デスゲーム1日目~人狼編⑬~
デスゲーム企画運営課
事務所
「どうしても、無理ですか」
「こればっかりはな……私の一存ではどうにもならん」
遠山は事務所へ戻り、部長へ直談判をしていた。水瀬マキの身辺調査の許可である。
「標的ならともかく、依頼者の身辺調査が許されるはずが無いだろう。彼女は生きてここを出て、これからは普通に暮らしていくんだぞ。あまり深く関わるとこっちが危ないんだよ。最近はプライバシー保護だのなんだのが厳しくてなあ」
「ですが、彼女は既に重大な契約違反を犯しています。こちらの明示する契約書から明らかに逸脱した行為を社員を巻き込んで行っているんです。また、ゲーム開始前に殺人事件が起きるという前代未聞の事態でもあります。水瀬マキは、その犯人の可能性が高い人物です」
「……犯人ねえ」
部長は煙草を灰皿に押し付けた。イライラすると禁煙スペースだろうがなんだろうがすぐ煙草を吸うのが部長の悪癖だ。
「遠山。私はな、不確定な事象が嫌いなんだ。~かもしれない、~の可能性がある……そんなあやふやな根拠で、私にも責任の一端を担えと?貴様、依頼者の身辺調査がどれだけ危険か分かっているのか?」
「重々承知の上です」
「ほう……なら」
部長は新しい煙草を取り出し火をつけた。こちらを睨みつけながら、部長は煙を吐き出しつつ言った。
「私を納得させるだけの材料はあるんだろうな」
「もちろんです」
まひるさんが後ろで畏まっている。大丈夫、ここからが僕らの推理パートだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
まず前提として、華村カナとその仲間たちの関係性や状況を整理する必要があります。華村カナたちは全員がそれぞれ極貧生活を送っていました。自分でお金を稼がないと生活ができないほどに。
そこで、以前より売春経験があった優木サクラがいわゆるパパ活という売春を斡旋するようになりました。ええ、最近流行っているらしいですね。彼女たちはパパ活で生活費を稼ぎ、学校に通うようになったのです。しかし、山村女子高校はバイトは許されても売春行為は当然許されないらしく、バレたら一巻の終わりです。
ですから、細心の注意を払っていたそうです。活動地区はなるべく遠く、服装も足がつかないように。
ですが、パパ活を斡旋していた優木サクラはその状況を利用しました。手段は分かりませんが、パパ活を行っていた各メンバーの様子を映像や写真で撮影したのです。パパ活をやっていた、動かぬ証拠として。
その証拠を使い華村カナ以外のメンバーに「脅迫」を行っていたそうです。脅迫内容までは分かりませんが学園内で目撃証言が多数あります。
その後、彼女たちはパパ活が発覚し停学になり今に至ります。もちろん優木サクラも含まれます。
この発覚事件に優木サクラが絡んでいるかは分かりません。K町に狩場を広げた結果の事件のようですが、謎が多いです。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
「……それで?」
部長は二本目の煙草を灰皿に押しつぶし、相変わらず不機嫌そうに尋ねた。
「今の話には水瀬マキが登場していないが」
「彼女の話はここから、今発生した事件にかかわってきます。水瀬さんがこちらの指示を無視し、独断で動いていることは知っていますね?」
「ああ、見たよ。チーフ昇格の時に限って不憫な奴だなお前は」
くくく……と部長は笑う。笑いごとじゃない。
「……それはさておき、水瀬さんは夜の時間を使い華村カナ以外のメンバーにDMを送っています。その中には、江藤マドカ宛に『秘密を知っている』と脅迫したものも含まれます」
「ふむ」
「ここからは推測ですが……水瀬さんは最初から我々の言うことなど聞く気が無かったのではないでしょうか。彼女は最初からプランを用意していた。おそらく、最初のミーティングの時から。直接デスゲームに出させてほしいと頼んできた、あの日から。だからこちらからの折衷案に対して難色を示した。最初は強い憎悪によるものかと思いました。しかし、そうではなかった。それだけではなかった。優木サクラを殺害し、脅迫データを手に入れる……これこそが彼女の狙いだったのではないでしょうか」
「少し論理が飛躍しているな。どうせ全員殺すつもりの人間が、なぜ脅迫データとやらを手に入れる必要がある?」
「その脅迫データの中に、水瀬さん自身にまつわるものも入っているとしたら?」
「ほう?面白い仮説だな」
「十分可能性はあります。標的の身辺調査を見ていくうちに、違和感を感じた部分があります。水瀬さんが不自然に出てこないんです。彼女は華村カナのグループに一時は所属するも結果的にいじめの標的になった存在です。ならば、彼女もパパ活に参加していた可能性は考えられませんか?」
