎよ。正直私も捏造の可能性は捨てきれないわ」
「……そうね」
「……なあ、じゃあ私の話も聞いてくれないか」
「何?」
「私んとこにも届いたんだよ、よくわかんねえDMが」
「なんですって?」
「内容はこうだ……『あなたたちの仲を引き裂こうとする人に気を付けろ』ってな……意味が分からねえから無視してたんだが、今日やっと意味が分かったよ。ハル、てめえだな?」
「……私はただ自分に置かれた状況から冷静に盤面を整理しただけよ。それに、あなたもそのよくわからないDMとやらを信じるのね」
「ケッ」
『あなたたちの仲を引き裂こうとする人に気を付けろ』……だと?私に届いたDMと似ている……『私たちの中に 裏切者がいる』という、優木サクラから送られてきたあの文と。
これは言った方がいいのだろうか……いや、余計な混乱を招くだけ……それに、この人狼ゲームはもう終わる。ハルもエリカも次の会議を想定して話している。つまりこのターンで山内エリは吊られるのだ。余計な動きはしない方がいい。そのはずだ……
「ねえ、そろそろ投票時間になっちゃうから会議に戻らない?」
エリがこちらに呼び掛けてきた。いつの間にか、そんな時間になっていたのか。
「そうね、まあ吊り先は決まっているけど」
「……」
エリの目はいつになく冷たかった。
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