デスゲーム1日目~人狼編⑫~


「なんか吊られませんでしたね」

「そうだね……」


 二日目の会議が終わり、時刻は16時を迎えた。トラブルはあったものの、なんとか依頼人や社員が死ぬような事態にはならなかった。


「とにかく、ここからが僕たちの仕事。水瀬さんと連絡はつく?」

「今電話かけてるんですけど、出ませんね。チャットも既読無視です」

「~~~~ッ!これだから学生の依頼は……!」

「どうします?拉致ります?一応水瀬さんの部屋にも他の部屋と同様に隠し通路ありますよ」

「そうだね……いや、待って、チャットが帰ってきてる」


 ディスプレイには一言、『人狼はこれで終わり』と書いてある。


「人狼はこれで終わり……?どういう意味だ……」

「……先輩!大変です!水瀬さんの部屋への隠し通路が塞がれているって現場チームから連絡が!」

「え!?」

「お電話代わりますね」


 受話器を受け取る。電話の主は班長の新田さんだった。


「ああもしもし遠山くん?お疲れ様」

「お疲れ様です遠山です。えーっと、どういう状況なんですか?」

「いやな?数日前の話なんだが水瀬さんがウチのスタッフに頼んだらしいんだよ。『私の部屋の隠し通路はプライバシー侵害だからやめてほしい』って。そもそもなんでそんなもん知ってるんだって話なんだけど、何聞いても『社員に聞いた』の一点張りでなぁ。んで彼女が言うにはデスゲーム企画運営課には話が通ってるっていうから塞いじまったんだよなぁ」

「色々と初耳ですね……」

「やっぱりかあ……悪いな、ウチの若いもんが話を進めちまったらしい」

「まあ……次から気をつけてもらえれば」

「……水瀬マキ。あいつはヤバいかもしれん。魔性というか、なんというか……」

「え?」

「まあ気をつけろよ。遠山くんは篭絡されんようにな!じゃあまた」

「あっはい失礼します」


 電話が切れた。さて、何から片付けようか……


 水瀬マキ。ここまで頭が痛くなる依頼者は初めてだ……


「まひるさん」

「はい?」

「ちょっと調べて欲しいことができた」

「なんです?」

「優木サクラ殺人事件の犯人を調べる」

「らじゃー♪」


 水瀬マキ、これ以上は好きにさせない。あくまでデスゲームをコントロールするのは僕たちだ。



 ~~~~~~~~~~~~



 二日分の会議と夜が終わり、私はベッドへ倒れこんだ。


 思えば、サクラが死んだことから始まった一日だった。サクラ……私たちにパパ活の道を教えてくれた。私と彼……志村さんを会わせてくれた。でも……パパ活のせいで私たちは停学になった。最近復帰できたけど、クラスの連中の目がウザったらしいったらない。


 そうか……サクラは死んだのか。今になって麻痺していた感覚が蘇る。中学からの思い出が浮かんでは消えていく。


 泣いている場合じゃない。明日のことを考えなければならない。

 まず現状の確認。吊りはスプリットになった。打ち合わせ通りなら、私たち4人の票はまとまるはずだったのに。


 だから、誰かが山本エリに投票した……


 さっきのDMを思い出す。「私たちの中に 裏切者がいる」


 裏切者とは、そいつのことなんだろうか……


 だが、裏切者だったとしてなぜスプリットにしたのかが分からない。何の狙いがあったのだろうか。依然として盤面は七人二浪一狂人。


 そもそも裏切者というものは何をもって裏切者なんだ?仮に市民サイドじゃないから、という理由なら私がまず裏切者だ。四人の歩調を乱す、ということか?


 どうも、しっくり来ない。DMで一度相談してみようか?サクラからDMが届くなんてそもそもがおかしい話だ。


 ……いや、全体は危険か。仮にサクラを騙れるとしたらサクラと近しい関係の私たちだろう。


 そういえば、ハルは結局何をやっていたんだ?人狼そっちのけで死体を調べていて……


 バイブ音が響いた。噂をすれば、というべきか。ハルからのDMだった。


『カナにちょっと相談したいことがあるんだけど、今大丈夫?』

『何?』

『実は昨日、いや人狼内での昨日のことなんだけど、差出人不明のDMが届いて……スクショ送るね』


 添付されたメッセージには、「優木サクラは見せしめではなく誰かに殺人されている。あなたに調べてほしい」と書いてあった。


『なにこれ?』

『よくわかんなくて……でもこの後メッセージで明らかに他殺の跡がある。あなたならわかるはずだ。って来て……返事しても何も返ってこないから無視しようとしたんだけど……』

『でも、ハル調べてたよね?』

『うん……実は私も思い当たる節はあったの……サクラの死体、手首に痣が無かったんだよね』

『痣?』

『そう。ブレスレットから毒針が出る仕組みでしょ?効果はシオリさんで分かったと思う。でもシオリさんの死体は手首付近が酷い痣になってたけど、サクラには無くて。で、よく見たら頭が大きく腫れてたんだよね……まるで、何かに叩かれたみたいに』

『え、じゃあサクラは毒針じゃなくて誰かに殴られて殺されたってこと?』

『私は医者でもなんでもないから細かいことはわからないけど、あの二人の死体には大きな違いがあった。そもそも、サクラが何らかの罰に触れてみせしめとして殺されたって話だけど、サクラってそんなキャラじゃなくない?』

『それは思ってた……こういう非常時こそ頼りになるっていうか、不敵に笑うのがサクラっていうか……』

『だよね……だからもしかしたら、サクラの死はこの人狼ゲームを仕組んだ人間にとってもアクシデントだったのかもしれない』

『でも、それが何になるの?正直サクラが死んじゃったのは事実だし、私たちを取り巻く現状は変わらない』

『私もそう思ってたんだけど……例の差出人不明のDMが届いて……』


 ハルから一つのファイルが送られてきた。どうやら動画のようだ。



 その動画には、私たちが今いるような部屋でくつろぐサクラと、背後に金属バットのようなものを持つ誰かが立っている様子が映っていた。パーカーとフードを被っており、顔が見えない。いや、このパーカー、どこか見覚えが……


 次の瞬間、金属バットが勢いよくサクラの頭を叩きつける。ごいん、と鈍い音がして、サクラは為すすべもなくうつ伏せで床に倒れた。


 振りかぶった衝撃で、フードがはだけた。素顔が露わになる。


「え……これ……」


 私は思わずスマホを床に落とした。ショックで声が出ない。床から通知音鳴った。待ち受け画面に表示されるポップアップ通知からハルのメッセージが目に入った。


『動画見た?』


『私も信じたくないんだけど』




『犯人、エリカみたいなんだよね』




 怒りに満ちた目でサクラの亡骸をにらみつけるエリカの顔が、しばらく脳裏から離れなかった。




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