「彼女の家はあの地区の有力議員だろう。そんな売春まがいのことをしなくても金銭に困らないのでは?」
「最初はそう思いました。ですが彼女は……魔性の女です」
「はあ?」
「彼女の部屋には隠し通路がほかの参加者同様用意されていました。しかし、僕の名前を使ってまで現場班の若いスタッフを言いくるめて塞がせた。ですから問い詰めましたよ。該当現場スタッフを。そうしたらですね、出ましたよ。肉体関係の証拠が」
「なんだと?」
「水瀬さんは現場スタッフの一人に標準を定め、一夜限りの過ちを犯しています。それも、場所は会社から近いラブホテル。そのスタッフが言うには、いろいろと相談を受けているうちにあれよあれよと誘われ、気づけばホテルに入っていた、と」
「未成年淫行……まあ殺人の会社に勤めてる連中だからそのあたりの危機感は無いんだろうが……やってくれたな」
「水瀬さんはその行為を録画していました。『このデータを社内にバラまかれたくなかったら協力しろ』……そういわれたそうです」
「とんだ悪女だな」
「全くです……とにかく、これで水瀬さんは内部に協力者を得ました」
「で、そんなテクニックを持つ奴が売春経験者じゃない訳がない、と」
「そのスタッフが言うには『あの手練手管は一朝一夕にできるものじゃない。長いこと現場で磨かれた技術だ』と」
「未成年、しかも依頼者に手を出すようなバカの言うことなど証言にはならんが、おおむね同じ感想だな。常習犯の手口だ」
「話を戻しますと、水瀬も夜の街になんらかの繋がりがあると思われます。華村カナたちと行動を共にしたのかは不明ですが……それは今後調べれば分かることです。そして、仮に夜に何らかの活動をしていて、優木サクラに脅迫データを抑えられてもおかしな話ではないでしょう。優木サクラも相当な切れ者ですから」
「優木サクラは実は連中を裏から操る黒幕……と言ったところか。それを殺すためにデスゲームを仕組んだと?」
「順番は分かりません。元々は憎悪がきっかけだったが準備期間の間に撮られてはいけないものを撮られた、なんてことも考えられます」
「動機が弱いな」
デスクの上のコーヒーをすすり、部長は辛辣に吐き捨てた。
「データを消すため、と言うなら別に人狼で真っ先に殺せば済む話だ。どうせ一度拉致してしまえばもう外部と交信はできなくなる。水瀬にもそのことは伝えたはずだ。要綱にしっかりと記載してある」
「データの削除だけでは無いかと」
「なに?」
「最初に江藤マドカに脅迫をしたと言いましたよね。ここまで用意周到な彼女が、ハッタリで脅すでしょうか。彼女は、標的の連中を操るために脅迫データを用意した可能性があります」
「操るだと?脅迫で?なんのためだ」
「現状で考えられるとしたら、より残虐に殺すため、とかでしょうか」
「肝心なところがあやふやか……」
「水瀬さんはこれまでのミーティングで殺し方にかなり拘っています。ここまでするということは、何かやり遂げたいことがあるはずです」
「水瀬マキが犯人ならな」
言葉に詰まる。確かにこれは仮説の域を出ない。そのため、裏取りとして水瀬マキの身辺調査を慣行したいのだ。
「じゃあ具体的にどうやって殺した?殺害現場は会場で、密室だ。そもそも水瀬マキは推定殺害時刻に帰宅しているんだぞ」
「考えられるのは代行です」
「殺し屋でも雇ったというのか?」
「はい。それも非公式に」
「例の現場スタッフか?確かにここは殺し屋の会社だがな、全員がそうではない。特にデスゲーム事業に関わる部署はな。それは君がよくわかるでしょう」
「はい。ですから協力者があと二人いると思ってます」
「なんだと?」
「殺害した実行犯と後処理で隠蔽工作を施した内部の人間です」
「おいおい……内部だと?」
「つまりお前は、デスゲーム企画運営課の中にも共犯者がいると言っているのか?」
「不自然に報告が消去されている跡がありました。水瀬さんの情報にしても少なすぎます。隠し通路にしても、一度こちらまで話が通っている。許可を出した痕跡があるんです。僕が知らないうちに」
「自分で何を言っているか分かっているのか?ここは常時人材不足だ。そんなことができるのはお前と……いや、まさかお前……」
「その通りです」
遠山は視線を部長から外し、さっきから俯いている男の方へ向けた。いつも伏し目がちな彼だが、今は明らかに怯えている。
「鴨志田さん、内通者はあなたですよね」
鴨志田は、相変わらず下を向いて震えていた。
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